14話
『エギアダルド』はキャラメイクをある種の「不自由さ」として想定している節がある。
キャラクリエイトの技能設定に選択したのは、いわゆる『スキルツリー形式』だった。そもそもが万人の納得できる万全なシステムなんてものはない。理想の形に少しでも近づけるために四苦八苦していくのがゲームキャラクターの育成という要素だと言える。
スキルツリー形式もアビリティ装備や装備品依存の形式といった他の形式と同様に、メリットはあるしデメリットも当然存在した。
メリットは、『自分が使いやすいと思うスキル構成のみを成長させることが出来る』『取得レベルなどがある場合にある程度方向性が決まるため、他のプレイヤーに見劣りするほど大きなブレが出にくい』など。
デメリットは『ポイント割り振りの都合上で取得できないスキルが出る』ないし『他のジョブの似たような効果の者と比較して見劣りする場合に、死にスキルが出来てしまう場合がある』などだろうか。
頭の中がややこしくなる話は苦手だが、それでも是非ともに挙げればいくらでも意見は出るのだろうことだけは分かる。
――その辺りの制限を、ハルトマンは度返しして組み上げていた。そもそも、レベリングにそこまでのこだわりを見せていなかったこともあるのだろう。
スキルツリーであることは違いない。ただし、取得のツリー作成……始点となるスキルの設定まである程度自由にできるようにし……そしてポイント割り振り取得の形式に近い状態で構成したのだ。さらにそのうえで、ジョブ設定にサブとメインを導入している。
――【アラン】を例に出すとするとこうだ。
彼が使用した呪術、【『誘蛾』】や【『微睡』】。この二つは、通常よくあるスキルツリーではツリー成長を進める中途、もしくは最後に取得できるスキルだとする。
もし通常のスキルツリーであれば、【アラン】の成長設定のポイントをそのスキルツリーの発展に費やさなければならず、ほかの取りたいスキルが両立できないという事態が起きる可能性がある。だが『エギアダルド』のクリエイトにおいては違う。
例えば、【『誘蛾』】を取得したいとして、スキルツリーの出発点、一番最初に取得する欄に【『誘蛾』】をプレイヤーが設定できる仕様になっている。……『スキルツリーを自分で作る』ということが、可能なのだ。
それによるパワーバランスの調整がどうなっているかはハルトマンのみぞ知るが、スキル構成によるキャラクリエイトの自由度において、上限は限りなくないと言ってよかった。
もちろん、スキルツリーを自由に作成できるからといって強いものばかり選んでしまうと『MPがたりない!』なんてことになってしまううわけだから、そこは考えどころなのだろう。
ただ、その自由度の結果として【アラン】が呪術や格闘術を駆使して雑魚相手に無双したり、ヒーラーである【アイオーン】が攻撃手段を備えることも可能となっていた。
加えて、いわゆるジョブシステムの併用を行いメインとサブを割り振ることで、呪術師と格闘家といった相反する相性での構成にも対応させている。スキル周辺の設定だけでそれほど試行錯誤しているとくれば、キャラメイクに時間を要するのも頷けるだろうか。事実初日においてのプレイ段階まで入った人数は、ログアウト時点で17人しかいなかった。
取得に関しては基礎ステータスから割り出されるポイントを割り振る。結局は従来のスキルツリーと同じように「取得できないスキル」というのがどうしても発生してしまうのだが、『エギアダルド』ではさらにもう一癖スキルやステータスに影響する要素を付け加えている。【リスクコード】だ。
その辺りも触れつつチャットに打ち出す文章の書きだしを進めていく。
「んー。やっぱリスクを取り入れてでも無理してのキャラメイクは正解だったかね……『アイオーンさんはリスクコードでカスタムした強化スキルとかは作らなかったんですか?』」
『スキルや魔法に影響するような取得はしてないかな。めでぃかる☆アイオーンは医者だからね~っ。でもリスクコードって意外と幅広く使い道があったんだねぇ。単なる「特徴表」みたいなものかと思ってたからびっくりだ☆』
「特徴表ってなんだっけ……まあいいや」
【アイオーン】さんへ送るべくスキル構成の打ち込みを続けながら雑談を交わすと、こんな取り方をわざわざするのは珍しいんじゃないだろうか、としみじみと思う。
――呪術系統の呪文は、いずれも特殊な発動条件を要求される。
移動不可や攻撃不可などの行動制限のデバフや各種の状態異常、部分的なステータス値減少などなど。「人を呪わば穴二つだろ」などと言いそうなアイツの考えそうなことだった。
種類も持続時間も効果も様々だが、使用する代償が軒並みデメリットになっているのだけは変更不可。そして、代償として【リスクコード】もその中に含めることが出来たのが意外だった。
【リスクコード】の内容自体は『顔面に傷跡』『両親を殺された』といったものまで多種多様で、ロールプレイ上のフレーバーにしかならない。それ単体ではデメリットにしかならない要素だが、一定の要素に関してはスキルや魔法に絡めた『原典』を作ることで、威力や性能を強化できる、といったメリットを持たせることが出来る。
これもアランを例にあげてみるとしよう。
呪術師が獲得できる本来の【『微睡』】は範囲ヘイト上昇効果を持たず単なる催眠――一定の行動を強要する、混乱のようなもの――の状態異常にすぎない。
それに対して、『影の薄さ』によるヘイトコントロールの加算、『発言力』を一時的な代償にすることで範囲化効果を加算。さらに『安息などない』による一定時間の自然回復停止による効果時間延長……こうした
【『リスクコード』】を追加していくことで、ステータスや魔法、スキルへ追加効力を付与することができた。
――結果出来上がったのがアランの【『微睡』】だ。ザコのヘイトをまとめる範囲挑発スキル、という通常の呪術師や格闘家にはないスキルを得る結果となった。
ジョブやスキル編成のポイント割り振りも含め、そのあたりの設定やカスタマイズは、一定の条件はあるもののログアウト状態であればアプリから編集可能だというのだから、自由過ぎるのでは、とも思罠くもない。時間があるときに、ハルトマンにその辺どんな考えで設定を組み上げたのか聞いてみたいところだ。
……その機能がなかったらひどい使い勝手の悪さだ、とハルトマンのやつに文句の一つも言えたんだがなぁ。
キャラメイクに関して書き込みながら、互いに質問を交えつつ情報交換を重ねていく。気がつけば結構長くなってしまっていて、アイオーンの設定にこだわり過ぎだとか言えないくらいに練り込んだ設定だと気づく。
相当饒舌だったアイオーンさんですら、気付けば言葉数は少なくなっていた。
『とまぁ、【アラン】の設定として戦闘に関わる大まかな部分は、こんなところです』
『うーん、応用は利くんだろーけど、結構使いどころに悩む性能だねー……むむむぅ』
『ちなみに【アイオーン】の設定は、パーティー中は回復特化で行くつもりですか?』
『回復特化? ……あ、アイネ君の登録の! あれはねー変身が解除してる時の姿の性能を再現してるから、戦闘中はよほど美味しいシチュエーションじゃない限り使わないよ☆』
「――おいおい、作成した編成の中で一番回復魔法に特化されてる編成をヒーラーで戦闘中使わないとか、どれだけロールプレイに命かけてるんだこの人は……『美味しいシチュエーションって、味方が全滅しそうなピンチとかですか?』」
――その質問をした瞬間。一瞬の間を置いて、堰を切ったようにチャット欄へと大量の文章が打ち出された。
『違うちがーう! 美味しいシチュエーションっていうのは例えばライバル初登場回の9話「超絶執刀! 真打、さーじぇる★ケリュケイオン!?」で出てくるノイエくんがアイネくんの薬学医療に対して「時間ばかりを浪費して、高額な治療費を要求する。時間ばかりがかかる、それではこの奇病は根絶できないのがまだ解らないのかい。一度で終わらせられない処置を、この病棟は必要としない!」とライバルにいわしめ、重ねて起きた事故である臨床検査の末にできた試験薬を正体不明の医療機関に叩き割られてしまった時の絶望くらい美味しくないとダメなのよ分かる?! その後あごをくいっ、顔をずいっ、「お前はおれの看護師になれ」と言われて医局長の息子からダイレクトスカウトされ昇進するか自分の医療に対する信念の合間に揺れるくらいの場面でこそ初めてアイネくんの葛藤に満ちたロールプレイが生きるんですよそのくらい美味しいシチュエーションを堪能できる場面じゃないとダメなんですからアランさんにそれができますかできたら若い子がいいのでアランさんの推定年齢高めですし無理ですよねどこかからそんな子をパーティーメンバーに連れてくるくらいじゃないと実現できませんから――ちょっとアランさん聞いてますっ?!』
その後、解散するまでの間は各話の見所からアイネとノイエの関係のいかに素晴らしいかについてを語られて……不覚にもちょっとだけ『『次元躍進! 美少年神代魔法少女・めでぃかる☆アイオーン』に興味が湧いてしまったところで、時間も遅いので『とりあえず9話まではアイオーン出てこないから一気に観てね!』という謎の勧め方をされたところでお開きとなった。
……徹夜して、観てみるかなぁ。
メモしている『アイオーン』の設定量が本編の設定量を超えてたとか……いまだに信じられません。