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 短くなった髪から覗くのは通りすがりの女性が思わず二度見してしまうレベルのイケメン…とまで上手い話ではなかったけれど、彼の長身と相俟って一般人としてはかなり高レベルな男に仕上がっていた。

 今着ているグレーのジャケットに少しくたびれた白のVネックシャツにインディゴブルーのジーンズで十分彼の魅力が引き出されている。男の人は余計な飾りなんて無い方が良いと思うのはあたしの個人的な趣味趣向かもしれないけれど。

 それにしても、これがあの白田だなんて!まだ髪切って眼鏡外しただけだよ?いやー、背が高いだけで男の人って数割かっこよく見えるよね。マジで。

「――朱音さん?どうかしましたか?」

 美容室でカットが終わり、待合のソファに座っていたあたしを白田が怪訝そうな顔で見ていた。

「わー、見惚れてた。やっぱり髪が短い方が爽やかでいいと思う。白田、十分アンタはイケメンだよ」

「……朱音さん……っ」

 うんうん、と頷きながら言うと彼が入社して以来始めて見た耳が顔と一緒にかぁっと赤く染まるのが見えた。それをくすくすと笑いながら見ていると後ろから美容師さんが顔を出した。お兄さんはすらっとしているので細身のタイトなパンツが良く似合う。

「でも、本当にお兄さん格好良いわ。もっと背筋伸ばして歩いたら最高ね」

 にっと計算尽くされた笑みを浮かべる彼は中性的な風貌でその言葉の雰囲気にも違和感が無い。

「格好良くしてもらってありがとうございました」

「いーえ。いいのよ。私も楽しかったわ。……ねぇ、お兄さん。彼女に飽きられたらまたウチの店にいらっしゃいね」

「……!だ、大丈夫です」

 ぺこりと小さく頭を下げて言う美容師さんがにこりと笑って白田を見た。バチン!と音がするかのようなウインクをした美容師さんに白田がずりっと大きく一歩後退した。

 そんな白田と美容師さんにくすくすと笑みを零しながら精算を済ませた。美容室を出た次は服を買いに行こうと決めていたので、白田がカットしてもらっている間に目星を付けておいたショップ方向へ歩き出した。


「いらっしゃいませ…って、朱音先輩じゃないですかぁ」

 ショップのエントランスからすぐにかかる女性特有の高い声。だが、その甘い声には妙に聞き覚えがあった。嫌な予感がするぞと、躊躇う瞼が開くのを拒否している気がする。

「……夏美ちゃん。久しぶりね」

 目が合ったのは、高校生時代の後輩である。明るい色の髪は彼女によく似合っていて、キラキラと笑顔が眩しい。愛嬌の良い彼女は学生時代も同級生だけでなく、先輩にも人気があった。そこそこかわいいにはかわいいんだけど、容姿がとても優れているわけではない。でも、人見知りもせずに愛嬌があってにこにこ笑う姿はかわいいと言い切れる。そんな人懐っこい笑顔の女子が自分の声に応えてにこにこと笑って手を振ってくれれば大抵の男という生き物はコロッと落ちるというものだろう。なんて言うんだっけ、身近なアイドル……的な?

「あれー?先輩の彼氏さんですかぁ?」

「彼は会社の後輩の白田。彼氏じゃないわよ」

「白田さんて言うんですねぇ。ふふ、かっこいい人だから先輩が羨ましいなぁって思ってたんですよぉ。私、夏美って言います。よろしくお願いしますー」

 そう言って夏美ちゃんは今にもくっつきそうなくらい白田にくっ付いて、得意の上目遣いで彼を見上げている。その時の白田はと言うと、困ったような顔で助けを求めるようにあたしを見ていたのでおのずと目が合った。普通の男であれば夏美ちゃんに心を持ってかれる頃合なので、白田を見直した。

 しかし、優菜にも興味がない風で夏美ちゃんにもときめかないなんて……男でも好きなの?

「はいはい。今日は彼の服を買いに来たのよ」

「ふふ。分かりましたぁ。それでは何かあったら声を掛けて下さいねぇ」

 にっこりと笑うと夏美ちゃんはあたしたちを残して他の仕事に移った。何度かこの店には来たことがあるのだけれど、あたしが一人で服を見たいタイプなのを覚えていて遠慮してくれたのだろう。

 男性と見ると媚びてしまう性格はあれだけれど、案外引き際が分かっている子なのである。

「――これなんてどう?サイズは……白田は細身だからMでいいの?」

 手に取ったのはケーブル編みのニットカーディガンだ。色はホワイト、グレー、紺、茶色の四色。その中から紺色のカーディガンを取って、白田に合わせてみる。今の短髪な白田には爽やかな雰囲気があるので紺色が良く似合う。うんうん、と頷きながら側に置いてあった白のシャツを合わせる。襟の内側が水色になっていて、ボタンの糸が赤のそれは思っていた通りカーディガンによく合った。

「はい」

「せっかくだし着てみたら?あ。このチノパンも、はい」

 フィッティングルームに白田を押し込んで、側の小物を見ながら白田が出てくるのを待つ。しばらくするとシャッとカーテンを引く音が聞こえて、渡した服をしっかり着こなした白田が現れた。渡した服は思っていた通り、よく似合っていた。白田は背も高いくて細身なので、まるでファッション雑誌から飛び出して来たモデルさんみたいに見える。

「どう、なんでしょうか?」

 戸惑いがちな様子であたしを伺い見る白田に少しだけ胸がきゅんとする。今まで年下とかって興味なかったけど、年下好きの気持ちが分かるようになったかもしれない。うん、庇護欲?よく分かんないけど、年下がかわいいって騒ぐ気持ちってこれなのかも。

「うんうん。似合ってるよ」

「それなら良かったです」

 ふわりと笑った白田がまた可愛く見えて、大型犬にでも懐かれたような気分だった。


 服を買って店を出た後、白田がお礼にと夕食を奢ってくれた。結局遠慮なく、ビールまでご馳走になってしまった。そんなに馬鹿みたいには飲んでないけど、さすがに後輩に奢ってもらうのは何だか申し訳ないような気がする。あたしに役職はないけれど、直属の後輩みたいなものだし。

「今日はありがとうございました」

「ううん。あたしも楽しんじゃったから、むしろおごりじゃなくてよかったのに。半分出すよ」

 お財布片手に白田を見上げると、白田は首を小さく振ってにこりと笑う。

「いいえ。俺も男なので、出させて下さい。そうでないとデートって言えませんから」

「……デート?」

 白田の言葉に久しく聞き覚えのない言葉が混じっていた。デートって、投資とかのディトレード?それとも、日付とか年月日のdateの方?思わず脳内では知ってる言葉への変換が自動的に成されてしまう。

 でも、何度考えてもそっちの言葉じゃないのは明らかで。あたしが驚いて聞き返しても、白田の顔はにっこりと笑ったままだ。

「朱音さん、またお誘いしても良いですか?」

「え?また?」

「だめ、ですか?」

 思わず出た言葉に白田の顔は悲しそうで、しょんぼりと肩を下げる姿はまるで犬が尻尾を丸めるようだ。何よ、そんな顔されたら断りにくいじゃないの!

「うっ……別にいい、けど……」

「……よかった」

 その白田の嬉しそうな顔に、まぁいいかと小さく笑みを返したのだった。そういえば、上司や先輩でもない男の人に個人的に奢ってもらうなんてかなり久しぶりのことだった。優菜目当ての森崎に奢ってもらったりはしたけど、それは優菜のついでなわけだし。

 白田のこれはあたしのためだ。今までは少し頼りないけど可愛がってる後輩っていうポジションだったのに、急に男の人に見えてきた。え、ちょ…これってマジですか!

久しぶりの更新となりました。

不定期更新ですが、今年もよろしくお願い致します!


今回の主人公ちゃんは後輩女子でした。

愛嬌と人懐こさでモテる子っていますよねー。

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