第57話 朝食会
今朝、食堂でダントさんと一緒になって、迷宮でのアドバイスを聞いていた。
彼は俺が食べていた、卵とパンとスープのモーニングセットを2人前と肉を追加したもの頼んだ。
「本当に、ここの料理はおいしいからな」
「そうですね、もう長い間、常連なんですよね?」
「ああ、そうだ。 アンナちゃんが生まれる前からの常連だよ」
「そうなんですね」
ダントさんは、髭を触りながら話す。
「そういえば、爆炎の他にも勇者と仕事してたんだよな?」
「はい。 土柱のエドモンドさんと、奏毒のエリカさんですね」
「そうなのかい? その勇者たちは今はどうしているんだ?」
「エドモンドさんは今、勇者の元締めみたいなことやってますからね。忙しく大陸中を飛び回ってますよ。エリカさんはの方は、2年ちょっと一緒にいましたけど。 今は帝都の学園で、薬草学の教鞭をとってると思います」
「なるほどな。 キミは勇者目前ってところか」
ダントさんは2皿目の卵をパンに乗せて、食べ始めた。
「そんなんじゃありませんよ。 エリカさんと北の方の紛争地域に送られて、回復魔法と薬草で病院みたいなことやって、それが評価されてランクが上がっただけですよ」
「まあ、回復魔法使えるヤツは、精霊魔法使える奴より数が少ないからな。 教会の中にも数えるほどしかいないらしいし。 今でも連絡取りあったりしてるんだろう?」
俺は食後に出てきた、紅茶っぽい物を飲み始めた。 デザートがない分、砂糖多めにしてみた。
「はい、2人ともいろいろとお世話になってますよ。 俺よりも、ダントさんのほうこそランクAなんですから、勇者目前なんじゃないですか?」
「ははは! 俺が巷でなんて言われてるのか知ってるかい?」
「い・・・いえ」
「『遅咲きの重剣』だ。 これから勇者として活躍するには、少し歳を取り過ぎてる。 それに右目も・・・な?」
ダントさんは眼帯をした右目を指さした。
「目は分かりますけど、まだ30代ですよね?」
「ははは! まあアレだ。 私は昔から若く見られるんだ。 実際は45歳だ」
「え!? 本当ですか!?」
とてもそうは見えない。
「私は固定のパーティは、組んでないんだ。 機会があればよろしくな」
「はい。 よろしくお願いします」
朝食の後、明日から迷宮にアタックするための準備に費やしていた。
今度の迷宮『サフィリアの迷宮』名前そのままなんだけど、サフィリアの海側じゃなく小高い丘にある。
ギルドによると、ここの迷宮の歴史は古く、随分前から帝国の重要な資金源となっている。
中は鉱山の様な作りで、2頭駆けの馬車が通れるくらいの広さがあり、パーティでのアタックも向いているみたいだ。
住んでいるモンスターは、多種多様。 歴史が古い分かなりの種類がいるらしく、ガイドブックなんかが売ってあるくらいだ。 値段みたらビビったけど。
ちょっと一人で入ってみようと思って、準備をすることにした。
ダントさんが言うには3層目での、ぬかるんだエリアにだけ注意をすれば、後は地形的には問題にするような迷宮じゃないとのこと。 防水タイプのブーツと、武器の整備、明かり関係の魔石具、あともちろん携帯食料。 ソロでの下見程度だから、5日分くらいを用意した。
「さーて、一通り準備も終わったことだし、明日にそなえ今日はお肉食べちゃおうかな」
(アズマってほんと魚好きだよね。 この街に来て初めてメインで肉食べるんじゃない?)
まー、島国のDNAってやつ?
(へー・・・。ってDNAってのが何よくわかりかねるけど。 大好きなのは、伝わって来たわ)
生まれ変わる前は、そこまでじゃなかったんですけどね。 この大陸の食事って大体は塩漬け肉とか、乾燥させた肉とかですからね。
ティアさんと、頭ん中で雑談していると宿に入ったとたん、アンナに手を捕まれて中庭まで連れてこられてしまった。
「ちょ!! ちょっと!? どうしたんですか?」
「あなた! ダントさん知ってるわよね?」
「はあ・・・。 今朝、話ましたけど」
「あなたね、ダントさんはランクAなの! この街でも一番の腕だって言われてるほどの人なのよ!」
「はあ・・・」
「し・か・も! ウチの超常連さんなの!! あの人が使ってる宿だからって、来てくれるお客さんもいるのよ!!」
「はあ・・・」
「だからあなたみたいな、冒険者なったばっかりの人が、気安く話しかけていい人じゃないの! わかった?」
「はあ・・・。 わかりました」
「まあ、あんたみたいな初心者が、死なないくらいのアドバイスをしてもらえるように、口利きしてあげるくらいならいいけど・・・」
「えっと・・・。 いえ、まあなんとかなると思いますから・・・。 ありがとうございます」
「いい? 初心者は初心者らしく薬草採りとかあるでしょ? そういうのを受けるの」
「はあ・・・。 どうも・・・」
なんかちょっと話だけで、すごい説教された・・・。
(フフフ、気になるお年頃なのよ)
そういうものですかね・・・。
☆ ☆ ☆
サフィリアの街は大きく人も多い、砂浜のある海岸、迷宮のある丘、街道沿いには宿、丘の向こうには田畑が広がっている。 人も物も金も良く動く分、心無い者たちも多く住む。
ここは、その心無い者たちの住む場所の一角にある、アジト。
周りのみすぼらしい建物に比べて、大きく新しい建物の中、先日『潮風』に来ていた借金取りの2人がいた。
「お前はバカか?! だからいつまで経っても三下止まりなんだよ!」
その男は、ゴテゴテ装飾がされた机と椅子に座り、足を机の上に投げ出し、葉巻を吹かしながら2人を怒鳴りつけていた。
「ど・・・どういうことですかい? おれたちゃ、きちんと借金を取り返してきたじゃないですか?」
「そうですよ!! アニキは5万2千メセタも取ってきたんですぜ?」
男は足を下ろし、机を拳で強くたたいた。
バン!!
男の身体は風船のように膨らんでおり、顔の肉も拳を叩きつけた反動でブルンブルンしている。
「あの宿はなあ、儂のシマでもトップクラスの収益を上げてた宿だ。 月に4千近くだ」
「はあ・・・」
「まだわからねえか? 5万を返してもらっちまったら、来月も、再来月の、来年、再来年まで4千づつ入って来てたんだ。 それをおめえらがパーにしちまったってことなんだよ!」
「そ・・・そんな・・・」
「アニキは・・・、アニキは一生懸命やってますよ」
「おいおい。一生懸命やってても、結果がついてこなきゃオマンマ食えねーんだよ。 この責任どう取るつもりだ? ああ? ロデオ」
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