第12話
季節はすっかり春になった。
最近はアンドレとイリアとの3人で森を散策している。
パーティーを組んだことによって、ゴブリン意外の獣も狩っている。
でかい牙のある猪、1メートル以上の甲羅をもつ陸亀、くちばしの長い鶏。
まあ本業の人たちから見れば雑魚ばっかりなんだが、子供のパーティーが狩って来るような獣ではない。
基本的な戦術は落とし穴に誘い込み、みんなでのタコ殴りだ。
一番旨いのは鶏だ。ポッポって言うらしい。
ただすばしっこい。 罠の方に誘い込むのが苦労する。
だからまだ2回しか狩れてない。
最近やっと、いろいろなものを見る時間ができてきた。
特に食事係りをやっているので、食べ物関係には詳しくなった。
驚いたことにこの世界、調理技術があまりない。
焼く、煮る、揚げるしかないのだ。
だからさっきの鶏を自作の蒸し器で蒸して出したらサリーナさんが驚いていた。
イリアはなんでも旨そうに食べてくれる。
今日は久しぶりにポッポ狩りにきている。
昨日、ポッポのつがいの巣を見つけたからだ。
昨日のうちに落とし穴を用意していた。
1匹を石を投げて誘きだし、足元のロープで転ばして全員でタコ殴りにした。
2匹目は用意していた落とし穴にはめてタコ殴り。
小一時間ほどで巨大鶏2匹ゲット捕らえた。
なにより嬉しかったのが卵だ。
鶏もでかいけど、卵もでかかった。普通の卵5個分くらいだろうか。
この世界はダチョウみたいなのが小さくて、鶏が大きいという……。
最近イリアは剣もサリーナさん習っているが、料理も俺に習っている。
そのせいか、今日はなに作るの? としきりに聞いてくるようになった。
今日はこれまでお世話になった人のためにプリンを作ろうと思う。
自作の蒸し器もあるし。
砂糖は高価だが水飴みたいなものがある。
甘さはこいつで代用だ。
器は安く売ってたコップをまとめ買いしてきた。
牛乳は高価なんでヤギっぽい獣の乳だ。
この獣アルポって言うらしく、結構飼ってるところが多い。
俺もお金ができたら1匹欲しいと思っている。
なぜなら、少食な癖に、乳をよくだすからだ。
簡単に現金収入になるし、乳は美味しいのだ。
てなわけで、教会にいる。
炊き出しの日なのでエミリア様もきている。
「お久しぶりです、先日はお世話になりました」
俺とイリアで頭を下げた。
アンドレは隣にいるが、スゲー緊張してる。
「エエエ…エミリア様、は…はじめまして、アンドレアス・ガッリーニと申します」
一応貴族っぽいお辞儀をしている。
あれ? アンドレ貴族なの?
「あら? ジャンノットさんの?」
「は…はい、三男になります」
「ガッリーニさんには無理言って炊き出しさせてもらってるの、よろしくお伝えくださいね」
「は……はいぃ」
顔が真っ赤だ…。
「あはは…」
つい俺とイリアは吹き出してしまった。
「おい、そんな笑うことないだろう!!」
アンドレはむすっとしてる。
「これこの前のお礼です。薬代とかなにからお世話になりましたんで。
今日狩ったポッポが卵もってたんで、作って来ました」
全員に配る
一応、シルバード様も来てるんで配っておく。
「いただきまーす」
みんなが口に入れたのを確認したけど、誰も声を出さない。
「……あれ? 美味しくなかったですかね??」
卵が生っぽかったのかな?
「美味しい!!! 何これっ!!?」
エミリア様……?
顔近いですよ!?
あっというまに無くなった。
驚いたことに、シルバード様は光の速さで2個目に手を出していた。
イリアとアンドレは味見に食べていたけど、2個目も美味しそうに食べてた。
「信じられない!?
私これでも甘い物には目がないけど、今まで食べたどの食べ物とも違うわ」
「これは………毒だ」
ボソッっと初めてシルバード様が俺を睨みながら囁いた。
「シルバード……」
エミリア様が声をかける。
「私は武人だ。常に己を律して何時なんどき敵がきてもいいように備えている。
だが……、これを食べ続けていたいという思いを律するのは困難だ……。
己の欲望がこんなにも恐ろしいものだとは……」
「アズマくん!!!」
今度はエミリア様がスゲー睨んでる。
「ひゃい!?」
ぶっちゃけこんな美人に睨まれるとか怖い。
「これの作り方、絶対に人に話しちゃだめよ!!」
「え!?」
「じゃなきゃ、殺されるわよ?」
「えーー?? 食べ物の作り方で殺されるんですか?」
「当たり前よこんな革命的なの家が建つ、いいえ! 豪邸がたつわ!!」
持っていたスプーンを俺の方に向けて言いきっちゃった。
「私も、もしキミが2度と私にこれを作らないと言ったら、躊躇いなく……斬る!!」
シルバード様が睨む。
「ええーー!!?」
斬られちゃうらしい。
「いやいや! 作りますよ!?」
プリン食べられないから斬るって、それでも武人かよ!
「あはは」
エミリア様とオリーブさんたち尼さんと、イリアもアンドレもみんなが笑っていた。
しばらく話をしたあと、俺たちは教会を後にした。
急な若い3人の来客が帰った教会で、金髪の少女と銀髪の青年は話をしていた。
「不味いわね……。彼女だけじゃなく、彼の方もあんな才能があるなんて…」
少女はテーブルに腰掛け、足をぶらぶらさせている。
「彼は、なにかひっかかる」
「シルバード、あなたそればっかりね。武人の勘ってやつ?
でもまあもうしばらくは様子見かな。部下によろしく言っておいて」
「かしこまりました」
家に帰った俺は、夕食の後にプリンをサリーナさんに出した。
「きゃあぁ!? なにこれおいしぃ!!!?」
がばっとサリーナさんが抱きついてきた。
「ちょ!? 胸が当たって……息ができ……」
ドンッ!!!
足に激痛が……。
どうやらイリアさんがおもいっきり足を踏んできた。
「あうぅ!!」