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映画と元カレとX'mas 前編

付き合い始めてから三ヶ月くらいの二人です。

 デートの途中で映画の時間まで少し時間があるのでコーヒーショップに入った。

 今日観る映画は三部作の完結編で、一部から欠かさずに観ているから楽しみって何気なーく話したら白田が誘ってくれたのです!一人でも映画を観に行ったりするけど、誰かと一緒だと観終わった後に感想とか話せて楽しいよねぇ。まぁ、一人は一人で集中して観てられるっていう利点はあるんだけど。

 あたしは季節限定のマロンラテの甘い香りに包まれながら、コーヒーを買って席に着いて早々に時間を確認するためにスマートフォンの画面をタッチした。一緒にいると時間が経つのが本当に早いので、こうやってたまに時間を確認するとびっくりする時間だったり……っていうのもままある話だ。それも白田と過ごすことが心地良いからなのかな。――なんて、優菜に言ったら惚気?って睨まれそうだわ。


「今何時かなぁ。――あ、今年のクリスマスイブって火曜日なんだ」

 あたしの待ちうけ画面にはカレンダー表示がされている。そのカレンダーを見ながら思わず呟いてしまった言葉に白田が顔を上げて反応する。あたしは出来るだけなんでもない顔を装って、顔を背けた。

「クリスマス平日なんですね」

「ええと、いや、そのね!別に深い意味はないの!」

 何だかクリスマスを楽しみにしてる人みたいだと思う。でも、正直思い返せば男の人、――彼氏と一緒に過ごすクリスマスなんていつぶりだろう?少なくともここ二、三年はその時期になると特定の彼氏どころかデートする相手すらいなかった。当然ながら、クリスマスは女友達と騒いで過ごすか、優雅なお一人様っていうやつです。家族と過ごさないのは、別に強がりなんかじゃないんだからね!

「そうですか?俺は楽しみです」

「……私も」

 あまりにも平然と白田が言い放つものだから、変に照れてしまった自分が逆に恥ずかしい。中学生でもあるまいし!と我ながら思うのだけど、この照れ症はなかなか直りそうにもない。あたしはどうにか言葉を続けたけど、妙な照れと一緒に顔が赤く熱を持つ。これじゃあ、照れているのが白田に丸分かりで恥ずかしすぎる……。

「クリスマスは平日ですけど、仕事終わったら一緒にご飯でも食べに行きましょうね」

「そうだね。でも、どこも混んでそう。予約とかした方が良いのかなぁ」

「それなら俺がやっときますよ。楽しみにしてて下さい」

「ありがとう。……その、楽しみにしてるね」

 白田がそう言って柔らかく微笑むものだから、あたしも一緒にはにかんだ笑顔になる。こうやって大事にしてもらってると、恋人なんだなぁなんて実感して嬉しいのと同時に照れてしまう。

 今まで僅かながら恋人がいたこともあったけど、こうやって大事にしてもらって胸が温かくなるような恋愛って久しぶり。前の彼氏はそれこそ友達からの延長みたいなもので、付き合い始める時も別れる時もあっさりしたものだった。付き合ってる時ですら、甘い空気は皆無だったし。


「それじゃあ、出ますか。今から出たら映画の時間にちょうど良いですよ」

「あ。そうだね。行こっか。これ一緒に片付けて来るね」

 そう言って立ち上がり、二人分のカップを片付けるために返却口に向かう。そこには他の人も居て、あたしと同じように片付けをしていた。あたしはさっさとトレーとカップをそのまま台に載せて片付けてしまうと、くるりと背を向けようとするとあたしの名を呼ぶ声が聞こえた。誰だろうと思って振り返った視線の先にはあたしよりも少し背の高い男の人。


「――朱音?朱音だろ!懐かしいなぁ」

「……ヒロ!え、何でここに?」

 そこに立っていた男こそ、件の元彼。ヒロこと、紘史(ひろふみ)だった。

「何でって。あ、お前アレだろ?ジョナサンの魔法の杖を観に行くんだろ?」

「そうだけど。ヒロは?」

「ン?俺もそれ。そういえば、昔一緒に観に行ったよなー」

 ヒロはそう言ってにやりと笑う。確かに昔、付き合っている頃にヒロと一緒にこれの第一部を観た。だけど、この男と来たら……。何か起こる度にお!だの、あ!だのと煩くて、周りの迷惑になってないか気が気じゃなかった。ああ、マジで嫌な思い出がリフレインですよ。と、小さくため息を吐いているとあたしが帰って来るのが遅かったせいで白田がやって来てしまった。

 ――ヤ・バ・イ!

「――朱音さん、どうかされましたか?」

「……ええと、ちょっと知り合いに会って」

 焦るあたしの口から咄嗟に出てきた言葉は、ヒロとの関係性を曖昧に表した言葉だった。こういう場合、素直に元彼なのーなんて言っちゃうべき?でも、嫌な思いするよね?するよね?

 この短い時間の中であたしの頭の中は真っ白どころか、色んな言葉がひしめき合っていた。何を言おうとしても、言い訳がましい気がして口を開けたり閉じたりを繰り返すしかできなかった。

「なに?彼氏?」

 そしてそんな何て言うべきかと考えているあたしとは対照的に、向かい合ったヒロは白田とあたしの顔を見比べて再びにやりと笑った。

「……彼氏の白田。この人は大学の同級生のヒロ――紘史」

「どうも。白田です」

「おお。白田くん、ね。どうも、元彼の紘史です」

 当たり障りなく紹介したのに、このヒロの一言でピシリと空気が凍った。すっかり冬になった街は、店内に入れば暖房が効いてるっていうのに。この冷気は何ですか!そしてそれに気付いていないの?それともわざとなの?そういえば、付き合ってる頃もデリカシーのない男でしたね……。

 甦るのは付き合っていた大学生時代の思い出たちだ。正直、ちゃんと男性とお付き合いするのは彼が初めてだったのもあって、男の人と付き合うってこんなものかなと思っていた。だけど友達の話を聞いて、それは間違いだと気付いて別れたというのがあたしたちの恋の結末だった。

「今から映画観に行くんだろ?俺も昔、朱音と一緒に第一部の方を観に行ったんだよ。懐かしいなーって話してたとこ」

「……もう、いいから!懐かしいなんて言ってないでしょうが!白田、行こう!ヒロ、それじゃあね!」

 あたしは白田の手を掴むと、そそくさと逃げ出すようにその場を後にした。


 そしてどうにか映画館に入って、二人並んで映画を観た。だけど、その話の内容なんてちっとも頭に入って来なかった。白田はというと、いつもと変わった様子も見せずに普通に映画を見ていた。だから、あたしの取り越し苦労みたいなものかな?なんて思ってたのに。

「――今日はこれで帰りましょうか。明日も仕事ですし」

「え?う、うん……」

 まだ時間は夜というには早い時間。いつもだったら、夜ご飯も一緒に食べて、それでお別れなのに。本日のデートはこれで終了になってしまうらしい。白田は申し訳無さそうに眉を少しだけ下げてあたしを見ていた。あたしは頷くことしかできず、それに縋る勇気も無かった。まだ一緒にいたい、なんて言ったら重いのかな。あたしの方が年上だし……。

 そして結局、あたしはその考えに囚われて何も告げることができなかった。

後編はクリスマスに更新します。

もうしばらくお待ち下さいませ^^

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