第36話 ラヴィの目覚め
次の日の朝、訓練と朝食を終わらせて宿の部屋に戻ってきた。
ガチャ!
「お? まだ寝てるじゃねえか」
ラヴィは部屋のベッドで朝日を浴びながら、昨日俺が寝かせたままの形でスヤスヤ寝ている。
「そうですね、せっかく朝食と着替えを用意してたんですけどね。
昨日寝る前に、リナルドが回復魔法かけてるから怪我は治ってるはずなんですけど・・・」
「そうだな、精神的にもきついことがあったんだ、ゆっくり待ったらいいさ。
医者を呼ぶまでじゃねえだろうがな。
んじゃ俺は、ペトラッキ商会について調べてくるわ」
「そうですね。奴隷章、返さないといけませんからね」
そうこう話をしていたら
「ど・・奴隷章・・・を返しに行くんですか?」
小さな蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
「あれ? 起きてたの?」
「はい・・・その! 母は?? ここはどこですか? お母さん探しに行かないと!!」
ガバッ!! っとラヴィは起き上がってかけ布団がめくれた。
「わ!! ちょっと待って!」
俺は焦って止めようとしたが、少し遅かった。
「きゃ~~!!」
その白い肌と、胸があらわになってしまった。
慌ててラヴィは布団にもぐってしまった。
「ごめん!! 昨日体を拭いてそのままの状態だったんだよ。だから朝早くに開いてる服屋に行って買ってきたから、これを着てください」
俺は慌てて袋を渡すと
「それじゃ、着替え終わったら呼んでください」
俺たちは部屋を出た。
「はい」
着替えが終わりの合図があり部屋に入ると、さっき俺が選んできたワンピースを着た兎人の女の子が立っていた。
(よし! やっぱ女の子はワンピースだよな! 動きやすい感じで色もベージュのふつーっぽいのを選んだけど、あの圧倒的な存在感の耳が可愛さ10倍アップだよ! 俺、良い仕事したよ!)
椅子のないこの部屋で、ラヴィと俺たちはベットに座って会話を始めた。
「えー・・と、はじめましてアズマです」
「俺はリナルド=レンツィだ、よろしくな」
彼女は始めはモジモジしていたが、早く母のことが聞きたかったのだろう、ハキハキと話だした。
「私は、ペトラッキ商会の会長、ドメニコ=ぺトラッキ様の奴隷キリージャの娘、ラヴィです」
「そうか・・ラヴィは奴隷章は持ってないんだな?」
リナルドは彼女の目を見なが、聞いていた。
「はい。まだ成人してませんので」
「そうか、単刀直入に言う。キリージャは死んだ」
びくっと耳が伸びたあと、シュンと垂れ下がった。
「そう・・・ですか・・。なんとなくわかってました」
「すまないな、俺たちがもう少し早くあの場所に着いていたら・・」
「いいえ・・・。 ありがとうございます」
「君の母の最期の言葉は、奴隷章を主に届け、親子共々死んだことにして、娘を自由にしてやってくれとのことだった。 俺たちは今からペトラッキ商会に行き、この奴隷章を返してこようと思っているところだ」
「そんな?! 危険ですよ? 相手はこの交易都市で1、2位を争うほどの大きい商会ですよ?」
「大丈夫ですよ、こっちの赤髪の大男は、ただの大男じゃないんですから!
爆炎の勇者、リナルド=レンツィですから」
「え?・・・。勇者様?」
「まあ、そう呼ばれてはいるな」
「でも、ドメニコ様は私を奴隷として売ることに、かなりこだわってらしたから・・・この街から出られるかどうか・・・」
「まあ、まかしときな。 その前にちょっと聞きたいことがあるんだがよ。どうして盗賊なんかに捕まっちまったんだ? 奴隷でしかも兎人となれば、商会から出る機会も少ねえんじゃねえのか?」
「はい・・。母は私を成人前に自由にしたかったらしく、昔の伝手と連絡をとってこの街から脱出させようとしていたんです。 それで街で合流しようとしたところを、運悪く盗賊に捕まったんです」
「そうか・・・で、成人になるのはいつの予定なんだい?」
「明日です」
「なるほどな・・・、んじゃアズマちょっくら行ってくるわ」
「あれ!? 一人で? 俺は?」
「ちょいと、荒っぽいやり方してくるんでな。おめえは留守番! ってかラヴィのこれから先の身の振り方でも聞いといてくれや」
「ああ。わかりましたよ。 気を付けて」
バタン!
「行っちゃいましたね」
「はあ・・・あの・・大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。それより、街を出てどうするつもりですか?」
「母は始めの子供と2番目の子を、奴隷として売られてしまって。 3番目の子供である私を、自由になってもらうために大変な苦労をしてきました。 自由になった後のことも考えて、少しの文字、格闘技、薬草学など自分の知ってることを少しずつ、仕事の合間に教えてくれました。だからこの街を出てギルドに登録して、冒険者としてやっていきたいと思っています」
「そうですか・・、でしたら俺たちはここを出た後、指名依頼を受けるためにメロトニス諸国連合に入ります。
そこのギルドまでは一緒に行動するという形でいいですか?」
「はい・・。よろしくお願いします」
☆ ☆ ☆
イスラの街でも5本の指にはいるほどの、大きな屋敷の一番いい部屋で、50代も半ばの彼は怒鳴りちらしていた。
「キリージャと娘はまだ見つからんのか!!」
禿げ上がった頭に、真っ赤に血を登らせ叫ぶ。
「どうゆうことだ!! まったく! ギルドも役に立たん!」
体は肉の塊で、似合ってもいないド派手な色彩だが、布の質だけは一級品であろうその服装。
10本の短い指すべてに、色違いの指輪をしている。
見る人が見ればそれはお洒落ではなく、自分の財力を見せつけているだけのような見た目、と断言されるはずだ。
「あいつ等を飼育するのに、いくらかかったと思っているんだ?!
まったく、さっさと見つけてこい!!」
テーブルの上に置いてあった灰皿を、執事に投げつけている。
「は・・・はい!!」
「まったくどいつもこいつも、無能ばかりじゃ」
執事が出ていくと、広い部屋に男独りとなり、高価そうな酒をあおり始めた。
「よもや娘を傷物にでもしてみろよ! ギランめ! 命はないと思え」
「なるほどな・・・」
不意に独りであったはずの部屋に人の気配がし男は辺りを探す。
「だれだ?」
大きな窓のカーテンの横から、とてもそこに今まで入っていたとは思えない、真っ赤な髪の大男が現れた。
「何者じゃ!」
「俺に名前は聞かないほうがいいぜ? そんなことより、聞いたぞ。
イスラで一番といわれるペトラッキ商会の会長ともあろうお方が、盗賊と繋がっていたとはな?」
「きさま~! 曲者じゃ! で・・・」
リナルドは男の後ろに素早く廻りこみ、口を塞いだ。
「モゴモゴゴ・・」
「静かにしろぃドメニコさんよ、捕って食おうなんてわけじゃねえんだ、ちょっと話を聞いてくれりゃーいいんだよ」
うんうんと、ドメニコは何度も頷いた。
「キリージャは死んだよ。ギランの手にかかってな」
リナルドは奴隷章をドメニコの机の上に置いた。
ドメニコは驚いて、目を見開いた。、
「で、あの娘を奴隷に落とそうって一芝居打ったつもりが、ギランにしてやられたってことか?」
「そんなこと知ってどうする?」
リナルドは塞いでいた口を開けた。
「娘は見逃せ」
「貴様あ!! ワシの商品を横取りするつもりか! すでに買主が決まっておるんだぞ?!幾らすると思ってる? 貴様のような盗賊風情に一生かかっても払いきらんほどの金がかかっとるんだぞ?」
「なるほど・・。じゃあ俺は『勇者特権』を行使しペトラッキ商会を取り潰してもいいんだぜ?」
「な?! 勇者特権だと? 赤毛の・・大男? きさま・・・もしや・・爆炎の・・・?」
「だから、俺に名前は聞かないほうがいいといっただろ?」
リナルドはニヤリと笑いドメニコをみた。
☆ ☆ ☆
「あ! お腹減ったよね? 朝食買ってきたよ」
固いパンとゆで卵はいった袋を渡したその時、少しだけ彼女の手に触れてしまった。
「ヒィーーーー!!」
ほんの少しだけの接触だったが、凄く取り乱し袋を落としてしまい、部屋の端まで一瞬で逃げ
恐怖に震えていた。




