第41話 火には火を
「はあ・・はあ・・はあ!」
「アズマ! 出口!」
「おう!! よいしょぉぉ!!」
迷宮の外に出た瞬間! イヤな感じがした。 下から風が舞い上がってきたのだ。
「これって! 魔法!!」
咄嗟に左に走った。 1、2、3歩目で。
ギャアァアオンン!!!
ドラゴンが外に出たと思った瞬間。
「サロの名において命ずる! 嵐の刃となり、彼のものを切り裂け!」
そのドラゴンを包む様に風が舞い、下から上から風の刃が奴を傷つけていく。
「あぶねー・・。避けなかったら俺まで巻き添えだった・・」
あのサロって人、リナルドとは別な意味で危険なのかもな。
サロは続けて剣で斬りかかる。
他の遠隔攻撃をもつパーティメンバーもドラゴンに攻撃をし始めた。
ドラゴンはその身を震わせ、大きくのけ反ったあと炎のブレスを吐いた。
「ちぃ!」
サロはすぐさまそのブレスを受け流そうと魔法を放つが、何人かが餌食になる。
「ぎゃあーー熱い!」
「きああーー」
「避けられない者は、距離を取りなさい!」
サロは剣と魔法を交互に使い、相手の間合いに入らない戦い方をしている。
その動きは華麗で、踊っているかのようにも見える。
が、彼の攻撃はそんなに効いてないように思えた。
不意にドラゴンは俺たち方をみて、大きくのけ反った。
「まずい!」
咄嗟に動こうとしたが、隣のラヴィを連れては間に合わない。
俺はドラゴンとラヴィの間に入り、ブレスを受けようと目を閉じた・
ブオオオーーン!
くぅ! あつ・・・くない? あれ? 熱いけど耐えられないことはない。
「おい! おめーは詰めが甘いんだよ!!」
「リナルド!?」
リナルドが間に入り、ブレスを受け流している。
「わかったらさっさと、どいてろ!」
俺はラヴィを連れて50mほど離れた。
それからは早かった、リナルドはブレスを炎魔法で逸らしている。
「ガハハ! 今回は結構歯ごたえのある奴がいたな」
「ボク一人でも撃退できましたよ」
「祭りはみんなで楽しまないとな ガハハ!」
「こんなことを祭りなんていうのは、あなたぐらいなものですよ」
その後、ギルド職員がきて打ち合わせをしていた。
何班か調査隊をだして、モンスターの数が減っていればデッドラインだけ残して、今日は上がるそうだ。
サロさんは3日ぶっ続けでデッドラインを担当していたらしく、休憩するとのこと。
と言ってもモンスターはほとんど出てきていないらしいけど。
なので、俺たちのパーティが担当することになった。
ギルドが建てた、簡易型のテントで休むように言われた。
「お前とラヴィは先に寝てろ、夜中に交代する。
といっても、もう燻りだしでもしねーと中から出てこないとおもうが、まあ念のためだ。
それに・・・」
リナルドは顎をしゃくる。 その先にはラヴィが座ったまま寝てる。
「寝かせてやれ」
「はい」
俺とリナルドは朝まで交代で見張ったが、1匹も出てこなかった。
次の日10ほどのパーティがアタックをかけ、昨日のドラゴンほどじゃなかったが、繁殖種と思われるモンスターが5匹ほどでてきた。
その日の夕方、辺りが暗くなるころ色黒の髭もじゃのおっさんがリナルドを訪ねてきた。
「よお! エドモンド親方じゃねえか?!」
親方と呼ばれた髭もじゃは、歳は50ほどだろうか。 筋肉隆々で身長は160ほどで顔の堀が深い。
あ~・・あれだ! ドワーフ!
「ひょひょひょ! お前さんが来てるって聞いてな会いに来たわい」
「おいおい! 『入り江の迷宮』のデッドラインは大丈夫なのか?」
「それがの~・・・ちーっともでてこんのわい。10班ほどのパーティが入っているんじゃけどの。
モンスターは多くないと口をそろえて言いおる。 5日も待ちぼうけじゃと、体が鈍ってのお。 こっちにはドラゴンがでたそうじゃの? おこぼれにあずかろうと思うての」
「そうか・・・、そういやー、蜥蜴人の青年部とかは見つかったのか?」
「まったくじゃの、中に入った形跡はあったらしいんじゃがの・・。 あ奴らで繁殖種、倒してしもうたんかの~?」
「まあ、ない話じゃねーな。ザッカー島の勇者って呼ばれてる奴もいるらしいからな」
「そうじゃの」
その時、迷宮の入り口が騒がしくなった。
「出てくるぞー! 3匹だ!」
3mほどのトカゲが襟巻トカゲの様に2足歩行で、走って出てきた。
「キオッタ!!」
一瞬だった。
リナルドが1匹。
ズバン!!
ドン!!
エドモンド親方が2匹をほぼ同時に倒した。
彼の武器ハンマーが1匹目に当たると、その勢いで吹っ飛んだトカゲはもう1匹のトカゲに当たり2匹とも倒れこんだところを、頭をグシャっと・・あっという間だ。
「来て早々、景気がいいのー(笑)」
「親方が出張ると弟子の出番ねーな」
「ひょひょひょ、弟子を取ったらしいの?」
「ああ、こいつだ。アズマっていう」
「初めまして、アズマです。よろしくお願いします」
「あ・・あと一人、正式には弟子じゃねーんだが、な」
「ラヴィです」
「ひょひょひょ、エドモンド=トッチ、ドワーフじゃ。よろしくな」
「リナルド,エドモンドさんはどうして親方って呼ばれてるの?」
「ああ・・。今、この大陸で活躍してる勇者のリーダー的存在だからな」
「わしはそろそろ代替わりしても良いと思っとるんじゃかの・・」
エドモンドさんはリナルドを見ながら、そう話してる。
「勘弁してくれよ・・」
「で・・ただの暇つぶしに来たわけじゃねーだろ?」
「ひょひょひょ、そうじゃ。 デッドライン代わるから、族長のとこに様子見に行ってくれんか?」
「ガハハ! やっぱそう来たか! しかし帰ってきてるかねぇ?」
「なんじゃ?」
「イヤ。船の上で族長の孫って奴らが乗っていたのさ。 なんでもメロトニスに軍を手配してもらう様に陳情しに行ったんだと」
「ああ、それならもうすぐ着くそうじゃよ? 5千ほどの兵士が来るそうじゃ」
「そんなに? そんなに必要か?」
「さての、ギルドにも情報はいってると思うんじゃが、どーもはっきりせんの」
「まずいな・・・」
「なんじゃリナルド?」
「今、リムーは手薄なんだよな?」
リナルドは髭を触りながら、考えこんだ。
「そうじゃな、軍を派遣しとるんだからの」
「この島の青年部は見つからない・・・んじゃなく、リムーにいたとしたら?」
「?! なんと!? 今更じゃろ?? クーデターか?」
「蜥蜴人は誇り高いからな・・・」
「まずいの・・・。 リナルド! すぐにサロとリムーに戻ってくれんかの?」
「ああ・・。 それがいいかもな。 『入り江の迷宮』の繁殖期っていうのはでっち上げかもしれねーな」
「まんまと、おびき出されてしもうたんかの・・」
☆ ☆ ☆
少し前イスラの街、ブラスコ=マセッティの館にて。
「いや、そんことじゃねえんだ。これからメロトニス諸国連合にはいるつもりでいるからよ。アッチについてなんか知ってる事があるならっておもってな」
「そうかい? それならあるよ! セバスチャン!」ブラスコは紅茶を入れた執事を呼んだ。
セバスチャンと呼ばれた執事は、主人とリナルドに新しい紅茶と菓子を置くと同時に何枚かの資料を手渡した。
「そう、これこれ! 今メロトニス諸国連合、特にザッカー島のが熱いね!」
「ああ、なんか勇者並みに強えって奴がいるんだったか?」
「なんだい? 知ってたのかい? まあ、いいや。 名前はアジラティ=メンフィス。現在の族長ダゴマの甥にあたるみたいだね」
「名前までは、知らなかったさ」
「そうかい? 続けるよ。 このアジラティはまだ20代で、島の食料事情を変えてしまったんだ。
蜥蜴人はこれまで、森で虫を捕まえそれを食べていた。 まあ、狩猟採集ってわけだ。 彼は虫の農場を作り出し、養殖を行った。 これによって、ザッカー島の蜥蜴人の大部分が迷宮の収入に頼らずにすむようになったみたいだね」
「なるほど・・・」
リナルドは菓子を含み、紅茶で流し込んだ。
「蜥蜴人はこれまで、昆虫食しか受け付けないという身体のため、狩猟採集しかできず、彼らの生活の大部分はそれに費やされてきたわけだけど。 それがなくなった。 彼らは外貨獲得のため自分たちの聖地である島、または森、そして迷宮を冒険者に開放してきた。 仕方なくね」
「・・・そうだな」
ブラスコも紅茶を一口飲み、一息ついたあと
「で、これまで仕方なくメロトニス諸国連合に名を連ねていたわけだよ。 そして、彼らは自分たちを最強の種族だと思っている」
リナルドはブラスコの目をみて。
「独立か?」
「ククク、私の憶測でしかないがね」
ブラスコは資料をリナルドに渡しながら、笑っていう。
「しかし、私なら今このタイミングしかないと思うがね。 メロトニスの方々にもそれとなく報告はしてるんだけどね・・・。大切なお客様だからね」
リナルドは資料に目を通しながら
「やっぱおやっさんのとこに顔出して正解だったわ。 だてにガウリアス帝国の辺境伯じゃねえな!」
資料を左指でパンとはじいた。
「ククク、キミ言われると気持ち悪いから辞めてくれよ。
そうだ! 情報の提供料に迷宮行ってくれないかな?」
「んだよ?! また盗賊の根城にでもなってんのかよ?」
「そうなんだよ。あそこで悪い噂立つと迷宮にはいる者が減るだろ? 結果、税収が減っちゃうんだよ、頼むよ」
☆ ☆ ☆
その後すぐに船をチャーターして、首都リムーに向かった。
船内で眠りながらリナルドはひとりで
「おやっさんの言った通り、面倒なことになってきやがった」
「え? リナルドなんか言った? 晩御飯食べないんですか?」
俺は堅いパンに、魚のソテーを挟んで食べている。
「うるせー、寝るから黙って食え」
「リナルド、具合悪い?」
ラヴィも心配している。
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