第32話 迷宮の盗賊
サアーー 。
水の流れる音がする。
「リナルド、音が聞こえてきたよ。もうすぐ13層も終わりそうだね
あれ?? リナルド?」
さっきまで後にいた、あの大男がいなくなってる。
「はぐれた!? イヤ、多分わざとだ」
リナルドののことだ、また自主練とか勝手に決めて、わざとはぐれたに違いない。
「しゃーない、進むか」
この迷宮の10階層より下は、水が下の階層まで流れているので、階段部分では段々状態の滝になっている。
その音さえ聞こえてくれば、下への階段は近いってわけだ。
「次の階層は安全地帯になってると、いいんだけど……。」
ゆっくりと13層に降りていく。
階段を下りたところで、水が引いていた。
通路はそのまま左に曲がったところで、扉が見えた。
その扉は、厚めの木でできており、この迷宮が湿っているからだろうか、腐りかけて所々ボロボロになっている。
近づくと声が聞こえてきた。
「くっそ!! トマス!? バッチオ!!?」
「ダハハー!! たいして強くもないのに、こんな13層まで欲張るからだ!!」
「おいおい! この迷宮に盗賊がいるかも知れないって、噂になってっただろう?
少しは注意するべきだったな!!」
「悪いなあ、見られちまったもんはしかたねえ、この迷宮の餌になってもらおうか」
扉のボロボロになった穴から中を覗くと、魔石ライトで明るくなった室内に男が4人立っている。
手前に一人、その前の血溜まりに2人が横たわっており、その向こうに3人こちらを見ている。
(どうする?)
明らかに向こう側3人は盗賊だ。
その時、手前側の男がこの扉を見るために振り返った。
(あ!!! ジャッコさん!!)
ギルドでわからなかった単語を聞いた人物だった。
シュ!!
真ん中の男が扉に向かってナイフを投げた。
トン!!
(あぶっ!?)
俺の目の前の腐った扉に刺さっている。
(ビビった、見つかっちゃったかと思った)
「ダハハー、逃がしゃしねぇよ」
(よし!! 行くしかない。 敵までの距離はざっと12歩か。
まずは予備のナイフを投げて、後は出たとこ勝負)
壊れかけた扉を蹴破り、右手でナイフを真ん中の男に投げ走りながら
「ジャッコさん!! 左の男をお願いします」
「な!?」
ジャッコさんは驚きつつも、反応してくれた。
俺は腰に付けていた予備の短槍を、右側の男の左肩に突き立てた。
「ぐはあ」
そのままその男を蹴って倒し、真ん中の男に向かって構えた。
「おおぉおおお!!!!」
男は左目に俺のナイフを受けて悶絶していた。
「おおお!! おまぇえぇえ!!!」
(あら、喉を狙ったのに……こりゃ、リナルドに怒られるな)
怒り狂った男は、力任せに剣を上から降り下ろしてきた。
(遅い……やっぱりリナルドの剣速が異常すぎるんなだ)
左のナイフで受け流し、右手で刺さっているナイフを抜き去った。
「返してもらいますからね」
「ぐううあああーー」
真ん中の男はうずくまったまま、動かなくなった。
「痛てぇよおー」
俺は視線を変えジャッコさんをみた。
「ジャッコさん」
「ツアァ!!」
差した剣を、敵のからだを足で蹴って抜いていた。
「トマス!! バッチオ!!」
戦い終わった彼は倒れている仲間の元に駆け寄った。
「すまねえ!! トマス……、バッチオ」
ジャッコさんは彼らの側で泣き始めてしまった。
「うううぅぅ」
俺は一呼吸付くと、廻りをみまわしてみた。
この安全地帯は結構広く、バスケットコート3面分ほどある。
その半分ほどがバリケードをして、先がみえなくなっていた。
どこから物をもってきたのか、黒で覆われていた。
バリケードの先が、盗賊のアジトで間違いないだろう。
入り口を探していたら、壁際の黒い布の先から男が出てきた。
男の体型は太めで足は短く色黒、顔は髭だらけ、髪型もボサボサだ。
ズボンの位置を上げ、チャックを閉めながらのっしのっしと歩いてきた。
「ったっくよー、お楽しみ中だってのに……後でお前らにも楽しませてやるっていいったろ? 静かに…………な!? お前ら!?」
「頭、コイツらがいきなり………痛てぇよー」
「何てこった………」
「ジャッコさん!?」
俺は下を向いてうなだれてるジャッコさんに声をかけた。
「新手です」
「あ……ああ」
彼はゆっくりと立ち上がった。
「おい! ガキども!! ぶっころしてやっからな!!」
背中に背負っていたかなり大きいバトルアックスを構えたながら、頭領は叫んだ。
「ああ……アイツまさか、磨り潰しのギラン!?」
ジャッコさんがつぶやいた。
「え? 知り合いですか?」
「お尋ね者だ、アイツは殺った人間を原型をとどめていないくらい、ぐちゃぐちゃにするって話さ」
「おい! 連れのリナルドはどうした??」
「途中ではぐれちゃって……」
「お前一人ってことか?」
「みたいです」
「ヤバいな」
「みたいですね」
「チェスットーーー!!」
ギランは走りながらアックスを振ってきた。
ドガアァ!!
俺たちのいた地面が、爆発音とともに砕けた。
(すげ! 足は遅いけど武器の速さはなかなか、それにあの威力! どうする!?)
「ジャッコさん!! 一旦下がりましょう」
(とりあえず距離を取ろう)
「逃がすかぁあ!! 」
ドカン!!
ボゴン!!
(ダメだ、逃げてばっかりじゃあ……)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔族化したガルードに会うためニルド国、首都オーセンを抜けた街道沿い、野宿となった今日は早めに夕食をとり、剣の修行をやっていた。
「そらそら、どうしたあ?」
「くそおお!! 当たれ!!」
ガン!!
剣の腹で叩かれた。
「なんだ? その直線的な攻撃は?」
「いつも言ってるだろが、頭を使えって」
「分かってますけど……」
「そーいや、お前が自分を犠牲にして、なんとか倒せた黒いゴブリンな。そいつは魔族だな」
「アイツが魔族だったんですか……」
「無詠唱で魔法使ったんだろ? 他のゴブリンと色も違った。なかなか死なない。
まあ魔族化したヤツに間違いないだろうなあ」
「そうか……」
「魔族化したヤツの、一番厄介なところはどこだと思うか?」
「魔法使うとこですかね?」
「違うな、『知能』だ」
「魔法と剣のコンビネーションを食らったって言ってたじゃあねぇか」
「あ! そういえば……」
「『知能』がなきゃ、そんな芸当はできねぇわな。
それだけじゃない、さっき『なかなか死なない』っていったろ?」
「はい」
「奴ら、急所を外して受けるたりするみてぇなんだよ」
「そんなことまで?」
「まあ、魔族でさえ『知能』があるだけで違うんだからよ。お前もしっかり頭を使え。 特に対人戦にはな」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(くそ近づけない!! どうする?)
「あんた!! リナルドは来ないのかよ?」
「分からないよ! どこかで見ているとは思うけど……」
(あのバトルアックスなんて、今の小剣じゃ受けきれない…)
……………!? そうだ!!
「ジャッコさん!! 入り口まで下がりましょう!!」
(この迷宮の通路は狭い! あんなデカイ武器を振り回せるわけない)
「おら!! 逃がすかあ! 」
ギランは安全地帯の入り口ごと斬った。
ボゴオ!!
「うそだろ? 通路ごと斬った!?」
(だけど、武器の速さは殺せてる!)
「死ねや!!」
今度は上の壁を壊しながら攻めてきた。
(今しかない!!)
俺は自分の出せる最大の速さで、小剣を相手の胸に突き刺した。
「ガアハアア!!」
彼はうしろにばったり倒れたあと、ガクガクと痙攣した。
「はあはあはあ……………ふう………」
「やったのか??」
「なんとかやれたみたいです………」
手には刺した感触が、ジットリと残っていた。
盗賊の数間違ってました、修正しました。




