墓参り
エリュシオン学園の二次創作小説です。
ある晴れた9月1日。
夜劒零(jb5326)はバラの花束を手に駅の改札口の前で、ある人物を待っていた。
ちらちらと駅前広場にある時計を見ては、改札口に視線を送る。
しかし、目当ての人物がいないようで溜息を何度もついている。
「おっそいなぁ~。 もうすぐで時間なのに……遅れてくる奴じゃないんだけど……」
時計はもうすぐ3時を指す。
どこか焦った様子で改札口を見ていると。
「おっ待たせ~!! 夜劒く~ん!!!」
階段を一段飛びで降りてくる水色のワンピースを着た少女。
…………しかし、その顔には不似合いな狗の面がついていた。
「遅いぞ!! 狗鷲!!」
「いやいや、準備に手間取ってね。
なに、時間通りだよ。 遅れてはいないだろう?」
“狗鷲”と呼ばれた少女が指差した時計は3時ぴったり。
「そうだけどさぁ~……」
「だろ? ほら行くぞ~」
「あ、待てよ!!」
納得がいかない零を置いて歩き出す狗鷲。
渋々零はその後を追う。
二人がたどり着いたのはとある山の奥の奥。
ひっそりと二人以外には知られずに佇む桜の木。
しかし季節は秋に近いため、当然その枝の先には花はついておらず。
色鮮やかな緑色の葉が多い茂っている。
「やぁ~っと着いたなぁ~」
「まぁ~ったくだよ。 こんな所に墓なんぞ建てちゃってさ。
墓参りする者の身になって考えろと……」
「まぁ、こっちの事情なんて知らん顔。
好きなところに墓をたてるなんて……師匠らしいじゃないか」
「…………まぁな」
墓。
そう、この木は二人にとって、忘れられない者の墓。
夜劒にとっては師匠であり。
狗鷲にとっては腐れ縁な同業者。
「……鮮血の鴉、初代。 緋色」
狗鷲がその名を呟く。
去年の今頃。
彼と狗鷲はある研究所に捕らえられた夜劒を助けに忍び込み、戦って………………
………………夜劒の自由と引き換えにその命を失った。
「よ~く考えるとさ、ほんと……師匠バカだったよね~」
「……それでも、俺には救いだった……………」
「そういえばさ、夜劒くんと緋色ってどこで出会ったんだい?」
「あれ? 話してなかったか?」
「うん。 緋色からも聞いたことなかったね」
「そっか……。 2年前の今日だよ。 師匠と出会ったのは」
「今日?」
「そう、今日」
「……………ちょっと待て。」
ガシッと夜劒の肩を掴む狗鷲。
「我の記憶違いで無ければ緋色はお前と初めて会った日を零の誕生日にしたんだぁ~!と
自慢していたような気がするのだが」
「ああ。 そういえばそんな事も言っていたなぁ。
その後冷たい目をした狗鷲にドン引きされてたっけ」
「いや、引くだろ。 って事はお前、今日が誕生日か……」
「ん? ああ、そうだけど?」
「っ! ………………んの、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「いっ!?」
夜劒の耳を引っ張って大声で叫ぶ狗鷲。
「ちょっ、耳元で叫ぶなよ!!! きーんってなってるぞ! きーんって!!」
「んなことどうでもいい!! 緋色の墓参りもどうでもいいね!
ってか、あんたの誕生日に死んだコイツに手向けてやる花なんかない!!」
「それは酷過ぎじゃ……」
「と・も・か・く!! 緋色の墓参りはお終い! さっさと山降りるよ!!」
そう言ってさっさと踵を返し、来た道を戻り始める狗鷲。
「え、ちょっ!! 待てよ狗鷲!! ここに来てまだ30分も経ってねぇよ?!
ってか、どこに行くんだよ!!」
慌てて後を追いかける夜劒。
狗鷲は首だけ振り向いて、当然のように言い放った。
「あんたの誕生日を祝いに行くに決まってるだろ?
緋色も、あんたの誕生日に自分の事で辛気臭い顔をしてるのを見るより、
祝ってもらって嬉しそうに笑ってるあんたを見たいに決まってるさ。」
ほら、行くよと再び歩き出す狗鷲。
夜劒はしばらく佇んでいたが、やがて口元に笑みを浮かべて狗鷲の後を追い始めた。
――――――2年前――――――
『よし、零。 お前の誕生日は今日だ。 俺とお前が初めて出会った日。
お前が俺の弟子になった今日この日が! お前の誕生日だ。 いいな?』
『…………でも、俺の家族が死んだのも今日だよ?
そんな日に俺……嬉しい顔なんて出来ないよっ………』
『バカだなぁ。 確かに今日はお前の家族の命日でもあるけどよ。
……殺されたとは言え、親なら、子供の辛気臭い顔を見るより、
笑顔を見たいに決まってる。 だから、笑ってやれ。 心の底から』
そう言って俺の頭を撫でてくれた師匠。
その手はすっごい暖かかった……。
「……にしても、まさか同じ事を言うとは……………」
「うん? 何か言ったか夜劒。」
「いいや? で、どこに行くんだ?」
「そうだなぁ~。 食べ放題にでも行くか…………我のおごりで」
「え?! 本当か?!」
「お前の誕生日なんだ。 それくらいしてやるよ」
「やった!! 早く行こうぜ!!」
「おい! ちゃんと前を見ろっ「うわっ!!!」………言わんこっちゃない」
こけた夜劒を面の下で苦笑して見ながら、狗鷲は一瞬だけ後ろを振り向いて。
「…………」
何かを呟いて夜劒に駆け寄り、共に山を降りた。
うん……着地点がよく分らなかった(苦笑
とりあえず、夜劒零くんお誕生日おめでとうございます!!
出演ありがとうございました!!