第48話 精霊の魂
海面に出た俺は、サリーナがなんとか呼吸しているのを確認したあと、船を探した。
「おかしい、そんなに離れてなかったはずだ」
島は見えている。 だが船は見当たらない。
流れてきた樽につかまり、辺りを探すもやはり船がない・・・。
「まさかあのタコ、船を壊して逃げたのか?」
しかし・・・、どうする? このままサリーナを抱えた状態では、ペクドスとダンは探せない。
俺は意を決して、島に向かってサリーナと泳ぎだした。
途中、装備していた鎧を捨て剣を樽に突き刺し、自分の服を破いてサリーナを止血した。
「海の中じゃ、焼け石に水だろうが・・・とにかく早く岸に上がらないと」
「はあはあはあ・・・」
一人抱えて泳ぐのは体力を使う。
岸に着いた俺は、サリーナの傷を治してもらうためティアを探すことにした。
ペクドスとダンも気になるが、今はサリーナだ。
こんな時ほど焦りは禁物だ。
サリーナを抱えて、島長の家に向かった。
途中で島民たちが噂しているが、そんなの気にしてられない。
「おい!」
ドガ!
島長の家の扉をノックもせず、強引に開け
「ティアはどこだ?」
「ひ!? あんた? 生きてただか?」
「今はいいから、ティアはどこだ?」
「あ・・・えっと・・・そうだな。村にはいないだよ?」
「だから・・・どこだと言っている」
「『婚礼の儀』を行うために、祠さいってるだよ・・・」
「なんだと? どういうことだ?」
まて・・・、落ち着け!
まずは、サリーナの回復が優先だ。
彼女はすでに、血を失いすぎている。 身体も少し冷たい。
「リナルド? ティアはいないの?」
目の覚めたサリーナは、ティアのことを心配している。
「ああ、ここにはいないみたいだ。 大丈夫か?」
「うん、大丈夫。 ちょっと寒いかな」
その顔は、これまでに見た彼女の顔で一番大丈夫そうじゃなかった。
「ティアのところに行ってあげて」
「ああ・・・。 でも今はお前のことだ」
アイダって人も島長の家の集落のはずだ。
「おい! アイダってのはどこに住んでいる?」
「ああ・・・。 隣の家になるだよ。 だども、彼女は安静にしとかないかんのだがの・・・」
俺は島長の話を最後まで聞かずに、隣の家に向かった。
その家は、島長の家とほぼ同じくらいの大きさで門のところに門番が立っている。
「おい! おまえ、アイダ様になんの用だ?」
門番が俺に聞いてくる。
無視して、家に入ろうとすると前に立ちはだかった。
「勝手に面会はできん! 許可を取れ!」
俺はこの状況に、こいつらのしたことに、いい加減我慢の限界だった。
バズン!!
門番のあごに一発入れて、家の扉を開けた。
「すまない、彼女に回復魔法をかけてほしい」
齢40ほどにみえるだろうか? これで500歳なのか? 彼女の顔に生気はなく、身体も痩せていた。
だがその美しさは、ティアに似ているものがあった。
彼女はベットに座って、給仕から食事を食べさせてもらっていた。
「なんですか?! アイダ様は食事中ですよ!! 勝手に入ってはいけません!!」
給仕係の女が俺に注意する。
「頼む」
俺は給仕を無視し、アイダに直接頼む。
「いいでしょう。 その子はだいぶん血を流していますね? 早く横にしてあげてください」
彼女はゆっくりとベットから立つと、そのベットに横にするように合図した。
「アイダ様!?」
給仕はガシャ!っと食器を乱雑にテーブルに置くと、家から出て行った。
「私の回復魔法はもう、弱くなっております。 あなたのお仲間さんほど効果はありませんよ」
アイダはゆっくりとサリーナの全身をなでたあと、
「精霊よ、アイダの名において命ずる、彼女の傷を癒したまへ」
本当にゆっくりと、サリーナの顔色が良くなっている。
俺は少し落ち着いて、地面に座り込んでしまった。
「足は元に戻るのか?」
「いいえ・・・。 私にはもう無理でございます。 なぜ彼女に・・・ティア殿に頼まないのですか? もしや彼女の身になにかあったのでしょうか?」
サリーナを癒しながら、彼女は聞いてくる。
「『婚礼の儀』ってのをやってるらしい」
俺の言葉を聞いた瞬間、アイダの表情が変わり
「まさか!? まだそのようなことを!! デルソンにきつく言って聞かせたというのに・・・」
「ハメられたよ。 まさか宴の食事に痺れ薬を入れられるとはよ・・・」
俺のその一言で、すべてを察したのか彼女は
「すぐにティアを助けに行ってあげてください!! 急いで!! 儀式の場所は山の中腹にある洞窟の中で行われています。 ああ・・・。 早く!! この子は私が見ますので!! どうして・・・。どうして気付かなかったのかしら、ちょっと考えればわかりそうなものだったのに・・・」
アイダは慌てた様子で、俺にそう言ってきた。
「ああ! 頼む!!」
そう言い彼女の家を出た。
外にはさっきの給仕が呼んできた島民が10人ほど集まってきていたが、俺は有無を言わさず全員張り倒して山に向かった。
洞窟の入り口は小さく、小さな扉が付いているだけだった。
その周りには島の若い男が3人見張りをしている。
男たちはどことなくそわそわした様子で、扉の前をうろうろしていた。
俺は『婚礼の儀』という名前と、中で行われているであろう行為を考えるだけで、いてもたってもいられなかった。
が、俺が3人に向かう前に騒ぎは起きた。
「おい!! 大変だ! 来てくれ!!」
扉の中から叫び声が聞える。
扉の前にいた者たちが全員中にはいる。
やばい・・・。 イヤな予感しかしない。
すぐに入り口に駆け出した。
洞窟の中は薄暗く、蝋燭の明かりが所々にあるだけで辛うじて足元が見えるくらいだ。
入り口が小さかったが、中は案外広い。
部屋は2つしかなく、奥の方にひとが集まってるらしい。
足早に奥に向かう、
「・・・・・・・ナイフを持ってるなんて!」
「持ち物を確かめなかったのか?」
一人の男が俺に気付いたが、無視して横たわっている彼女の元に歩く。
「あおい! あ・・・あんたは」
「どけっ!!」
足元に横たわる彼女の首には、大きく深い傷が刻まれてる。
「ティア! おい! 助けにきたぞ? 目を覚ましてくれ」
洞窟の奥の部屋には絨毯が敷かれ、その絨毯に赤いシミがだんだんと大きくなっていく。
彼女の服は乱れており、ナイフは手のすぐそばに落ちていた。
男たちは慌てた様子で、口々に
「自分でやったんだ!」
「まさかナイフを持っていたなんて」
「俺はやってない!」
など言っている。
「まだだ!」
俺はすぐに彼女の首に布をあて、身体を抱え走った。
なにも考えられず、ただアイダならまだ治せると、それだけを信じて彼女の家まで全力で駆けた。
「ティア」
どうしてだ?
「ティア」
なぜなんだ?
「ティア」
たったの1日ほどで、なぜこうなった?
「ティア」
廻りの景色が飛ぶように流れていく。
普段なら飛び降りたりしないような高さの崖を降りていく。
ティア! ティア! ティア! ティア! ティア!
途中体中が緑の光に包まれたような気がしたが、そんなこと気にもせずただ駆けていく。
アイダの家の前には、島民たちが集まってきていた。
「どけ!」
その一言だけで、そこに道を作り家に入る。
「はあ・・・はあ・・・彼女を・・・頼む」
「あ・・・あなた!?」
「リナルド!?」
俺を見た、アイダとサリーナは驚いていた。
意識が飛ぼうとするのを、ぎりぎり抑えてティアをベットに横たえる。
「ああ・・・そんな! ティア!!」
アイダは彼女をみて狼狽している。
「ティア・・・」
サリーナは彼女の傷を見て、目を逸らした。
「回復魔法を・・・早く」
「あああ・・・。でも・・・」
「早く!!!」
「ああ・・・。もう私には・・・。とても・・・」
「頼むよ。 どうか頼むよ。 必ず助けるって言っちまったんだよ! こんな・・」
「私には・・・もう無理です。 もう亡くなってますから・・・」
1分くらいだったろうか1時間くらいだったろうか、長くも短い沈黙の間、俺にはただ拳を強く握ることしかできなかった。
「サリーナは、大丈夫か?」
「うん、なんとか大丈夫みたい」
そう言う彼女に笑顔はない。
「そうか。 サリーナすまない。 俺たち賞金首になると思うが、それでもいいか?」
「リナルド・・・。 うん、いいよ。 私付いていくから!」
彼女は俺の言いたいことを察して、そう返事を返してくれた。
「体の動く限り、全部殺す!」
アイダは俺に何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んだようだった。
アイダの家を出ると、そこには武器を持った島民が50人ほど集まっていた。
その中に島長を見つけ俺は叫んだ、これまでの人生の中でもっともでかい声で、もっとも怒りを込め。
「おれがおまえたちになにをした? ギルドのいらいでめいきゅうをつぶしただけじゃないか。
しにたいやつはかかってこいやぁ!!」
本気の拳が一人目のあごを貫く瞬間
(辞めて!)
「え?! ティア??」
バズン!
2人目の武器をかわしながら、蹴りが相手に入る直前、
(辞めて!)
「なんだ?」
(もういいの。 それよりあなた、自分の身体のことを心配しなさい! ほんっとに後先考えないんだから!)
え? ティア?
(そうよ! あなた傷だらけじゃない! しかも足、骨折してるわね。 あと私のために島民殺したりしたら、許さないからね)
え?
俺は振るう拳に入れる力を弱め、相手の意識を狩ることに集中した。
あらかた片付け、アイダの家に入った。
どうなんってんだ?
(フフフ、すごいでしょ?)
(精霊の魂って言われてるのよ)
「精霊の魂?」
俺のつぶやきに気が付いた、アイダは目を潤ませている。
「リナルド様、もしやティアはあなたの中に?」
「知っているのか?」
「ティアは私の妹の娘だったのです。 当時この島に疫病が流行りまして、それから逃れるために妹たちは島からでたんです」
「そうか・・・。 で、精霊の魂とは?」
「エルフはたくさんの寿命を残したまま死ぬとき、他の人に魂を預ける事ができるんです」
「?」
「そうすれば、自分の拾得した技術なんかを残せますからね。 なぜそんなことができるかわかりませんが。 もともと数の少ない種族ですから、自分たちの伝統や伝承を残すための秘策だったと聞いております」
「それで・・・。 俺は一体どうすれば?」
「今まで通りで良いと思いますよ。 だた、強力な回復魔法を使えるようになってるでしょうし、魔法の威力も上がります」
「そうか・・・」
そんなことより、俺には彼女に生きてて欲しかった。
(あら? 照れるわね・・・)
ちょ!? 丸聞こえかよ!
(当然じゃない、リナルドの中にいるんだから(笑))
今まで通りってわけにはいかないようだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
終わらせようと思ってはいますが、書きたいことがもう少しあります。
申し訳ありません。




