霹靂の変態
青天の霹靂。
教室にその雷が轟いたのは、なんでもない平日の朝のホームルームが始まる前、昨日のテレビやネットでの話題やゲームの攻略など、話題が豊富に飛び交う時間の事だ。
大胆に制服の上着が、おなかを見せているほどピチピチしている。
スカートも多少の長さはあるものの、はみでた足には、多少の毛がうすっらみえている。
茶髪のウィッグというのかカツラというのか分からないが普段より長めの髪を揺らしながら、入ってきた。
オネェが教室に入ってきたら、普通は爆笑かあっけにとられると思ったが、どうやらうちの教室は、みなあっけにとらわれるようだ。
文化祭でやったら遊びだから、皆も笑ってくれるかもしれない。
しかし、平日のなにもかわらぬ日常の延長線上でやるのは洒落ではないと言うことなのかもしれない。
高校デビューを飾るには大分遅く、そもそもデビューするようなヤツじゃなかった。
普段は男子の制服をきっちりと来ている、クラスの秀才キャラ。
勉強のし過ぎでついに壊れたかと皆一様に思うほどに、真面目なやつだった。
いや険しい表情は何一つ変らない。
眉間にしわを寄せながら、考えている姿カッコイイヨと影で自分の意中の女子が噂しているところを聞いたとき、絶望に打ちひしがれたものだが、今日のこいつの格好は、そのかっこよさを一段と台無しにするようでいて、何か深い事情があるのだろうと思わせるのには、十分だった。
いや、みなそう思わないとこの状況が辛いだけなのかもしれない。
こいつの唯一友達の僕が、代表として聞いて来いという、アイコンタクトと言う名の視線が突き刺さってくる。
「あぁ、どうした? 悩みがあるなら聞くぞ」
「あぁ、これなら付き合えるか、お前の意見が聞きたい」
聞きたくなかったぁと絶叫したい、なんならクラス中に広まりつつある、痛みしかない伴わない今の発言を取り消せとつかみかかりたいが、つかみかかりたくない格好をしている、こいつが憎らしい。
「僕とお前が、つきあうと言う事か」
「なんだ、その気持ち悪い発想」
お前のどの口が言うんだよと、突っ込みたいが、どうやら僕が危惧したような状況にはならずにはすんだと見ていいだろう、苛立ちはあるけれど。
「大分前に妹がいる話はしたな」
「そういやしたな」
まだ会った事はないが、妹がいるという話はした。
普段の会話でも妹に頼まれたとかで、買い物に行ったり、用事をすませたと言う話を聞く分には、ずいぶんと仲の良い兄妹だと、おぼろげながら思ったことがある。
しかし、なんで見たことも無い妹の話がでてきたのだろうか、妹に頼まれて、女装に踏み切ったのなら、コイツは仲の良い兄妹どころか、主従関係といって差し支えないだろう。
「その格好は妹のためなのか」
「まぁそういう意味も含まれているな」
「じゃあどういう意味でその格好をしているんだ?」
「妹が、お前の事を好きだそうだ」
「そうなのか、でもあった事ないよな?」
「お前は会った事はないだろうが、妹は休日俺の部屋に遊びに来たお前を隠れて、見つめつづる程度に認識はある」
一方的な認識じゃねぇか、怖いやら、でも若干の嬉しさやらでどう反応したらいいかわからねぇよと叫びたかったが、微妙な笑みという表情で続きをうながした。
「可愛いい妹がお前を好きだと言う、付き合いたいという、だがお前からしたら、あったことも無い女子に告白されても、お前ごときが可愛い妹を振ってしまう確立のほうが高いだろう、それはそれで悲しい、兄としては、もっとまともな人と付き合えといいたいのだが、折角の可愛い妹の恋路を邪魔することになったら、嫌われるかもしれないから葛藤のすえ応援することに決めた」
何げに友人の僕を貶めていないか?
そこまで言われるほど、ひどい人間ではないと言いたいが、それより言いたいことがある。
「それとお前の格好がどうつながるんだ」
「俺と妹は似ているから、妹を見たことの無いお前にみせるためにここにきた」
「えーと、お前と似ている」
「そっくりだそうだ」
それは小さいころの話じゃないだろうか、というかお前自分で自分のこと可愛いと思っているのかとか、聞きたいこととはあるが、それよりもまず先に言うべきことがある。
「お前馬鹿じゃねぇの」
クラス中が僕の意見にうなづいてくれるだろう。
なんで、このご時勢に妹の姿をにているとはいえ、兄の女装姿でみないといけないんだ。
「お前より成績優秀だ」
「総意味じゃない、もう写真見せろよ、写真」
「妹をお前のようなやつが見たら、目がつぶれる、いや目をつぶしてみせるぐらい可愛い妹を何故、お前に見せないといけない、そういうことは文通してからだ、文通して数ヶ月は俺を通じて妹を見ろ」
「なんだその拷問」
本当に妹を見せる気あるのか、いや所々危害を加える発言をしてくるの。
「付き合うかどうか分からない、男性を妹に見せると言う事は苦痛に等しいという俺の気持ちを理解してくれるのは、ありがたい」
「こっちが、苦痛だといっているんだよ」
「そんなに妹が見たいのか、つきあうのか」
「実際に会ってみないと、なんもいえない」
「だから、会う前に文通をしろ、お前の人柄を判断する」
「大イタイなんで文通、メールじゃなくて?」
「付き合っても無いのに、メールだという恋人の真似事なんてさせるわけにはいかないだろう、図々しい」
「図々しくないわ、大体お前がその女装する意味まったくねぇだろ」
「いや、お前が見かけで判断するようなヤツだったら、妹との交際を認めない」
まぁ確かに、人は見かけで判断しちゃいけないだろうし、こいつはこいつで、必死になって考えた結果このうような女装という格好をしているわけか。
ずいぶんと応援するベクトルが間違っているとはおもうけど、これも麗しい兄妹愛だと思えば、多少は納得する。
「じゃあ妹さん、お前に似てないんだな」
「いやそっくりで可愛い」
今のお前の格好そっくりなら、可愛くはないと断言はできるが、あったことも無い妹さんにそこまで言うのは、人としてどうなんだろうと思ってしまうので、あえて言わないが、こんな格好している兄がいるというのは、大分苦労しているんだろう。
「まぁでもお前今変態な格好しているからな」
「妹の恋路のためなら変態にもなれる、それが兄妹だ」
逆効果だよ、恋路の邪魔しているよとは誰も突っ込むことなく、教室はいつのまにか何時もどおりとはいかない、異質ない格好をした変態をもいつのまにか喧騒が飲み込み、日常へともどっていくのだった。