情報収集
サブタイの通り、情報回です
長文が続きますが、ご容赦下さい
異世界っていうと、真っ先に思い浮かべるのはやっぱり小説だろう。
元の世界では、そういうジャンルの小説が流行っていたのを覚えている。
その手の小説でよく見るのが、自分の知っている世界に飛ばされる、というものだ。
読んだことがあるものだと、自分がやっていたゲームだとか、知っている物語の世界に飛ぶ事が多い。
だが、先ほどの街の名前を思い出す。
イルディナ…少なくとも、俺が前の世界でやっていたゲームや物語にはこんな名前の村は出てこなかった。こういう時に何と表現したら良いのか分からないが、何と言うか、元ネタの無い世界、とでも言うのだろうか。
この世界は完全に独立したものであり、強いて言うなら「この世界の事は知っているからそれを元に無双出来るぜヒャッハー!」とはいかないのだろう。
とはいえ、俺がイルディナという村を単純に知らないだけであって、実はゲームの世界でした、何て事もあるかもしれない。仮にそうだとしても、そのゲームや物語の通り話が進むとも限らないので、慎重に行こう。
とりあえず、まずは情報収集だ。
「あの……俺、少し記憶喪失みたいなんだ。自分の名前以外が、まるで思い出せないんだ。悪いけど、この世界について教えてくれないか?」
「うーん、記憶喪失かぁ、参ったなぁ。ユリアちゃん、悪いけど、しばらく彼に世界の事を教えてあげてくれないかな」
「分かった。博士は、その間に準備をしといて。動き出しは早い方がいい」
「分かったよん♪」
お?案外上手くいったぞ。この人達、案外気のいい人なのか?
「それじゃあ、ゆっくり教える。この世界は、大昔に神によって作られたエネルギーの集まりだった。空の更に上にある暗い空間が、そう。その集まりの中でも、特にエネルギーが集中している所が、長い年月を経て実体を持ち、星となったというのが今の定説。その中でもこの星は、そのエネルギーがとても集まっている星と言われている。エネルギーが無いと、大地が生まれない。大地が生まれても、エネルギーのバランスが多くても少なくても、生き物は生まれない。ちょうどいいエネルギー量を持つ星は、私達この星の住民が確認出来る中では、ここだけ」
へぇ、何だかいかにもファンタジーな感じの話だな。
それにしても意外だったのが、この世界の人達が宇宙を認識している事だ。宇宙という言葉は使われていないみたいだけど。
こういう世界って、考えが中世の頃に近かったりするから、海には端があって、それ以上進んだら谷へ落ちてしまう、とかそんな考えだと思っていたが、見縊っていたようだ。
星や宇宙に関する認識などは、元の世界と大差ないという認識で良さそうだ。
それにさっきも言っていたが、それを調べる技術がある事は確かだ。
しかし、今俺が確認できる状況を見て言うと科学力では無さそうだ。何せ、不思議な装置以外は全部中世の建物と同じレベルの建物だ。
きっと、俺の体が沈んでるこの不思議マシンを動かしているものがその技術なのだろう。
そして、その俺の予想は、見事に的中していた。
この世界は、その星のエネルギーとやらが満ち溢れていて、生き物はそれを生命力に生きているのだと。
そしてそのエネルギーを使い、世界の力を使うのが魔術だという。
魔術という呼び方にも理由があるそうだが、それはおいおい説明するそうだ。
魔術かぁ、異世界っていうならあるとは思ってたけど、やっぱりあると分かるとワクワクするな。いずれは自分もド派手な魔法を使ってみたいものだ。
話が逸れたな。この世界で活動するものは、量や質の差こそあれど、誰でも魔術は使えるそうだ。
もちろん、機械である俺でさえも。
というか、魔術があるって事は俺はただの機械のマネキンって訳ではないのだろう。
その証拠に、今もこうして人間の時と同様に考える事が出来ているのだから。
「あなたも、魔術を使ってみたい?」
ユリアは小首をかしげて質問を投げかけてきた。美少女がやると本当に絵になる動作だ。
「もちろん。是非とも使ってみたいね。」
「なら、後で教える。生きるに当たって必ず必要になる技術だから、覚えておかないと逆に困る。絶対に魔術は使わない、なんて言わなくてよかった」
「そりゃあな。何も分からない以上、あるものは何でも使うのが道理だろ?教える時は優しくしてくれよな」
「善処する」
そんな気の抜ける会話を終えると、ユリアは再び説明に戻ったーー
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かれこれ1時間以上は説明を受けた。
とは言っても、知らない事ばかりで全く飽きない。というか、以前であればあまりの情報量の多さに混乱していただろうが、今はそれがない。機械になった恩恵だろうか?
まぁそんな事は後回しでいい。
彼女の説明で分かった事は以下の通り。
人類が生まれたのは今から4000年ほど前。
文明が生まれたのは3000年前だそうだ。
その過程で人類は様々な生物の情報を、時に取り込み、時に取り込まれ、時に交わり、その結果、一口に人類と言っても様々な種が生まれる事となった。
その中でも最も多く、全ての人類の元となったのが人間種。
特徴として、生まれつき持つ身体能力は低く、ズバ抜けて何かが突出した身体能力が無い。その代わり、”スキル”という技能を多く身に付ける事がよくあるそうだ。
ユリアや俺の元の体がそれに当たる。
その他にも種族もいるのだが……その説明も後回しにされた。
何でも、人間種以外の種族は、ジャンル別に大まかに分けてもかなり多いのだとか。
次に、俺の今いる所について。
実はここ、とある小さな町の中らしい。物音が聞こえないのは地下室だからだそうだ。
この町の名はファーダント。
小国ダングルドの領内にある、冒険者業の盛んな田舎町だそうだ。
あの博士、雰囲気的にかなりすごい人物のような気がしたのだが、なぜこんな田舎にいるのだろうか。それはまだ分からないでいる。
と、ちょうど博士が戻ってきた。
先ほどまで、準備をすると行って奥の部屋に篭っていたのだが、それが終わったようだ。満面の笑みを浮かべる博士の手にはトレーが乗っており、その上には何か気持ち悪いものが乗っていた。
それが何なのかは分からないが、少なくとも地球にはあんなものは無いだろう。
それを俺の脇にあるテーブルに載せると、ニコニコした顔でこちらを向いた。
「やぁやぁライト君。この世界については理解出来たかな?」
「はい。ユリアのお陰で色々分かりました」
「それは良かった。ところで君、元の体に戻りたいかい?」
そう言って博士はちらと培養槽に視線をやった。
ズタボロではあるが、まだ戻れる可能性があるるしい。
「えぇ、もちろんです」
「そういうと思ったよ。そこで、簡単な取引をしよう。私の持つ技術があれば、時間はかかるが君の体は元に戻せる。だから君の体を治すまでの間、私の助手として協力してくれないかい?もちろんただで、とは言わない。君の体を治すまで、身体は私が提供しよう。今君が動かしているそのボディだ。それは私が作った自信作でね。協力している間は、自由に使ってくれていい。」
これは、暗に”その身体が無いとお前は何もできないぞ”と言っているようなものじゃないか。
実際にそう思っているかどうかは知らないけど、その通りである。
生憎と今の俺は手元に何も持ってない。もし協力しないとなると、最悪身体は自分で見つけるしかない。が、それは不可能だろう。
なるほど、博士がユリアに死にかけの人を連れてこさせた理由が分かった。
こりゃ意地の悪い”取引”だ。
俺がその考えに至った事に気付いたのか、にやりと笑って博士は続ける。
「それに、君は記憶がない。そんな君を外に放り出すのは危険だ。だから、その間の生活の面倒も私が見よう。なに、君は、身体を治すのに必要な材料を集めるついでに、私の研究に必要な材料を集めて欲しい。あと、出来れば簡単な雑用や家事をね……」
雑用や家事を、のところだけ様子が違った。
どうもこの博士、頭は良くても家事は全くダメらしい。意外な弱点だった。
とは言っても、それぐらいの弱点じゃ断る理由にはならないし、それ以上に俺には選択肢がない。
それに、この博士には貸しがある。
まぁ、強制的に貸しが出来るように立ち回っている訳なのだが。
「……はぁ、それって俺に選択肢無いですよね?良いですよ、拾われた命ですし、断る理由もないですし。それに、俺にとってはある意味願ったり叶ったりな訳です。是非とも協力させてください!」
その返事に、博士は心から嬉しそうに笑った。
美しい女性は、当然笑顔も美しい。そんな博士の表情に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
これでも健全な高校生なのだ。ドキドキしない方が難しいだろう。
「うん!本当に良かったよ!私としても、君をその身体から追い出すのは寝覚めが悪いしね。それじゃ、これからもよろしくね、ライト君!」
「よろしく、ライト」
「あぁ、こちらこそよろしく」
こうして、俺は博士の元で暮らす事となった。
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