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第40話 ダルトサパーの迷宮

40話になりました。

次の日早朝迷宮に行くと、そこではもう作戦が始まっていた。

「迷宮にアタックできるのは平均ランクC以上のパーティからとなっております。

それ以下のパーティの方は入り口前にて、待機をお願いします」

どうやらギルド職員らしい男性が、声を張り上げている。

「強いパーティに、中のモンスターを燻りだしてもらうんだ」

リナルドは軽く準備運動をしながら言ってきた。

「へー! でも迷宮の繁殖期って具体的にどうなるんですか?」

「迷宮が大量のモンスターを輩出して、他の迷宮のモンスターと出会うと、そこに新しい迷宮ができるといわれているな」

まさしく、繁殖なわけだ。

じゃあ、出てくるモンスターはさしずめ精子であり、卵子でもあるんだろうか・・?

「中には、繁殖種と言われるこの時期だけ現れる、強力な個体もいるからな。繁殖にはまだ解明されてないことが多いんだ」

「へえー、それじゃあどっちみち、出てきた奴らを逃がさなきゃいいんですね」

「まあ、そうなるな。弱いパーティばかり入り口に寄せているように見えるが、最終的には絶対防衛ラインってものがあってな。そこは勇者の役目ってわけよ」

「じゃあ俺たちは『E』だから待機組ですかね・・」

「冗談だろ? こんな祭りは滅多にねーんだぞ! 1番前に行くにきまってるだろ!」

「え? でも??」

勇者ってあんただろ?

「問答無用!」

まじか!? って思っていたところに、サラサラの青い髪をかき上げながら、薄く笑うイケメンが現れた。

「フ・・・」

「出やがったな! サロの坊主!」

「フ・・・誰かと思えばリナルドさんじゃないですか?  僕は勇者になってもう8年ですよ?! いい加減、坊主は辞めてください。そちらこそ子供連れで勇者ごっこですか?」

坊主というわりには、歳は20代半ばくらいだろうか? でも確かにこの世界では童顔のイケメンだから坊主ってあだ名も納得できる。

「相変わらずだな、おめーは! 入り江の迷宮の方に行ったんじゃないのか?」

「あっちはオヤッさんがやってますよ。 それよりリナルドさん、ここのデッドライン変わってくださいよ。 わざわざこんな島に来たのに、少ししか暴れられないとなると、来た意味ありませんからね」

「しらねーな、お前が任されたんならしっかりやんな!」

「まさか、そんな子供連れて前線に行くつもりじゃないでしょうね?」

「こんなとこでぼーっと突っ立ってたって、弟子の修行にならねーからな!」

「この迷宮のモンスターは炎属性の奴ばかりなんですよ? あなたじゃやりにくいでしょ?」

「アホか!  遠慮なくぶっ放せるじゃねーか!」

「これだ・・・。 黒髪のキミ!」

やれやれと肩をすくめたあと、スッと髪をかき上げ俺を指をさしてきた。 いちいちキマッテる。

ラヴィも彼のようなイケメンがいいのだろうか?

「は・・・はい?」

「この男の弟子になるなんて、運がないな・・・」

「ええ・・・。苦労してます」

「アズマ! おめー、休憩抜きな!」

「ええーー!」

「行くぞ!」

迷宮の入り口前で手続きを済ませた後、俺たちはアタックを開始した。


 あれから8時間・・・。ぶっ続けだ・・。

そして・・・トカゲ、トカゲ!、トカゲ!!

まじで?!  コモドオオトカゲのさらに大きくした奴、足が小さくほぼ蛇の様な奴、頭2つある奴とにかく種類が豊富すぎる。

「おい! そっちに行ったぞ!」

「はい!」

リナルドのところから、俺の方へ半ば逃げる形で来た大型のトカゲを、すれ違いざまに頭をおとした。

「ふー・・・」

一息ついたと思ったところに、頭を落としたはずのトカゲが尻尾で攻撃してきた。

「おい!!」

ドガ! 

とっさに避けようとしたが、間に合わず1mほどフっ飛ばされた。

「大丈夫か?」

「はい!」

すぐに立ち上がるって構える。

次が待ってはくれない。

「気を付けろ、頭落としたくらいで油断するな!!」

「はい!」

「ラヴィは? 疲れてないか?」

「はあ・・・はあ・・・はあ・・、大丈夫」

大丈夫と言いながらも、耳は素直だ。

だらりと垂れさがっている。

ここ『ダルトサパーの迷宮』は空間が広い。 とても広い洞窟の様な作りだ。

敵に囲まれやすいが、その分先の見通しがいい。

基本的には、囲まれない様に壁沿いに戦いながら進んで行く。

それから20分ほど狩りながら進むと、大きく開けたところに出た。

そこはよく風が通り、下は崖になっており20mほど下がっていて、遠くの下層が見渡せた。

「ふー、少し休憩できそうだな。 携帯食を食っとけ、あと水もしっかりな。

それが終わったらすぐに武器のメンテナンスだ」

「はい」

鞄から塩漬け肉を取り出し、乾燥パンと交互に食べて水でふやかしながら、かみ砕いていく。

いつもなら塩辛く感じる塩漬け肉も、今はちょうどいい。

食べながら、メイン武器の片刃の片手剣の血のりを外し、簡易型砥石で研いでいく。

「ラヴィ? どうだ?」

リナルドはラヴィを気づかう。

彼女の攻撃は足技主体のため、どうしても動きが多くなる、俺たちよりも運動量がおおいはずだ。

「大丈夫」

「そうか・・無理はする・・・な・・、なんだ? ありゃ?」

リナルドは、見渡せる眼下に広がる洞窟の向こう側を見ている。

研ぐ手を止めて、見てみると赤く大型のトカゲがこちらに走ってきている。

「ドラゴン!?」

体長15mはあるだろうか・・。 でかい・・・。

「ドラゴンなんですか?」

「もしかしたら、いるんじゃねーのかなとは思っていたが・・、ありゃあ・・繁殖種かもな」

「あれが・・?」

ドーーーン!!!

俺たちが立っている崖に激突した。

大きく地面が揺れた。

「おわっとぁ?」

「あ・・・あれ?  頭は良くないのかな?」

と思ったとき、奴は自分の頭より高い壁を登ってきた。

「まずいな・・」

「え?」

「このままここでやってもいいが、迷宮を壊しちゃいけねーからな。いったん外まで出てから戦うぞ」

「はい!」

「殿はおれがやる。 アズマもラヴィも、全力で出口までいけ! モンスターは蹴散らせ!」

「はい!」

俺たちは駆け出した。

「胡椒は使わないんですか?」

走りながら、脱出の際に使うアイテム『迷宮の胡椒』を使えば一発のはずだ。

「ああ・・。使ってもいいが胡椒の効果がでるわずかの時間で攻撃を受けないともかぎらねーし、仮に一緒に外に出たとしても、いきなり出現したドラゴンに、待機組が奇襲状態で戦闘を開始すると、被害がデカくなる」

確かに・・。

「いいか! 周りにドラゴンのことを知らせながら走れ!」

「はい」

そう言ったあと、リナルドは立ち止まって、迎えうった。

「ドラゴンだー! 外まで一旦退避します!!」

大声をあげながら走る。

「はあ・・・はあ・・・」

隣を見ると、ラヴィがかなり限界のようだった。

もしかした、昨日も寝不足だったのかもしれない。

ふら付いてるラヴィを気にしつつ、さらに大声で叫んで退避を促す。

数人の強面冒険者が声をかけてくる。

「おう! 近いのか?」

「はい。リナルドが殿に立って抑えています。 今の内に出て、待機組にも知らせないと」

「おう!  野郎ども!全力で出口まで抜けるぞ。 リナルド一人にかっこつけさせな!」

「「「おう!!」」」

帰り道は、減ったといっても全くモンスターがいないわけでわなかった。

出口ももう少しといったところで、ラヴィが躓き倒れた。

「あう・・・」

もうスタミナが底をついたのだ。

「ううう・・」

「はあ・・はあ・・・」

俺もかなりやばい、こんなに走ったことないくらいだし。

ふと来た道を見た。 この洞窟は壁全体が赤黒く光っていて、明かりは必要ないんだが、来た道からは炎の熱さが徐々に増している気がした。

ラヴィが転んでから、1分も経っていないはずだ・・。

ギャアアアーーーーオオオオオン!!

「まさか!? 嘘だろ?  リナルドが抜かれた?」

ものすごい速さでこっちに向かってくる、赤黒い巨大な塊が遠くに見えた。

「まずい・・ラヴィ・・立てる」

「う・・うん・・」

ラヴィの返事は言葉の意味とは裏腹に、立ち上がるのもやっとな感じだ。

まずい・・・。たとえ走り出したとしても、確実に追いつかれる。

ここから先は一本道の少し狭い通路だ。

これしかない!

おれは跪き、ラヴィに

「乗るんだ!!」

「え?  でも・・・」

「早く!!  死にたくないだろ」

ゆっくりと彼女は体を預けてきた。

この時俺は、完全にテンパってたんだろう。彼女のトラウマなんか頭からすっ飛んでいた。

「舌噛まないようにね」

「うん」

駆けた。

「アズマ・・来てる!」

ガヤアアアア!!

「はあ・・・はあ・・・ってよく考えたらこの辺りの通路って、はあ・・・・はあ・・・あいつ通れないんじゃなの?」

「アズマ・・無理みたい・・・」

「はあはあ・・・え?」

「通路の方が広がってる・・」

「まじで!?」

そりゃそうだろな・・・。 自分が繁殖するのにそれ遮ってどうするんだよ・・。



読んでいただき、ありがとうございます。

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