第38話 メロトニス地方統括本部にて
ここはギルド3階にあるメロトニス地方統括本部。
3階は3部屋に分かれているらしく、ここはその中でも一番広い小会議室となっている。
魔石具の働きだろうか、時折涼しいかぜが吹いてくる。
ちなみに、2階の全フロアが大会議室となっている。
「えーとネ、ではご説明いたしますネ。 今回の指名依頼は私どもメロトニス地方統括本部からの依頼になりますネ。 内容は大まかに言いますと、ザッカー島にある2つの迷宮が同時に繁殖期を迎え、中からモンスターが溢れるため島の住民の被害を抑えることが依頼となりますネ」
彼は副ギルド長で兎人の男性職員。
名前はドリーさんという。 顔つきはラヴィと比べてかなり兎っぽい。
俺は初めラヴィと彼を見比べてしまって彼に、
「フフフ、純血種は初めてですかネ?」
「? えっと・・?」
「私は兎人のなかでもネ、純血を保ってる家系の生まれなんですネ。ですから彼女とは顔つきが少し違うんですよネ。 この国以外から来られた方は純血種をご覧になる機会は少ないと思いますので、皆さまそんな反応をなさいますネ」
「なるほど」
(それで口の構造が違うからなのかな? 語尾にネが付くんだ!)
「ちなみにネ、この語尾は私の口癖なのでネ。 純血種が皆さんこの様な話し方ではないんですよネ」
(違った・・・)
「んじゃ、ザッカー島に渡って迷宮の繁殖期に備えりゃいいんだな?」
「そうなりますネ。 船はこちらで用意いたします。チャーター便ではございませんがネ。
では『爆炎の白花火』3名様でよろしいですかネ?」
「わかった、それで頼む。ちなみになんだが、ザッカー島の迷宮2か所同時に繁殖期を迎えたことは、これまで何度かあるのか?」
「そうですネ。 ギルドの記録では340年ほど前に一度ございますネ。 それよりも前となると記録に残ってはいませんネ」
「大戦前か・・・」
リナルドは訝しそうに髭を撫でながら聞いている。
「わかった、出航はいつになる?」
「明後日になりますネ。 朝8時に港に向かってください。 このチケットをお持ちくださいネ」
「おうよ。 ところでギルド長のフレッドはどうしてるんだい?」
「フレッド様は、調査依頼を遂行中でございますネ。 リナルド様がいらした折には「よろしく」と承っておりますネ」
「そうか、俺たちの他に戦力はどうなっている?」
「はい。 3日程前に『旋風の勇者』サロ=バイル様、『土柱の勇者』エドモンド=トッチ様が現地に出航なさってますネ」
「サロの坊主にエドモンド親方か・・、じゃ行くか!」
「ご武運を」
部屋を出ようとしたそのとき
「あ・・・あの・・、キリージャという名前に心当たりはありませんか?」
「ふむ・・。 名前から察するに母君かなにかネ? 残念ですが記憶にありませんネ」
「そうですか・・」
「人探しですかネ? ギルドの情報網をつかって探すことができますがいかがなさいますかネ?」
「あ・・いえ、母はもう亡くなりましたので・・・」
「そうですか。 その他の情報があればその方の親族なりを探すことはできますが・・?」
「いえ・・・他のことは何も・・」
「そうですか、申しわけありませんが、それでは探しようがありませんネ・・」
「ありがとうございました・・」
部屋を出た後、聞いてみた。
「家族?」
「はい・・。もしかしたらと思って」
「まあ、しかたねぇだろう・・。 兎人といってもニムアイ島にはいくつもの氏族があるし。ラヴィは3世だからな。少し時間が経ちすぎてる」
ギルドを出た後は、迷宮アタックの準備を行った。
2つの迷宮は『入り江の迷宮』と活火山の麓にある『ダルトサパーの迷宮』という名前で活火山の名前がダルトサパーという山らしい。
『入り江の迷宮』は『イスラの迷宮』と同じで水棲生物が多く、装備品は前回の使いまわしができるが、『ダルトサパーの迷宮』の方はそうはいかない。
中はかなりの温度で、魔石具による温度対策が欠かせない。
そのため防熱のマント、防熱の靴、自分の廻りの温度を下げる防熱の障壁(一人用)をそれぞれ3人分購入した。
特に防熱の障壁がないと、自分の持っている装備が熱を持ち触れなくなるとのこと。さしずめ炎天下の車のハンドルみたいなもんか。
リナルドはしっかり領収書をもらい、あとでギルドに請求するって言っていた。
次の日朝目覚めると、ラヴィの姿はなく俺が朝稽古のために外に出ると、そこにすでに彼女が稽古していた。 よく見ると目の下にクマがあり、体のキレもどことなくいつもと違うみたいだ。
「早いですね? 眠れましたか?」
「いえ・・・。 あの・・組手いいですか?」
そう言われいつもの組手を始めた。まだ辺りは薄暗い中俺とラヴィの組手の音だけがしていた。
ラヴィの脚技は独特だ。 鞭の様にしなり、右からくるかと思うと左からきたり。下から上に蹴り上げたかと思うと、また戻ってきたり。 その動きの変化が凄まじい。 リナルドは見ても見なくても躱せるようになれと言うが、とてもじゃないが今は無理だ。
この宿『潮風の彩香』はギルドの横に併設されている、ほぼ公式の宿となっているので、辺りが明るくなるころにはギルドに向かう冒険者が何人も通っていった。 その中にギルド職員のドリーさんも見えた。
「よおー! 精が出るな! 飯に行こうぜ」
リナルドが起きてきた。
今日もギルド1階の食堂は賑わっている。
朝食は白身魚のスパイス焼きと目玉焼き、黒パンとミルクだった。
ミルクは日本で飲んでいた牛乳よりも濃く、生臭いが今日飲んでいるのは冷えているので気にならない。
白身魚をつつきながらふと
「そういえば、生魚ってないですね? リムーに来れば食べられると思っていたんですけど」と言ってしまった。
2人は俺の言葉を聞くなり、ぎょっとして
「お前はなにを言っているんだ? 生魚なんて魚人しか食べんだろうがよ?」
言ってしまってから、マズッタと思った。
「お前の魚好きも、そこまできたら異常だな」
ラヴィもうなずいている。
「ロナイ島、通称魚人島に行きゃー食えるだろうな。これ片付いたら行ってみっか? ガハハ!」
「いえ・・・それよりサーラントに帰りたいですから」
とそんな話をしていると
「お? いたいたネ! おはようございますネ」
ギルド副長のドリーさんが近づいてきた。
「あ! ドリーさん! おはようございます」
「お? どうした? なんか変更でもあったのか?」
「いえ、リナルドさんではなく、こちらのお嬢さんにですネ」
「私ですか?」
ラヴィの耳がピコっと動く。
「ええ。 先ほどそこで訓練をしてらしたのを拝見いたしましてネ。
お嬢さんの脚技は『古流兎蹴術 蛇纏い』では?」
「いえ・・。母は兎人が使う格闘術としか・・・」
「フム。 古流兎蹴術はニムアイ島でもいくつかの派閥に分かれてましてネ。その中でもあの脚の使い方『蛇纏い』を使うのは一つの氏家しかないのですよ。 もしかすると母君はその氏家と関わりのある方なのかと思い、ここにその氏家の場所と、私の名前入りの紹介状をご用意しましたのでネ。よろしければと思い・・・」
ドリーさんはリナルドをチラリと見ていった。
「え・・えと」
ラヴィもリナルドの方を見てから、彼の返事を待っていた。
「かまわねぇよ」
気にした様子もなくリナルドは答えた。
「あ・・ありがとうございました」
「お安い御用ですよ。 リナルド様にはよろしくと、ギルド長にも言われておりますからネ」
「そうか・・・。でどうするよ? ここで抜けたっていいんだぜ? おめー一人でニムアイ島に行ってみても・・」
「いいえ! 一度受けた依頼ですから・・」
「そうかい・・」
リナルドは少し嬉しそうに、ラヴィを見ているた。
朝、8時少し前、俺たちは港の船着き場に来ていた。
「うはー! 大きいですね!」
船の大きさは40mほど、形は教科書でみた大航海時代の絵に出てきた船に似ている。
マストが4本あり、操船の船員だけで30名ほどが乗り込むらしい。
「この船は定期船でな、ロナイ島まで5時間、ニムアイ島までさらに5時間、そしてザッカー島に着くのがその9時間後となる。途中で荷物の出し入れがあるから、実際にザッカー島に着くのは明日の夕方だな」
「へー!」
ロナイ島は船の向こう側に見えている。
「風の力で動くんですか?」
「いや、風と魔石具の力だな。だから風がなくても動く」
「へー!!」
ラヴィも初めての船に少し興奮しているのか、耳の動きがハンパではない。
俺たちはギルドでもらったチケットを使い、乗船した。
「おい! 俺は船室で寝てるからな! あんまり騒ぐんじゃねーぞ」
「はーい」
そういえば、リナルドは船怖かったんじゃないのか?
「船、怖いんでしたよね?」
「バカか!? 怖いんじゃねーぞ。 少し具合が悪くなるだけだ!」
そう言うと、さっさと船室に入ってしまった。
ほどなく、出航した。
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