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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
11/94

10話

 * * * ◇ * * *


 ――それは戦端が轟音と共に開かれる少し前のこと。


 一通のメッセージが守谷のもとに届いた表示を、ディスプレイが通知音と共にアイコン表示で点滅して知らせる。


「……ん? パーティー参加申請?」


 ――パーティー申請といえば、数多あるオンラインゲームのほとんどにおいて欠かせない要素だろう。

 協力や対戦、大型イベントにギルドなどのコミュニティ作成からPvPコンテンツに至るまで、パーティー構築が必要になる用途は幅広い。

オンラインゲームの場合、大抵の場合はゲームのバランスの面でパーティー単位での難易度を基準にする。

攻略コンテンツの構成はその基準で作られるため、ソロ攻略なんて縛りプレイをする物好きなプレイヤーでない限り、パーティーを組まないという選択はお勧めできない。

 個人的にはどちらか一辺倒ではなくソロもパーティーも両立し、それぞれのコンテンツを作ってくれたらいいのにとも思うのだが、それをすべてにとなると仕様上厳しい。

かといってどちらも両立して作るとなると中途半端になるのが関の山だということくらいは、守谷自身もないものねだりだと理解していた。


 ――問題はこのクエスト、ひいてはこの『エギアダルド』自体がどちらなのか、だろう。ソロオンリーでもどうにかなるような難易度であればパーティー機能を取り入れる必要はないし、かといって序盤とはいえパーティーを組んでしまえばそれで戦力が足りるとも限らないわけで……

悩んでいても仕方がないので、申請に添付されているコメント欄も目を通すと、思いのほか丁寧な文章が飛び込んできた。


「なになに……『スタート地点がそちらのクエスト開始地点に近いので、パーティー参加させていただけませんか。こちらはロールプレイ重視のため、報酬はすべてそちらに譲渡でかまいません。ロールプレイを楽しむため、ぜひ協力させてください。

 ボイスチャットも構いませんが、家族がいることと、夜も遅い時間のため、会話はテキストチャットを希望します』」


 ボイスチャットもまた、ゲームであればよく見かける機能だろう。

 とりわけ海外向けのシューティングジャンルに多く見られるが、オンライン機能の流通した最近では日本でも組み込んでるゲームは多い。

通話ツールを利用しての協力プレイをする人も多いので、多少の賛否はあっても需要は相当数あるのだろう。

 ――『Elder Gear Online』もどうやら、ボイスチャット機能を実装しているゲームらしいことに、ここで初めて守谷は気付いた。

しかしながらクローズドβテストでその機能を解禁しているとは思わず、面食らってしまった。きっとこれもテストの一環なのだろうなと思いなおして、パーティー申請に目を向ける。


「……ややこしく考えてもろくな事ねーしな。せっかくのプレイヤー共闘で初クエスト、楽しんだもん勝ちかねー」


 なかには良くない人もいる。

 言い方は悪いが、正直不快だとは思う。不特定多数が集まるオンラインゲームではソリの合わないや罵詈雑言を平気で口にする人のことを思いやれない、自分に比べて軽んじるような人だっているのだ。

 しかしそれはそれ。目くじらを立てたところで仕方がない。

 自分だってプレイスタイルがあって、それを否定されたらいやな気分になるように、そうした合わない人たちだって主義主張は少なからず存在するし、絶対悪なんて人はまずいない。関わりたくないのなら、距離を取ればいい話。……もちろん、それで解決できない面倒事もあったりはするけれど、人生のどこかで起きる話で、結局は自己責任。


 ――だからこそ、こういうのは楽しんだもん勝ち、なのだ。

 パーティー申請に受諾を押し、ゲームに再び意識を向けた。 








 * * * ◆ * * *



 空を切り、雲を裂き、音よりも早く。

 それは飛行という名の自由落下。雲より遥かから墜ちる人の、墜落の末に待ち受けるのは死だ。

 ――普通であれば。


「ぁうえ、え、、え、え、、、えええええ、えええええぇぇぇぇ!!」


 天には月が四つも賽の目のように菱形に並び、星々は異様なほどにカラフルで。

 空中には浮遊する大陸のようなものも一瞬だけだが見えた気もするのは見間違いかもしれないけれど……そんなことよりも、落下。落ちているのはぼくで、落ちる上で必要な装備なんて何一つなくて、そしてそれは現在進行形だ。


「きいぃい、いい、いいぃい、い、いいいてぇぇぇぇええ、なあ、ああああ、ああああいぃぃぃんんんですううぅうけどお、お、おお、おおお、おぉぉぉぉぉ――」


 訂正すると、普通でなくとも。どれだけ強靭でも。間違いなく。どうあがいても、このまま落下すれば死ぬ。潰れて、ミンチで、人の形すら保たない。このままでは死んでしまう。

 超高高度からの落下など、何も身につけてなければそうなるのは当然の帰結だ。

 そして、その帰結は何もつけてなければの、話だった。たったそれだけだ。


 能力は――多分使える!

「と、と、と、と、とっとにかぁくぅうううう――やるっきゃ、ないっ!」


 口に出して確認したつもりだったが、上空は遥か彼方、こんなところで声をあげても誰の耳にも届かない。そもそもが声になってない叫びにしか聞こえないだと既に落下の最大速度とかこの際どうでもいい、地面が近いはず、つまりは四の五の言っていられない!


「死者に目覚めの声を呼べ――アイスクラァァァァーッ、ピウスッ!」


 その叫びと共に。超高速で落下する人は、超光速の流星となり地に降りてゆく。

 やがてその流星は一つの戦場へと辿り着いた。


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