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第8話

ザーーー……。

また雨だ。でもその日はいつもと違った。


「ゴホッ…ッゴッホ…」


苦しそうな咳の音で目が覚めた。


「?? イリア具合悪いのか?」

見ると顔が赤い。


額に手を置くとかなり熱い。

熱があるようだ。


「お兄ちゃん、寒いよ」


少しだが震えている。

すぐに俺の寝てる時に使っている毛皮を掛ける。


熱はある、咳もでてる。

昨日のが祟っての風邪だとは思うが、かなりの熱だ。


体温計なんてないし、風邪薬なんてものもない。

どうする??

どうする??


とりあえず火を起こし、お湯を沸かした。


「白湯だけど飲んで」


「ありがとう」

体を起こし、ゆっくりと飲ませる。


どうする?


「イリア医者を連れてくる、暫く1人でがんばれるな?」


「うん…」


雨の日用のコートを着込み、すぐにすぐにギルドに向かった。


ギルドの扉を慌てて開き

「サリーナさん!!」


が、カウンターに座っていたのは支店長だった。


「んだあ?? サリーナは、王都本店に研修に行ってて2~3日は戻らねぇぜ?」


「ガキでも依頼があるってなら受付るぜ~?」

ニヤニヤ笑いながら言ってくる。


「医者を探している」


「弟が病気にでもなったかぃ?」

今度はヘラヘラした笑いを浮かべてる。


「まあ、そんな怖い顔すんな。 運が良いことにほら、食堂の端にいるのが医者だ。 おい! ボーリン! お客さんだ」


食堂の1番端のテーブルに突っ伏している男が顔を上げた。


「うぇ?? ズジュ…」

どうやら涎がでてたらしい。


「客ぅ?? こんな夜中にかぁ??」

髪は薄くなり散らかり放題、痩せて小柄な男はさっきまで飲んでいたのであろう顔は真っ赤だ。


「もう朝だ!! いい加減帰れ!」

支店長が怒鳴る。


「おい坊主、金はあるんだろうなぁ??」


「いくらだ?」

へべれけの男を睨む。


「300メセタってとこだなあ?」

アゴヒゲを触りながら言ってきた。


「300!? 高くないか?」


「おいおい、ここは掃除屋の街だぞ? 医者が何人もいると思うなよ」

ボーリンは不機嫌そうに呟いた。


「わかった」

うなずくしかない。


「前金だぞ?」

手を差し出してきた。


「くっ! 取って来る」


「おいおい、本当に持ってるのかぁ??」

支店長が横やりをいれてくるのを無視して、森に向かう。


「急げよー。帰っちまうぞー」

後ろからボーリンの声が飛んできた。


何ヵ所かのタンス貯金を巡って金をかき集めた。


ギルドに戻ってくるとボーリンは迎え酒をやっていた。


「遅かったじゃねえか? もう戻って来ねぇかとおもったぞ?」


俺は黙って金の入った袋を渡す。


ボーリンはテーブルにそれをぶちまけて、数え始めた。


「早くしてくれ!!」

俺はイリアが心配でボーリンを急かした。


「ちょっと待て、ひの、ふの、みの…」

「おぃ!? 293メセタしかないじゃねえか!!」

テーブルを叩く。


「それしかない」


「あぁ!?」

ボーリンがわめく。


「おいガキぃ、人に物を頼むときは頭を下げるもんだろうがよぉ!!」

ボーリンの隣まで来ていた支店長が俺の頭を掴んでテーブルに着くまで無理やりさげさせた。


「くっ!」

ゴンっとテーブルに額が当たる。


込み上げてくる怒りを圧し殺しながら

「すみません、それだけしかないんです。弟が高熱なんです、それでお願いします」

悔しかったが、イリアのためだこんなことなんでもない。


なんでもないんだ。


「っち! しゃーねぇなあ、おめぇん家に連れてけや」

ボーリンは少しふらつきながら席を立った。


支店長が口を挟んできた

「ボーリン、お勘定」


「あぁん? いくらだ? 」


「ツケの分までいれて280メセタな」


「おぃおぃ! なんだ殆ど残らねぇじゃねえか!」


「ちくしょう、ただ働きじゃねぇか!」

ボーリンはボヤく。

そんなことはないがな。


ギルドを出てすぐに家に向かう。


イリアは寝ているみたいだが、苦しそうに息をしていた。


「…お願いします」


「はいはい」


ボーリンは額に手を当て、手首を握って脈をとった。


「う~ん、風邪だな!」

そう言うなり立ち上がり、帰ろうとする。


「?? ちょっとまって、薬とかは??」

慌てて引き留める。


「あ? そんなもの別料金だろうが、金のないやつに処方できるわけねぇだろ」


はあ?

あれだけ見るくらいなら俺にもできる。


「治してから帰れよ!!」

ボーリンの前に出て、帰ろうとする動きを塞ぐ。


「どけよ!!」

怒鳴ると同時に蹴ってきた。


不意をつかれ外に吹っ飛ばされた。


激しさを増した雨の中、痛みで呼吸できない俺は、ボーリンのふらつきながら走って行く後ろ姿を見ることしかできなかった。


口の中にはいった泥をペッペッと吐き出しながら。


「くそ!! 騙された!」


「くそっっ!!!!」

怒りに任せ両手を地面に叩きつけた。


変だ。

前世での記憶で知ってたはずだ。

詐偽の手口や騙しのテクニックは、テレビとかでよく特集してたじゃないか。

なぜ自分が?

理解できなかった。


支店長の紹介だったからか?

支店長もグルなのか?

そんな証拠もない。


なけなしの全財産。


悔しかった。

あんなに簡単に騙された自分に。

無理やり頭を下げさせた支店長にも。


怒りでどうにかなってしまいそうだった。


「うぅううくぅう……」

いつの間にか俺は、声を出して泣いていた。


イリアの咳の音が少し遠くに感じた。


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