60話
60話。ほぼほぼ二か月続けられたってことですかね。何気にうれしい。
これからも面白くしていけるよう一層の尽力をしたいところです。
コンゴトモヨロシクお願いします。
「『流浪の狼人族【アラン】。
適性は呪言師であり武闘家。しかしながら真に職業という意味で、本人は『遺跡暴き』を自称する。
彼が遺跡に求めるものは、『七つの美徳』と呼ばれる秘宝、その魔導書にある。
「慈愛」「希望」「信仰」「知啓」「公正」「不屈」「節制」。
それぞれに善行の名を冠した魔導書。
それらを求めているのが、アランという人物だった。その彼の手元に在る魔導書はそのうちの一つ、『希望』。
ある出来事を機に、幼い彼はこの七つの美徳を冠する名前の情をすべて奪われることとなる。それを取り戻すため、彼は故郷を後にして旅を続ける流浪の身となった……』
これ、中二病すぎるよー【アラン】っち」
――事の発端は一時間ほど前。
通話を始める前に何をしていたかという他愛ない雑談を持ち出したことから始まった。
いかにゲームで知り合ったとしても、初対面であることは現実と何ら変わりない。いきなり「どうぞご自由に話してくださいね」となげやられたところで自然に会話ができるような人はそうそういない。けれども、現実でもゲームでもこれは避けては通れない道でもある。
コミュニケーションをとる上でこうした「話題の振り」は定番ではあるが意外と重要なもの。
初対面では相手のことは分からないから、今まで経験してきた初対面の場面では、守谷は切り出す話題には気を遣ってきた。
……あくまでも、「ゲームの中での話に限る」と付け加えるとしても。
ともあれ、日常生活では面倒だと思うことが、ゲームなら不思議と無理なくできているのだから自分がいかに内弁慶な性格かが分かるというもので……。
ゲームでなら発揮できる自身のコミュニケーション能力に少し辟易としながら、自分も含めた初対面の三人の話題を取り持つべく「直近に何していたか?」とこちらから話のタネを提供していったわけだ。
「いやあ、お母さんって大変なんだよー?
朝の仕事の前にご飯作るとかさ、それだけで起きるの一時間早起きなんだからー」
「午前中は休日の日課にしてるランニングついでに、猫のトイレ砂とごはんを買ってきてました」
それぞれ、【アイオーン】と先輩……【ドラウ】の発言だ。
各々が何の気なしに発言した午前中していたことに対して、同意を示したり、驚きを発したり、笑い声を挙げたりした。
問題はそこから。「で、そういう後輩☆クンは午前中なにしてたんですかねぇ~」と【アイオーン】さんから訊ねられたのがきっかけだった。
アプリケーションでいろいろな情報をチェックしていたこと。
その中にキャラクター情報が閲覧できる図鑑機能《TIPS》があったこと。
プレイヤー情報も閲覧できるので、それを眺めていたこと。
アイオーンやドラウの情報を見て思ったこと。
――ここまで話したところで「アランの情報ってどんな感じなの?」と聞かれ、閲覧できる方法を教えてしばらくの後……「これ、中二病すぎるよー」に至る。
「『……さすがに弁明の余地なく、若気の至りですよ……うわー、なんでか鳥肌立ってきた』」
「一生懸命考えたのに、二人ともちょっとひどくないですかねえ!?」
思わず大きな声が出てしまう。声を大にしてでも、反論したかった。
けれどその反論の隙もなく、二人は追求を始める。
「『ええー。だってさ、これ一歩間違えたら寒すぎない? ていうかそもそも中二病だから寒いんだけどね?』」
「『【アイオーン】さんに同感です。これはちょっと盛りすぎで……そのくせなんていうか、雑』」
「ちょ、先輩まで扱いひどくなってない?! いやでもほら、主軸に据えたい魔導書を集めるためには理由が必要で……」
「『うーん、たぶんその理由にしては浅すぎるんじゃないかな、【アラン】の設定。
情をなくすとかちょっと無理がありすぎるというか……百歩譲ってもこの設定だと善意がないわけでしょう?
悪役キャラしかロールプレイできない。でも実際そうじゃないわけだからその時点で矛盾してるというか』」
「先輩がやっぱり辛らつだ! つかあんた普段部活に顔出さないからってうっぷん晴らししてません?!」
「『あ! しょー……じゃなかった【アラン】さん、また先輩って言った上に部活の話まで!』」
「『あらら、それは火にオキシジェン☆だよー。
オンラインゲームの最低限のマナーも守れないようじゃあ、議論の余地はないねえ、【アラン】っち~』」
「【アイオーン】さんまで……味方だと思ってたのに!」
「『めでぃかる☆アイオーンは正義の味方だからねぇ~』」
意気消沈しているところに、死体を蹴るかのような無慈悲な発言が重なる。
半分くらいはノリと勢いで大げさにリアクションしているところもあるが、それでもまじめに考えたアイデアの欠点を叩かれるのは、本心としてもショックはあった。
そこに、ひとしきり笑い声をあげたマイクの向こう側で、【アイオーン】が提案した。
「『あはははは。
……でも、【ドラウ】っちの指摘したこと、ちょっと真剣に考えたほうがいいかもじゃない?』」
「それはまた、なぜ?」
「『うーん、なんて言ったらいいのかなぁ』」
答えあぐねる【アイオーン】の代わりに【ドラウ】……里見先輩は、静かに答えた。
「『多分ですけど、キャラクターに真に迫る動機がないように見えるからじゃないですか? 周りの状況に流されているだけに見えてしまう、とでもいうのかな……』」
やめろ、その発言は俺に効く!
冗談かまけて、そう言いたいはずだった。
「周りに流されて……自分が決めたことが一切無いのって、そんなに悪いのかよ」
変わりに口を突いたのは全く違う言葉。やめてくれ。そう呟きたくなって、唐突に通話を切ってしまった。




