Prologue→タワーディフェンスのすゝめ
白。
辺り一面の白。そのなかに、様々な電子機器が独特の燐光を放ち、その少女の輪郭を照らし出す。
その白の部屋に居る少女は、無機質な目で一つのモニターを見つめる。それが何秒、何十秒と続き、ふと溜め息を吐きその作業を中断する。
「……またザルツの所。いい加減に……」
その言葉を言い終わるが早いか、部屋のドアが上下に割れて開く。中々SFチックなドアだ。
ドアの向こうから現れたのは、20半ばと言った様子の男性。しかし、その態度は、どこか目の前の少女に敬意を払っているように見える。
「……管理長、報告致します。ザルツガスラがまた……」
「此方へ進行してきたのでしょう。停戦条約を無視して……」
「元々駄目元でしたから。……どうなさいますか?」
その男性の言葉に、少女は少し悩む素振りを見せ、そう結論づける。
「……そうですね。相手は[Hound of Adamantine]を導入するでしょうし、[The Quiet Gun]で対抗しましょうか。迎撃プランSに先の物体を導入して実行。急いで」
「……ええ、了解しました。では、自分はこれで……」
「待って。確認。消費した人材は?」
その問に少し戸惑いの表情を浮かべ、直ぐにその表情を引き締めさせて男性は答える。
「……約50人。そのなかでも、[異常者]が2人。手痛い損失でしょう」
「……そう、ですか。……私はこれから召喚に入ります。先のプランを実行させておいて」
「ええ、存じております。どうぞ、お気をつけて」
男性の言葉に少女は薄く微笑み、男性が出ていく方向とは真逆のドアを開けてくぐる。
その黒いトンネルのような長い廊下の先には、赤いクリスタルと青いクリスタルが浮かび、色々なコードが絡まりあってよくわからない状態になっている、なんとも名状しがたい部屋があった。
その中心には、人が一人は入れそうなカプセルが鎮座している。少女はそれに触れ、何事かを呟くと、両脇のクリスタルが紅く、蒼く光り、雷光を発する。
「……お願い、来て――」
少女が祈るようにそう呟く。すると、それに反応するように目の前のカプセルが胎動するように一つ大きく光り、部屋を白で塗り潰す。
果たして、光の向こうにあったものは――
「……ここ、は?」
それは、一人の中学生程の少女。茫然自失、という言葉が似合うような表情をしているが……無理もないことだろう。
「……珍しいですね。子供とは――」
「……あなたも子供でしょ。なに、ここ……」
その強がったような言葉に、少しだけ口角を吊り上げる。だが、すぐに表情を引き締め、管理長としての務めを果たさんとして、少女に歩み寄る。
「ようこそ、我が搭へ。……突然ですが、貴女には我々の業務を手伝って貰います。今後とも宜しくお願いしますね」