雪の日
なぜ私ではないのだろう。その鈍くて重い気持ちが私の胸を締め付ける。
中学一年の時、野中太一に恋をした。彼は賢いから、一所懸命勉強をして少しでも追いつこうとした。高校で生徒会に入って、副会長と会計として近くに居られるようになった。なのになんで……。
「あっ美穂ちゃんーー」
隣にいるのが私じゃないんだろう……。
ちょっと赤くなって野中くんは彼女に話しかける。どんな関係なんだろう。よく一緒にいる。この間は二人で出かけてたって聞いた。やっぱり付き合ってるのかな……。人気のない中庭で二人で仲良く話して居たのだろうか。
嫌なことを考えてしまった。こんなの見たくもないし知りたくもない。
さっさと立ち去ろう。そう思って背を向けた時だった。
「あ! 井城さん!」
彼に呼ばれてしまった。無視するのも不自然なので振り返る。
「じゃあ私帰るから」
「うん。ありがとう」
にこやかに笑って手を振る二人が見えた。なんでこんなもの見せるかなぁ……。
「井城さん?」
「あ、ああ。何?」
「あの……」
野中くんが口ごもる。
さっきあの子と話してた時にはそんなのなかったのに。やっぱり私だから? あの子みたいに優しく笑えないから? 可愛くないから? 素直じゃないから? 愛想がないから?
空が暗くなってきた。雨でも降るのかもしれない。ああ、嫌だなぁ。
「あ、あの!」
顔を背けていたのに気づいて慌てて彼を見た。
「え……?」
野中くんの顔は見たことがないくらい紅く染まっていた。
「これ、貰ってくれる……?」
「え?」
可愛らしく包装された箱が差し出され、戸惑う。
「あの、これって……」
「今日ってほら、クリスマスだから」
「うん」
「うん」
……え? で、これの意味は一体……。
一瞬考えてわかった。クリスマスプレゼント。きっとみんなに配っているのだろう。こういうイベント好きだから。
「別にそんなのいいのに……」
「え?」
「みんなに配ってるんでしょう? 大変じゃない? そういうの」
ああ、またやってしまった。好きな人を否定することしかできないのだろうか。同じことばっかり、馬鹿みたいだ。
「…………えっと」
ちょっとして野中くんがゆっくりと口を開いた。
「"みんな"じゃないよ?」
「え?」
「井城さんの分しか用意してないよ?」
頭にあった可能性が次々消されてゆく。そういうことなのだろうか。
「あの……それって」
「井城さんだけ特別!」
自惚れてもいいのだろうか。
ふわり、と白いものが舞い降りた。いつの間にか降り出した雪が、辺りを優しく包む。
「…………好き」
「え?」
ハッとしたように野中くんが私を見る。
そしてどちらからでもなく微笑んだ。
「井城紫苑さん」
「野中太一くん」
「「あなたが好きです」」
この度は「雪の日」をお読みいただきありがとうございます。いつもは後書きを入れないのですが、一つお知らせがあるので書かせていただきました。
四月から「渡辺夏月」というユーザ名で活動していたのですが、新年から新しいユーザ名に変わります。新しい名前は「照月雫」です。読み方は「テルツキ シズク」です。
名前は大きく変わりますが、名前に込めた意味や小説に対する思いは変わりません。精一杯頑張っていきますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。