第55話 宿決定
まったく止む気のない雨にうたれながら、舗装のされていない街道をひたすら西に歩く。
この街道でさえも、昔の帝国にしたらましなほうらしい。
ちょっと前までは、戦争に次ぐ戦争だったらしく、国内のましてや前線に近い場所の道の舗装など、まったく管理されてなかったみたいだ。
そこを一定の速度で走り抜けていく。
リナルドの国葬から3年、修行の一環として取り入れているのがこれだ。
この3年間、2人の勇者に修行をつけてもらった。
一人は『土柱の勇者』エドモンド=トッチ、もう一人は『奏毒の勇者』エリカ=ラッリだ。
1年はエドモンドさんの元で、国は種族間のいざこざ、この世界の社会的なものを実際にその場所に行って教えてもらった。
もう2年はエリカさんに薬草学を教えてもらいながら、各地を転々として回復魔法で人々を治して回るといった旅をしていた。
どちらの師も、一癖も二癖もある変人だったが、一人で生活できるくらいにはなれた。
特にエリカさんはオカマだし・・・。 あの人は本当にやばい。
何度俺の貞操を奪おうと、ベッドに潜り込んできたかわからない。
今俺はガウリアス帝国の西の方、サーラント公国との国境近くの浜辺の街サフィリアを目指している。
この街は帝国の都、帝都マキシニアに一番近い迷宮のある街だ。
なぜ俺がここいるのかって理由は2つある。
一つは、エドモンドさんから一流になるには、パーティでの仕事をきちんとこなせるようになること。
もう一つは、イリアが今帝都にいるからなるだけ近くにいたかったということ。
前者のは、知っての通り俺は勇者としかパーティを組んで仕事をしたことがない。
だから一般の人のなかでも、きちんと仕事をしてこいってことだと思う。
後者のは、イリアは聖アテナ教会の総本部にある学校に通ってるらしい。
実際帝都まで行って、何とか潜り込めないかと思っていろいろ画策してみたが、関係者以外立ち入り禁止だった。
総本部は城みたいな建物で、帝都にある城と並んで建っている。
その様はまあ壮観の一言につきる。
夜もライトアップされてるしな。
さて学校のことだが、帝国と教会の両方からの出資で運営されているらしい。
帝国の姫リタが巫女ってこともあると思うが、その巫女の付き人なんかの育成も、この学校がかねているらしい。
あの時死んだら次の人が補てんされるって言ってた、ロリエって付き人の言葉を思い出した。
さて、ここで疑問が出てくるだろう。
どうして教会の総本部は帝国にあるのに、教皇はサーラント公国にいるのか。
その答えは戦争だ。
この戦争が終結するにあたって、教会の力が帝国に集中してしまうのを懸念して、サーラント公国が教皇だけでも『出向』という形でもぎとったらしい。
しかしそれも年月が経つにつれ、実は帝国は教皇という目の上のたんこぶを排除したかったからサーラント公国に追いやったという形が正しいのかもしれないという噂だ。
最近エドモンドさんに聞いた話だけど。
「ふうー・・・。 やっと着いた」
迷宮に近い街だけあって、外壁もデカい。
大き目の馬車が対面で通行できるくらいの門が据えてある。
なんか想像してたのより、全然大きいな。
(当然でしょう、迷宮があるんだからこの街の収入や人の出入りは、他の街と比べたら比較にならないわよ)
ティアさんも元気(?)だ。
まずは宿屋かな・・・。
門番の人に聞いてみたところによると、安くて料理がうまいのは「潮風」ってところらしい。
他にもいくつかおすすめを聞いたけど、受付の人がかわいいとか、広さや綺麗さはどれも料理がうまいって評価に勝てなかった。
教えてもらった場所の建物を見ると、確かにちょっと古いし小さいけどま海辺の街だし、上手い海鮮料理食べれられるなら、そんなの関係ないよね。
扉に入るなり、カウンターのとこでなにかもめてる。
「ルイジさんよう・・・。 この嬢ちゃんいい具合に熟れてきてるじゃねーか?」
「な!? 娘をその汚い目でみるな!」
「おいおい! ムッチ! 俺の目が汚いだとよ?」
「おい! アニキをバカにするのか?」
「ルイジさんよう? なんなら貸し付けた5万メセタ、今すぐここで払ってもらおうかねえ?」
「2・・・2千じゃなんかったのか・・・」
わちゃー・・・。最悪のタイミングってやつ?
どうしようっか・・・。
(どうしようってアズマあなたまさか・・・)
払っちゃおう。
(ちょっと5万2千って場所と大きさ選べば家が買えちゃうわよ?)
まあ、俺リナルドの遺産あるし。
(ちょっと!! 何も知らない人のためにそんな大金・・・)
大丈夫だよ、貸すだけだし。
(あ~あ・・・。)
「その・・・、すまない。 ありがとう」
この熊のようにデカい男がこの宿の主人、ルイジさんだ。
ここは宿の食堂、4人掛けテーブル席が3、6人掛けが1つ、カウンターに6個椅子がある。
少し古い感じはするが、どの調度品もきちんと手入れされてて、清潔感がある。
その4人掛けのテーブルに3人で座って話をしている。
「いえいえ、これからこの宿を拠点に活動しようと思ってたんで、宿代を先払いしたと思ってますよ」
バン!!
ルイジさんの隣にいる、ショートカットの金髪の女の子が机を叩いた音だ。
「ちょっとあんた!! 金銭感覚おかしいんじゃないの?!」
なんでだろう・・・。 すごい怒ってる。
「いい? この『潮風』一泊の宿代は60メセタなの!
宿代の先払いっていったら何日泊まれると思うの? 2年以上よ?!」
「はあ・・・」
「おいおい・・・。アンナ!!」
「父さんは黙ってて!!」
やばい、すごい怒られてる。
(この子の言う通りよ!)
え? ティアさんもそっち側なんです?
「あなたどこの貴族の子供よ!! ちゃんと計算とか習ったの?」
「はあ・・・まあ、一通りは勉強しましたけど」
「本当かしら。 いい?5万2千もあれば小さな家が買えちゃうのよ?
こんな手狭な古ぼけた宿なんて泊まる必要ないじゃない!」
「おい! アンナ!」
ルイジさんは、慌てて抗議している。
「いやでも・・・。 ここの料理おいしいって聞いたし」
「はあ? それだけ? まだ食べてもいないのに? そりゃ、父さんの作る料理はこの街でも評判よ! だからってあんな大金前払いしちゃうバカ初めて見たわよ」
「アンナ!! す・・・すまないがちょっとランチの下準備をしていてくれないか?」
ルイジさんが耐えかねて、少し大きな声だした。
「・・・。 はあい」
アンナは壁かけの時計を見て、しぶしぶ厨房に向かった。
「アズマくんといったね?」
「はい」
「本当にすまない。 もちろんすぐにというわけにはいかないが、必ず返す」
「そうですね。 さっきも言った通り前払いって形でいいですよ。 返す額も俺が泊まった分を引いてもらってかまいません。」
「ホントにそれでいいのか? 利子は??」
顔を近づけ、俺の目を見ている。
「利子? う~んそうですね、 じゃあ上手い料理で、お願いします」
「そうか・・・。 ありがとう」
ルイジさんは少し泣いているみたいだった。
その日は水浴びして、ルイジさんの作った夕食を堪能した。
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