機巧人形
アクセス数が増えていくのが嬉しい……
多分説明回はこれで最後です
「よーしっ、ライト君が正式にウチの助手に加わってくれる事になった事だし、君には知ってもらわなきゃいけない事があるっ!」
やたらカッコイイポーズでビシィッ!とこちらを指さす博士。
最初は大人しい人かと思っていたのに、喋れば喋るほど印象が変わっていく。
俺の評価では、博士は残念美人だ。
綺麗だし頭も良いはずなのに、言動が残念なんだよなぁ。
それでも彼女の美貌があればあまり不快にはならない。
……多少は、だけど。
「それで、知らなきゃいけない事って?」
「あなたのボディの話」
補足するようにユリアが会話に入ってくる。
説明しようとするユリアを、博士はユリアに乗っかるようにグイッと押しのけた。
その目が「ここは譲れない」と強く訴えている。
博士に背中に乗られ、前屈のような姿勢で唸るユリアをよそに、博士は話を再開した。
「ライト君が今使ってるボディは、私が数年かけて作った自信作なの!世間一般では機巧人形って言うんだけど、性能は一般的なものを遥かに凌ぐ!ぶっちゃけ別物って言ってもいいぐらいだね!どう?すごくない?」
「いや、すごくない?と言われてもその一般的な機巧人形のことをよく知らないんですが……」
「はっ、すっかり忘れてた。ごめんごめん」
博士は苦笑いを浮かべながら頭を掻く。
にしても、捲し立てんばかりのすごい勢いだった。
きっと作るのに色々苦労したんだろうが、それにしたってどんだけ紹介したんだよ。
俺の疑問には、前屈の姿勢から博士を押しのけたユリアがざっくりと答えてくれた。
「一般的な機巧人形との違いは3つ。1つ目は駆動系術式の精度向上と関節の形状の見直し。これでタイムラグも無く思考とほぼ同時に体が動かせる。2つ目は精神体にした人を憑依させて操作する事。本来機巧人形は魔動傀儡の派生みたいなもので、簡単な命令を組み込んでしか動けない上に臨機応変には動けない。けど、人の意思で動かせるなら細かい指示もこなせる」
感覚的には、機巧人形ってロボットみたいなものか。
前の世界の友達に、毎月発売されるパーツを買ってロボット組み立ててた奴がいた。
動かしてる所を見せてもらったことがあるが、パソコンでプログラムを入力してたな。
何をしていたのか理解出来なかったけどさ。
本来プログラムで動かすものに人の意識を入れて動かせるようになったと言うけれど、自らこの機会に入るような奴は滅多にいないんだろう。
生身の体を手放して機械の体に入ろうなんて、そりゃ物好きとか変人の領域だ。
一応は戻れるらしいけど、やっぱり怖いよな。
それで、元の体に戻るにも戻れないような、大怪我を負った奴を探していた訳だな。なんか納得。
「3つ目は素材。機巧人形は本来量産するものだけど、博士はこの一体で一個大隊に匹敵する強さを持たせようとした」
「ちょっ、ちょっと待てって。俺は戦うの前提なのか?」
「当たり前。そもそも記憶がないのなら、1から知識を身に付けるよりも体を使って働ける仕事をする方がいい」
マジかーっ!
異世界に飛ばされたからって、別に戦う必要は無いよなって思ったんだけどそうもいかないのかチクショー!
手伝いっていうから、この研究所での小間使いだと思って少し期待してたのが間違いだった。
しかし悲しいかな、ユリアの言うことは理にかなっている。
どうやら戦っていくしか道は無いらしい。
幸いにも、このボディは戦うのに向いた強力なものらしいし、あまり重く考えても仕方ない。
「安心したまえライト君。戦闘についてはユリアちゃんに基礎から教えてもらうといいよ!半機化手術を受けただけの人間種としては超強い方だからね!多分天才の域だよ!」
「博士…恥ずかしいからやめて」
僅かに頬を染めたユリアが博士を睨む。
しかし当の本人は何処吹く風といった感じだ。
「…まぁいい、これが最後の特徴。あなたのボディを動かしてる魔導核は、機巧人形には、ましてどんな魔術具にも搭載されないような特別なもの。現在確認されてる中では、あなたの魔導核しかない」
お、やっと魔法とやらが出てきた。
なるほど、電気とか燃料じゃなくて、人と同じく何かエネルギーを発生させるものがあるんだな。
「へぇ、博士のオリジナルなのか。どんなものなんだ?」
「えっとね、過去に出力がデカすぎて制御出来なかったっていう魔力炉を改良して、それを現代の技術で制御、出力してる、かな」
「はぁぁぁ!?」
いやちょっと待て!人の体になんてヤバイもん搭載してんだ!
つか、制御出来なかったってそれやばくないか!?
「ちなみに、その魔力炉とやらはどうなったんだ?」
「制御を失った魔力炉はそのまま暴走。町はおろか、周囲の村や山も飲み込んでその一帯を更地に変えた」
「ちなみにその更地に出来た新興国が、今の王都だよん」
ちょ、王都ってこの星に存在する国の中でも一番デカい所じゃねぇかよ!
「安心して。魔導核は既にあなたに馴染んでる。言わばそれはあなたの心臓。然るべき手順を踏んで暴走させようとしない限りは安全」
「人がいきなり心拍数をあげようとしても、運動しないとバクバクしないようなものさ!」
それを聞いてホッとした。ちゃんと制御は出来るのか。
開発者である博士はめっちゃドヤ顔だ。
悔しいが、やはりこの博士は天才なのだろう。
素直にお礼を言ったら嬉しそうにクネクネした。
「というか、暴走させる訳が無いじゃん!そのボディ作るのに、私の財産半分はすっ飛ばしたんだからね!」
レアな素材に、昔の技術の再現、人類史上初めての試み。
なるほど、確かに一個人がやるにしては莫大な金が要りそうだ。
……いくら掛かったかは聞かないようにしておこう。
「これで、このボディの素晴らしさは分かってくれたと思う!それじゃあ早速働け働けーっ!」
「もうっスか博士」
随分とまぁいきなりだな。
「世の中はいきなりの連続じゃあ!」
「ライト、諦めて。こうなったら博士は泣きじゃくる子どもよりやっかい。細かい事は私が教えるから」
「ユリアがそういうならそうなんだろうな…しょうがない、指示に従うとしますか」
「ちゃんと仕事してくれたらご褒美があるからねー!」
閲覧数が伸びるのが嬉しくてたまらないです