異世界に跳ばされた少年、冒険の始まり編
インフィニティア冒険物語 異世界に跳ばされた少年、冒険の始まり編
青い空を流れる白い雲、秋月勇矢が気がついた時最初に目に飛び込んできたのはそんな光景だった、背中に感じる固い地面の感触が、自分が仰向けに倒れているのだろう事を教えてくれていた。
「……おりょ? 目が覚めた?」
「……????」
不意に覗き込むような様子で女の子の顔が現れて驚く、長い銀髪に透き通るような蒼い瞳が屈託のない笑みを浮かべているのにドキッっとしながら身体を起こそうとして、このまま起こすと女の子とぶつかるなと気がつき横にごろりと転がってから上半身だけを起こして女の子を見る。
年齢は十代後半から二十歳といったところだ、白いローブのような服に両腕に可愛らしいデザインの腕輪を嵌めていて、ペンダントのように何かの鍵を首から紐でぶら下げている。
「……って、ここは……?」
勇矢は自分が森の中のような場所にいるのに気がつき、首をかしげた。
「君の名前は?」
「……え?……勇矢、秋月勇矢……」
「そっか、あたしはエターナル、永遠の魔女エターナルだよ?」
魔女という聞きなれた、しかし普段の生活ではまったく縁のない言葉を口にするエターナルと名乗った女の子を勇矢はいぶかしげな顔で見据えた。 確かに彼女の衣装を見れば魔女という風ではあるが現実に魔女などいるはずもなく、コスプレ少女という言葉が勇矢の頭に浮かんだ。
「……あの……」
「えっとね? 君は異世界に跳んじゃったんだよ」
「…………は?」
一方的に話を進めるエターナルに戸惑い気味な勇矢は、異世界というまたしても日常生活とは縁のない単語に更に戸惑う。 エターナルの言っている事は単純明快であり意味を理解するのは簡単なのだが、その意味というのはあまりにも現実味が無くからかわれているとしか思えないのだが、エターナルの邪気のまったく感じられない笑顔は彼女がそんな事をするとは思わせなかった。
無論、初対面であるのだがそう思わせる何かがエターナルにはあった。
「勇矢、気を失う前のことを思い出せるかな?」
言われて記憶を手繰ってみる、自分が白いシャツに黒いズボンという高校の夏服を着ているのだから学校か、あるいは登下校の最中だったのだろうと思う……と、そこまで考えてはっと思い出した。
昼休みに友人と校舎の屋上で話をしていて、そしてフェンスに寄りかかった途端にフェンスが外れて真っ逆さまに落ちたのだった。
「……おいおい、じゃあ俺は死んだのか?……で、ここはあの世で君は死神なのか?」
導き出された結論にぞっとなる勇矢にエターナルは心外そうな顔をした。
「だから~あの世じゃなくて異世界っ!! それにあたしは魔女だって言ったでしょう~!」
ムスッっとした表情をしてからエターナルは事情を説明した、簡単に言うと屋上から落下した先に偶然にも次元のひずみが生じて勇矢はこの世界に跳ばされたとの事だった、唖然となる勇矢にエターナルは「運が良いんだか悪いんだか分からないよね~♪」と笑ってみせたので今度は彼がムッとなる。
「おいおい! 笑い事じゃないだろ? それが本当ならシャレにならないじゃないか!?」
怒鳴ってから、まだ半信半疑というところだが、それでもエターナルの話を受けいれている自分に驚く。 非現実的とはいえゲームや小説では割と聞くシチュエーションであり、一種の予備知識的なものがあったにしてもだ。
「あ~ごめんね? とにかく、それであたしは君を元の世界へ戻そうと思ったんだけど……無理っぽいのね~これが」
「……はぁ?」
「何でか知らないけど、ここと君の〈カケラ〉へのゲートを繋げようとしても不安定なんだよね~? さっきなんか危うく君を公国軍がコロニー落としをしてる〈カケラ〉に送っちゃうとこだったよ~」
要するにエターナルではこの異世界の外へと出すことは出来ても元の世界へとたどり着ける保障はないと言いたいらしい。
「それでね、君にはこの世界にある《願いの宝珠》を取りに行ってもらいたいのよ」
「……《願いの宝珠》?」
エターナルはどんな願いも叶えてくれる魔法のアイテムだと説明したが勇矢にはどうにも胡散臭い代物に思えた。
「……それで俺は元の世界に?」
「ん? 無理だよ~」
「おい!」
なんだよとエターナルを睨みつけ「どんな願いでも叶えるんじゃなかったのか?」と聞き返す、流石にふざけているとしか思えなかったが、「魔法のアイテムって言っても所詮は人が作った物だし、何にだって限界はあるよ~」と言われれば、確かにそういうものかもという気はした。
「だからね、その《願いの宝珠》とあたしの力で君を元の〈カケラ〉へと帰すのよ」
「成程、そういう事なんだ……それで、その《宝珠》はどこに?」
「ここから徒歩で百年くらいの場所~♪」
「着く前に死ぬわっ!!!!」
大声で突っ込みを入れるとエターナルは「冗談だよ~♪」と可愛く舌を出して笑った、どこまでも自分ペースな彼女に勇矢は呆れるしかない。
「まあ、素人の足でも一年はかからないと思うよ?」
「……一年かぁ……」
それでも随分と遠くにあるには違いなかった、勇矢には歩いて旅をした経験などないから漠然としたイメージでしかないが、徒歩で一年は気が遠くなる。
「それじゃ、はい~♪」
エターナルはどこからともなく小さな布の袋を出して渡す、それを両手で受け取った勇矢はずっしりとした重みを感じた。
「それが当座のお金ね? あ、もちろん魔法で偽造したとかじゃないから安心してね♪……後は、アイン!」
その言葉と同時にエターナルの左腕の腕輪が光を放ち、そして身長四十センチ程の女の子へと姿を変えたのに勇矢はまたしても驚く事になった。
『はい、エターナル様』
「アインは勇矢を手伝ってあげて、《永遠なる刻の剣》になっても良いから」
「ええっ!?」
エターナルの命令にアインは驚きの声を上げて勇矢の方を見た、その表情は露骨に嫌そうである。
「お願いアイン!」
「……分かりましたよ……」
手を合わせ拝むように頼まれれば嫌とも言えないらしい、状況だけを見れば使い魔とその主人という風だがエターナルはアインを使い魔というより友達とでも思っているようである。
仕方ないとでも言いたげに大きく溜息をアインは吐くと勇矢に言う。
「私はこの《永遠の腕輪》に宿る武具精霊のアインだ、エターナル様の命で君に力を貸そう……」
その言葉が言い終わるか終わらないかのうちに再びアインが光を放ち、勇矢が気がつくと自分の腕に先ほどまでエターナルの左腕にあった腕輪が彼の左腕に嵌っていた。
「いったい……?」
「アインは君の水先案内人と戦闘時の武器になってくれるよ」
「戦闘?」
勇矢の疑問にエターナルは答えずに続ける。
「まずは、カーマイン・グローランスの所に行ってね。 ここから半日足らずの町に住んでる賢者だよ~」
エターナルはそう言うと右手をさっと振り、次の瞬間にはその姿が消えていた。 「……な!?」と驚きの声を出す勇矢にアインは転移魔法を使ったのだと説明する。
「……転移って……」
トリックとだと言ってみせたいところだが、少なくとも勇矢に先の現象をトリックで説明する術は無く、魔女いうのも本当なのかも知れないと思った。
途中何度も休憩しながら勇矢とアインが町に着いたのはエターナルと分かれてからちょうど半日だった、もっともそれは勇矢の腕時計で時間を測ってのもので、ここが異世界なら半日というのかどうかは不明であるが。
石作りや木造の建物が立ち並ぶその町は日本の街中とはまったく違う光景であり、ゲームのファンタジー世界そのものと言って良かった。 そんな町を歩いていると道行く人が好奇だったりいぶかしげだったりという顔で見てくるのは勇矢の服装が町の人のそれとは明らかに異なっているからであり、そんな視線を受けていると衛兵とか自警団か何かに職務質問でもされるのではないかとヒヤヒヤする。
「……それで、カーマイン・グローランスって人はどこにいるんだ?」
そんな状況だから、通行人に道を聞くという気にはなれずアインに尋ねてみる。
『この道を真直ぐに進んで行けば着きますよ』
アインの声は頭に直接響いてくる、別に普通に声を出そうとすれば出来るのだが人のいるところでは目立つのを避けるためにそうしているらしい、もっともそれはそれで勇矢がぶつぶつと独り言を言っているように外からは見えるから目立つのではないかという気がしたので勇矢も出来るだけ小声で話しかけている。
そうこうしていると大きな屋敷が目に飛び込んできて、アインはここがカーマインの屋敷だと言った。 日本の一般的な家の何倍もありそうなその屋敷はこの町の建物と比べても大きく、ここの住人とは一般人とは言い難い人間だろう事を容易に予想させる。
「……さて、どうするか?」
勇矢の背丈より高い塀に囲まれた屋敷の唯一の入り口には当然と言うべきか呼び鈴らしきものはない、そうなるととにかく大声で叫んでみるしかないかと勇矢は大きく息を吸い込んだ。
「……あの……お師匠様に何かご用ですか?」
「……え?」
不意に背後から聞こえてびっくりした勇矢が振り返ると、そこには十代前半くらいで薄い緑の髪を後ろでまとめた、いわゆるポニーテルの少女がその深い緑の瞳に警戒の色を浮かばせて勇矢を見ていた。
「……あー、俺は怪しい者じゃなくて……え? あ、そうか……えっと、名前は秋月勇矢って言って、カーマイン・グローランスって人に会いに来たんだ」
口を開いてからのアインの『まずは名乗りましょう』という言葉に慌てて名乗り、用件を伝えた。
「そうなんですか? 私はルミーア、ルミーア・トリーティアと言います。 それでお師匠様にどんなご用なんでしょう?」
勇矢の服装のせいなのだろうがまだ警戒しているようだった、自分にとっては普通の姿が他者には異様に映るという事実にここが異世界なんだなという認識を強める。
『エターナル様の名前を出せばいいですよ?』
「……えっと、エターナルさんって人に言われて……」
「あ! エターナルさんのお知り合いの方でしたか、それは失礼しました。 すぐにお師匠様に取り次いできますので少々お待ちください」
ルミーアはそう言って駆け足で屋敷へと入っていった。
十数分後に応接まで会ったカーマイン・グローランスは二十代半ばというくらいの男性だった、ティーカップに淹れられた紅茶のような飲み物が置かれたテーブルをはさんで向かい合いソファーに座るカーマインはアインの説明を聞いて、やれやれと肩をすくめた。
「……まったく、エターナルも相変わらず適当と言うか大雑把と言うか……」
「……あの、グローランスさん?」
勇矢が戸惑いながら声をかけると「カーマインでいいですよ」と笑顔で言うと、どう説明したものかという様子で腕を組み考え込む。
「……そうですね、まずは、君も聞いたでしょうがここは君からすれば異世界ですね。 私達はインフィニテアと呼んでいますが、そしてこの国はクラージュ王国になります」
そこまではここに来るまでの道中にアインから聞いていた、異世界というものの文明や人の価値観や言語形態は勇矢の世界に比較的近く、そこまで大きいギャップは感じないだろうとは言っていたが、落ち着いて考えると都合よすぎな気がした。
「こうして会話が出来ているのですから、私達と君の〈カケラ〉は比較的構成が近いのでしょう。 ご都合主義にも思えるでしょうが無数に存在する〈カケラ世界〉には当然そういう事もありえるんですよ」
まるで心を読まれたかのようなカーマインの言葉に勇矢はぎょっとなった。
ちなみに〈カケラ〉というのはいわゆる平行世界とかそういう類のことだとはアインから聞いている。
「そして君が元の〈カケラ〉に戻るために必要な《願いの宝珠》ですが、ホープ神殿という古代の遺跡にあるらしいと聞いていますね」
らしいというのは誰も確認した事がないからで、そもそも存在自体が伝承の中の代物というレベルだとカーマインが言う。 勇矢は途端に不安になるが、それを察したカーマインがエターナルが言うなら大丈夫ですよと補足した。
何を根拠に言うのだろうという気がするが、しかし他に選択肢もないと思えば信じるしかない。 寧ろ、ここまで面倒を見てくれる人達がいることに感謝するべきだろう。
「そこへ行くには、おそらく一年近くはかかるでしょうね。 それでも君は行くんですか?」
「はい、元いた世界には俺の生活があり家族や友達がいます、それに俺はこの世界にとっては”異物”ですから、きっといつまでもいてはいけない気がするんです」
偉そうに言ってはみたが、こういう考え方をするのはゲームなどをプレイしていて感じた事を言っただけであり、中身がある言葉だとは勇矢は思わないが、それでも自分の正直な考えである。
「……成程、分かりました。 とにかく今日はこの屋敷に泊まっていってください、明日の朝までに君を手伝ってくれる人を手配しましょう」
「手伝い?」
「君はこの世界に詳しくありませんし、旅先では危険な魔獣と遭遇することもあるでしょう。 どうやら多少は武術の心得があるようですが、実戦経験はなさそうですしね」
勇矢は驚いてカーマインを見た、確かに勇矢は祖父から精神の鍛錬と称し剣道を習っていたことがある。 おそらくは筋肉のつき方とかそういった雰囲気から見て取ったのだろうが、そんなことはアニメなどの常人を超越した達人クラスのキャラのする事でリアルにしてみせるという人間がいるとは想像もしたことない。
「……あなたやエターナルさんは、いったい……?」
「ん? 私はただ魔法なんかに詳しいだけの男ですよ、人は勝手に大賢者と呼んでるみたいですがね? そしてエターナルは無限の〈カケラ〉を渡る魔女、そして私の友人……それだけですよ?」
「……異世界インフィニテア……かぁ……」
カーマインが用意してくれた客室のベッドに寝転がり呟くと窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。 どうやらこの世界にはガラスがあるらしいのは視線の先のガラスで出来た窓を見れば分かる、異世界ではあってもゲームのファンタジー世界ではないのだからそういうものであろうとは思う。
夕食に出されたパンと焼き魚にサラダは日本でのそれと見た目も味も大差なく、とりあえず生きていくには問題はなさそうだ。 問題があるとすれば向こうの世界には無い未知の病原菌の類だろうが、それは考えても仕方なくその時はその時と考えるしかない。
『……あなたは随分と落ち着いていますね? 普通はもっと取り乱したり悲観しそうなものですが』
「そうかな?」
アインに言われると確かにそういうものなのかも知れない、剣道で多少は精神的に鍛えられているとか生来の楽天的な性格とか、何だかんだと世話を焼いてくれた人がいるというのもあるだろう。
エターナルの言っていた事ではないが、確かに運が良いのだか悪いのだか分からない。
「……なあ、エターナルさんはどうして俺を助けてくれたんだ?」
『……あの方にもいろいろあるんですよ、強いて言えばご自分がそうしたいからしているんです。 だから勇矢はエターナル様のご好意を素直に受けてくれればいいんです』
「ああ、感謝はしているよ」
エターナルもカーマインもおそらく勇矢に見返りは求めていないだろう、強いて言えば勇矢が無事に元の世界に帰ることだ。 今日始めて会った勇矢にそこまでするのはきっと困っている人間が目の前にいて、自分達に助ける知識や力があるのに無視するのは”気分が悪いこと”なのだろう。
だからと言ってただ好意に甘えているだけの人間にはなりたくないから、もし借りを返せる機会があれば出来る限りの事はしたいと勇矢は思う。
「……ふぁぁぁあああ……眠くなってきたな……」
『なら今日はもう眠った方がいいですよ、明日からは大変なんですからね?』
「ああ……そうだな……」
勇矢は静かに目を閉じて、そしてすぐに深い眠りに落ちた。
翌朝に準備をしてカーマイン邸の門で待っていた勇矢が、カーマインが連れてきたという三人の助っ人に目を丸くしたのは、三人とも若い女の子だったからだった。
「昨日も名乗りましたが、ルミーア・トリーティアです」
手に金属製のロッドを持ったルミーアが丁寧にお辞儀をすると、カーマインは彼女は自分の弟子なのだと紹介する。 今回勇矢に同行させるのはルミーアにとってもいい修行になるだろうという事らしい。
「……サイサリス・リーチェ、ルミーアの友達……」
長い藍色の髪で紅い瞳の少女は淡々と名乗る、見た目はルミーアより少し上と言う感じだが、その感情が無いかのような表情や立ち居振る舞いはまるで人形のようだと勇矢はそんな印象を持った。
「……って、君の背中のそれって……」
「……《ラクリモーサ》、私の武器……」
彼女の身長ほどもありそうなその大鎌はさながら死神のそれである、感情の乏しさといい近寄りがたい雰囲気の子だなと思った。
「あたしはユリィ・ゼフィランサス、こう見えてもハンターなんだぜ?」
オレンジのショートヘアの女の子はそう名乗ると自慢げに《ハルバート》を掲げてみせた、「ハンター?」と勇矢が聞くと魔獣退治などを生業とする人達だとカーマインが説明し、冒険者とか傭兵みたいなものかと納得した風に呟く。
「彼女には私も何度か仕事を依頼した事がありましてね、ルミーアとも仲が良いので今回同行を頼んだんですよ」
「え? それじゃ、カーマインさんが依頼料を……」
「ああ、それは心配ないぜ?……っと、ユーヤだっけ? 今回は道中にあんた達に仕事を手伝って貰うって条件で依頼料は貰ってないんだ」
カーマインの代わりに答えたユリィの言葉に最初はほっとし、そして彼女の仕事を手伝うと言う条件に不安を覚えた。 正直魔獣とか相手に戦える自信はないと、ゲームのモンスターのようなものを頭に浮かべながら思うが、自分が手伝って貰う以上は勇矢も誠意をみせるのが筋であるから出来る限りはしようと決める。
「彼女達には君の事は説明してありますからね、何かあれば遠慮なく相談してくれていいですよ」
「……よく信じたなぁ……」
少なくとも勇矢の世界なら中二病とかそんな言葉で一笑されるのがオチだ。
「そういうものですよ。 とにかく勇矢君、道中はくれぐれも無理をしないように。 君が無理や無茶をすればあの子達にも迷惑がかかるんですからね」
一人の勝手な行動が仲間を危険にさらす、ゲームやアニメでは一度は描かれているもので大抵はピンチに陥っても何となっているがそれは架空の物語のご都合主義であり実際にはそう甘くは無いだろう、だから勇矢は黙って頷く。
そして勇矢は三人の仲間を見やり、口を開く。
「こんな見ず知らずの俺を手伝ってくれてありがとう、俺は旅なんてした事はない魔獣との戦闘経験だってないからきっと迷惑をかけると思う、それでもあえて言わせてくれ……これからよろしく頼む!」
そう言って頭を軽く下げる、それは感謝であり、おそらくかけるだろう迷惑への謝罪だった。
「……うん、そういうのは大事だな」
ユリィが感心したように言った。
「でも、こうして一緒に旅をする以上は変な遠慮や気遣いはなしだよ? それがチームを組むってもんなんだからさ」
「ああ、ゼフィラ……いや、ユリィさん」
「良し! 分かってるなあんたは」
そう言いながら差し出されたユリィの手を勇矢は握り返した。
「うわぁ……ユリィが初対面の人を気に入ってる……」
「……珍しい」
そんな若者達のやり取りを見守っていたカーマインは、これなら大丈夫だろうと安心する。 年頃の女の子三人を同行させるのに不安もあったが、この秋月勇矢という青年は予想以上に誠実で礼儀正しい人間のようだ。 何より前向きで物事を悲観的に考えない性格らしく、それは冒険をするのに大事なことの一つだ。
がんばってください、旅の無事を祈っていますよとカーマイン・グローランスは心からそう思うのだった。




