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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
5/94

4話

4/16 HMDの描写に関する文章の一部を修正・加筆。

 



 “創造に崇拝はなく”


 “数多にことのものがたれ、我をゆえにこそ先になく”


 主は問うて、神々はそれを求めたる

 音を求めるもの、

 彩を求めるもの、

 愛を求めるもの、

 識を求めるもの。

 やがて神憂ひしを残されたるなか、異邦より来たりて


 輝かざるうちに永遠は立つ


 “救いあれ、望むることの求みところたる”


 主よりさきにと、荒魂きし呪ひ、さりとて異邦伏すことなくその身代に受くる


 呪つづる異邦のものの、夕暮れより薄闇に過ぐる都降りたれば、尊き獣なるかな


 我なるは神代より前の口伝なりて、音生るをきき……


 ――エターラン・グレゴリオ・オーウェス『薄闇の伝承』第3章17節――








   * * *  ◆  * * *




 ≪暗転。はらわたの裂くような痛みが、沈みゆく意識から苦悶の声を引き出そうと絶え間なく訴えかけてくる。

 ――やがて、目を覚ます。蒙昧としながらも覚ましたはずの目は暗闇を捉えるばかりで、しかし、次いで肌に感じたのは灯り。

 それは熱であり、皮膚が生きている証左に疑いない。僅かを取りこぼさなかったことで繋いだ、命の灯にも似た微かなぬくもりのようにすら感じるそれこそが、いまなお生きている証となる、唯一のこの世への楔だ。≫


「目を覚ましたか。……ああどうか無理はなさらず。見た目よりも随分と傷が深いと見える。どうか今は、僅かなりとも体を休めて」


≪声が届いた。身体を起こそうとして、その声の主に止められたらしい。らしいというのは、はっきりとした意識が戻ってきつつあるのに、依然として明るさが視界が戻っていないから。終ぞ眼球をも収めることままならずに取りこぼしてしまったかとも思った。しかし、どうにもそうではないらしいほどには、首を動かすたびに眼が時折何かを感じていた。≫


「見張りもしているものがいる、何があるにせよ、身を整える時間ほどの安全はある」


≪雪解けて姿を現す氷が如く、透明な声。そう、声だ。眼がいかに暗闇に閉ざされたままであろうと、その声は照らしている灯りのように暖かい≫


「よく、あの戦いの最中を生き延びたものだ。お互い運が良かったと見える。

 君は、ああ失礼。名前をなんという――アラン、というのか。私は、西門の森、タァナに住まう猟兵のエルフ部族長・クムの二の羽根のフィオセアというものだ。


≪訊ねられ名を名乗ると、麗しくも凛々しい声が、その身の名を名乗り返す。未だ姿こそ暗闇の他にないが、その優しげな声色から、優しき光を錯覚した≫


「長いだろうから、フィオで覚えてくれていればかまわない。

 それより、ケガの具合はどうだ。そろそろ血も止まっただろうか……痛まないようであれば、布当てを取ってみたらいい」


≪未だ暗闇の中を探る手で、顔へと施された幾重の布に触れる。ここにきてようやく、指先の感触からも分かるほどに手厚く介抱されていたことに気付く。

 おぼつかない手を動かして傷口に障らぬよう布をゆっくりと動かすと、徐々に視界を取り戻していく……そして、静かに立ち上がる。≫











   * * *  ◆  * * *




 キャラクターが立ち上がった姿勢のまま動かなくなったので少し待ってからゲームパッドを操作してみると、ゆっくりとした動作で視線が少し前進した。歩いたのだろう。直感的に他のゲーム同様の操作よろしくスティックを動かしてみると、やはり左は移動、右はカメラワークという定番の配置であることがすぐに分かった。


「これで、聞いてた導入は終わりか……ちょっと待った、なんだこれ」


 操作を試そうとして、あることに気付く。これは、どういうことだろうか? 疑問を隠し切れないまま、装着していたヘッドマウントディスプレイを上へと跳ね上げる。


 ――わざわざ新しいものを購入した甲斐あって、使いやすい。

 昨今VRでも使用されるようなヘッドマウントディスプレイは、その多くが従来式のものでは着脱に手間がかかる。今まで使っていたものも、その手のタイプだった。わざわざ着脱して視界を確保、それからあれこれ手元のものを調整、用意した飲み物なんかを飲んだりするなんて当たり前にできる行動が、どれをとっても非常に手間になってしまうのが難点なのだ。

 ゲームでVRではないが主観視点をできる仕様にする、そんな話をしていた時不満をこぼしたところ、ハルトマンからおすすめのものを紹介された。

 調べてみると値段は張ったが、懐事情はなんと全く痛まなかった。話を聞いたイストさんが、なんと使ってない未開封のものを三つもハルトマン宛てに送ってくれたのだ。ひとつはハルトマンが、姉もやる予定だと話したところ二つをこちらに回してくれた。イストさん……あんたが神か。


 ――展開していたままのボイスチャットウィンドウをゲーム画面に重ねて表示し、コールボタンをマウスでクリックする。すると今度は先ほどとは違って、二回目のコール音が鳴り終わるよりも早く応答した。


『導入は終わったか。感想は?』

「……なげぇよキャラメイク!でもおかげさまで最高だよ畜生!」

『なんだ、お前のせいだぞ。文句があるならこの前話を振った自分に言えよ。

 お前のキャラメイクを叶えるためにあそこまでの規模になったと言っても過言じゃない。なにせ導入なんかは完全に専用の書き下ろしで取り下ろし状態だしな』

「……ホワット?」


 こいつ、今なんて言った? 書き下ろしと、撮り下ろし?


「まさかあの音声も台詞もモノローグも、全部【アラン】の導入のために収録したってことか?」

『なんだ。気付いてなかったのか。フィオセアのボイス吹き込みしたのも、おれだぞ。ちなみにモノローグの男性ボイスはイストの友人が張り切っていくつも録音データ送ってきたうちの一つだな』

「おぅ……まじか、気づかんかった」


 思い返せば、確かに聞き覚えのある声色ではあるなとも思う。同時に、あまりに毛色の違う声音だったため、指摘されるまでは全く気付いていなかった。


『しかし随分な色物だな、この【アラン】君は。あと無駄にカッコよく盛ってる』

「無駄には余計だ、無駄には」


 デフォルトに設定してある主観視点を、画面表示設定から三人称にして画面共有をするなりこれだ。ハルトマンはあからさま嬉しそうにつぶやきながら大きくため息をついた。

 改めて自分の作成したキャラクターである【アラン】を眺める。



 ――薄闇の中で双眸に輝くのは黄金色の獣の瞳。頭部もまたその瞳に見合うケモノの形を成し、その肌を覆う灰色の毛皮。

それでいて人と同じように二足で直立する、人狼と称される者そのものだった。

 強靭な筋肉に包まれた体躯には数多の傷跡。胴を覆う皮鎧の内に秘めることなくその身体は逞しさを主張をし、しかし裏腹に、剣や盾を携えてはいない。

 代わりに剣に納まる鞘の如く随所に在るのは、本。

 今は、腰の後ろに収められた大きな本が一つしかない。しかしよくよく見れば、上腕に、背中に、太腿に、腰の後ろや横に。

形も大きさも、大小様々な本が収められるようになっている。まるで銃の弾倉を差す如く、収められる仕様の革帯がいくつも装着されていて、用途を知らぬものが目にすれば、拘束具のように見えるかもしれない。

それが殊更に人狼といういで立ちの奇妙さを際立たせていた――



 ……とまあ、ゲームのモノローグのように容貌を語るのであれば、そんなところだろうか。

 確かに趣味に走った感は否めないが、別にいいだろ、自由なんだから。


『なになに。職業適性は【魔道】と【格闘】系を選択、【魔導書】を用いた【呪術】で遠近に対応できるトリッキーな戦闘スタイルの人狼。

 スキルもまた随分とピーキーなものをチョイスしてるな。

 フレーバーに属さない特徴設定からの【リスクコード】も取得してるのか……驚いた。

 全体の構成を把握したうえで目を通すのはまだだが、他にも先を見越しただろう面白い育成方針になりそうだなこれは……このエディットをあの短時間で組み上げたのか。これは楽しみが一つ増えた』

「なんだよ、データでも取ってんのか? いやそれよりも、ユーザーインターフェースの表示が」

『――ああ、そういえばまだだったか。リンクのURLを送るから、スマートフォンでアプリをダウンロードしとけ』


 どういうことだ、と訊ねるより早く、気の抜けるデフォルトの通知音と共にテキストメッセージへURLが届いていた。


『専用のアプリケーションだ。作った』

「作ったぁ?!」

『必要なんだよ、《エギアダルド》には。その辺、お前ももう気づいてるんだろ。このゲームに、ゲームらしいインターフェースがほぼ無いってことをさ』

「そうだ、そのことで聞きたくて連絡した」

『その辺は追々な。とにかくアプリ開いてみろって。それで足りない部分は補足する』


 渋々ではあるが、ここまで言われては仕方あるまい。言われるがままにアプリのダウンロードを開始する。


「……おい、容量食い過ぎだろ! Ver1.0.0で3.8ギガってなんだよこの重さ!こちとらソーシャルゲームで容量たりねーっての!」

『どうせやってもいないゲームばかりだろ。PCにバックアップを取って、音楽か写真でも消せばいい。スクリーンショットは意外と容量を食うし、その辺りが削除のしどころだぜ。ああそうか、アダルトコンテンツ』

「入れてねぇから!!」

『思春期の青年がそれはそれでどうかと思うぞ。……ああ、男色か?』

「それこそねぇよ、ちょっと黙ってくれませんかねえ!?」


 なんとも腹の立つ助言を聞き流しながら削除やバックアップを行ってアプリをダウンロードし終えると、どこかの紋章のようなアイコンのタイトルには『EGO:エギアダルド βtester's App』と表示されていた。

 さしあたって疑問や質問は後回しにするとして、アプリケーションを展開させてみる。要求されたアカウントIDとパスワード認証を済ませ、ホーム画面一杯に表示されたのは、先ほどから表示されたままの自分の分身である【アラン】の姿そのものだった。

 一目で目につくのはステータス表記だ。インターフェースを見るに育成や武具制作、装備編成といった大枠の要素のほとんどが、アプリに集約されていた。メニュー表記には今後追加や改良を行っていくだろう様々な機能が見て取れる。だが、目を通していくうちにいくつかの項目の意味に気付き、単なる驚きではなくなっていく。


【Log in総数:13】と表示された数字。


 マップ画面にポップアップされる【クエスト:強行偵察 敵勢力による陣地形成の前触れがあるらしい。その戦力を調査せよ】という表記。


 ニューステロップのように流れていく情報。

 ――【周辺の戦況:撤退。21:23...撤退による防衛ラインの引き下げを決行。一時間後に勢力図の変更が更新されます】


【最新情報:WPC-Name【アラン】が「カランの惑い森」を開始地点に選択】


 ……これってまさか、リアルタイムなのか? 混乱を隠せないまま訊ねると、ハルトマンは満足げな声を返してきた。


『お、ようやくアプリに思い至ったか。

 それは、お前が生み出した【アラン】が正真正銘ゲームの中ではひとりの存在として扱われるってことの表れ。【アラン】という架空の人物へと、守谷は確かにログインする。そうしていわゆる第四の壁、神の視点から俯瞰することになるわけ。

 でも、それはただのゲームなんだ。おれの求めているファンタジーじゃない、他のゲームと何ら変わらなくなる。

だから、ゲームとしての大枠を思い切ってこっちに分割してみたんだよ』


 リアルタイムで変化する世界を表現するために、アプリを導入したんだ。心底楽しげに言い放つ。


「ハルトマンは、ファンタジーの世界がそこに存在して欲しいのか」

『まさか。そこまで頭がお花畑じゃあないさ。現実と折り合いはつけてるつもりだ。

手伝ってくれる人がいるからこそ、ここまで実現出来るんだしな。おれはアイデアを提供したり取捨選択してるだけのまとめ役ってだけ』


 聞けば一言にリアルタイムと言っても、βテスト版。ログイン人数の変化に合わせて世界の活性具合は変化するし、誰もログインしていない時には時間進行が停止する仕様にしているらしい。


『ゲーム性のほとんどは持ち込まれず、まるで現実のような不自由さの中で世界の変化を感じながらプレイヤーとして時に異なる世界の異なる自分が、時に笑い、時に悲しみ、共に戦っていく……それでいてゲームとしての要素を手放さないよう、外側で管理する。どうだ、結構楽しそうだろ?』


 一も二もなく、楽しいと感じてしまう。ドッキリを明かされた時のような、まんまと嵌められた、けれども清々しい気分だ。


「楽しくなるよ」

『楽しんでくれよ』


 短いやり取りのみにしてゲームへ戻る前に、ふいに画面を見やると、まるでその楽しみな気持ちがどこかの誰かへ伝播したかのように【Log in総数:14】とカウンターの数字が増えていた。

ようやくゲームパートが出せました。

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