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価値を知るもの  作者: 勇寛
いんたーみっしょん
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第85話 はじめてのおとまり会 【A CAMPING GROUND】

誤字・脱字ご容赦下さい。

本日2話目です。1話目まだの人はご注意を。


 ぱちぱちと竈にくべた薪が爆ぜる。

 室内の壁にはてんでばらばらの規格の照明用のランタン等が掛けられ、暖かな光が室内を満たす。

 テーブルにはキール冒険隊の面々と拠点調査にきた一団が同席している。

 日も落ちてきており、拠点内部の捜索や確認作業もあるため、今日はこのままこの拠点を野営地として使おうとなったわけだ。

 各人の持ち物と、拠点内の残存物資のうち価値の低そうなものであればつかってもいいだろうという判断でいまは夕食の支度となっている。


「とはいえ結構食材が痛んでたからなぁ。そこまで手の込んだ料理は難しいかな?」


 食料として問題なく"いけそう"と"ダメそう"とで手早く分けてみたところ保存ができている物はあまり残されていない様子だった。

 確か魔術師崩れもいたはずだが、氷室的な場所を作っていた様子もなく、そのあたりは奪って消費、奪って補充という盗賊の発想だったのだろう。

 盗賊の寄合所帯と言う事で悪臭一歩手前のなにかこもった匂いもあり、そこまで生活環境に気を配っていたわけでもなさそうだ。


『みんなとおとまりー。ふふふふふっ!!』


 若干数名の隊員達が隊長含め非常に楽しそうではある。

 乱雑に使っていたとはいえ、食器類やテーブル、椅子等については拠点内に残っている分と個人携帯で人数分は用立てることができ、衛生的に拙そうな寝具類は撤去された。

休息に使う毛布類は1泊の予定であることから持ち込みの毛布等で問題ない。


「おーい、誰か。こっちのバケツをボアに持ってってくれ!」


 ちゃかちゃかと調理を行いながら、野菜くずや痛んでいても比較的状態の良い物、悪いところだけ大きく抉り取って使いにくくなった欠片などを足元のバケツにどさどさ入れていく。

 2匹のゴブリンがげぎゃげぎゃと笑いながらバケツを抱え、外に出ていく。

 餌やりの当番というか馬番ならぬボア番として分業体制が敷かれているらしい。

 木の根をふごふごしながら掘り起こして、小さな虫とか柔らかな木の根を食んでいる外のボアたちのご飯もほんの少しだけ豪勢になるだろう。

 ちなみに馬は拠点の横に小さいながらも馬屋があり、すこし古いが餌もそちらで準備できている。

 守りの要として眠る必要のない死霊馬が見張りについているし、スクネは大きすぎて拠点内では体を屈めなくてはならず、外に出ている。

 なんといえばいいかわからないが、万全の警備が敷かれていた。

 そもそもの話、砦化されたこの拠点の防衛力は人が揃いさえすればかなり頑丈である。

 拡張性も本来は交通網の整備で利用された場所のため、生い茂る木々を整理すれば簡単に高まるものであった。

 その関係からこの盗賊団がそれなりに組織されたもので、放置されていれば時間と共に被害を拡大させる可能性は容易に推察される。

 浄化部隊の中で街の警備から参加している者はほっと胸をなでおろしていた。


「まあ、数日分の食料は残ってるっちゃ残ってるし。今日と明日の朝飯くらいは大丈夫かな」

「へぇ……。聞いてはいたけど本当に飯屋やってるんだ。実際に作ってるの見るまであんまり実感なかったけど」


 開け放たれた窓から入る森の空気に混じる焼けた肉の良い香りにじゅわじゅわと暖かな湯気。

 手早く大皿に盛られた料理を運ぶのにカナエが横に立つ。

 苦笑いしながら孝和は手を止めない。


「どっちかといえばそっちがメインなんだよな。収入でいえば今回のアンデッドの件が無ければ料理人の方が冒険者より稼いでるし」

「本当に信じられない事、言うわよね」


 タンタンと短刀がまな板の上の小さなカブを切り分ける音がする。

 砦のまわりにあった畑ともいえない程小さなスペースに手慰みに行っただろう野菜栽培の跡が残っていた。

 枯れていたり、何も残っていなかった部分もあったが、若干の根菜類や葉物が回収できた。

これらはキールのご飯となる予定である。


「いや、でも俺冒険者ランクいま最低ランクよ?実際問題受けた案件まだ5件にもなってないし」

「すごい、奇妙なものを見ている気がするわ、私」


 首にかけた冒険者カードの表示をカナエに見せる。

 まじまじと穴が開くほど見つめられたそれに記載されているのは、見まごうことなく最低ランクの表示であった。


「あと、壊滅的に魔力が無いわねあなた。ちょっと驚くんだけど」

「……気にしているんだけどなぁ。言わないでほしいかなぁ」


 そう、最低ランクの冒険者カードにはあまりお目にかかることのない最底辺クラスの魔力評価。

 共に驚きであることは間違いない。


ドォォォン!!!


 爆音とともに、少し地面が揺れる。

 キールたち曰くの大掃除をしたとはいえ、天井部まではまだ手が回っておらず、ぱらぱらと細かなちりがテーブル上に降りかかってきた。

 カナエはまじまじと見つめていた孝和の冒険者カードから孝和の顔に渋い表情を向ける。


「……止めてきてよ。せめて食事中くらいは」

「そうだな、うん。わかった。あと、スープだけだからさ。皆にまわしといてくれるか?」

「いいけど、早目にね?冷めちゃうわよ?」


 はあ、と大きなため息をつく。


「そこは善処したいとこなんだけどな」


 きっと上手くいかない。

 そんなあきらめを表情に浮かべながら、外に繋がるドアのノブに手を掛けた。





「んで?これはどういう状況なのだろうか?」


 視線の先に胡坐を掻いたスクネが膝立ちのエメスにがっしりとアイアンクローを受けている状態になっていた。

 夕飯

 しかしその状況だというのに双方ともに剣呑な雰囲気は微塵もなく、スクネは掴まれるままにしているし、エメスも何かを熱心に伝えているようである。

 その手がぽぅと薄く発光しているところから推察するに、あれはエメスの使える再生≪リペア≫の魔術ではなかろうか。


(治療する時間を使っての反省会、かなぁ?)


 胡坐を掻くスクネの背中側の地面には何かを強く叩きつけたような跡がのこり、ちょうどその形が人間をビッグサイズに拡大したものとはまりそうと言う事もある。


「おーい、そろそろ止めないかー?」

「むぅ」

「がぁ?」


 孝和が呼びかけると地面に近い位置に居た2体が立ち上がり、ずんずんと孝和に向かってくる。

 かなりの圧迫感は正直、ある。


「主、少し宜しいか?」

「お、おう。なにさ」


 ずいと顔を近づけてくる2体。

 まあはっきり言ってビビる。


「今回、以前の戦いを再現した。結果、対抗策がうまくいき、我が打ち倒した」

「ほほう」

「しかし、これに対する更なる対抗策も有るはず、と思う。だが、スクネは無用、と。対抗策ではなく、別のアプローチを磨くべき、と」

「がぁっ!!」

「ふむ、まあ言わんとすることは分かる」

「どちらを選ぶべきか、意見をいただければ、と」


 いい感じだ、と孝和は思った。

 しかもその前に"すこぶる"とつけてもいいくらいに。

 エメスはタックルから入る攻防劇を愚直により洗練したいと考えている。

 一方のスクネは一点特化の技術を取るよりも、バリエーションの充実によるアドバンテージを求めているわけだ。

 しかも双方ともが相手の言っている内容について共感できる余地があると思っている。

 恐らく孝和が背を押せば両方がその方向に舵を切るだろうし、おろそかな修練をするわけでもない。

 純粋にどちらがより強くなれるかを考えたうえでの相談であった。


「俺は、エメスの意見が好きだ」

「ふむ……」

「ぐぅ……」


 思案顔になるエメスと、がっくりきた表情のスクネ。

 その2体にさらに続ける。


「ただし、スクネの意見も見逃せないところがある」

「がぁ?」


 顔を上げ、不思議がるスクネ。

 エメスは変わらず思案顔だ。


「中途半端は嫌いだしな。二人とも自分で思い付いてる、考えている、ぼんやり浮かんでる、とかなにかあれば次の一手を教えてくれ。アドバイスしてやるよ」

「宜しいので?」

「これでも一応師範代の免状はもらってるし、俺。こういう関係で教えてくれって話なら断るのは礼儀に反するしな」

「がぁぁっ!!!」


 ずずいとスクネが自分を指さしながら前に出る。

 言葉が解らないが態度で何となく察した。

 恐らくこれは"俺の、みて!"だろう。


「待て、スクネ。貴様あの試合の時に、主に教わったのだろう。ならば今回は、我が先」

「がぁっ!?」


 孝和とスクネの間ににゅっと腕が出る。

 スクネが腕の持ち主のエメスにメンチを切った。


「いや、両方ともやるよって言ったじゃん。落ち着けよ、順番な?ジャンケン、ジャンケンで!」



 と、なったはいいがジャンケンのルールが解らない。

 ならばそれも教えるからと、ごたごたとした時間が過ぎていく。

 そして、双方がジャンケンのルールについて熟知したところで、勝負である。


「ジャン、ケン、ポン!」


 孝和が音頭を取り、触れただけで人を吹き飛ばせそうな風圧のジャンケンが行われる。

 結果は、


「があああああっっッ!!」

「無、無念ッ!!」


 スクネの腕が力強く天に向かいパーをかざした。

 一方のエメスは震える自分のグーに握られた右腕を左手で押さえている。

 その両者の様はあの日神々の前で決闘を行った時よりもより強い感情に支配されているようにも見えた。


「お、大げさな……。まあ、じゃあスクネ、エメスの順番でアドバイスするってことで」


 しぶしぶのエメスとにこにこしながら自分のパーに開いた手を見つめるスクネ。


(まあ、いい感じでライバルっぽくなりそうだよね。うん、これはこれで良いなぁ)


 軽く屈伸しながらスクネを見る。

 自然と開けた場所に出ていくスクネを見て思うのだ。


(あの本、書いてあるの正しいのか?オーガの性格的な特性にアホで鈍重で怠け者って書いてあったんだけど……)


 まあいいかと思うなか、スクネが動き出す。

 その動きにどうアドバイスをしていくか。

 孝和の頬も少しだけ緩んでいた。




「ねえ、キール、ポポ。タカカズってすっかり忘れてるわよね。自分の食事の事」


 エメス達を止めに行ったはずの孝和は、いま2体の間に挟まれながら一心不乱に演武をしている。

 上着を羽織っていたはずなのだが、熱くなったのだろう。

 薄手のシャツ1枚で繰り返し繰り返しタックルのタイミングを2体に伝授していた。

 時には大きく身振り手振りでポイントを伝え、タックルに見せた足払いといったトリッキーな技も混ぜての講演だ。


『うーん、ますたーってね?やどのうらでエメスくんとしゅぎょーすると、よるおそくまでやってるんだ。ぼくねむいからねちゃうけど、いっつもつぎのひは、ねむそーにしてるなー』

「わうー」


 幼獣モードのポポは食事後で動く気が無いらしく、下に移動用のシメジにライドオンして眠たげに眼をこすっている。

 キールはカナエに抱えられているが、遠くから孝和たちを見つめるだけで合流しようという気は無いようだ。


「洗い物まで終わったし、ほっといてもいいかな?」

『いーとおもいます!』

「明日マドックまで帰るって考えてないわよね、あいつら……」


 視線の先の孝和はどうやら今は、ハイ・ローの蹴りの出足をどう隠すかの講義中であるようだ。

 腰のひねりについて熱弁を振るっていらっしゃる。


『だいじょーぶ。みんなおとなだもん。そのうち、やめるよぉ。もーねよーよぉカナちゃん。ふわぁぁぁ……』

「ま、それもそうか。じゃあ、寝ましょうかね」


 パタンとドアが閉じられる。

 夜は更け、空には少し欠けた月がちょうど天頂に到ろうとしていた。


「だからさ、フェイント……」


 孝和の講義はまだまだ続く様である。



なんか気分が乗ったので今日は2話分です。

短いですけどね。

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