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第9話

お食事中の方、申し訳ありません。

どれくらい時間がたっただろう。

長かったようにも感じるし、短いようにも感じる。

泣いていても始まらない。

何とか動き出さないと。

イリアに飲ませた白湯の余りを口に含み、深呼吸をして考える。


依頼で解熱作用のある薬草ってのがあったのを思い出した。

たしか、ニラみたいな形の草で名前はタマ草。

キレイな小川の近くに生えてたはずだ。


薬草と効能はわかってるが、どの様に処方するかは知らない。


「やっぱり、煎じるって言うし煮出して飲ませるのがいいよな」


いつも魚を捕ってる小川に生えてるタマ草を採りにいき、

前世の記憶を頼りに煮出した。


煮出したタマ茶をイリアに何度か飲ませた。


これで落ち着いてくれるといいんだが……。


次の日の早朝、状況は悪化していた。


「お兄ちゃん、お腹痛いよぉ」

目に涙を一杯に溜めてイリアが言ってきた。


「おしっこみたいなウンチでてるの」


下痢だ……。

熱は昨日ほどじゃないがまだ下がりきってない。

唇がカサカサだ……。

脱水症状もでてる!?

不味い、間違いだったのか??


どうする??

時間は早朝、まだ薄暗い。


なにか手はないか……。

だれか……頼れる人は??。



そうだ!! 教会だ!!

ダメでもともとだ、エミリア様だったらもしかしたら…。

よく考えれば、無謀だったのかもしれない。

だけどそんなこと考える前に教会に向かって走りだしていた。


雨は止んでいたが、舗装なんてされてもいない貧民街の道は茶色の泥の水溜まりがいくつもあり、馬車の車輪が通った轍は深く大量に水が溜まっていた。

そこを気にせず教会まで走った。


ドンドンドン!!

古びたドアノッカーは背伸びしてギリギリならすことができた。

「すみません!、すみません!!」


返事はない。

「すみません!!、エミリア様いらっしゃいますか??」


ドンドンドン!!


「は~い、今開けますよ!」


カシャッっとドアから外を見る小窓が開く音がすると

「おや? 誰もいないねぇ~、イタズラかしら??」


「居ますよ、下です」


「あらあら、これはこれは」


ガチャンと鍵の開く音がして扉が開いた。


「まあ!、小さいお客様ですこと!」

少しふっくらした尼さんがでてきた。


「おはようございます、朝早くに失礼します。

エミリア様はいらっしゃいますか?」

頭をペコリと下げる。


「あら、礼儀正しいのねぇ~、 う~んでもエミリア様はこちらにはいらっしゃらないのよ」


マジか!?


「何か急ぎのご用意だったかしら?」


「えっと、その…弟が高熱で倒れてタマ草を煎じて飲ませたら

お腹痛くなって下痢が止まらなくなって………」


「まあ、大変!! エミリア様はいらっしゃらないけど、ここには清潔な布や温かいベットもあるわ。とにかく連れてきましょう」


ふっくらした尼さんは体格に似合わずフットワークが軽いようだ。

彼女はオリーブさんて名前らしい。


イリアを軽くオンブして教会まで運んでくれた。


教会に着くと玄関の前に背の高い男が立っていた。

腰のあたりまである銀色の髪を1つに束ね、かなり長めの剣を腰にさしていた。

その鋭い目付きは、近づいてくる俺をまるで値踏みするように見ていた。


隣でオリーブさんが

「おや? あれはシルバード様じゃないかい、アズマくんは運がいいね

エミリア様も来てらっしゃるよ」


「そうなんですか…」

でもそのシルバード様とやらは俺から目を離してくれないんだけど…。


背中が泡立つ、まるでゴブリンと戦闘している時のようだ。

指先、足先から恐怖がじわりじわりあがってくる。

ドクンドクンと近づくにつれて心臓も速く打っている。


「おはよう…ございます…」

絞り出すように声を出したその時、後ろの扉が開いた。


「ちょっと! シルバード! そんなとこに立ってたらお客様が入れないじゃない!」

扉の向こうから清涼感のある声がした。


シルバードは無言で場所を空け、後ろから金髪サラサラのエミリア様が顔を出した。


事情を聞いたエミリア様は、なにやらシルバードに指示をするとすぐにイリアをベットに寝かせてくれた。

シルバードは教会を速足で出ていった。


俺は食堂に座り、尼さんたちが食べている朝食と同じものを食べていた。

パンと刻んだ根菜のスープと、卵を泡たてて作ったオムレツの様なものだった。


卵だ!!

何年ぶりだろうか。

イリアをベットに寝かせ落ち着いたのか、涙が出るほど旨かった。


エミリア様は俺の目の前に座り両手で頬杖をして、俺が食べるのを眺めていた。


「泣いているの?」

心配そうな顔で俺を見る。


「これ、半分取っておいて弟と分けてもいいですか?」

イリアにも食べさせてあげたかったから聞いてみた。


「アハハ! 」

オリーブさんが大声で笑いだし、エミリア様も他の尼さんも笑っている。


「気にしなさんな、弟さんにも治ったらたくさん食べてもらえるんだから」

オリーブさんは笑いながら言ってくれた。

エミリア様はにこやかにそれをみながら言い始めた。

「知り合いの薬師をシルバードに呼んできてもらっているわ、

それと事情があるかもしれないけど、ここでは妹さんと呼んでいいわよ」


「知ってたんですか?」


「さっき体を拭いたからね」


「そうですか、ありがとうございます」

それからはゆっくり味わいながら食べた。


食事が終わって間もなく、シルバードが体つきのいい短髪のおじさんを連れてきた。

このおじさんが薬師なのだろうか?

そのわりには筋肉質で、一級の冒険者と言われてもうなずいてしまいそうだ。


「アデルさん、早朝に申し訳ありません」

エミリア様はアデルと呼んだ男にそう言うと深々と頭を下げた。


「いや、気にしなくていい。 これが私の仕事だ。

で、患者はどこだ?」


「こちらです、アデル様」

オリーブさんが案内をする。


アデルさんはこれまでの状況を聞くと脈を計り、背中に背負ってきたリュックから

いくらか粉末を混ぜ薬を調合して、イリアに飲ませた。


「あとは定期的に起こして少量の岩塩を混ぜたぬるま湯をのませば大丈夫だ。

2~3日で起き上がれる」

アデルさんは、素早く器具を片付けながら言った。


「ありがとうございます」

エミリア様にオリーブさん、他の尼さんたちまでお礼を言ってくれていた。


俺もすぐにお礼を言う。

「ありがとうございます」


アデルさんは俺の方を見ると落ち着いた口調で言った。

「キミかこの娘の兄は??」


「はい、助かりました」

頭を下げ顔を上げたところで、拳が飛んできた。

顔にまともに受け、床に倒れた。


「アデルさん!? 何を!?」

エミリア様が慌てて間にはいろうとする。


「キミは自分が何をやったのか判ってるのか!?

一歩間違えば妹を殺していたのかもしれないのだぞ!!

薬は人を生かすこともできるが、殺すこともできるんだ

何の知識もないキミの様な子供がタマ草を煎じて飲ませるなんて!!」


俺はアデルさんの目を見ているだけで、しばらく言葉がでなかった。


「すみません…」


俺は暫く、イリアのベッドの側にぼーっと立っているのがやっとだった。


その間にアデルさんは、尼さんたちに見送られ帰って行った。


後で聞いた話によると、タマ草は摂りすぎると下痢になり脱水症状を起こすそうだ。


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