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第十四話


「うう、森の中はやっぱり歩きにくい」

「慣れるしかないわね。足の筋肉が育ってきたら気にならないわよ」

「大きくなりたいよ」


 私たちは森の中を歩いている。

 森林――王都の周りにある草原を取り囲む、手つかずの森林の中である。

 草原を横切るなんて王都から丸見えで、王国兵士に保護(らち)されてしまう。

 

 木の根っこに転びそうになったり、腐葉土に足を取られたりするリリエッタをサポートしつつ、深い森を突き進む。このペースだとだいたい半日で戦場につくだろう。

 ちなみに、二十キロという距離は私一人だと一時間くらいで到着する距離である、というのはリリエッタに隠しておこう。リリエッタが泣く。

 

「本当に手間がかかるんだから」

「ありがとうミューエ」

 

 この頼りない姿を見ていると、今朝の強い口調は幻覚なんじゃないかとさえ思われる。

 

「どうしようかしらね」

 

 戦場跡に行くことは非常に高いリスクが付きまとう。

 今ごろ教会の連中が厳戒態勢をとっているはずで、戦場跡に近づけば高い確率で捕まるだろう。

 ただでさえ私たちのような子供は彼らの保護(ほかく)対象である。街で見かければ目にイェンマークを浮かべながら迫ってくる。


 それに加えて、聖女封印直後に事件現場で子供が現れるのは自分たちが犯人だと自供しているようなもの。現状では戦場跡に近づくのは自殺行為である。


 けれど、私に方針を示した時のリリエッタの瞳はそんな理屈を無視させるくらい強く、特に否定の言葉が見当たらないうちに道程も半分を越えてしまっていた。

 

 せめて、行くべきか、行って何をすべきかくらいは訊いておかなければ。

 

「ねえリリエッタ。教会の連中に私たちが見つかったら、間違いなく捕獲されるよ。そんなリスクと比べて、魂にはそれほどの価値があるの?」

「あるよ」

「言い切るわね……」

 

 リリエッタの言っている魂を回収することの意義はどれだけあるのか。

 高いリスクに見合ったリターンが見込めるものなのか。


 リリエッタの自信には期待感が持てるけど、私はいまいちその真意を掴めていない。

 やはり、私が知りえない情報が引っかかっている。

 “死霊術師”とは一体何なのだろう。

 そんな魔法使いの名前は聞いたことがない。

 

「すごい自信。それは聖女や死神が言っていた“死霊術師”が関係するわけ?」


 リリエッタの足が止まる。それに合わせて私も立ち止まった。


「やっぱり、ミューエには説明しなきゃダメかな」

「是非ともお願いしたいところね」

 

 私たちの間に隠し事なんてない。今まではずっとそうしてきたはずだ。それなのに、根本的なところでリリエッタは何かを隠そうとしている。これはもう洗いざらい白状させなければ。

 

「死霊術師は魔力の代わりに魂を使う魔法使いのことだよ」

「魂を使う――? それがよく分からないわね」


「教会が秘密にしているからね。

 大昔にすごい剣幕で弾圧したらしいよ。

 その所為で死霊術師は数百年前には滅んだはず。

 もう文献も残ってないんじゃないかな」

 

「何でリリエッタがそんな技術を?」

 

「それは秘密だよ。気にしないでね」 

 

 ……まあ、リリエッタが秘密にしたいならば殊更に聞き出すことでもないか。

 私は言葉の続きを待つことにした。

 

「今回の目標は戦場跡から魂を回収することだよ」


 魂――。戦場に浮かんでいるたあの魂のことだ。

 死霊術師と言うからにはそういうものを操ることは想像に難くない。

 

 リリエッタが死霊術師……というならば魂を回収するのは妥当な気がする。

 

「えと……、私は死霊術師として、アンデッドを作り出すことと、死霊を使役すること、二つの能力を持ってる」

「具体的に教えてもらってもいい?」


「私は死霊術師として、

 死霊を死体の中に入れてアンデッドを作成して使役する『アンデッド作成』

 と、

 死霊をそのまま使役して視覚センサーとして使用できる『死霊ネットワーク』

 の

 二つの能力が今のところは使えるよ」


 今のところは、ね。

 リリエッタが成長すると使えるスキルも増えるのだろうか。


「ふーん。それで、それと魂を回収することと何が関係してくるわけ?」


「魔法が魔法石に魔力(・・)を流し込んで魔法を発動させる代わりに、

 死霊術は()を流し込んで魔法を発動させてる。

 高価な魔法石も必要ないし、どこでも使える便利魔法といえるかも」


「魂があればどこでも使える魔法、か。一万イェンを払えば食べ放題みたいな言い回しね」

 

 確かにそうかも、とリリエッタは笑った。

 それにアンデッドをお手軽に作れても、利点は特に感じない。

 

「死霊術に使った魂はそのまま消えてなくなっちゃうから、死霊術の使用には気をつけないと。

 あと、アンデッドは作った後も少しずつ魂を消費しているから、そのうち動かなくなっちゃうのにも注意しないといけないよ」

 

 死霊術師は魂を使って死霊術を使える。

 しかし、魂は消耗品なのでご利用は計画的に。

 

「だいたい分かったわ。リリエッタが魂を集める手伝いをすればいいのね」


「魂はとても早く回収出来るし、広範囲な吸引力で遠くからも回収出来るよ。

 でもやっぱり、これだけ距離があると厳しい」

 

「ふーん。具体的な距離とかも検証していきたいわね」

 

 リリエッタの能力を知ったうえで、私は再びリリエッタに問う。

 

「取りあえず死霊ネットワークから知りえた今の戦場の様子を教えてくれる?」


 戦争は情報が要。

 一方的にその状況が分かる死霊ネットワークは、地味だけど反則レベルに強力である。

 リリエッタの能力のおかげで、教会が厳重に警戒する戦場から魂を回収する作戦に現実味を帯び始めた。





 

 

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