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第47話 魚類使いのアバシ

なんだ?  身体が動かねえ・・・。

やべえ・・・。

いやな汗が湧き出てくる。

「お・・・い?」

「リナルド? どうした・・の? アレ?  からだ・・・がうごかな・・・い」

「ティアもか?」

「私も・・」

膝の上に頭を乗せたサリーナも動かせないみたいだ。

辛うじて動く首を動かして、廻りをみてみる。

ペクドスとダンも倒れているのがわかった。

「フムフム・・・。やっと効いてきただか?  よかったよかった」

「あんたは・・・長か?  これはどうゆうことだ?」

「あんれまあ! けっこう喋れるだね?  どういうこともなにもねえだよ。

この娘っ子にアイダ様の後釜をやらせるんだ。  あんたたちはもう帰ってもらっていい」

パチパチと爆ぜるかがり火に照らされ、島長がティアの肩に手を置いて言う。

「なんだと?」

「島特製の痺れ薬は、効くまでに時間がかかるのが難点だなあ。さあ! 男衆、この方たちを船まで運んでくれっか」

「島長!  そんなことをしてもすぐに戻ってくるぞ!」

俺は島長を睨みながら言う。

「ああ・・・。そうだろうとも、そうだろうとも! だども、チャーター船ごと港から出したら、あとはギオルギーってひとたちがなんとかしてくれる手はずになってるだよ」

「ギオルギー・・・だと?」

「さあさあ! テイアさんとか言ったか? あなた様はこちらへ。 さあ女衆!  テイアさんをお連れして」

島の女性陣がティアを運びだした。

「ティア!」

「リナルド!」

彼女の怯える目に、俺は何もできない自分に怒りを覚えた。

「くっそ!!  動け!!  ティア!  必ず助ける!」

彼女がコクンと大きく頷いた、ところで俺の視界から消えた。


チャーター船の船乗りたちにも、しっかり痺れ薬入りの食事は配られてたようで、全員が甲板の上に横になっている。

「すみません」や「くっそー! 俺たちをどうするつもりだ!!」

など割と喋れるやつもいるみたいだが、動けるやつはいないようだ。

どうやら島民たちの小舟でけん引されて、港から出されたらしく、島は小さくなり始めている。

俺はメインマストを背もたれにして、廻りを見渡し仲間の位置、島の位置を確認し島長が言っていたギオルギーとかいう奴らを待っている。

少しだが痺れが引いてきたような気がする。


ドーーン!!

「ぐわーーー!」

「どうしたー?」

突如物凄い音と共に、船が大きく傾いた。

「なんだ?  岩礁か?」

「こんなとこに岩礁なんかありやせんぜ?」

船員たちが話している。

と同時に、船のへさきに一人の魚人が立っているのが見えた。

「だーーーははは! こりゃまた大漁大漁!」

「だれだ?!」

「ぎょぎょ!?  喋れるんかい?  島の人族どものが言うには強力な痺れ薬だって言ってたが・・」

「なんだ?   あんた?  助かったのか?」

船員の一人は、少し安心したような顔をしている。

「あんた!  さっきの衝撃はなんだったかわかるか? あんな衝撃を受けたら、この船は長く持たないだろう。  あんたの船に移らせてくれ!」

チャーター船の船長が、この男と交渉しようとするが、

「だーーーははは!  俺様が助けに来たとでも? さっきのはな、俺様の相棒ヤコポがこの船に張り付いたのさ!」

男の後ろに黒に白い吸盤がびっしりと生えた、タコの足が2本うねうねと踊っている。

「さ~て、ターゲットはどこかな~?  というか、島の奴ら縄で縛ってもいないのかよ。 まったく気が利かねえぜ」

「なぜ俺たちを狙う?」

ブツブツ独り言を言っていた魚人は俺に話かけられた瞬間、びっくりしたような顔をしたがすぐに笑顔になり

「ははーん・・お前がリナルドだな?  言う必要はない!!  だがよ、まあ俺様は優秀だからよ。 教えてやってもいいけどな?」

なんだこいつ・・・。 よく喋る魚人だ。

そもそも、魚人の見た目は人間とほとんど変わらない。

大きく違うのは、顔の頬に鰓があり水中でも呼吸可能なくらいだ。

しかし最近は人族との交配が進んで、鰓が小さくなり、水中での呼吸もわずかしかできないやつが多いと聞く。 が、目の前のこいつは明らかに鰓が発達し、目もギョロっとしている。 

「聞きたい」

「だーーーははは!  そこまで言われちゃ言わないわけにはいかないな。

いいだろう、俺様はギオルギーの魚類使いのアバシ。そしてこいつが相棒のヤコポだ」

ミシミシと船体が悲鳴を上げる中、ヤコポと呼ばれたタコが返事をするように2本の足を甲板に乗せた。

「ぎょぎょ!  ヤコポ、気が逸るのは分かるがもうちょっと待ってくれ」

「ギオルギーってなんだ?  そんな奴らに命を狙われる、心当たりがないんだが?」

「そうだろう、そうだろうとも。  俺様たちは優秀だからよ、証拠も残さねえ。 つまり俺様に出会ったが最後、次に誰かと会う機会はねえってことよ」

「質問に答えろ! ギオルギーってなんだ?」

俺はアバシが質問に無視し、勝手にしゃべるのに少しいらだっていた。

「おいおい! リナルドの兄ちゃん立場わかってんのかい? ヤポコ!!」

アバシが左手を上げるとタコの足の1本が物凄いスピードで動き、


ドン!!  ミシミシ!

「ぐはあ!」

「ダン!?」

横になっていたダンはタコ足に打ち付けられ、その衝撃は甲板の板が割れるほどだった。

「く・・・ダン! 大丈夫か??」

「ぐ・・・はあ!  ああ・・・問題ない・・・」

そう言うダンの口から大量の血が流れ出ているのが見える。

「だーーーははは!  頑丈な蜥蜴人でもヤポコの一発は効くだろう?」

「くう・・・きさま!」

「だーーーははは!  さーてなんだったかな?  おおう、そうそう! ギオルギーが何だって話だったな?」

アバシはもったい付けたように、俺に顔を近づけにやにやしている。

「悪いな、それは言えねえんだ!  だが、命を狙われる理由には答えてやる。

それはおめえが勇者に近いからだよ」

「どういうことだ?」

「簡単だろ?  勇者を煩わしいと思ってる奴らがいるってことだ」

「それがギオルギーか?」

「ぎょぎょぎょ! そーかもしんねーし、そうじゃないかもしんねー。 少なくともそこは答えられねーんだわ」

アバシはとぼけた顔で、オーバーリアクション気味に手を振りながら言う。

「さーて、子猫ちゃんがいるはずだよな・・・っといたいた」

「サリーナになにする気だ?!」

アバシはきょろきょろと辺りを見回し、サリーナ見つけると彼女の方へ歩いていく。

サリーナはまだまだ痺れが取れてないらしく、声も少ししか出せない様子だ。

「く・・・来るな!!」

「ぎょぎょ?!  心配しなさんな、俺様は猫はタイプじゃねんだよな。  毛が若干多めだろ?(笑)

どーも苦手でな」

そう言いながらも、彼女の足や太ももに触れている。

「ひい・・・辞めて!」

「辞めろ、アバシ!!」

「ぎょぎょ!  だから心配すんなって言ってるだろ!」

パチン!と彼女の尻を叩く。

「イヤ!」

「俺様じゃねーよ。  ヤポコ!」

ズリズリと船の傾きが大きくなり、傾いた先にタコの頭が見えた。

「ヤポコはグルメでよ。 メスからしか食わねえんだわ。  まーったく誰に似たんだか」

シュルシュルとゆっくりと足を伸ばし、サリーナの足に絡めていく。

「い・・・イヤァ!!」

「だーーーははは!  まったくいい趣味してんぜ。 ヤポコはよ!」

「サリーナ!!」

「いやあ!!  放して!!」

船の傾きがあるにもかかわらず、それともタコの娯楽のつもりなのか、サリーナの身体はゆっくりとタコに吸い寄せられている。

「炎の精霊よ、盟友リナルド=レンツィの名において命ずる、最強の炎で彼の敵を焼き尽くせ」

俺は後先の状況を考えず、最強の魔法をアバシめがけて放った。

2mほどの渦を巻き、真っすぐヤツに向かって放ったと同時に、サリーナめがけて走り出した。

走るというよりは、傾いた船を滑り落ちる感じか。

「ひいいぃいい!!」

魚人の大部分は炎が苦手なはずだ。 アバシの悲鳴だろう声を後ろに聞きながら、

「おおおおぉぉぉお!!」

痺れる手でなんとか剣を抜き、タコめがけて突き刺す。

すでにサリーナの足はくるぶし辺りまで、ヤツの口に飲み込まれている。

「オンオンオンオン!!」

タコは悲鳴とも怒りともつかぬ声をあげ、俺を威嚇する。

「リナルド!!  抜けない!!  足が抜けないよ!!」

「感覚はあるか?」

「わからない!!」

彼女は涙ながらに、どうしていいかわからず震えてる。

「サリーナ!!  足ごと斬るぞ!」

その時、タコが大きく収縮するのが分かった。

まずい!!  こいつ海に飛び込むつもりだ。

刺さった剣を抜こうとやつの頭に足をかけたところで、海に向かってジャンプし始めた。

俺はヤツの頭を足場に、剣をぬきサリーナの足とヤツの足を1本まとめて斬ったあとサリーナの服をつかんで、一緒に海に落ちた。


ボコボコボコ・・・。

「ほんっっっとにリナルドってたまに、後先考えずに行動することがあるから、いつか大怪我しても知らないからね」

ティアが俺が怪我したとき、回復魔法をかけてくれるときの口癖と彼女の顔が頭をよぎる。

確かによく考えるとタコは船上より、海中の方が動きが速いよな。

目を開けた時には、サリーナと一緒にタコ足に縛られていた。

奴は興奮を抑えきれないのか、時折墨を吐きながら俺たちをより深いところに引きずり込んでいく。

そう・・・だよな・・・。 海中じゃ息もできない。

まったくティアの言う通りになった。 もっとも今回は彼女の回復魔法の出番はないだろうが。


「あなたって諦めるって言葉を知らないの?」

ティアを俺のパーティに、何度も誘っていたとき彼女からよく言われていたセリフ。

「俺は諦めたくないことだけは、諦めが悪いんだ」

「なにそれ・・・」

彼女の一瞬の困った顔、そしてその後の笑顔。

その笑顔があるから、諦められない。


「ティア!  必ず助ける!」

コクン! 大きく頷く彼女の顔。

「ごぼおおごぼおご!!!(諦められない!!!)」

片手にはまだ剣を握ったままだった、精一杯の力で縛っているタコの足を斬りにかかる。

斬れない・・・。

くっそ!

既に1分は過ぎている。

くそ! くそ! くそ! くそ!

斬れろーーーー!!!


その時急にタコの足の力が弱まったと思ったら、物凄い速さで海面に向かって泳いで行った。

助かった?

俺は剣をくわえ、サリーナをかかえ海面に向かって泳ぎだした。


すみません。リナルドの話もう一話続きます。

お読みいただき、ありがとうございます。

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