第50話 帰還の途
ついに50話です。
長くなりましたが次あたりで、ひと段落です。
一夜が明けた。
ギルドの横の救護室は、もう誰もいない。
昨日のうちに、俺が回復魔法をかけて回ったからだ。
でも俺は、その救護室のベットの上に腰かけたまま朝日を浴びた。
昨日の後処理を行った彼女、いや正確には彼らしいのだが、名前を『奏毒の勇者』エリカ=ラッリって人らしい。
彼女(彼)のおかげで、その後の混乱もあまりなく、今はもうほぼ平常運転のギルドだ。
ただ、職員さんたちは寝不足みたいだけど。
ラヴィは俺の隣に座っていたが、今は横になっている。
窓から差し込む光の位置はゆっくりと移動し、さわやかな海風とともにカーテンが揺れている。
「あら~、食事摂ってないらしいじゃない? ダメよ! これから大変な大仕事があなたを待っているのに」
エリカさんは昨夜、食事を摂るように俺たちに進めてくれていたのだ。
だが俺たちは食べる気分じゃなかった。
「大仕事ですか?」
「そうよ」
俺は首を傾げた。
何の依頼も受けていないはずだ、なによりそんな気分じゃない。
「勇者が亡くなった場合、本拠地としていた国による国葬が行われるの」
「え?」
「だから、あなたはリナルドの遺体をサーラント公国まで届けなきゃいけないの。 もちろんギルドが代行してもいいんだけどね! でも弟子や仲間がいるなら普通はその人たちがやるわね」
「やります。 俺、やりますよ」
それにリナルドの遺言を読まないと。
「ええ。それじゃあまずリナルドの遺体を棺桶に入れて、飾りつけしないとね」
「そうなんですか?」
「そうよ! 聖アテナ様の元に送るための準備の一つよ。 王都で盛大なパレードが行われるわ。 亡くなっても勇者は勇者なの」
もちろん気が進まないと思わなかったわけじゃない。
だけどリナルドを見送ることが、俺にできる最後の恩返しになる。 そう思って詳しいやり方を聞き、きちんとした形で送り出してあげようと思う。
(ええ、そうね。 きっと彼も喜んでくれると思うわ)
俺は棺桶の準備、遺体に着せる服、サーラント公国までの運搬の手配など、忙しく準備をしていた。
その忙しさの中、この頭の中の声について考えないようにしていた。
3日で準備を終わらせ、リムーを出立するときサロさんやエリカさん、ドリーさんなどに見送られサーラント公国を目指した。
勇者でリナルドと面識のある人は、国葬に参加するとのことだ。
リムーからサーラント公国王都メレセディアまで、馬車でゆっくり行って1か月弱はかかる。
なので棺桶には魔石具で遺体が腐敗しないように、特別な馬車を使ってる。
ラヴィは、途中ニムアイ島に行き母親の親族を探すのかと思ったが、リナルドの葬儀に出たいと言ったのでサーラントまで一緒だ。
ゆっくりと流れる馬の足音と馬車の車の音、ひさしぶりに落ち着き考える時間ができる。
あの時、他にできることはなかったのだろうか?
冷静に考えてみれば、これが一番被害が少なかったのかもしれない。
でも、でも、でも。
俺が前世のことを話してれば、もっと違う結果がでたかもしれない。
とりとめのない、もしとでもの話が頭の中で繰り返されていた。
俺はなぜこの世界に転生したのだろうか?
サーラント公国をリナルドと出て、修行の厳しさにそのことを考える時間がなかった。
もちろん、イリアを守りたいと思う気持ちは変わってない。
むしろ強くなってるくらいだ。 自分の弱さを知り、やれないことがたくさんあることに気が付いた。
日本での記憶なんて、冒険者をやってく上ではあまり役に立たない。 イリアの記憶を戻す術なんて今はないんだ。 でもやっと帰られる。 イリアに会える、それだけがわずかな希望だ。
会えば思い出すかもしれない。
また「おにいちゃん」と呼んでくれるかもしれない。
本当に本当にわずかな希望が、リナルドを失って空っぽになった俺の身体を前に進ます原動力だった。
その日は街道沿いにある野営地での野宿となった。
食べなれた堅いケータリング食を食べながら、ラヴィは俺を見つめている。
俺の前にある焚火の火が、彼女の瞳の中にも見える。
「アズマ・・・」
彼女の耳はここ何日か、ペタンと寝たままだ。
「なに? どうしました?」
「私、強くなる」
「え?」
「お葬式が終わったあと、ニムアイ島に行って母の親族探して、技もっと覚えて、絶対絶対強くなる」
パチンっと焚火の火が爆ぜる。
「えっと・・・。 うん、そうだね」
「私、敵討ちたい」
「うん」
「アズマ・・・。妹助けたい?」
「うん」
「それも手伝う!」
「うん・・・、ありがとう」
「だから・・・、だから『爆炎と白花火』解散しないで。 戻ってくるから」
「うん・・・。 俺も解散させるつもりはなかったよ。 でもリーダーであるリナルドがいなくなって、パーティって大丈夫なのかな?って思ったけど」
焚火に枯れ枝を足す。
「だから、ダメだったらまた作ろう」
「うん」
そう頷くと、彼女の耳はゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ明日からまた、修行しよう!」
ラヴィの瞳は決意に燃えていた。
(リナルドはいい弟子を持ったわね)
あ・・・。 忘れてましたけど・・・。
あの・・・。 そろそろあなたのこと聞いてもいいですかね?
お読みいただき、ありがとうございます。




