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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
63/94

62話

もうぼちぼちエギアダルド側のお話に戻りますが、もう少しだけプレイヤー側もお楽しみください。



「『……もしもし?』」

「突然抜けるようなことをしてごめん、先輩」

「『謝るならまず【アイオーン】さんでしょう。私はある程度しょーちゃんのこと知ってるから構わないけど、彼女は事情もなにも知らないから』」

「……そうだよな。少し落ち着いたからすぐ戻れると思う」

「『ならいいんだけど……高校に入ってきて、元気ないみたいだったから先輩は心配です』」

「……心配されるようなほどだったかな」

「『認められなくて怒るのは、認められたいから。

それは構わないけれど、関係のない人にまで八つ当たりするほどとなれば、流石に心配にもなるというものでしょ』」


 こんな時にまで、先輩は相変わらずだということに少しだけ安堵する。


 3月生まれと5月生まれ。ほんの二ヶ月しか変わらないひとつ年上の先輩は、5歳の頃引っ越してからのお隣りさん、里見紫歩さとみ しほはいつもお姉さんとして接してくる彼女は、高校に入った今でも何かと声を掛けてくる。

 小学校の時から変わらず、高校の先輩としている今でもそれは変わらない。



 本当に、お人好しだ。

 内心で苦笑しつつも、「心配するほどじゃないよ」と答えた。


「『そもそも、突然怒り出すなんて理由はともあれ心配しない方が無理しょうに。……でもまあ、厨二病なしょーちゃんなら仕方ないかも?』」

「……一言余計だっての」



 学校の話でよく聞くような、部活動に入らなければならない規則はこの学校においてはない。

 にも関わらず、彼女が部長を務める部活動に所属をしているのも、ひとえに彼女の心配と、その人当たりの良さと裏腹な強引さに負けてのことだった。



「……ほんと、姉ってやつにはかなわないよな」

「『あ、その発言はお姉さん差別です。 しずお姉さんにもあとで伝えとくからね?』」

「ぐぬ……これこそ余計な一言か。自分でやっちまった」

「『それだけ口ごたえできるなら、もう心配ないかな』」

「ひどいな、それじゃまるで普段から減らず口ばかりみたいじゃないか」

「『気づいてないなら言わせてもらうけど、前の方がよほど素直でしたよ、しょーちゃんは』」

「へいへい、素直でなくて悪かったですよまったく。……しず姉の名前が出て思い出したんだけど、夕食の支度だけしておきたいからさ。それだけ済ませたらもどるよ」

「『わかった、【アイオーン】さんにもそう伝えておきます。じゃあまた後で……』」

「ああ、さとねえ(、、、、)



 通話を終えようとした先輩を呼び止めようとして、自然と子供の時の呼び方が口を突いて出た。言いたいことは一言だけ。切られる前にと思っていることを素直に告げた。



「心配してくれてありがとう」

「『――どういたしまして。

通話はそのまま続けてるから、いつでも戻ってきて。【アイオーン】さんも心配してたから、またあとで』」 



 通話を切ったあと、わずかばかりの幼馴染の優しさに、気持ちがほぐれる実感があった。自分もそんな優しさが欲しい、羨ましい、と暗い感情が湧き上がりそうになるのを、それでも、「自分は誰かにはなれない」と言い聞かせて。

 食事の準備をしようとリクエストを聞いて献立を考えているとき、そのことを思い返してすごく恥ずかしくなり耳が赤くなる。


 そのことをつぶさに読み取ったしず姉に「青春の匂いですかなぁ。青いねえ、青い春だねえ。若さ故の過ちですねい」と、散々からかわれたことも、落ち込んでいた気分を引き戻すのにはいいきっかけとなった。


 起こったこと。謝らなきゃならないこと、考えを巡らせていくうち、食事を済ませて部屋に戻って、そこではたと気づいた。



「ああ、そうか」



 人への気遣い。

 それが本当に優しさかどうかはわからない。感じ取れるのは断片的で、それは自己満足なのかもしれないもの。

 本当に心配かどうか、それが打算的なものかどうかなんて、その人にしかわからない。

 本心から思うこと、自分が突き動かされてすること。

 それらは時には、自分自身ですらはっきりと意識せず、そうしてしまう(、、、、、、、)こと。



「『(アラン)』はある。『どうやって(魔道書集め)』もある。『何のために(取り戻すため)』も大丈夫。『いつ(過去)』に構想はある。

『どこで《エギアダルドで》』も漠然とある。


 ただ、なぜそうしたいと思ったか。アラン(、、、)を突き動かす『信念』がなかった」


 設定で……頭の中でどれほど考えても、無駄だ。

「――で、それがゲームキャラクター(アランという人物)に必要か?」と夕暮れの喫茶店で言われた記憶が蘇って、ようやくそこで悩みとい荒立ちと、解決すべきこととが噛み合った。


上辺だけの設定(ステータス)独りよがりの背景(設定のテキスト)だけでない、アランに必要なもの。


「助けたい」


 それで、それだけでいい。

 ……それだけのこと(信念)が、抜け落ちていたのだと気づいた。


「死んだら終わり、上っ面の設定、必要なことかどうか……なんだ。そっくりそのまんまどれも自分のことじゃねえかよ」


 独り言で結構、考えを自分に問いかけるつもりで言葉にしていく。

 感情に振り回されて、頭の中が考えで埋め尽くされる前に、と守谷はPCのデスクトップにある『アラン:設定』と題名をつけたメモ帳を開いた。

「晒された悪意の中で、善意に生きてきたからこそ記憶はほとんど失われて……手元に残されたのは希望……心から望む『助けたい』という感情……」口にしたことを、思い至ったことを逃さないようキーボードを走らせて、設定を書き換えていく。

 片手間に通話を再開して、片手間に【アイオーン】さんに謝って、その片手間さ加減に先輩に怒られながら、書き換えている事情を説明して集中する。


 書き換え終えた頃には、プレイ開始の時間の10分前で、通話を再開した二人にも急いで確認してもらう。



 ぎりぎり間に合ったことに安堵して、「ここから、始めるんだ」と意気込んでログインの表示を押した。


 


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