第24話
私の名前はエミリア・キャスティロッティ。
キャスティロッティ家は王の親戚筋にあたり、現在の王の第一婦人は私の叔母にあたる。
私自身にも王位継承権があるらしいのだけれど、何番目かなんて忘れるくらい遠いわ。
私の母上が熱心な聖アテナ教の信者だったため、小さいころから教会の仕事に携わってきたわ。私としても、王にはなれなくても、教会を通して人々の生活のためになればと、いろいろな活動をしてきたわ。
でも、ある日を境に全てが変わってしまったの。
夢を見たわ。
顔は見えないけれど、その光ですぐに彼女が聖アテナ様だと直感したわ。
「世界に闇が降り注ごうとしています、私の巫女を送ります。彼女らと共に闇を祓ってください。
貴女には5人目の巫女として、予見眼を授けます。どうかそれを使い巫女を集めてください」
私はこの夢を見たあとから、神力が使えるようになったわ。
私の神力、予見眼は見た人の未来が断片的に見えるの。
その人にとって、大きな分岐点となる場面が見えてるみたいなの。
その力を使って、探したわ。
王都中、貴族のパーティーや催し物、商会の顔合わせなど、顔出せるものは全て。
半年も見つからず、他国に自ら巫女を名乗る者が現れてから焦ったりもしたし、
その人たちとコンタクトを取ろうと動いたりしたわ。
自国では見つからないと諦めかけたとき、たまたま掃除屋の街の教会の炊き出しで、彼ら兄妹と出会ったの。
彼女を見たとき、たくさんの人たちの傷や病気を治してしまう映像が見えたわ。
それからは、怪しまれないように、徐々に近づくことに決めたの。
一つ不思議なのは、彼女の兄であるアズマくんの未来は全く見えなかったのよ。 何度やっても。 こんなこと、他の人では起こらなかったわ。
でもね、だんだん近づくうちに、アズマくんは悪い人じゃないのもわかったし、
兄妹中がとっても良かったので、心配はしていないわ。
そんななか、ついに起こってしまったわ。
イリアちゃんが巫女の神力を使ってしまったの、アズマくんを助けるために。
迂闊だったわ、イリアちゃんの方には、シルバードの部下に護衛させていたのだけれど、アズマくんの方にはサリーナしか気を配らせていなかったのよ。
そして、後手にまわったの。
宰相ダミアーノ・カサンドロスに、イリアちゃんを拉致されてしまった。
私はアズマくんと、イリアちゃんを必ず取り戻すって約束をしたわ。
だから、私は今このカサンドロス家の門の前に、馬車で乗り付けている。
「エミリア様、シルバード様、主人が中お待ちです。 どうぞ」
カサンドロス家の老齢の執事が向かえてくれた。
正門はアイツの腹黒さとは似ても似つかぬ純白で、手入れが行き届いているのだろう、音もなく開いた。
玄関には何人かの使用人が立っており、私たちを向かえてくれた。
「主人はすぐに来ますので、客間にてお待ちください」
絢爛豪華に飾った客間は、私から言わせれば少し流行りを追いすぎてる感じがあるね。
椅子に付き、調度品を眺める時間もなくダミアーノは現れた。
「これはこれは、キャスティロッティ家のご令嬢が私などに会いに来ていただき、誠に光栄です」
そうにこやかに笑うダミアーノに、私は声も出せなかった。
なぜなら、その後ろのドレスを着た少女に目を奪われてしまったから。
「ほらイリア、こちらはキャスティロッティ公爵のご令嬢エミリア様だ。
教会の活動で人々を導いてらっしゃるのだぞ。そして、隣の方がシルバード・ヴァンロッソ侯爵だ。彼はこの国で5指にはいるほどの剣の達人なのだぞ。
ささ、挨拶をして」
「はい、お父様
はじめまして、エミリア様、シルバード様、
ダミアーノ・カサンドロスの娘、イリア・カサンドロスです。
よろしくお願いいたします」
「な!?
…………よろしくお願い……します」
暫く思考が停止したわ。
シルバードが助け舟をだしてくれた。
「ダミアーノ様と3人でお話をしたいのですが」
「そうですね、いいでしょう。イリア、少し下がってなさい」
「はい、お父様」
そう言うと部屋を出ていった。
「どういうことでしょうか?」
思わず私は、声を荒げる。
「どういうこと、とは?」
「あなたの娘はもう、嫁に出たのでは??」
「ああ、そのことですか。 彼女は私の養子にしたのですよ」
「くっ!!」
拳を握りしめる。
すかさずシルバードがフォローしてくれた。
「私たちが、今日ここに来た理由はご存知でしょうか?」
シルバードが聞いてくれた。
「ええ、聖アテナ教の活動に、イリアを協力させて欲しいとのことでしょう?」
「そうです、イリア様をお借りしたい」
「はっはっは、どうぞ。聖アテナ教のことは、余り詳しくないかもしれませんが
聖女エミリア様のお手伝いができるのです、光栄でしょう。
それに教皇の書状が届いては、断れますまい。
一体どうやれば、教皇に書状を書いていただけるのか、この国の政を仕事としてる身としては、気になるところですな」
そののちもう一度イリアちゃんと話して、明日王都のメレセディア大聖堂に来てもらうように言った。
すぐに屋敷を出た。
「完全にヤられたわ。
洗脳かしら? それとも蟲かしら?」
「どうでしょう? 明日しっかり調べてみないと、判りかねます」
「そうね、明日はアデルさんと念のためカズミさんにも診てもらいましょう」
次の日、正午過ぎに大聖堂前に豪華な馬車が停まった。
イリアちゃんは昨日より、少し動きやすそうなドレスを着ていた。
そのデザインは今最も流行しているタイプのものだった。
「あ……あの、よくわからないことばかりですが、よろしくお願いします」
挨拶もそこそこにイリアちゃんの状態をみる。
「私たちのこと覚えてないの?」
「昨日、お会いしましたが?」
「いえ、その前のことよ」
「?? さあ?」
「うう……、とりあえず健康診断をするわ」
「健康診断ですか?」
ほえ? って顔をしてる、イリアちゃん。
「そ……そうよ、これから様々な活動をやってもらうんだから、どこも悪くないか診てもらうのよ」
我ながらくるしいわね。
「はあ、そうですか。 お願いします」
「アデルさん」
アデルさんとカズミさんに診てもらった。
今はイリアちゃんは居ない、少し作業をやってもらっている。
「どうかしら??」
「う~ん、やっかいですね」
アデルさんが難しそうに答える。
私は予想してたことを聞いてみる。
「やっぱり蟲かしら?」
「蟲で間違いないとおもわれます」
カズミさんが答えてくれる。
「まさかサーラントでこんなに高度な操蟲術を、見るとは思いませんでした」
「カズミさん、あなたの国の技術よね?」
「ええ、そうです。術を解くには蟲下しを使えば直ぐなんですが、記憶の障害、悪ければ廃人になってしまう恐れもあります」
「どうすればいいのかしら?」
「蟲の寿命が尽きるのを待つのが、一番だと聞いております。
ただ、この蟲の寿命は個体差が激しく、3年ほどのものもいれば、10年生きたものもいるとのこと」
「う~ん、イリアちゃん連れ戻したけど……これじゃあアズマくん怒るよねぇ?」
怒って、2度とプリン作らないなんて、言わないよね??
お読みいただきありがとうございます。
初の別人物視点でした、難しいですね。




