28話
また短め。ここのところ執筆ペースが落ちてる……けれども、悩むこともまた執筆。
より面白くしていくためにも、地道に頑張ります。
「眩しいな」と呟きそうになる。僅かに動揺する気持ちを表情にも言葉にも出さず、守谷は錯覚とばかりにわずかにかぶりを振って目を瞑る。ハルトマンはその様子を見てようやく言葉を紡いだ。
「どうしてそこまで楽しめるのかわからない、といったところか?」
「そいつは見当違いだな。大したことじゃない」
「お、なんだ。見惚れたか?」
「――かもな。錯覚だよ」
「あら、そいつは残念」
明かるげに笑って言うものの、本当に残念そうな表情をする。守谷はその表情に騙されまいと考えながら、話題がてらに『エギアダルド』のアプリを起動してみる。
タイトルロゴ、ダウンロード表示、相次いでキャラクターが表示されたところで画面の変化は止まった。
画面に表示されている獣頭の大男には身に着ける武器はない。
形は四角く、大小さまざまな帯のようなものが革と布の胸当て、腰回り、荒く足首周りの裾の先がほつれた下の履物にも括られている。
灰色の毛並みはところどころが斑に黒くなっていて、見るものがいたなら若白髪のような違和感を与えるだろう。
頭部からポップアップする名前の下にはタイマー表記のようにカウントが残り数時間の表示を数えていた。
端末をテーブルにアプリを起動したまま置くと、ハルトマンは少し表情を陰らせて聞く。
「守谷は『アラン』を作った時、どうして呪術と格闘家なんて微妙な組み合わせにしたんだ? どうにも合わないように見えるんだが」
「……取り立てて理由はないかな」浮ついた気持ちを切り替えて答えると、ハルトマンは意外そうに続けた。
「てっきり守谷がこだわる部分でもあるのかと思ったんだがな。素手で戦う人狼とか、格闘ゲームにいた覚えがあるし、でも魔導書持ちの呪術と格闘技を組み合わせるのは珍しいし、かといって効率いいわけでもないし……ってさ。
不思議に思ったんだが、そうか。特に意味はないのか」
「しいて言うなら全くないってわけでもないけどな。呪いの類は現実にあるもんだと思ってる」
「呪いが? このご時世に?」
「あ、今馬鹿にしたなハルトマン。呪いってのは怖いんだからな?」
「……映画に同名の日本映画があったな。まさかとは思うが、それに関係は?」
「ねーよ。その映画に関して冗談半分で何人かと観た後ガチで眠れなくなったとかチビッた奴がいたとか恐怖体験したとかあるけどな――それとは関係ない」
「あれ観るのはマジでやめとけ」と釘を刺したところ、さしものハルトマンも引きつった笑いを浮かべていた。
「ジャパニーズホラーはホンモノの恐怖があるからな……肝に銘じておく」
「それがいい」
「そうさせてもらう。呪いなんて目に見えないもの、ゾンビより格段怖さがあるからな。目に見えない、触れられないとなると手に負えない」
「違いない。呪いなんて、碌なもんじゃない……そういう意味ではある種のコンプレックスの表れなのかもしれないな」
「ふうん。なにかあるって顔だな、守谷」
「大した話じゃないが、聞く気は?」
――あるね、大いに気になる。そう述べたハルトマンに聞かないという選択肢はないようで、「時間も遅くなるからほどほどに省くぞ」と前置きをしてから物心ついたときの頃の昔話……昔話というほどでもないが、自分の身から未だ離れない「呪い」についてを話す。
「何年くらい前だったかな……小学校に入るより前の話だ。
交通事故に遭った。それ以来、呪いから離れられなくなったんだ」
まるで守谷の語りだす心境を映そうとするかのように、だれもがどこかで聞き覚えのあるだろうピアノの楽曲、その第一番が店内に響き始めた。
――自分から呪いに掛った、そう言って守谷は思い出話を僅かに語る。




