22話
また短め
「――日常生活の中で、『これってあのとき体験したことと同じじゃないか?』って思う瞬間ってあるだろ。関係ないはずの知識や経験が、全く別の分野で要求されるやつ。そういうの、気付けたときって楽しいんだよ」
ログイン前の質問の中で、クリエイト時にTIPS表示されていたCCSについて訊ねはしなかった。それはハルトマンから聞いた話の中にそんな内容を話していたことを思い出したからだ。いつだったか……ゲームの話をするようになってすぐだろうか。
その時には既にC・C・S……カスタム・クリエイト・スキルを、構想していたのだと。思い当たりがあったため質問しなかったが、「前情報なしにゲームそのものを楽しむ」という意味では正解だったに違いない。
周囲は敵に囲まれて、守るべき対象に対してのこちらの戦力は3人。
通常ならばどうあがいても全滅は時間の問題に見えるこの瞬間、この一瞬こそ「ゲームのなかで生きている」という実感に他ならない。それを、守谷は心から感じている。画面は視界、おのれの力を存分に引き出して戦うことの興奮を。
スキルツリー構成の中で取得したスキルや呪文を任意に組み合わせ、その効力増加や継続時間の延長を上方補正し、戦闘の不利を優位に立て直す一発逆転の必殺技。アランのその奥の手に、守谷は呪権煉鎖と名付けていた。
――ダメージ反射を行うカウンタースキル、体力残量依存の呪術攻撃、体力の減少と共に防御値低下を代償にクリティカル値とアジリティ上昇効果を得る特殊なバフスキル、即死ダメージを耐久するスキル……そしてアタックスピードの上昇と共に『マニュアル操作』に切り替えるスキル。これらをアランのC・C・Sに組み込んだ。
スキルの構成はゲームにログインした後に知ったため検証足らずのままに使用することとなったが、アニメ視聴の傍らでひたすらアプリを操作して構成を確認・調整していた甲斐あってか、かなりの有用性をみせていた。
その時間、既に8分。
――スキルや魔法の組み合わせだけでは、引き延ばしても5分が限界だっただろう。それを大きく上回る助けとなっているのは、『マニュアル操作』のスキルにある。
「――くぅ、やっぱ最高にきっつい譜面してやがる!」
エネミーの攻撃ルーチンをシステム側が読み取って譜面化、カウンターや防御などのスキルをまるで『音楽ゲーム』のようにマーカー化してコマンド対応をする――それがマニュアル化。
『エギアダルド』には基本的にBGMがないが、この機能を用いる際にはシチュエーションによっていくつかのオリジナル戦闘曲がランダム再生される。
その再生基準は譜面によって……エネミーからの攻撃に対する回避や防御、カウンターの難しさを基準に変化する難易度によって、選曲される。
現在掛かっているのは上から数えて二番目の難易度……例えば足でパネルを踏むゲームであれば、後ろのバーに掴まらなければ素人ではものの数秒でゲームオーバーレベルの難しさ。いくつかのミスをするが、それに気を取られていたらあっという間にライフはゼロ――その時点でアランは死んでしまう。
そうならない為、そうはさせないという意地が、普段ならクリアできない難易度を維持できるほど、集中させていた。
やがて、押し寄せるエネミーの切れ目に、曲の変更が重なる。
「マジかよ、聞いた話じゃ現状で最高難易度じゃなかったかこの曲――」
ゲームパッドを握る手が汗ばむ。
指先は微かに震えて、心臓の音で曲のリズムはほとんど聴こえない。
――どこまで耐えられるのか?
――いつまで耐えたら撤退できるのか?
ここにきて自身の無さが澄んだ思考に影を差し始める。比例して、被ダメージが増えていく。集中力にも限界が近いことが、熱の入った頭でもなんとなく理解できた。
体力の総量に応じて火力が出るようにしたのは失敗だったかもしれない。始まってすぐの段階で一撃で倒しきるだけの火力は出てた。完全にオーバーキルだ、これなら耐久スキルに回した方がよかった。そんな、今後を考えることは許されない。
「死んだら、終わり……ゲームでも、そりゃあだれだって死ぬのは……嫌だろッ!」
最後の気力を振り絞って視界に止めどなく表示される譜面に入力を走らせた末に――耐久スキルを消費し、後一撃掠ったなら死んでしまうだろう寸前、幸運の女神が微笑む。
終わりを告げる閃光が視界を覆った。




