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価値を知るもの  作者: 勇寛
真っ直ぐに、真っ直ぐ一直線に
99/111

第94話 お買い物が楽しくて 【FAMILIARCLOSE】

ちと短いですが、誤字脱字ご容赦下さい。



 そんなこんなで数日が過ぎた。

 ぶっちゃけると、あれから一度も行政区での昏倒事例は発生していない。

 つまるところ、見事に空振り続きなのだ。

 定期的に気功術の使い手かアンデッド対策の装備を持った者が巡回に加わったことで、住民が警戒しているのを察しているのであろう、というのが今のところの見解だそうだ。


「びくびくしてるしかできないって疲れるもんですよね」

「大変だったみたいねぇ。いえね、色々街でも噂にはなってたから」

『なんか、いそがしかったー!』


 ここは鍛冶屋兼武器屋である。

 巡回のルーティーンを確立できたので、ひとまずお役御免となって、少々色を付けたボーナスをマルクメットからようやく受け取ることができた。

 ならば、それを使って装備品の更新を行おうと来ているのである。

 いつもの様にキールは女将さんのミーナの膝に乗っかり、ハーブティーを飲んでいる。

 ちなみに今日はお出かけと言う事で一張羅のかいがらぼうしを装備した"つむり"バージョンである。

 ポポは壁に掛けられた大きな斧をしげしげと興味深げに眺めている。

 自分の棍棒とそれを交互に眺め、むむっとばかりに悩んでいた。

 シメジはゴブリン達と共に外のフォーの元に向かったためこの場には不在である。

 恐らくは皆で日向ぼっこでもするのではないだろうか。

 エメスは扉が小さく店内には入れず、裏庭で店主のボルド達親族一同と色々調整をしている。

 流石に店の前に立たれてしまうと通行の邪魔になるし、本人の話では回数は減ったとはいえ道端に立っているとどうも何かの神像に間違われることもあるらしい。

 たまにちゃりんと寄進のコインが投げられるのは御約束だった。

 ドワーフの親族ご一同は宿も空いているのでしばらく観光がてらボルドの所に残る、という話であったが実際の所は孝和のジ・エボニーやら真龍の短刀やらポポの折れた角の加工やらで作業に関わろうと強引に残っているらしい。。

 傍から見ると同じ顔にしか見えず、こんがらがるのでできればやめて欲しいものである。


「というか皆、大まかな状況は知ってるってのがすごいですよね」

「こういう時期だもの。みんな危機感をずっと維持してるのも有るけど、好きなんでしょうね、噂話が」


 情報統制クソ喰らえという状況であるが、まあ人の口に戸は立てられないわけで人づてに拡がってきているのである。

 というよりは毎日行政区でエメスが神殿関係やら冒険者やらと、うろうろ何かを探している現状では、何か起きている、それなら調べようと皆が思うのは当然のことだった。


「北側に近いお店は人が減って大変みたい。うちの皮革の仕入れ先の一つがその辺りでね。そこは問屋だから大きな影響は出てないらしいけど、特にご飯関係のお店は酷いそうよ」

「……風評被害って払しょくするの大変ですから。早く片付くといいんですけど」


 孝和は片手に握ったメイスを振るう。

 重心がヘッド部に集中している分、振りぬいた際にそのまま持って行かれそうになる。

 一撃に賭けるという意識で使うのであるなら問題ないだろうが、孝和の戦闘スタイルは手数重視である。

 棍棒等よりも遠心力を加味する分、威力は出せるが大きく外に腕が持って行かれる。

 2度、3度と軽く構えを取り、首をかしげてやはりしっくりこなかったそれを壁のラックに戻す。


「やっぱりタカカズ君、重い?」

「ですね。こういうのもまあ有りっちゃ有りなんですが。普段使いには選ばないかな、と」


 そういうと、今度は鎌を手に取る。

 鎌に鎖が接続されており、その反対側に分銅が付いているタイプでいわゆる鎖鎌と呼ばれるものである。


「ふむ……。音がうるさい」


 手に取った瞬間に鎖がじゃらじゃらと鳴る。

 なんというかワクワクする武器ではあるが、これも"普段使い"の観点からはちょっと遠慮したい。


『おおっ!かっこいーよ、ますたー!』

「いや、買うかどうかわかんない」

『えー!』


 エメスのドアシールドも鎖と錨が接続されてからは、実はけっこううるさいのである。

 鎖同士が擦れる音だけでなく、金属ボディのエメスに触れるごとにも甲高い音がするので結構な音が鳴り響くのだ。

 まあ、森とかに行くときにはいわゆるクマよけの鈴替わりで役立つらしい。


(でもなぁ、エメスと鎖術の練習もしてみたいしなぁ。……買ってみて無駄遣いにならないと思うんだけど今本当に要るのかってなると、悩むな)


 むむむっ、と鎖鎌をじっと見つめる孝和。

 資金は有限である。

 街中で使うにはうるさいが、再利用可能な中距離武器としては有りかもしれない。

 投石という手段もないわけではないが、如何せん"弾"の形や重さで5回に1回は予想位置を大きく外れるのだ。

 慌てていれば命中率はさらに下がるのは自明の理で、そこをカバーできる手段が欲しい。


(キールにしろポポにしろ、そういう手段があるんだもんな……)


 はっと気づいたら接近オンリーの自分が、いかに危険な事をやっているかを理解したのである。

 エメスも強弓がもうすぐ修理が終わるので、実質自分以外は中距離~遠距離のレンジでの対策があるというパーティー編成となってしまう訳で。


(……魔術的な何か、種火どころか煙すら立たねぇんだもん。才能って残酷……)


 一応補足するならば、孝和の魔術的才覚は皆無、いや絶無といっていい。

 魔力の感知やら術式の様式を見て取ることは真龍の恩恵により出来るのであるが、実践となるとてんでダメであった。


「火の玉飛ばしてぇな、っていうのは分不相応な野望だったのかなぁ……」


 くすんと鼻を啜る。

 泣いてはいない、泣いてなぞたまるものか。

 鎖鎌を一応キープとしてカウンターに載せると、その前に置かれたショーケースを見る。腰ほどの高さのケースには投げナイフ用のシンプルなセットが並べられている。

 そっと手に取り、手首を返しながらその収まりを確認。

 ホルターとしてのベルトも置かれているが、それは少し趣味的なもので、端から見て投げナイフ持ってますと言わんばかりの少し恥ずかしいものであった。


「ちょっとそそられないなぁ」


 投げやすさを重視する造りでは仕方ないのだが、全体的に投げやすいように軽くしようと作られる。

 これを言い換えると、脆いと変換される。

 鋭さを重視した切先は直角に刺さらなければ、刃先が欠けるし弾かれる。

 手首のスナップで打つので狙いは正確になる一方で、ストッピングパワーとしては弱いか。


「するとやっぱここらへんか」


 丁寧に投げナイフをケースにしまうと、ポポの横に立つ。


「くぅ?」


 ひょいとポポを持ち上げ抱っこしながら、斧の壁ラックの前でしげしげとそれらを見やる。

 大部分を占める両刃で凶悪な鈍い色を放つそこから外れ、こじんまりとした隅の一角を注視する。

 片刃でそんなに種類もないが、所謂、手斧≪ハンドアクス≫という種類のコーナーだ。

 とはいえ、あまり人気が無いのか全部で4種しか置かれていない。

 その中で手に取ったのは、刃の大きさに比べ少し柄が長く作られているものだった。


「珍しいもの選ぶのね。それってこの辺りだとあんまり需要がないのよね」

「ポート・デイで武具の店を覗いたら逆にこういうタイプの方が多かったんですけどね」


 河川・海洋の有無とかが関係しているのだろう。

 剣や両刃の斧やら槍やらよりも、メイス・手斧・棍棒などが港町であるポート・デイでは人気だった。

 足元の不確かな場所で使われる分、片手で振り回せる取り回しの良い武具の人気が高いのだろう。

 そういえばポート・デイでは革鎧や、鎧の部分売りもよくしていたが、マドックではあまり多くはない。

 まあ、全身鎧等を買える資金力がある人間が少ないと言う事もあるだろう。

 それに海上でフルプレートアーマー等身に着けようものなら、気でも触れたのでないかと思われること請け合いだ。

 日光でじりじり焼かれ、更に水に落ちればそのまま底で漁礁と化すのである。


がちゃり


 ドアが開くと、いつものひげ面。

 ボルド(?)が顔を出してきた。

 いや、多分ボルドであろうが、違っていた場合色々と申し訳ないので敢えて会釈するだけにとどめた。


「あなた。もう終わったの?」

「おお、終わったぜぇ……。タカカズお前らも見るか?」

「あ、じゃあお願いします。ボルドさん」


 にこやかにほほ笑む。

 奥さんが確認したのだ。

 このひげ面は間違いなくボルドだと確認し、手斧を壁ラックに戻しながら孝和は返答したのだった。

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