04
駅に着くまでに私の人生での初めて出会った主人公について思い出していた。
初めて出会ったのは小学校に上がる前、母さんの友だちの娘で当時人見知りだった私のために同じ小学校へ上がる女の子と友だちになりなさいと連れてきたのだ。その子の名前はまりちゃん。
彼女の背は大きくなく、ピンクの布地にテディベア柄の洋服とスカートが印象的だったけれど、当時はそれが可愛かったので時代の流れというやつですね。まりちゃんが可愛かったのは洋服だけでなく、顔ももちろん可愛かった。あたしのお母さんなんて、今でも当時の写真を見るとまりちゃんかわいいわーなんて漏らすくらいです。
性格は嫌味な感じは無く、明るいだったのでその後数年は仲良しだったと思う。クラスが離れてから少しずつ疎遠になるという女子によくあるやつで今は会えば挨拶程度の話をする仲になっている。仲が悪いわけでもないんだけどね。
それでその子の凄かったなーと思うところは、学校を中心として全くの反対方向に住んでる男の子がまりちゃんの帰り道を送ってくれることだった。当時小学校1年生だったあたしにはかなり衝撃的な光景だったよ?いや、小学生じゃなくてもびっくりするか……。まりちゃん一人に男の子が数人もわらわらと。しかもそのほとんどが家の方向が違うんだから驚きだよ!
あたしは学校が終わったら遊ぼうねと約束していたので、自分のランドセルを家に置いてからまりちゃんの家に向かうんだけれど、走ってまりちゃんを追いかけると彼らに遭遇するわけ。いやー、もう声掛けにくいったらありゃしないよね!
その超絶モテ期も小学校から中学に上がる前には、まりちゃんが眼鏡っ子になり、明るい性格が大人しい性格に変わったのを理由に収束しました。あの頃って面白い子とかがモテたりするよね。
そんなことを思い出しながら歩いていたらあっという間に駅の近くまで来ていたらしい。ちなみに私の住んでる場所の駅近くの喫茶店となると、この駅近くでは一軒しかない。そこへまっすぐ歩いていき、中を覗くとひょろりと背の高い男と目が合った。
「待たせてごめん!お詫びに奢るよ」
「いえ、俺もコーヒー飲みたかったので。それに思っていたよりもかなり早かったですよ。それよりも先輩もどうですか?それとも移動して早めの昼ごはんにします?」
「じゃあ、とりあえず休憩で。――すいません、カフェオレお願いします」
あたしは白田の向かいに座って、ウェイトレスのお姉さんにカフェオレを一杯頼んだ。普段飲むコーヒーは絶対ブラックだが、朝だけはカフェオレと決めている。寝起きの朝だからこそブラックの人も多いと思うけれど、私は優しい甘さのカフェオレで女子に浸りたいと思う乙女心なのです。
少ししてウェイトレスさんが持って来てくれたカフェオレを飲んで一息付くと白田に話しかける。
「それでさ、今日はあたしにおまかせコースってことでいいの?なんかこういう風になりたいとかある?」
「朱音さんにまかせます」
「いいの?白田って背が高いからそれこそ何でも似合いそうでいいよね。女の背が高いのは似合う服が意外に限られてるんだけど」
女の場合は可愛い系の服は似合わない。というか、精神的に着られない。自分でこんなかわいい服は背が低めの子の方が絶対似合うなーとか思ってしまう。実際に同じような服装で背が低めの子と並んだ時の敗北感は半端じゃないです。
別に勝負してるわけじゃないけど、例えばひらひらのミニスカートとかパステルピンクとかは着方にもよるんだけど、背の低いかわいい雰囲気の子の方が断然似合うじゃない?小花柄とかはあたしの体格をさらにでかく見せるけど、大柄なものとかは小さい子よりもあたしの方が似合うしね。そんなわけであたしはいっつもカッコいい系とかシンプルなものとか、大人っぽい服装とかが多い。
そういえばまりちゃんなら似合うんだろうね、小花柄とかパステルピンクとか。いつだったか数年ぶりに会ったら、眼鏡はコンタクトへ変わり白のワンピースを着ていたまりちゃんはどこぞのお嬢様のように似合っていたっけ。
「そうですか?俺は良く分からなくて」
「まぁ、変にはしないから。とりあえず、髪切ろう」
あたしがにっこりと言い切ると、白田は一瞬視線を彷徨わせた。さては嫌なんだろうけれど、まかせると言ったからにはまかせなさい。
「……え?」
「少し短くしてみたら?長めでも良いだろうけど、それはちゃんとスタイリングできる人に限るわよ。白田みたいにただそのままはいただけないと思う。短い方が髪のセットも楽よ?すぐに乾くだろうし」
「分かりました。……優しくしてくださいね?」
「……なっ!」
にっと口元を緩めた白田の向かいであたしは顔を赤に染めた。ていうか、なぜ白田に顔を染めなければいけないのか!ああ、もう今日はだめだ。
「どうかしましたか?」
「……そろそろ行くよ!はい、立つ!」
「はい」
白田は何が楽しいのか、今日はにこにことよく笑う。いつもはそんなに笑ってるところを見ないし、課内では無表情男との評判を得ている男なのに、だ。
会計を終えて店を出ると、ようやく白田の全身を見た。いつもはグレーのスーツに白のシャツ、重い色のネクタイしか見たことがない。今日の服装はグレーのジャケットに白のVネックシャツにインディゴブルーのジーンズ。
シンプルイズベスト?いや…悪くはないんだけど。何だかいつもと代わり映えがしない印象…。
そういえば白田ってあたしより年下だからまだ20代前半だよね?それなのにこの落ち着きっぷり!もっと遊んだっていいんじゃないのかとお姉さんは心配してしまいますよ。
別にチャラチャラと着飾れとか言うわけじゃないけどさ、もっと明るい色を着てもいいと思うんだよね。最近の男の子なんて普通にピンクとか着ちゃう時代でしょ?この間男子高校生がパッションピンクのリュックを背負ってて、時代は変わったんだねーとか話しちゃったわよ。あたしが高校生の時なら考えられないかも。まぁ、ピンク着ろって言うわけじゃないけどさ。
とりあえず、髪を切ってそれから服選びかな。そう考えながらも頭の中では色々な服を白田に着せて考えていると、白田の履いていた靴が目に留まる。靴は良いのを履いている。それに合わせればいいだろうと検討をつけると白田を連れて歩き出した。