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―Unspoken role― 2

多分、毎週月曜投稿になります!

これからも宜しくお願います。

    

1人目     本田  翔   


 

多分、今現在、校内に残っているのは俺たちぐらいだ。

 どっぷりと暗闇が、グラウンドを満たしている。

 約束だけしてそのまま解散という訳にはいかなかった。

 実際のところ、復讐に向けての時間が全くない。夏の大会があと二ヶ月にせまっているから、そのまま作戦会議に移った。

「具体的にはどういった復讐を望んでるの?」

「目には目を、歯には歯を…って感じだな」

 言葉で傷つけた奴には言葉で、金銭関係の奴には金銭で、暴力には暴力で、羞恥心には羞恥心で。同じものを使って、与えられた傷を与えた奴に返す。それが俺の決めたこと。

「俺の復讐対象は四人」

 絶対に復讐しておきたい四人。こいつらだけは絶対に許さない。こいつらのことを考える度、胸の奥の方で言い表せない怒りと悔しさが湧き上がる。

 お前は? と目で榎本に問う。

「わたしは…三人」

「え?」

 思わず声が出てしまった。だって三人って意外と多いな。てっきり、本田一人かと思ってたのに。

 俺の驚いた顔を見て、榎本は少し戸惑いながらも、なぜ三人なのか語る。

「わたしを犯してるのは、本田くんともう一人いるわ」

「なら、二人だろ?」

「いいえ。三人よ」

 大きな憎悪を含む声。その声は復讐すべき人数をはっきりと告げる。

「…分かった。それじゃ…」

 俺は紙とペンを取り出して、榎本に渡しこう告げた。

「それに復讐したい奴の名前をフルネームで書いてくれ」

 俺の一言に戸惑いながらも榎本は、ペンを紙の上で走らせ始める。

 俺も同じように紙に、四人の名前を書き殴った。

 まるで、新学期に新しい学級委員を決める時のような光景だが、今名前を書かれた奴には復讐という鉄槌が振り下ろされる。…絶対に名前を書かれたくない。しかも名前を書かれた瞬間、復讐決定なんだから…。

自分でもかなり酷い選挙してるな、と思いながらも…なるべく無心でいようと試みながら、紙に名前を書き連ねていく。

 

 最終的に六人の名前が出揃った。

 

 井口(いぐち) 敬太(けいた)

 東島(とうじま) 久也(ひさや)

 本田(ほんだ) (かける)

 田端(たばた) 麗麻(れいま)

 古岡(ふるおか) (まこと)

 荒川(あらかわ) 小夜子(さよこ)

 

 この六人が俺たちの復讐対象となる。

 榎本と俺、お互いに一人名前がかぶったため合計六人。

 

「こんなところかな…」

「わたしもこんなところ」

 そう言ってお互いに息を吐き、もう一度名前を確認する。

 意外な名前が一つあるが、それについては触れないでおこう。

「で、どうするの?」

 榎本の一言で、とりあえず意識を作戦会議の方に移す。

「とりあえず…一人目の標的(ターゲツト)は、た…いや本田だな」

 実際この復讐の計画は、ほとんど白紙である。だから突然の榎本加入とかもできた。それでも、一部の奴には明確な復讐計画が用意されている。

「その理由(わけ)は?」

「まず、俺が現場を見ているから、お互いに明確な敵対心を持ってる。それに、こいつのやり口がもの凄く気にくわないから」

 建前を堂々と語る俺。本音は別のことだが榎本には絶対に言えないな。

「一人目に本田くんをもってくるのね…同じクラスでしょ?」

「関係ない。…むしろやりやすそうじゃね?」

「そう…本田くんを指名したのはわたしだから…やり方、ちゃんと煮詰めとくね」

「あぁ…なるべく早くな」

「分かってる」

 ふむ。と榎本が満足そうに頷く。…今の仕草なんだよ、可愛いけど怖いわ。

「割とあっさり決まったね…試合の時もそれぐらい早く球種決めてよ」

「俺は熟考タイプ。しっかり考えてからやるタイプなの」

 決して、どの球種投げても打たれることが目に見えているから、投げるのを躊躇っている訳じゃないんだからねっ!

 クスッという笑い声が響く。

「いや、さっきの復讐計画ものすごく決まるの早かったよ?」

「あれだ。うん。ちゃんと考えてるって」

「それ考えてないと同義語だから…」

 ビシッとツッコミチョップをいれる真似をする榎本。それを見て笑う俺。

 朗らかな暖かい空気。いつまでもこんな時間が続けばいいのに―。

 

 よし、だいたいの方針も固まった。夜も深まってる。そろそろ解散かな。

「じゃ、そろそろ帰るか。とりあえず復讐方法は落ち着いてから考えよう」

「うん、そうだね。…じゃ、またねっ」

 先に榎本が放送室を後にする。

 残ったのは俺一人。

 漆黒の闇はその濃さを増し、放送室を何重にも取り囲む。

 イスに座っていた俺は、背もたれに身を任せ深いため息をつく。

 

 最初の復讐相手。俺はある程度計画の煮詰まっている、田端を対象にしようと思っていた。

 でも、とっさに田端から本田に変更した。榎本が計画に加わったからだ。

 理由は二つ。田端に恨みを持っているのは俺だけで、榎本は何一つ恨みなど持っていない。この状況で最初の田端への復讐が成功したとする。ここで榎本がもし心変わりを起こして、俺のやった復讐を誰かに告白して、俺の復讐がバレる。これを恐れたからからだ。

 もう一つは、榎本の退路を断つこと。榎本だけが恨みを持っている奴に復讐を行うことで、強制的に榎本の逃げ道を塞ぎ最後まで協力させること。


 そして…榎本を計画に引き入れた理由。具体的には二つ。 

 一つ目は、俺自身の暴走を止めること。俺が計画を立てているときに出た案は、死人が出てもおかしくない方法だった。頭の上にボール箱がいくつもいくつも落下してくる…とかな。

 榎本なら、こういった危ない計画は絶対に止めてくれるはず。

 もう一つは…もし、誰かにバレたとき犠牲になってもらう、全ての復讐の犯人に榎本を仕立てあげる、俺専用の生け贄。それを榎本にやらせる。

 榎本の役目はこんなところ。

 

 …というかさっきから冷や汗がやばい。

 もし、あそこで榎本が協力を断っていたら…俺は明日、学校に登校する資格を失っていたかもしれない。そう思うと怖ろしさで、また冷や汗が背中を伝っていく。

 改めて自分が渡った綱の細さに驚きながらも、意識は復讐計画に移り始めていた。

 ついに始まる俺たちの復讐。

 気分は高揚し胸が熱い、でも頭は冷水をかけられたかのように冷えている。

 始まりがあるのなら終わりだってある。

 俺の…いや俺たちの手で。

 必ず…全てを終わらせる。


  ×   ×   ×   ×


 シナリオとしては完璧だ。終盤ギリギリまで劣勢に立たされていたチームが、劇的な逆転劇を演じる奇跡の物語。

 それが俺たちの行う試合。

 

 自転車のペダルを踏みならし、風を切りながら学校に向かう。

 県立天神浜(あまみはま)高校、共学。普通科、三学年、文系Bコース。野球部所属。

 これが俺の肩書き。

 今日は朝練がなかった為、幾らかの余裕をもって登校できた。いつもなら、やばいやばいやばいやばいと念仏のように唱えながら立ち漕ぎして、校門に飛び込むのが俺の日課。

 まだ、目と頭の周りには眠気が残っていてボーッとする。いつもより睡眠時間は長いはずなのに、何故か眠気はいつもの倍以上。あるあるだが、割とこれショック受けるな。

 ゆっくりと廊下を歩きクラスを目指す。しかし、階段を登った先にいた少女を思わず目で追ってしまった。

 たわいのない周りのお喋りもどこか遠くに聞こえる。

 何故か俺の周りの時間が緩やかになった気がした。

 俺の意識全てが、目の前に立つ彼女に向けられたからかもしれない。

 散る桜のような、今にも消え入りそうにはかなく、寂しい笑顔を携える、榎本月奈。

 榎本は俺に気づくと、迷いのない足取りで俺との距離を詰める。

「おはよう、高島くん」

「お、おぅ、おはよう」

 ちょっと焦ってテンパッて噛んじまったぜ…。いやマジで焦った。昨日あんなことがあったのに、いつもと同じ平常状態の榎本にビビる。

 全力で噛んだ恥ずかしさから、ただでさえ頬が熱くなっているのが自分でも分かるぐらいなのに、次の榎本の行動によって、俺の頬の熱はさらに上がる。

 俺の耳の近くまで寄る榎本の唇。吐息がかかるぐらいの距離から放たれる、イタズラめいた声音。

「部活が終わったら、昨日の場所に来て」

 俺は詰められた分の距離を思わず仰け反りながら離す。

「分かった。…思いついたのか?」

 聞いたすぐそばに横に振られる彼女の首。

 難航しそうだな…と人ごとのような感想を抱いてしまうが、俺も関係してることなんだよな~。

 また放課後。と榎本は俺に告げて、教室の人ごみの中に消えていく。

 俺は何故か、消えていくその小さな背中に大きな安心感をいだいていた。

 

 フロアが変わると雰囲気も変わる。控えめながらも、高校生のお喋りの声はしっかりと聞こえる。それでも、落ち着いた空気が流れている。

 俺のいる二階は文系Bコースの奴らのフロア。ようするに文系の進学組の奴らが集まる。

 反対に一階は、文系Aコースのフロア。就職や専門学校希望者が集まるのだ。

 俺は一階の雰囲気が本当に苦手だ。繰り返されるマシンガントーク、そこかしこの内輪ノリのお祭り騒ぎ。…はっきり言ってついて行けない。

 ただ、救いはある。

 野球部内で俺のいじめに加担している奴は、ほとんど三階の理系クラスやAコースの為、Bコースの俺とはほぼ関わりがない。

 そのため、クラスではいじめがない、というか普通に友達がいる。

 ただ、もちろん野球部員が完全にいない訳じゃない…。

「おっ桐日、おっはよーう!」

 ヒラヒラと手を振り、元気よく挨拶をするのは、俺の後ろの席の本田翔。

「おーおはよう」

 なんでよりによってこいつがクラスメートなんだよ…運命って残酷。

「手袋、見つかった?」

「あぁ、おかげさまで」

 おかげさまで、仲間が見つかりました! ありがとう!

 まぁ…このように俺と本田は仲が悪い訳じゃない。

 お互い一年の時同じクラスで、同じ野球部だったから、なし崩し的に仲良くなった。それに、本田は俺に対するいじめに、巻き込まれることを嫌がっていた。だからか、部活関係で人間関係が崩壊した俺にとって、部活内で唯一「友達」と呼べる存在。

 でも、降り積もった雪が溶けるように、それすらもこれから失う。

「桐日ー、数学のプリントやってる? やってたら写させて」

「間違えてても文句いうなよ」

 そう言って、俺はプリントを渡した。

 プリントの端を、怒りに任せて握りしめたせいで、シワができているそのプリントを。

 

 …何で平然とお前らはそうやって日常を装えるんだ。

 お前言ってたよな。『あいつら、もしお前にやってることがバレたらどうすんだろな』って。お前もやってんじゃねぇか。一人の少女を追い詰めてるじゃねぇか。榎本が書いた二人目の名前にお前は関係してるのか。

 確かにお前は、俺の心の支えになっていた、けれど、いじめを止めてくれたわけじゃない。…そして、結局、お前もそんな奴らの同類だった。

 …もう十分だ。これ以上人を嫌いになりたくない。

 

 許されてはならない。許してはならない。お前らのその行動を。

 …だから、俺は許さない。たとえ、人類全員があいつらの味方になっても、俺は、一度立ち上がったからには、絶対に屈しない。

 立ち上がるまで、二年の歳月が経ってるけど…。

 



いよいよ次話より、二人の復讐の幕開けとなります。

書き溜めはあるけど完結してないからな~頑張らなくては…。


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