まだ終わらない
午後の18時が過ぎ陸と鈴はまた明日くると今日は帰った。
二人の入れ違いに母さんが訪れ事情を聞かされた時はドキッとするもまさか隣にいる青年に殺されそうになったとは口が裂けても言える訳でもなく僕が散々怒られたことは明白だろう。
18時35分、口を割らない頑固さに諦めたのか母さんはスリスリとリンゴを包丁で剥きだす。
途中で青年が母さんに話しかけて、自分は光楽さんの弟子と名乗り話を進めようとする。
当然話を最後まで話させる訳にもいかず、イライラマックスツッコミ満載に青年を蹴り飛ばした。
18時36分、母さんに二人が仲が良いわねと勘違いされる瞬間だった。
18時45分、話の展開に青年の名前を聞き取るチャンスが訪れ聞く。
名前は十勝火富だそうだ。
女性みたいななまえだと言ったらガチのほうでショックを受けていた。
気にやむ名前らしい。
「じゃあ面会も終わりだしお母さんはそろそろ帰ります。明日も来るから大人しくしてないと駄目よ。そうだ、なにか欲しいものがあればかってくるけどこうちゃんなにかいる?」
「別に欲しいものは特にない、もういっていいよ母さん」
「もう反抗期だわお母さん悲しい」
「悲しいなら悲しい素振りを見せろよ、ニコニコ笑ってるじゃねぇか…」
「フフッ じゃあ火富くん。こうちゃんのことお願いね」
「分かりました任せてください母様」
19時ジャスト。
やっと母さんが帰った。
「いいお母さんですねアニキ!」
「お前をアニキした覚えはない」
由実ママから自分用日記帳を受け取ったノートをパタッっと閉じシャープペンを筆箱に入れる。
「日記なんて書いてるんですかアニキ、ちょっと見せてください!」
「だめだ」
「えーいいじゃないですかアニキはケチだな」
と言いつつもそれ以上は求めはしなかった。
「……別にいつも書いているって訳じゃなくて今日はたまたま書いただけ。ほら今日は嫌な日だったから日記にした、僕は嫌な日があればそれを日記にするんだ、それだけだよ」
「ふーんなんかよく分からないですけどご立派ですよアニキ」
「分からないのに誉めるなよ……とはいえもうここ近頃は書かずに済みそうだ。今日みたいな日がもう起こるはずもないしな」
こう何べんも厄日が続くほど僕は悪い事をしていないしと自分に言い聞かせる光楽。
いつのまにかミトという精霊なんたらもいなくなっていることだし、ひょっとしたらこれは何かの悪い夢すら覚えてくる。
だけど夢ではなかったとそれは光楽は分かっている。
分かっている筈なのにどうにも実感が湧いてこない。
あんな非常識な力、まるで物語のような展開はいつも通りの日常を暮らしていた光楽にとって全てが現実だと受け入れるほうが難しいことだ。
「アニキはもう終わったと思っているようですね」
「ああもう終わったんだよ、お前が能力を使わなければ全てが終わる」
「……そうですね、僕が力を使わなければ事はもう終わりです、ですがこれだけは知っておいてください。僕だけが力を持っている訳じゃないということを」
「おい、その言いぐさはまだ他にも能力を持っている奴がいるということなのか?」
「……」
「おい答えろよ火富」
「今日はもう寝ることにしましょう。僕とて疲れています。安心してください。約束通り明日全てをお話ししますので」
「なんだよそれ」
機能性か先程より少し火富に元気が欠けていた。
光楽も明日話してくれるならそれでもいいと思い、今日はもう寝る事にした。
時刻は午後の19時36分、寝るのにもまだ早くしばらくは眠れないでいた光楽だった。