ご褒美
行きと同じ道を戻り、研究所に帰ってくる頃には日が落ちていた。
裏通りだから薄暗いままだが、表通りは明るく騒がしい。
何だか楽しそうな雰囲気だなぁ、と思いながら研究所に帰ってきた。
目が覚めた時には地下の研究所だったけど、普通に生活する所もあるんだよな、ここ。
ここを出る時も通ったけど、割と普通に家っぽい。
「博士、今帰った」
「あ、お帰り〜。どうだった?」
「ん、ライト、将来はかなり有望。造鉄魔法が使えた」
「マジ?造鉄魔法なんて使えるようにしてなかったのに……ライト君、かなり素質あるね」
「私も驚いた。多分、ライトは天才」
「えぇ…?俺が天才?」
言われると嬉しいが、全く実感が沸かん。
でも、魔術が思ってたよりも簡単に使えて良かった。これも魔導核のお陰かな。
というか、俺の使ってた魔術って、難しい魔法なんだな。
造鉄魔法って言ったっけ?
そういや、今日の活動でステータスがどうなったのか気になる。
途中、何か出てたんだけど狙いをつけるのに集中しすぎて何が出てたのか見てなかったんだよね。
という訳で確認してみた。
種族:機巧人形 個体名:ライト
状態:正常
魔導核:異常無し
物理攻撃力:5000
魔法攻撃力:4000
物理防御力:10000
魔法防御力:8000
耐久力:8000/8000
魔力量:1100/???
称号:操鉄者
スキル:機巧人形、魔導核の恩恵、造鉄魔法、自動高速修復、形状変化、空間収納、武器作成
おぉ、称号とやらが増えている。
この操鉄者とやら、どうやらボーナスがあるらしい。
その内容が、造鉄魔法でだが、消耗魔力の減少、総合攻撃力、総合防御力、造鉄魔法で生み出したものと自分自身の耐久力の上昇と、武器作成というスキルが使えるようになった。
武器作成はまぁ、読んだままのスキルだな。
色々作ってみたいが、今はもう室内だし実践するのはまた明日で良いだろう。
それと、気になった事がある。
魔力量についてだ。
このステータス、耐久力と違って上限値が分からない。
何だハテナって?
それに、よく見ると数値が昼見た時より少し増えている。
今は1100で止まっているが……これはもしかしたら、上限がないのでは?
戦ったり、魔力を消費すれば魔力の総量が増えていくとか……
何かすごい魔導核を使ってるらしいし、ありえそうだよな。
数値が他のものと比べて低いのは、俺がまだこの身体に馴染んでないからか、未熟だから魔導核の性能を引き出せていないからか、そもそもこの数値でも十分に高いか、のどれかだ。
「…………」
「んー?おーい、ライトくーん?」
「うぉぉぉっ!!?」
気付いたら博士がこっちをすごい覗き込んでいた。
この身体になってから、考え事を始めるとのめり込むように集中してしまう。
いかんいかん…もう少し周りを見ないとなぁ。
「すいません、スキルを見てました。」
「あぁ、なるほどねー。どれどれ、私も見せて貰おうかなー……うぉぉ、すごいねこれ!」
「どうしたんですか?」
何やら博士は俺のステータスを見て興奮しているご様子。
何がそんなにスゴいんだ?
「私、こんなに魔力多く設定してないのに、もう出力1000以上も出せてるよ。それに、まだまだ伸びそうだし……我ながらスゴいもの作っちゃったみたい……アハハ……」
「??」
うーん、よく分からん!
とにかく、俺は割とぶっ壊れ性能だということが博士の反応で理解できた。
「それで、狩りの方は成功した?」
「あ、はい。んー、どうやって取り出すのかな?」
どこかにしまったあの肉は、どうやれば取り出せるのかな?
と、意識すると目の前にアイテムバッグのリストみたいなのが出てきた。
あ、道中拾ったバルンの皮がある。
クイックデアーカモの肉はそのすぐ下にあった。
それに意識を向けると、取り出す、鑑定、詳細とある。
今は詳細が暗くなっていて、選べない。
まぁ、今はひとまず取り出すかな。
すると、目の前にあったテーブルの上にポンと肉が現れた。
加工もしてあるし、確かにちゃんと俺が剥いだものだ。
「おー、空間収納もちゃんと使えるんだね。うんうん、ありがと!」
「いえいえ」
「それじゃ、お礼にご褒美あげるよ!」
そういやすっかり忘れてた。
ご褒美って、何の事だろう?
そう言って博士が持ってきたのは、起きた時に持ってた変なモノが乗ったお盆だった。
気持ち悪っ!?間近で見るとこんなに気持ち悪いのかこれ!
「は、博士……それ何ですk」
「えいっ」
「ギャーッ!!」
博士は、俺が喋り終わる前に気持ち悪い何かを俺に押し付けてきた。
素手で持って、グリグリと。
そりゃ悲鳴ぐらいあげるだろう……
何か1つ文句でも言ってやろうかと思ったが、次の瞬間俺はそれすら忘れる事になる。
俺の身体が、その気持ち悪いやつを取り込んだのだ。
そして、取り込んですぐ、身体の表面が変質を始めた。
取り込んだ場所を起点に、少しずつ身体の表面が肌色になっているのだ。
そして、1分が経つ頃には、変化が確認出来なくなった。
「ふふん、大成功だよ。」
そう言って博士は、俺の目の前に鏡を持ってきた。
そこに映っていたのは……人の頃にそっくりな俺だった。
いや、人だった頃よりもカッコ良くなってる。
目の下から一直線に、、機械が剥き出しだった時にあった顔のパーツの境目である線が見えたり、瞳が生き物の物とは違う雰囲気もあるが、十分に人らしく見える。
口を開けたり、瞬きをしたり、頬を引っ張ったり。
その質感は、ほとんど人間だった頃と同じだ。
「貴方の身体の表面を変質させて、人っぽくしたんだよ。流石に関節辺りは無理だったけど、十分に人っぽいでしょ?」
そう言われて見ると、肘や膝辺りは球体関節剥き出しのままだし、指先もやっぱひ機械っぽい。
でも、これで十分だ。
人らしく見えるのが、こんなに嬉しいなんて思わなかった。
「博士……ありがとうございます」
「良いって良いって!それに、これから冒険者になってもらうに当たって、金属剥き出しは宜しくないからね」
あ、やっぱり冒険者にはなるのか。
「何で冒険者に?」
「それは私が説明する。冒険者は、ランクが高くなれば一般人ではいけない危険な所にも行けるようになる。そちらの方が、何かと便利」
「なるほどね。必要な素材が危険なところにあったりするからそっちの方が都合が良い訳か」
「ん」
「服は、お金をあげるから、それで買ってきてね」
「え、いいんですか。お金貰っちゃって」
「うん、今日の報酬だと思ってよ」
「あ、ありがとうございます」
これで予定は決まった。
明日はギルドで登録だな。