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私は主人公になりたいわけじゃないのです。

本編後の優菜視点の話です。

 私は一般の平均に比べると、可愛い。そのことに気付いたのは中学生になった頃だった。小学生までは人と自分の外見を比べてどうとかは考えてみることもしなかった。他の女の子よりも恋だのなんだのに疎かったのもあったのかもしれない。人は人、自分は自分。それだけだった。

 それが中学生になって、みんな同じセーラー服に身を包むようになって気付いた。同級生だけでなく、同じ中学の先輩や、登下校中にすれ違う他校の生徒からも視線を集めていることに。そのことも初めは「何だか見られてる気がする?」くらいにしか思っていなかったのだ。

そんな私にある日、友人の一人が発した言葉が突き刺さった。

「――優菜ちゃんは可愛いからいいよね」

「え?」

「あたしも優菜ちゃんみたいに可愛かったら良かった。そしたら佐々木くんもあたしのこと好きになってくれたのに」

 友人の発した言葉はドロドロとあたしの胸に巣食った。纏わりつくそれを振り払おうにも、さらに彼女の視線があたしに止めを刺した。

「佐々木くんのこと取らないでよ。あたしたちトモダチでしょ?」

 彼女のその時の毒々しい笑顔はあたしの心の深いところにずっと住み着いた。


 高校生の時には、分からないフリをして男の人からの好意をやり過ごす術を覚えた。

 

 大学生になって、それでもしつこい誘いには女子を味方につけることで何とかした。


 そして社会人になって。あたしは『恋』が分からない。

 それだけでなく、『友だち』もいなかった。本音を隠して付き合うようになってしまったあたしは女の子にも当然本音を隠す。そうして付き合ってきた友人というのは脆い。状況が変わる度に友人関係が終わってしまうのだ。元々受身だったこともあって、あたしから連絡しようと思う友だちはいなかったし、相手にとってもそうでなかったのだろう。


「――ね、優菜ちゃん。一緒に呑みに行こうよ」

 本当にしつこい男だ。いつもいつも受け流しているのに、それを嫌がられていないとでも思っているらしくこうして何度も誘ってくる。しかも、同じ部署の先輩ということもあって無碍にもできない。笑顔の下でため息を吐いて、どう断ろうかと考えあぐねていると朱音ちゃんがあたしたちの間に割って入って来た。

「小野先輩、すみませーん。波瀬チェック入りまーす」

「げ、波瀬。なんだよ、波瀬チェックって」

「私、優菜のマネージャーなんで。スケジュールの確認はあたしにお願いしまーす。あ、そういえばこの間頼まれてた仕事で聞きたいことあるんですけど、良いですか?」

「はははっ!もう、波瀬には敵わねーな。分かったよ。で?聞きたいことって?」

「わ。小野先輩、さっすが頼りになりますねー!ええと、三國開発からもらった図面なんですけど」

 朱音ちゃんは空気を悪くするでもなく、持ち前の明るさで場を和ませて冗談として流すことで相手の面子も保っている。あたしは朱音ちゃんが小さく合図をしたのを見て、小さく頭を下げてそそくさとそこを後にした。

 

 朱音ちゃんは入社して以来の友だち、だと思う。初めて話したのは、配属が決まって今の部署に初めて来た時だった。人見知りしがちでガチガチに緊張しているあたしに対して、朱音ちゃんはいつものように明るい笑顔を浮かべていた。初めて話したのは配属の時だったけれど、実は入社式の時から朱音ちゃんのことが目に留まってた。あたしとは正反対に身長がすらっと高くて、しっかりしてそうな雰囲気。こんな人だったら悩みなんてないのかもしれない、なんて思ってた。

 実際にしっかり者なんだけど、いつも自分の感情をまっすぐに出す朱音ちゃんは眩しいくらいに羨ましかった。


「朱音ちゃん、さっきはありがとう」

「ううん。ちょうど小野先輩に聞きたいことあったからさー」

 朱音ちゃんが席に戻ったのを見て、あたしは傍によるとお礼と一緒に飴を渡す。

「でも、ありがとう」

「優菜は可愛いからねぇ。何ていうか、サイズ感もあってTHE女子!って思ってる人も多そうだよね。……まぁ、そんなことないんだけどね」

「朱音ちゃんよりもハッキリしてるんだけどね」

「ほんと。優菜が断ったら小野先輩、再起不能になっちゃうもん。これもあたしの優しさだわー」

 お互いにそう言って顔を見合わせて笑みを零す。こうやって軽口を叩き合えるのも朱音ちゃんと仲良くなった証拠であるように思う。昔のあたしだったら、こうやってキツい口調で人に話すことなんて絶対しなかった。人前では、その人があたしに対して持っているイメージを壊さないように自然と自分を作ってしまう。それがあたしだった。でも、朱音ちゃんの前では自然と自分を出して話していることに気付く。それは朱音ちゃんがどんなあたしでもあたしだと認めてくれるからだ。

 そうやって笑いながら話していると、あたしたちの傍に大きな影がかかる。

「楽しそうですね」

「あ、白田くん」

 見上げた顔は最近見慣れた顔、職場の後輩であり朱音ちゃんの彼氏でもある白田くん。体は大きくて、口数は少ない。よく言えばミステリアス、悪く言えばよく分からない人。でも朱音ちゃんのことだけはとにかく好きっていう気持ちがよく伝わってくる人だ。

 付き合う前、白田くんがあたしに助けて下さいと言ってきた時は驚いたけど、あれも朱音ちゃんのことを好きだったからなんだよね。

「お話中すみません。この間の計算書に訂正が入ったので持って来ました」

「ううん、仕事中に話してたのはあたしだから。それじゃ、またねー」

 あたしは二人に手を振って、自分の席に戻る。

 あたしにもいつかあんな恋がすることができるだろうか。そう思いを馳せながら。

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