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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
14/94

13話

前話の前書き及び報告に書かせていただきました通り、12話は適宜調整させていただきます。

配信後より改訂前に読んでいただいた方には申し訳ありませんでした。



 * * * ◆ * * *


 β版ということも加味してか、ハルトマンはキャラクターの初期成長の段階でかなり余裕のある成長設定を行えるようにしていた。

 普通であれば、スタート時点でのステータスは大きく差をつけずいわゆる「レベル1」の状態からスタートするものだろう。

 βテストとはそもそも読んで字のごとく、『テスト』だ。

 不具合を見つけたり、調整する箇所を検討することを前提としているため、作成したキャラクターデータというのは往々にしてテスト限りの場合が多い。

 せっかくの自由度でレベルにかまけて楽しめない、なんてことのないよう取り計らった結果なのだろう。『エギアダルド』のレベル設定は、キャラクターの年齢や職業、経歴などの諸々の設定から算出して初期段階である程度割り振られる形となっていた。

 そうなってくると必然的にスキルや呪文といった枠の成長もある程度を取得することが出来る。

クエスト直前まで懸念していたような『一人で厳しいのでは?』という事態は、人手が足りずにひやりとした瞬間が何度かあったものの、ひとまず杞憂に終わったことに安堵していた。


 安堵したのもつかの間の話……今、守谷改め【アラン】は、なぜか説教されている。


『だーかーらー、何度言ったらわかるんですか。アランさんは無茶しすぎですよぅ!』


 チャット欄に怒涛の勢いで書き込まれていく怒涛の説教は、【アイオーン】さんのもの。

 彼女? のロールプレイは筋金入りのようで、よどみなく入れ込んだ話口調になるものだから、つい【アラン】として話をしているかのように錯覚してしまう。チャットに書き込むこちらの口調も、いつの間にやらイメージしていた【アラン】のように振舞っていることに守谷は気づいてはいなかった。


『こうして命あるなら問題はない。たらればなどと、起こらなかったことを話したところで何の生産性もないだろうに。それにいざとなれば自分で治療する術も持っている』

『それも呪術ってやつなんですか? あぁもうその嫌そうな顔にうなだれた尻尾、そうなんですね!?

 味方に告げもせず代償なんてもの払ってたら命がいくつあっても足りないってさっきから言ってるでしょ!』といった内容を、先ほどから何度繰り返したことか。


 ――クエストは、終了の表示がなされた。

 そして、相次いで継続クエストが更新されたのは、橋での防衛戦直後の話だ。


 継続クエストには補足の文章として、『受領する場合はクエスト受注をしたパーティ全員がログインしたのち、一定時刻の経過と共に開始されます』と表記されていた。

 受注をすることを決めた【アラン】と【アイオーン】はその場で受諾選択をし、砦の治療室に向かいながら談笑をすることになったのだが……【アラン】が戦闘中の話題に触れたことがいけなかったらしい。


 あくまでも【アイオーン】の元のキャラクターをロールプレイする身として、『自己犠牲を伴う解決方法』というのはとても許容できない!


 それが【アイオーン】さんの主張だった。器用に通常の会話とロールプレイの台詞とを括りで書き分けてまで懇切丁寧に解説されたのだ。

 最終的に、ロールプレイに満足したのか説教は終了したものの、まだまだ話足りない様子なのか『フレンド申請』や『チャットグループ登録』を行いませんか? と提案されることとなる。

 守谷自身、ロールプレイ重視のプレイングがここまで面白くなるとは思っていなかったのもあり、快く承諾した。


 次のクエストのこともあるのでアプリの方ですこしチャットしてから解散にしませんかという提案をし、同意を得たところで二人ともログアウトを行った。――次に会うのは、明日の土曜日になるだろう。

 今日の時間では、ゲーム内でできることは少ない。徹夜してでもやりたいところではあるが、そうも言ってられないのだ。……そう、このゲームには時間が限られている。



 ――クローズドテストは、通常のゲームとは違って『プレイ時間が限られている』。



 クローズドテスト版において企業が求めるのは、ひとえに『調査』だ。

 例えば、オンラインゲームに必要不可欠な『サーバー』の管理。このサーバーにテスターが参加することでどれほどの負荷がかかって、どういった動作を取った時負荷が大きくなるのかという、負荷限界の見極めなんかがいい例だろう。

 もちろん、プレイヤーの界隈でデバッガーと言われるような人たちによるバグ検証やエラーがないかを検証する動作確認などもテストの内。

 しばしば例に上がる延々と壁に向かって走りながら毎秒15回ジャンプ入力をしながらスペル発動をして……なんてものもあれば、一般プレイヤーには不可視状態のデータのみのプレイヤーログを大量配置してエリアごとの負荷を見るテストなんてものも行われたりする、という話をイストさんとゲーム業界の話をしていた時に聞いたことがある。

 なかには眉唾モノの話も結構あったが、テストである以上、行われないとは一概に言えない。

 こういった負荷テストは人の多い時間を想定することが多く、大抵のβテスト版では土日の指定時間で、というものが一般的であることもクローズドの特徴と言えるかもしれない。


 『エルダーギア』に関しては、金曜の週末の20時から24時、土曜の14時から24時と、少々変則的な時間指定になっていた。『人の集まりやすい時間』としては、変則的と言っても誤差の範囲だろう。


 そこに至って、現在の時刻は23時43分。


 クエストもキリの良いところまで終わっているのなら、どちらともなく「ログアウトしましょうか」と切り出すにはちょうどいい時間帯だと言えた。


 椅子に腰かけたまま両手を上にして背筋をぐい、と伸ばしていると、携帯端末の方で通知音が鳴る。早速チャットでメッセージを送ってきたらしい。

 フレンド登録欄からチャットルーム作成の通知を開いて、個人チャットを表示した。


「『こんばんは、さきほどは、どうもありが……』って早!」

『こんばんわ~早速チャットしてみましたけど、このアプリすごいですね! 一般的なソーシャルネットワークサービスの機能となんら見劣りしない使いやすさでチャットできるゲームアプリなんて、初めてですよ!

 もー、テンション上がりまくりっ!!(*’’▽’’) 

 ところで、さっきの反省も踏まえてヒーラーとして! アランさんの技能構成を把握しておきたいのです\\\\٩( 'ω' )و ////

 どんな効果があって、どういうバッドステータスが起きるのかだけでもぜひおしえていただければ~』


「ちょ、早、何この人打つの早い!」

 もたついている間にも「あのーきいてます~?」とか「寝落ちかにゃ~」だとか様々に送ってくるものだから、通常の入力では返事が追い付かない。

 慌てて、あまり使わず閉まったままの携帯端末用キーボードを取り出して使うことによって、ようやく多少はまともに会話ペースを維持することが出来たのは此処だけの話だ。


「『すみません、普段は通話で済ませることが多いので、キーボードでの入力はあまり得意ではなくて……』と」

『ありゃー、そっかぁ。それじゃしょうがないね。こっちも通話が全くダメってわけじゃないけど……実家だからうるさくすると怒られちゃうのよー。あ、それで行くと土曜日もテスト時間になってるし、その日中ならできる時もあるし、その時は通話できるって言うね☆』

「実家かー……たしかに、家族同士の部屋が近かったりするとうるさいとか何時だと思ってれるんだ、とか言われるしな。『気にしなくてもいいですよ。それよりも、クエストの話ですが、明日は何時ごろなら来れますか?』」

『んー、土曜の日程は14時だったっけ……開始時間で入れるよ~。でも、18時くらいにちょっと抜けるけど、遅くても20時過ぎには戻れるはずだよ☆』

「『分かりました、こちらも夕食はありますし、その時は様子を見てキリの良いところで一旦中断しましょう。それで、【アラン】の成長編成ですが――』」


 パーティーを組み、会話しているうちに分かったことだが、【アイオーン】さんは非常にヒーラーとして頼りになるように感じる。でなければロールプレイを通じてとはいえ『死なせない為に仲間の能力を把握する』なんて発想は出てこない。

 人によってはPvPやPK……対人戦に持ち込むための情報収集や、プレイヤーをつけ狙って追い込む殺人プレイを楽しむような目的のために情報収集する人も、いないわけではない。だが少なくとも【アイオーン】を操作する人に、そう言った手合いの悪意は感じてはいなかった。

 ――万が一にもそうだったとして、それはそれで自分の見る目がなかったというだけのことだろうなと諦めもつくというものだ。


 雑談もそこそこに、それから一時間ほどは【アイオーン】の情報と【アラン】の情報を交換して戦術をすり合わせていくことになり、あれやこれやとロールプレイしたい内容を聞いているうち、余計なことを考えているような余裕はいつのまにやどこかにいってしまっていた。




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