表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/58

第39話 蜥蜴人の子供たち

「密航者だーー!!」

その日の夜中に騒ぎが起こった。

甲板に出てみると、蜥蜴人の子供2人が船員に縛り上げられていた。

「船長どうするでやんす?」

バンダナをした船員は、船長と呼んだ色黒の髭おやじに聞いている。

「うむ。海の掟通りにしとけ」

「はいでやんす」

ええ?  海の掟ってなんだ?  まさかサメの餌になるってことはないだろうな?

まだ俺より少し年下くらいの感じなんだが・・・。

「はい! おらガキども立てでやんす」

船員は子供たちを立たせ、縄を解いた。

「いいか! ガキども、ここは船の上だ。お前たちは無賃乗船だ。わかるでやんすな?

海の掟によると、密航者は次の港までは船員として扱うこととなっているでやんす。

だから働くこと。 それと口答えはするなでやんす! 蜥蜴人だからというわけじゃなく密航者だから厳しくするんでやんすな、ちなみに飯はちゃんとだすでやんす。安心して働くように! お前たち名前は?」

「俺はヤトゥー、こっちが妹のリマだ!」

「よろしい、まずは2人とも甲板のモップ掛けでやんす」

蜥蜴人の子供か・・・。しっかり蜥蜴なんだな。 そして、言葉も普通に話してる。

俺がそんな風に考えながら見ていると

「なんだオマエこっち見んな!!」

あれ? だれに言ってるんだろう・・。 俺に言ってるように見えるけど、俺の廻りにも人はいるしな。

「オマエだよ! 真っ黒い頭のガキ!」

ガキはお前だろ・・。

「おい! 無視すんな!!」

ブン!!

モップを投げてきた。

パシッと柄の部分を受け止め

「危ないじゃないですか?」

「オマエが無視するからだろ!!」

「じゃあ、何か用なんですか?」

「オマエも密航者だろ!!  働けよ!!」

「はあ?!  なぜです??」

「子供だろ!? 俺は知ってるんだぜ!!  この船はいつもの定期船じゃなく、迷宮の繁殖期を抑えるためにギルドに雇われた奴しか乗ってないんだ!! オマエ、俺より歳上みたいだけど子供じゃないか!」

「えっと・・・。 確かに子供ですけど・・。 こう見えてちゃんと冒険者ですよ。 ランクはEですけどね」

「なんだとー!  嘘つくな!!  嘘つきはダルトサパーのドラゴンに、鱗剥がされるんだぞ!」

そこに船員が来てくれた。

「おい! ガキども、他のお客さんに迷惑かけるなでやんす!!」

船員に叱られ、しぶしぶ作業を再開していた。

隣ではラヴィが少し笑っている。

ラヴィの身長は155cmほどあり、俺の身長は148cmほどだ。

ラヴィを見上げ

「身長なんて、すぐ追いつきますからね!」


船室に戻っても、リナルドは腕を組んで眠ったままだった。

さっきヤトゥーが言っていた『ドラゴン』ことを聞きたかったんだけど。

「しかし、よく寝れますね・・・。 船に乗って一度も目を開けてませんよ」

俺たちはリナルドの隣で、支給された船内食を食べた。

黒パンとみかんみたいな果物、味はそう・・・・ビワだ! 

そして、魚介のスープとなっていた。

もう少しで食べ終わるころ、蜥蜴人の子供ヤトゥーたちがやってきた。

「なにか?」

「おにいちゃん!ちゃんと言わなきゃだめだよ」

隣で妹のリマが兄の腕をつかんで、説得している。

「そ・・・その・・すまねえ。 オマエが勇者の弟子なんて知らなくて

よ」

「謝りにきたんですか?」

「ち・・・ちがっ!」

「ホントにすみません、兄がご迷惑をかけて」

「あ・・いいえ」

リマは丁寧に頭をさげた。

「リマ!」

「おにいちゃん! 勇者様たちしかアジー兄たちを、助けられないのよ!」

「だからってこんなガキに頼むまでもねえ! 迷宮の繁殖期だってアジー兄さえいてくれたら、なんてことないんだよ!!」

「だからそのアジー兄を助けてもらうために、勇者様たちに来てもらうんでしょ!」

どうやら、妹のほうが一枚うわてのようだ。

「ふむ・・。そのアジー兄ってのは噂のアジラティ=メンフィスのことかい?」

ふいにリナルドが声を出した。

「起きてたんですか?」

「こんだけ騒がしけりゃな」

「あ!? オマエだれだよ!」

ヤトゥーがリナルドに食って掛かる。

「お兄ちゃん!!」

リマは察した様に、兄を制している。

「お! こりゃ悪ぃ。 俺の名前はリナルド=レンツィだ。 まあ勇者やってる」

「あ・・あんたがゆうしゃ・・」

「で・・アジラティ=メンフィスであってるんだな?」

ヤトゥーが得意げにドヤ顔で言いだした。

「そうだよ! さすがアジー兄、勇者の間でも有名なんだな!!」

「まあな、ザッカー島の勇者って最近噂になってたな」

「そうなの?」

俺がリナルドに聞いてみた。

「ああ。 何でもザッカー島の食糧事情を変えただの、ザッカー島のぬしを倒しただの、迷宮の最下層に到達しただの、蜥蜴人の女性すべてを嫁にしただの、すべてが真であるかは別として、その噂は帝国まで届いているからなぁ」

「へー・・。 で勇者にはなってないんですね?」

「勇者なんて人族が勝手に付けて、勝手に言ってるだけだい! アジー兄は勇者の何倍も強いんだぞ!!」

顔を真っ赤にして、ヤトゥーは俺に指をさしながら叫んだ。

でも蜥蜴人が顔を赤くすると、鱗で黒くみえるな・・。

「まあ、勇者には国の推挙がないとなれねーしな。 そういった意味では、実力があってもザッカー島から出たことなけりゃ、勇者にはなれねーわな」

髭を触りながらリナルドは言う。

「で・・・、その最強のアジー兄はどこ行っちまったんだい?」

「むーー!!  勇者まで! アジー兄をバカに・・・」

「おにいちゃん! 黙って!!   アジー兄は1週間ほど前から行方知れずなんです。 それにお母さんが言うには島の青年部もまとめて・・」

「フムフム・・。 で・・なんで君たちは、リムーに来てたんだい?」

「族長であるうちの祖父が、青年部がいなくなった事態を重くみて、メロトニス諸国連合に軍隊を出してくれるように陳情しに来ていました」

「そうだぜ。 じっちゃんは俺たちがリムーに行ったことないから、経験させようと連れてきてくれたんだ」

ヤトゥーはだいぶ落ち着いたらしく、リナルドに説明した。

「しかしそれじゃあ、なんでお前ら兄妹はこの船に密航してんだ?  じいさんたちと帰らなかったのかい?」

「・・・・」

二人とも黙った。

「黙ってては、わかりませんね」

俺が言うと

「うるせえ!! 人族に頭下げてばっかのじいちゃんたちが情けなくてよ! これ以上見てられなくて・・」

「そうかい・・・。でも島の人々の命に比べりゃ、蜥蜴人のプライドなんて小さいことだろ?」

「・・・・」

「まあ、島に着いてみないことにはな。 心配すんな、ヤトゥーよ。 俺の他にも勇者が2人行ってんだ。

アジーとやらはすぐに見つかるさ」

そう言うと、リナルドはまた寝る体勢になった。

「あれ? ご飯食べないんですか? 貰ってきましょうか?」

「いらねー」

「へー・・・珍しいこともあるもんですね、リナルドが食事取らないなんて・・明日は雪かも?」

「リナルド・・・具合悪い?」

ラヴィは心配そうに、耳を傾けながら話しかけてる。

「うるせー、寝るから静かにしろい」

ヤトゥーたちは、少し離れて食事を取り始めた。



次の日の夕方、ザッカー島に到着した。

船を下りると、対繁殖期のためにきた冒険者たち60人ほどは集められ、それぞれに宿を割り振られたのでギルドに入る前に宿にはいった。俺たちは『入り江の迷宮』側の町にある宿となった。

「はあーー・・・腹減った・・・」

リナルドは荷物を下ろすなり、そう言うとさらに

「今日はもう何処にもいかんぞ。この島の肉という肉を食いまくる! 行くぞラヴィ!」

ピコ!! 

耳で返事するラヴィ。

「ちょ?! ギルドは行かないでいいんですか?」

「そんなの後、後! 腹が減っては戦はできん!」

ピコピコ!!

なにそのシンクロ・・・。

「俺も行きますよ」

 この宿「夜の虹」の食堂はかなり広い。 真ん中にはステージなんかもある。 宿泊客の数もかなり泊まれる。

蜥蜴人の島と聞いていたけど、ほかの人達もたくさんいる。 むしろ他の人達ばかりで蜥蜴人を見かける方が少なかった。

「なんか、蜥蜴人あまりいませんね?」

「ああ、まあ当然だな。 迷宮にアタックかけにくる奴らは、他の国や人種が多いからな。

その他の人種のために商売を始める奴らも、当然他の人種ってわけだ。

蜥蜴人は言わば地元者。 宿に泊まるより、家に帰るだろ?」

「そっか、だから迷宮近くの町には、蜥蜴人が少ないんですね」

「蜥蜴人の文化は、俺たちのそれとはだいぶ違うからな。 冒険者のための町が整備される前は、苦労したらしいぞ。 特に飯!」

「蜥蜴人は、肉とか食べないんですか?」

俺は鶏の手羽元の様な肉を、骨から外しながら聞いている。

「食べないことはないが、基本的にあいつ等が食べるの虫なんだよ」

「げ?!」

ピコビン!!

ラヴィの耳もショックを受けた様に、垂れ落ちたあとピンと上に跳ねた。

「もしかすると、見えない形で入ってるかもな! ガハハ!」

それからの食事は、食べた気がしなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ