第25話 朗報と悲報と
ヨセミ村を後にして3ヵ月が過ぎていた。
「2ヵ月で着くんじゃなかったんですか?」
「あぁ、この時期トーテン山脈を越えるのは馬車じゃ無理なんだわ」
「でしょうね、この雪じゃあ」
カンジキみたいなものを履いていなければ、膝したまでは確実に埋まってしまうほどの積雪だ。
「ちょっと会いに行くって感じで、この距離とは……」
「ガハハ、当然だろう。 別の国に行くんだからよ。
船を使わないでいいだけでもましだろう」
「言い方から察するに、船酔いするんですね?」
「バッバカ、おめぇは船も見たことないくせに、船酔いなんて言葉なんで知ってんだ?
おめぇも経験してみればわかるよぉ、ありゃぁ酷いもんだぜ……」
ヒドイ目にあったらしい。
前世では海釣りに、連れて行ってもらったことがあったな。
小舟だったけど、酔ったりはしなかったような。
少し昔を思い出した。
ここアーガンディル大陸真ん中ほどには、トーテン山脈が丁度南北を分断するように横たわっている。
サーラント公国とニルト国の間にあるこの峠は、関所と流通の要所の役目がある、小さいが人通りの多い町がある。
今年は雪が多く、ここまで来るのにいつもより多く時間がかかってるらしい。
「はぁ、やっとまともな宿に泊まれる~」
小さいながらも、宿場町として機能してるんだろう、何軒も宿屋がみられた。
そのうちの一つに宿をとり、荷物を置くと
「おい、ちょっとギルドに顔出しにいくぞ」
「何しに行くんですか?」
「経費だよ、経費。 ここまでとここからの旅費を依頼人から踏んだくるんだ」
「依頼人って、国でしょうに?」
「だから、ギルドが肩代わりしてくれるんだよ」
さすがは豪雪地帯にあるギルド、サイズは小さいが外側は頑丈そうで、中はしっかり暖房がきいていた。
リナルドは早速、受付を始めている。
俺は回りを見渡し、邪魔にならないところに座りかけたその時
「おい!! アズマ!!エミリアから土手紙が来てるぜ」
「土手紙??」
「ガハハ、エミリアの奴、奮発しやがったなぁ!!」
「あぁ、まあ見たほうが早いな。宿に戻るぞ
しかし、よくオレたちがここを通るのをわかったな」
宿に着くと、中庭で地面の雪を削って土を露出させる。
そこにリナルドは、土の魔法石にリングが付いていて、3本の足が付いた拳大のものを取りだし地面に刺した。
「これはな、土の魔法石を利用した手紙なんだぜ。
刺すと地面に文字が浮かぶってわけよ」
すると、アニメでもぐらが移動する時みたいに、地面が盛り上がっていき文字が浮かんできた。
「おぉ!! 凄い!! あれ? でもこれって手紙で良くない?」
「コイツの凄いところは、持ってるもの同士だと、リアルタイムで返信ができるってことだ」
へー、ってことはチャットできるってことかな。
[お久しぶりです、リナルドさん、アズマくん。元気ですか?
リナルドさんのことですから、ニルド国の指名依頼お受けになると思い、ここに土手紙をお送りしました。メッセージをお読みなったら返信をください。]
すぐにリナルドさん、は土の魔法石に付属のペン文字を書いている。
「[リナルドだ、受け取ったぜ]」
[リナルドさん、よかった。 指名依頼お受けにならないのかと諦めかけていましたよ]
「[今年は雪が多くてな、時間がかかった]」
[隣にアズマくんはいますか?]
「[ああ、いるぜ]」
[では結果から申し上げますと、イリアちゃんは教会にて保護致しました。
しかしながら相手に先手を打たれ、イリアちゃんはカサンドロス家の養女となっており、なおかつ蟲による記憶操作をされている模様です。]
「な!? それってイリア大丈夫なんですか!?」
俺は慌ててリナルドさんにつっかかる。
「まあ、落ち着けって」
「[それで、大丈夫なのか?]」
[蟲に関してはカズミさんがいらっしゃるので安定はしておりますが、取り除くのは蟲が死ぬのを待つしかないとのことです。
ですから時間がかかりますが、なんとか対処したいと思います]
「ふうーー……。」
力が抜けて、膝を着いてしまった。
「帰りましょう、今すぐに帰りましょう!!」
俺はリナルドさんにつかみかかった。
「うるせー、今帰ったからってなんになる!!」
「それに、蟲についてはカズミさんが詳しい。彼女の祖国ジンハク地方の技だからな!」
「それでも、今帰ればイリアに会えるんだよ」
「蟲による、記憶操作をされてるんだ。今会いに行っても、余計辛いことになるかもしれないんだぞ」
「なんだよ!! 余計辛いってどういうことだよ!!?」
「お前のこと、覚えてないかもしれないんだよ」
「はあ!? なんだよそれ??」
「そういう技なんだよ」
「[アズマのことは覚えてそうか?]」
[いいえ、残念ながら皆さんの記憶はないようです]
「[そうか、わかった。
俺たちはこれからニルド国にはいる。
何かあれば、また連絡してくれ]」
[わかりました、お二人ともおきをつけて]
「じゃあ、行くぞ」
「……」
俺はそれでも帰りたかった。
それからさらに、1ヶ月後。
ニルド国の首都オーセンを北上して、国の北側の国境の砦にきている。
ニルド国は自国の北側に住んでいる、ガルードと呼ばれる獣人の何度も攻めこまれている。
ガルードは鳥と人間の間のような獣人で、白い羽でフサフサだ。
鳥獣人なのに、空を飛んだりはしない。
しかし、魔法を使えるものや、弓、槍、剣など様々なやつらがいる。
何より、統率のある攻めかたをしてくるので、その知能はかなり高いといえるだろう。
「状況はどうなっている?」
「は、敵は我が砦の向こうの山の頂きに本部があると思われます。
敵の総数は約600。大体が6人一組になって戦闘をしてきます。
に対して我々の数は1000、この雪で物資の補給が滞っています」
「なるほど……長引けばこちらが不利だな。
俺とコイツで、向こうの頭を叩く。
その間に正面から当たって、向こうの本体の数を減らしてくれ」
「え? ですが……相手はあのガルードですよ?」
「ああ、わかってる」
俺たちはは作戦室をでて、準備を始める。
「ねえリナルドさん、数はこっちの方が圧倒的に有利なんだから、わざわざ俺たちが向こうの頭を叩く必要ってあるの?」
「ああ、ガルードはな、獣人のなかでも強い方なんだ。
種族的に力もスピードも、そして分厚い羽毛に覆われているため硬い。
それに6人一組で戦ってくる、その連携はなかなかのもんだ。
つまり600人といっても、人間だと1800人分ほどの戦力ってわけだ」
「ガルード一人で人間三人ぶん………」
正直、少し怖くなった。
準備をし終え、夕食を取っていると、なにやら砦全体が騒がしくなってきた。
食堂の入り口から3人の女性が、俺たちの所に向かってくる。
「騒がしい、原因はあの人たちですかね……」
「あの衣装……」
リナルドは彼女たちの服に、見覚えがあるようだ。
白と薄い水色を織りまぜたレースのドレスに肩当てと胸当て膝をなどは、銀色のものを装備している。
清楚でいて、なおかつ防御力もありそうだ。
3人とも、とても美人だ。
特に真ん中の人は青い髪色で人形の様な綺麗さだが、少しキツそうな感じを受けた。
あと、香水の匂いか? ラベンダーの様な匂いが、結構きつめだ。
その真ん中の女性が話しかけてきた。
「お食事中失礼する。
爆炎の勇者リナルド殿とお見受けするが?」
「そうだ」
「お初にお目にかかる。
我は精霊の巫女リタ
我が来たからには、お主らは必要ない」
そうズバッと言ってきた。
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