第49話 出会いと別れ
俺は自身に回復魔法をかけ、傷を癒した。
アイダはティアとのことを聞きたがっていたので、少し話をしていた。
家の中に食料があったのでそれで腹を満たし、アイダはお茶を出してくれた。
家の外は島民に包囲されるかもしれないこんな状況で、なぜか不思議なほど落ち着いていられた。
「この島から脱出しないといけませんね」
「ああ。 船は抑えられているだろうし、長くはここにも籠ってられないだろうな」
「それならば、私を人質にしてください。 そうすれば船も用意できるでしょうし」
「そうか。 それでいかせてもらう。 話は変わるが、サリーナの足は俺の回復魔法では戻らないのか?」
「ええ。 申し訳ございません。 私が傷を癒してしまったので、欠損した部位を元に戻すことはもう・・・」
「そうか・・・。 回復魔法をかける前だったらよかったのか・・・」
「そうなります・・・」
(回復魔法も万能じゃないのよ。 直前の状態にまで戻すだけだから)
「大丈夫だよ! 片足でもなんとかなるよ!」
サリーナは笑顔でそう言っているが、俺にはから元気だとすぐにわかった。
「・・・そうだな」
俺たちは手はず通りにアイダを人質にとり、船と食料を用意させ島を出た。
「アイダ・・・。 すまない。 こんな出会いと別れになってしまって」
「いいえ! いいえ! 私たちエルフは魂を預ける伴侶を得ることは、とても尊いものだと教えられてきました。 リナルドさん、どうか悔いのない人生を彼女の分まで歩んでください」
(おばさん・・・)
「ありがとう」
小さいボートにアイダを乗せて下船させ、島民が迎えに来ているのを見送った。
カブリ島を管轄しているメロトニス首都リムーのギルド、地方統括本部にて今回のことをすべて報告した。
ギルドからの依頼は終わっていたが、カブリ島からの連絡は途絶えているとのことで、処分保留となっていたが、調査隊を派遣ししっかり現地調査をしたところ、島民側に全面的に非があるとのことで、俺たちはお咎めなしだった。
非公式ではあったがギルド側からも謝罪と賠償、そして1か月間の期間限定だが捜索隊をだし、ペクドスとダンを探した。
「げえー!! あー、気持ち悪ぃ・・・。 あのタコに襲われるまで船なんてどうでもなかったんだが」
「リナルド? 大丈夫?」
サリーナが心配そうに背中をさすってくれている。
(心が怖がってるのよ)
そういうもんかね・・・。
しかし、虚しくも彼らの発見にはならず、遺留品すらみつからなかった。
俺は唯一の手掛かりギオルギーと魚類使いを探し、敵を討ちたいとサリーナに言った。
最初は彼女も一緒に敵を討ちたいと言ってたが、義足をはめてからの彼女の動きは、それまでのものとは違い彼女の能力を大きく削ぐものとなっていた。
それはだれより『冒険者』としてやってきた彼女自身が、このままでは足手まといだと感じたのだろう。
別れの時
「いいなー、ティアさんは・・・。 いつもリナルドと一緒にいられて・・・」
そう呟いていた。
(そうじゃないの・・・。 心の中にはいられるけど、そうじゃないの。 リナルド、サリーナも幸せにしてあげられないかな?)
どうやって?
(だって私、サリーナの気持ちもわかるもの)
心の中にティアがいて、それでサリーナがいいって言うのか?
(聞いてみないとわかんないじゃん)
そりゃ、そうだがよ・・・。 ちょっと時間くれよ。
(リナルドならできる! 私の惚れた男だもん! 嫁の一人や二人幸せにしてみせてよ!)
それ・・・お前が言うか? まったく・・・。
とにかく俺はアバシを追う!
(うん・・・。 そうね、慌てたっていいことないもんね)
☆ ☆ ☆
それから10年まさかあのタコの元にいくのに、こんなに時間がかかるとは思っていなかった。
ギオルギーを手掛かりに探していたが、全くといっていいほど足がつかめなかった。
それまでの間に俺は勇者となってしまったが、即席ではあってもあいつらの他にパーティを組む気にはなれず、もっぱら一人で行動することが多い。
サリーナはサーラント公国王都メレセディアの、掃除屋の街でギルド職員をやっている。
なんでも、俺の帰ってくる『場所』を作っておくんだと。 あいつなりに考えてくれているみてーだ。
これまでの調査でギオルギーとは、反勇者組織または反勇者組織が抱える実行部隊だということ。
そして、どうやら『理の外』って者が絡んでいるかもしれないということくらいだ。
『理の外』とは、この世界の常識では測れない者たちのことらしく、どーもつかみどことがない。
おれは『自称』そう言って箔をつけてる集団だと勝手に思っているが、歴史の中には『転生者』なる者もいるらしいが、どうつながってるのか全く答えは出ていない。
なぜアバシが見つからなかったか?
それは今から本人に聞いてみようと思う。
ここは帝国、サーラン公国との国境のそばにあるサフィリアという砂浜の街。
街の主な特産は、地引網で水揚げされる新鮮な魚と広い砂浜を使って塩を作っている。
アーガンディル大陸の場所でいえば、メロトニス諸国連邦のある側と反対側になる。
「だーーーははは! ひっさしぶりじゃないか! 会いたかったぜえ!! 俺様の出世を邪魔して崩壊させてくれた『爆炎の勇者』様よお?」
「ガハハ!! 会いたかった・・・だって? バァ~カ! 俺のほうが何倍もおめーに会いたかったさ。
もちろん後ろのヤポコさんにもな! 探したぜ~? この10年どこに隠れてやがった?」
「だーーーははは! 言うようになったじゃねーか! あの作戦を失敗した俺は、別大陸に飛ばされてたんだよ! もう帰れないと思ってたんだがよ」
「なーんで帰ってきたんだ?」
「はん! 帝国の巫女さんが最近仕事熱心らしくてな。 猫の手も借りたいほどの人手不足らしくてな、呼び戻されたってわけだ。 もっともこっちはタコの足だがな! だーーーははは!」
(リナルド? もうおしゃべりはいいよね? やっちゃいましょ)
「ああ!」
俺は大きく砂浜を蹴り上げ、2匹目指して間合いを詰めた。
「痛ててて! アデルよお?ちょっとは、優しくしてくれよ!」
「お前はバカか!? ティアさんの回復魔法がなかったらとっくに死んでるぞ?」
「カズミさん! なんとか言ってやってくださいよ!」
「解毒の薬草の調合や、施術がアデルの領分ですので」
にっこり笑い、お茶を出してくれる黒髪の女性、アデルの嫁さんだ。
「まったく、10年来の敵討ちっていったて、やりようがあるだろうが」
「イヤー、まさかあのタコ野郎吸盤の中に棘があって、それに毒があるなんて思いもしなかったぜ」
「タコの中には猛毒を持っているやつもいるからな、しかしその毒を受けながら帝国からわざわざここまで、来なくてもよかったんじゃないか?」
「まあな、でも休むなら自分の『家』でと思ってな」
「何言ってんだ? サリーナには会ったのか?」
「イヤー、それがなかなか」
「何照れてるんだ?」
(そうそう、さっさと会って一緒に暮らせばいいじゃん)
暮らせばいいじゃんとか、簡単に言ってくれるな・・・。
(だってそうじゃん)
「最近サリーナはどうしてるんだ?」
「エミリア様とシルバード様の話じゃ、一緒に住んでる小さい兄妹がいるみたいだぞ」
「なんでそこでエミリアが出てくるんだ?」
「さーてな」
アデルは首をかしげながら、俺に煎じ薬を手渡す。
「苦い!」
「明日ここに来ることになってるから、興味があるなら会ってみるんだな」
「何しにこんな、薬しかないようなところに?」
この家の奥は薄暗く、薬品や薬草の保管に適するよう湿気の来ない作りになっている。
子供が来て面白いもんなんてない。
「なんでもエミリア様でも食べたことないほど、うまいお菓子を作れるんだと」
「はあ? あの甘味の聖女って言われてるエミリアが?」
「ふふふ、お菓子に入れる調味料を探しに来るみたいですよ」
口の前手を当て、上品に笑うカズミさん。
(あら? とってもとっても興味ありますね!)
次の日
「なーんか、旨そうな匂いがするな。 これかぁ?」
そう言うとアデルがもっていたものを手に取り、そのまま口に流し込んだ。
(キャー!! なにこれ、なにこれ!! 信じられない!! ちょーおいしいじゃん!!)
ちょっとうるせえよ。
「なるほどなぁ」
俺は煩く叫ぶティアの声を、顔に出さないように必死だった。
「おい!! お前出てきてだいじょうぶか?」
アデルが俺を心配して聞いてくる。
「お前がエミリアとシルバードが言ってた、子供か?
俺の名前はリナルド・レンツィだ、よろしくな!」
「よろしくお願いします」
俺の様子を伺うように、俺の全身を見渡している。
「お兄ちゃん、リナルドさんってアンドレが言ってた勇者って人?」
後ろの少女がそう言ったのを聞いて、彼女を見た。
(ちょっと・・・彼女・・・うん)
そうだな、これは精霊が騒ぐ?
(そうだね、このお菓子の味といい。 ちょっと聞いてみてもいいんじゃないかな?)
そうだな。
少年と会ってわずかの間に、サリーナが死んだ。
ダミアーノ=カサンドロスの用心棒アントニオに殺された。
正直言えば、勇者特権を行使してあいつらもろとも切って捨てようかとも考えたが、ティアに止められた。
サリーナの遺書は2枚あり、片方は少年たちへもう片方は俺宛てだった。
その手紙の中には、帰ってきた俺と長屋で4人仲良く暮らせたらと書いてあった。
少年たちのことを頼むとも・・・。
なんの縁もない少年たちのことを、遺書に書いてしまうあたりペクドスとダンに拾われた、彼女なりの恩返しなのかもしれない。
エミリアにも頼まれたし、これから先勇者の力が必要になってくる。
アズマって奴がどこまでやれるかわからないが、俺自身のためにも仲間は多い方がいい。
少々強引になるが、ギオルギーに勝ためにアズマに勇者になってもらう。
☆ ☆ ☆
バチン!!
火の爆ぜる音、耳元で聞こえる。
肉の焼ける臭い、土の焼ける臭い、蟻の焼ける臭い、潮の臭い。
それらの臭いと闇に浮かぶ俺の放った炎魔法の残骸、それらがゆらゆらと波のように景色を揺らしている。
あわよくば、アジラティを勇者側に引き入れようと様子を見ていたのがいけなかったか。
あいつは俺よりも強かったか・・・。
やべえな・・・。
(そうね・・・。 まさかここにきて回復魔法を使う分の魔力が足りないなんて・・・。)
余裕を残しておけるような状況じゃなかったからな、燃やし尽くせなかったらサロたちも危険だろうし。
あいつら、間に合うと思うか?
(バカね! 弟子を信じない師匠がいるもんですか!!)
そうか? そうだな・・・。
まったく、ティアには最後まで世話かけっ放しだったな。
(そんなことないよ・・・。 リナルドと一緒に生きられた時間、本当に最高だった)
あいつのこと頼んでいいか?
(私でどこまでできるかわからないけど、まかせて!)
アイツには、ティアの回復魔法が必要だと思うからよ。
おお! 来やがった! なんとか間に合ったな! たっく師匠に心配かけさせんなよ。
(あの子たち、ほとんど無傷ね)
ああ・・・。
ティア! もう無理だわ。
(ええ・・・。 全部伝えられたみたいね。 よく頑張ったわね)
ああ・・・。 先に・・・。 みんなのとこ行くよ
(うん。 みんなによろしくね! あ! サリーナには抜け駆け禁止って言っておいて)
ああ・・・ティア・・愛している。
(ええ・・・私もリナルド・・・私の勇者様)
長かったですが、これでリナルド編終わりました。
お疲れさまでした、リナルド。
お読みいただき、ありがとうございます。




