第26話 精霊の巫女
突然の巫女の来訪に静まり返る食堂。
「えーっと、リタさんよぉ………まあその……座れや?」
リナルドはそう促すと、リタは俺の隣に座った。
あ、今気づいたけどこの子身長低い。
俺より明らかに年上なのに、俺と同じくらいしか座高がない。
そんな目線に気づいたのだろう。
ムスッとした声で
「この隣の小さいのは?」
「あぁ、そいつは俺の弟子でアズマっていうんだ」
「あ、どうも。アズマです、よろしくお願いします」
目が合った瞬間、
「?」
「お主………? いや……気のせいか……」
「で、必要ないってぇのはどういうことだい?」
「言葉通りだが?」
「まあ、あんたのことは聞いてるよ。だが相手はガルード600人だぜ?
そのうえ、魔族憑きになってるかもしれねぇって噂だ。
どうするつもりなんだい?」
「我はこの国の王直々に頼まれたから、ここにおる。
魔族憑きした者共々、消し飛ばすためにな」
「消し飛ばすねぇ……。
じゃあ作戦は変更かねぇ?
どんな感じで攻めるつもりなんだい?」
「我が敵の本部を魔法で消す」
「その間、他の奴等は?」
「巻き込まれぬようにな」
「な!? それだけかよ!!」
リナルドが慌てて聞き返した。
リナルドのこんな口調、初めてきいたかもしれない。
俺は思わず口が滑ってしまった。
「そんなことできるんですか??」
一応リナルドに聞こえるように小声で。
「爆炎の勇者よ、お主の弟子は教育がたらんようだの?
もしや、我のことを知らぬのか?」
「はい、知りま……」
「わーーー!! っと知ってるさ!! な? アズマ!!?」
リナルドとリタににらまれている。
「?? えーーーと知ってます」
「ふん、まあよい。 知らぬと言うなら、明日忘れられぬようにするまでだ」
それだけ言うと、彼女たちは食堂から去っていった。
「ふーー、あいつ怒らせたらヤバいんだからな!」
「はあ……そうなんですか?」
「まったく、噂通りだな。
あれで帝国の姫様ってんだからな」
「帝国!? アーガンディル大陸の3分の1を納める、ガウリアス帝国ですか!?」
ほーー、マジか。国力でいえば世界一かもしれない国の姫様なんて、前世じゃ見ること無かったからな。
それならあの美貌と装備、お供の人達のクオリティにもうなずける。
「なんだ? アズマ?? 手だすなよ。 下手したら、首が飛ぶぞ? ガハハ」
「出しませんよ!!」
あんな性格のキツそうな人は、一緒にいたくないでしょ。
っていうか危ねー。今度からは口を慎もう。
結局部隊長の所に行き、精霊の巫女を援護する作戦を立て直しすることとなり、
作戦の開始日時は明日の明け方からと決まった。
俺たちは早めに休ませてもらったが、俺は明日初めての戦争に寝付けなかった。
夜中綺麗な青い月の光が射すなか、少し体を動かそうと砦の屋上に向かった。
廊下を歩いていると、精霊の巫女のお供の人が立っているのに気づいた。
ふう、精霊の巫女じゃなくてよかった……。
そう思い前を通り過ぎようとしたとき、彼女の瞳から月明かりに照らされて、キラキラ光るものが流れていた。
この状況で、声かけないわけにはいかないよな。
「あの? 大丈夫ですか?」
すっと顔を背け、赤いショートカットの髪が揺れた。
「だ……大丈夫ですから」
「え? でも泣いてましたよね?」
「なんでもないです。 ってゆうか、あなたにはわからないわ!」
そう言うと彼女は、俺が来た方向に歩きだした。
俺はちょっとカチンときたんで、思わず腕掴んで。
「わからないって、どういうことですか??」
「離してください!!」
「離します、けど理由を教えてください!!」
「爆炎の勇者の元、ぬくぬくと過ごしている、あんたなんかにはわからないって言ってるの!!」
彼女は無理やり、俺の手を振りほどいて去ってしまった。
なんだ? 心配して声をかけたら、逆ギレされるってわけがわからん。
そう思い、軽く運動するはずが、ムシャクシャしてガッツリやってしまった。
☆
ドン!!!
「痛ーーー」
俺はベッドから落とされて起こされた。
「ちょっと!! 起こし方ひどくないですか?」
「おめーがいつまでも寝てるからだろう。
今日は作戦の日だ。もうすぐ夜が明けるぞ」
そうだった、思わず寝すぎてしまっていた。
部隊は5つに別けられていた。
本部までの道をを空ける者
空いた道を維持する者
敵の部隊を誘導する者
巫女の周辺の護衛をする者
後方を確保する者
こんなのほぼ突撃だ。
作戦とは呼べないだろう。
俺とリナルドは、巫女の護衛の班に組み込まれた。
そこにはもちろん、巫女のお供の2人もいた。
昨日の赤い髪の少女は、なんともない顔で立っている。
俺と目を合わすことはなかった。
夜明けと共に進軍が開始された。
途中までは順調だった。
本部まであと600メートルというところで、なんと向こうから攻めてきた。
慌てて精霊の巫女は詠唱を開始した。
そう、歌をうたいだした。
『この見渡す限りの白の世界に 息ずく炎の精霊よ 我は巫女 聖アテナの盟約にて 彼の白きガルードたちを………』
しかし途中で普通の1.5倍ほどの大きさのガルードが、無詠唱で氷の槍をリタに放ってきた。
おそらくはこいつがボスなのだろう。
ギリギリでリタは避けたようだ。
「くぅ!!? 剣と盾は何をやっている!!!
お主たちの使命は命懸けで我の詠唱を、完成させることだろうが!!」
リタはお供に劇を飛ばしている。
剣と盾って名前無いのかよ?
「は!!」
「は!」
彼女たちはリタの前に立ち、ボスとの戦闘に入った。
リタは再度詠唱を始めた。
リナルドはボスの取り巻きの、6人パーティーを一人で相手にしている。
「アズマぁ!! こっちは俺一人でいい。お前はリタとお供を頼む」
「はい!!」
とはいえ、リナルドは凄い。
ボスの取り巻きは、普通のガルードより一回りデカイ。
そのパーティーを一人で押し込んでいるのだから。
ガルードのボスは長い棍で闘っている。
お供の二人はいい動きをしている。
だが、この雪では思うようには動けないみたいだ。
2人の連携で、棍の間を抜け剣が刺さるも、硬い羽毛でダメージはなさそうだ。
俺もその連携に続くように、ボスに向かう。
俺の剣は棍で受けられ、続けざまに蹴りが返ってきた。
3メートルほど飛ばされる。着地点にとどめの氷の槍が飛んできたが、それはなんとかかわす。
強い……。
お供の動きもだんだん悪くなってきた。
が、ふと隙ができた。赤毛の方にボスが気をとられた。
いける!
もう片方のお供が、ボスの左肩を狙って剣を降り下ろそうとしたその時、氷の嵐が彼女を襲った。
フェイクだったのだ。
彼女はなんとかかわすも、左半身にその魔法を受けた。
「うわ!!」
「メローヌ!!」
赤毛が叫ぶ。
ボスは力を込め、赤毛を棍で吹っ飛ばし。
リタに向かって氷の槍を放つ。
氷の槍はリタに当たる前に、止まっていた。
メローヌと呼ばれた少女の体に貫通して。
「メローヌぅ!!!」
赤毛の叫び声と同時に、リタの詠唱が完成した。
『…………彼の白きガルードたちを燃やし尽くせ』
リタの廻りから炎の柱がいくつも上がり、それぞれがガルード目掛けて飛んでいく。
ギャーー!
グギャー!
ギギギー!
断末魔が、あちらこちらから聞こえてくる。
そんななか、ボスは炎に包まれながらも立ち上がった。
俺はそのボスに斬りかかる。
『オオオ!! コンナトコロデ……コンナトコロデ、シヌワケニハイカナイヨ
ボクハカエルンダ』
そう言うと崩れ落ちた。
俺は自分の耳を疑った。
この世界に来て初めて日本語を聞いたのだ。
なぜ?? 日本語を??
炎が上がるボスの近くに行き、
「お前、日本人か!? 何で話せるんだ?? おい!!」
が、彼が返事をすることはなかった。
辺りには羽を焼いた嫌な匂いが立ち込めていた。
放心状態だった俺は、赤毛の叫び声で我に帰った。
「メローヌ!! すまない!!」
メローヌを抱き上げ、謝罪する赤毛の隣にリタが来て。
「メローヌ、大義であった」
リタはそう言うと、
「あーはっはっは!! ガルードどもめ! 消し飛ばしてくれたわ!!」
なんだよ!!?
あんたの身代わりになったってのに、それだけかよ!!
俺は言い様のない怒りがこみ上げ、リタを睨んでいた。
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