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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
36/94

35話



 オンラインゲームのサーバー運営のなかで、時間管理は大きく二種類に分けられる。


『制作会社のある国の標準時刻を基準にする』


『サーバー管理を地域……ヨーロッパやアジアといった大きい区分から、ほぼ一つの国ごとまで様々だが……その区分ごとに分割する』


 というもの。


 また家庭用のゲームとは異なりメンテナンスやアップデートの更新といった点があるオンラインゲームでは、定期的にアクセス不可能になる時間が生じる。

メンテナンスが入る時間は内容やゲームの規模によってまちまちだが、いずれの時間区分の変化もアクセス可能な時間の変化に影響することになる。



 ――これらがユーザーの何に影響を与えるかといえば、ひとえにプレイヤーのプレイ時間だろう。



 加えて『エルダー・ギア』のプレイ期間は、クローズドβ版テストであるため、短い上に限られる。

 ハルトマンが作成したという『エギアダルド』もまた例外ではなく。

連絡があった翌日、自宅のPCの前で頭をひねるエミルが『エルダー・ギア』をプレイするには、やはりそれらの問題を踏まえなければならなかった。


 およそ一週間の猶予……昨日届いたクローズドβテスター当選のメール通知に記載された開始日程の欄を眺めながら、ハルトマンとのやり取りとその楽しそうな表情と顔色の良さを思い返しつつ、エミルはどうしようかと頭を働かせていた。


 翌週の四月初めの土曜。開始日時でどれだけのスタートダッシュが決められるだろうか?


 少なくともこの日は有給申請せずとも非番の日だったので休み。代わりに翌日は勤務の予定だったけれども、既に有給申請を通しておいた。

 「仕事もゲームも早さが命」とは、ゲーム仲間の内でのエミルの口癖。まさに有言実行といえた。



「日本との時差は七時間だから、土曜の20時から24時に合わせたらちょうど昼過ぎ……これに合わせるるのは、仕事次第でできなくはないけれどもきついなぁ。

 日曜の時間に合わせるとなると午前中になる……うん。メインはこっちに合わせよう」



 海外から日本国内に、日本国内から海外に。いずれにしても付きまとう問題の一つが、時差。

 時差以外にも、距離によるラグ、サーバーへの海外からのアクセスによる負荷、クラッキング行為への対策にRMT行為などの違反行為を行うユーザーへの対策……

 そうした問題から生じる様々な不便さを埋め合わせるため四苦八苦してきた企業側の経験と辛酸の上に、現在のオンラインゲームは成り立っている。


今でこそグローバルに展開する企業も少なくはないが、昔は国が違うと時間はもちろん言語やプレイヤー間でのコミュニケーションに至るまで……やきもきさせられたプレイヤーも多いことだろう。

それは企業も同じで、よりよいものを作ろうと携わる誰もが尽力しているに違いない。


だが、ユーザー……今のエミルにとってそんなことは二の次。

PC販売のホームページにあるスペック比較表とにらめっこをしながら、「どんなマシンなら快適にプレイできるのか」に注視していた。


「PCのスペックは……んー、ノートは微妙なところだけど、デスクトップならなんとかなるかな? 給与も降りてるし貯金も使い道ないから新調してもいいけど……安く済ませるとなると、遠いんだよなぁ」


 快適さを求める上での問題は、エミルの住む場所が都市部ではないことにある。


 国境近くで、モーツァルトの生家がある土地でも知られているオーストリアのザルツブルクからほど近い、けれども観光者からすれば「通り過ぎるだけの土地」……寄るとしたらガソリンスタンドに用がある、くらいだろうか?


 足を伸ばせば河川や雄大な自然公園がある長閑(のどか)な土地なのはいいところだと言えるが、往々にして全部を兼ね揃えるのは難しい場所。


そんな土地で最善の環境を整えようとすると否応なく時間か金額がかかってしまうのは仕方がないことだろう。


「結局、有りもので済ませるしかないかなぁ。……ハルトマン、いやイスト氏に料金を渡して送ってもらうという手もありかも?」



 普通に購入する場所を探すだけならまだしも、PCを組むパーツ単位の購入を考えてみたり、要求スペックに応じたカスタムの委託なんてことができるような店はいくら便利になった現代とはいえ近くにはない。


オンラインでの通販も考えはしたけれど、エミルにとってその選択はあまりいいものではなかったため早々に選択肢から除外していた。


 ――その点、日本は便利だ。


 家電屋は大きな都市ならどこにでもあるし、都心である東京ならば「聖地・アキハバラ」という場所もある。

イストも仕事で日本に行くと言っていたから、彼の国ならば入手は容易に思えたエミルは早速メールを打つ。


「『イストへ、久しぶり! 親戚から誘われて「エルダー・ギア」ってオンラインゲームを始めようと思うんだけど、PCのスペックが心もとなくてさ。

 以前仕事で日本にいくって聞いてたから、できればノートとデスクトップの両方を見繕って送って欲しいんだけどお願いできないかな?

 請け負ってくれるようなら以前教えてもらったスイス銀行の口座だっけ? そこに入金しておくから、予算内で一番イイ装備を頼む。

 返事を待ってるよ。また近いうち一緒にゲームしよう!』……こんなところかな。送信っと」


 数分もしないうちに、『仔細了解・依頼受諾』というタイトルで返事が来たので、そのまますぐにPCから講座の振込手続きを行う。

 4日後の夕方、エミルの自宅にPC一式と、イストからのオマケだろう周辺機器が届いた。

 満足してお礼のメールを返し、その日は夜遅くまでセットアップを行っていった。


エミルさんの仕事はなにやら高額所得のご様子。多分100万くらいぽーんとふりこんでます。

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