第74話 古来、人はマンモスを狩った【BEE BALL】
誤字・脱字ご容赦下さい。
「のっ、野郎ッ!!」
助走からの遠心力をつけた回転。
それから生み出されるパワーの全てを相手に叩き込む。
ぬちゃっ!
孝和は粘度のある不快な音と、鼻腔を突く腐臭に眉をひそめる。
叩き込んだ斧には自身の体から薄らと気功の光を乗せていたのであるが、フレッシュゴーレムの体に触れた途端に、飲み込まれるように消えていく。
若干の抵抗はあるのだが、それ以上にこの腐れきった肉の塊の呪詛が強いのだろう。
(気持ち程度、じゃあダメってことか!だがっ!)
力任せに斧を引き抜くと、2本持ちしていた逆の斧に輝かんばかりの気功を乗せ唐竹様に一閃。
今度は先程とは違い、深々と肉にめり込む。
ただし、孝和の表情は晴れない。
「そうじゃ、無いんだよっ!」
斧を引き抜くと同時に大きくバックステップ。
フレッシュゴーレムから"生える"腕の一本が斧の光に焼かれながらもそれを掴もうとしていたからだ。
(ダメだ!やっぱ、気功に意識を持ってくとどっか鈍る!脳筋一択で押し切れる状況じゃないぞ!?)
孝和の内心が渋い表情の訳だ。
ゴーレムから生えた幾多の生き物の成れの果ては、ゴーレム本体の意識とは別に"オート"で周囲に反応しているようなのだ。
そこで、この周りから削る策に出たわけだが、その性質は死に属する訳で、有効なものは生に属する攻撃となる。
だからこその気功術であるが、いかんせん相手の質量がデカい。
生半可な気功では有効打たりえないのである。
そうすると気功にガツンと入れ込む必要が出てくるが、それをすると孝和本来の技術に干渉してくる。
帯で短く襷に長く、のことわざを地で行く羽目に陥っているわけだ。
要するに有利に立てるはずなのに、相性の問題で後手を踏んでいる。
「やりにくいっ!!」
ゴーレム本体の意識が孝和に向けられる。
頭上から岩が降ってくるようなそんな圧迫感のある一撃が地面を揺さぶる。
前転でそれを抜けると走る、走る。
フレッシュゴーレムの後背まで駆け抜け、全力で気功を乗せ斧を振る。
「オオオッ!!!」
孝和が避けた腕をエメスが両手で抱えたドアシールドで殴っていた。
煩わしげに、横薙ぎで腕を振る。
瞬時にエメスは防御の体勢に入った。
いつの間にか地面には泥にまみれた錨が突き立っている。
どうんっ!
衝撃に、鋲と鋼鉄の枠で補強されているドアシールドが歪む。
だが、地面に突き立ったアンカーと、それから伸びる鎖を胴に巻き付けていたエメスは吹き飛ばされることなく、その場にとどまった。
「肩、借りるぞ!!」
「応ッ!!」
腕を乱雑に振ったことでフレッシュゴーレムの正面ががら空きになった。
エメスの後ろに控えていたフレッドが、エメスの腰の鎖、右肩とエメスの体を一気に駆け上る。
最後にエメスの持ち上げたドアシールドを足場にして、高く跳んだ。
「セイッ!」
高く跳ねたフレッドの体は、がら空きのフレッシュゴーレムの顔の横に急角度で飛び込んでいく。
ちょうど孝和の叩き込んだジ・エボニーの逆サイドにすれ違いざま、棍棒を叩き込んだ。
「ア、ア、アアアア……」
フレッシュゴーレムはぐらりと大きく体を揺らした。
一方で、バランスを崩しながら、フレッドはフレッシュゴーレムの背を転がり落ちる。
「任せろっ!」
衝撃を和らげながらフレッドを孝和が受け止める。
そして双方とも言葉を掛けることなく別々にその場からダッシュする。
2人が逃げ出した地点に、振りぬいた側とは別の腕が突き立てられた。
ワンテンポずれていればおそらく真っ赤な染みになっていただろう。
土煙の先に相手がいるのを確認すると、またフレッシュゴーレムに向き直った。
(き、きっつぅ!ほんとにダメージ受けてるのか!?)
先程から、これをずっと続けている。
フレッシュゴーレムを囲み、周りで注意を惹き、我慢できなくなった一撃を全力で避け、その瞬間に他の者がボコる。
そしてまた最初の状態に戻る様にサポートできる者はサポートする。
「全員、まだいけるか!」
フレッドが叫ぶ。
「おおう!」
「何とかな!」
「お任せ下さい!」
各々が各々なりに自身を鼓舞する。
孝和はフレッドの手から離れてしまった棍棒を拾う。
一方のフレッドは、転がり込んだ自分を受け止めるのに孝和が放り投げた手斧を拾う。
武具の所有権のあれこれなどとうに消え失せている。
使えるやつが使える物を使えばいい。
(だが、それでもだ)
ちらりと視線を送る先にはミコンが肩で息をしている。
彼は人の身でありながら、先程のエメスと同じような戦い方をしている。
その疲弊度は計り知れない。
そして自分の革鎧にはフレッドを抱きとめた瞬間に遷った汗染みの跡が残る。
双方言葉を交わさなかったのは、瞬時の危険察知もあるが、余裕がなくなってきた証左がくっきりと残っていた。
エメスは特に問題なく動いてはいる。
しかしその手のドアシールドは大きくしなり、歪んでしまい、以前の形とは違ってきている。
最後に自分自身はと言えば、呼吸はまだ保たれているが、足に鈍く乳酸の溜まる感覚があった。
(ジリ貧だな、こりゃあ何か変化がいるぞ)
援護射撃の部隊を投入する?
いや、それは最後にするべきだ。術で攻撃している間はフレッシュゴーレムに近づけない。その間に街、いや防衛ラインの連中まで接近されてしまうと収拾がつかなくなる。
ならば、体力の残るうちに突っ込む?
無理だ。相手を削り切れている感じが薄い。一点突破の削り合いでエメスが先に落ちれば、負ける。エメスは純粋な打撃力では文句はないが、邪を祓う才はない。
孝和・フレッド・ミコン、彼らでは、集中攻撃されてしまえば一枚ずつ駒を落とされるだろう。
(何か使えるカードは無いか?何か、使える物は?)
萎える瞬間に気持ちを切り替える。
意地汚く、啜れるモノは全て取り込んでやろうと心に決める。
最初の策である削りに削って、止めを狙うこのルートを辿る以外の道はないのだ。
「くそっ。疲れるな!眠たいな!腹減ったなっ!全部が全部てめぇのせいだかんな!」
苛立たしげに手斧でフレッシュゴーレムの背側から襲い掛かる。
正々堂々?
正直、もう知ったことではない。
「フラフラと動き回って臭いんだよ!墓石の下で寝てろってんだ!」
モチベーションの保ち方は、怒りを原動力にする。
いや、もうそうして気持ちを切らさないという術しかない。
「ふんぬっ!」
ドッ!
声に反応し、首を孝和に向けた瞬間、逆側からひそかに接近したミコンが隙有りとばかりに接敵。
戦斧を振るい、初撃、2撃、3撃と行きがけの駄賃を重ね、そそくさとフレッシュゴーレムの攻撃範囲の陰に逃げ込む。
「オお…オ…ォぉぉお…」
声帯を模した器官でもあるのだろうか。唸り声をさせながら、ドスンと腕を突き立てる。
その場にはミコンはすでにいないが、これをまだ続けるのだろうか。
(…もたない。確実に、こっちが先にガス欠になるぞ、こりゃあ)
現状を打破できる何か、何かが欲しい。
「……ァァァアァッ…!!」
遠くから何か、声が響いてきた。
視線をフレッシュゴーレムから外すわけには行かないが、方向からすると間違いなく先程の轟音のした辺りからのはずだ。
「ふむ、面倒な奴が」
「おぉう?」
何か知っている様子のエメス。
ポジションを取るためにフレッシュゴーレムを中心に、ぐるぐる回っていたらエメスの横まで来ていたわけだ。
「おそらく、もうすぐ此方に」
「いや、何が!?」
ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……!
全くブレることなく地面を踏む音が響く。
しかもそれは徐々に此方へと近づいてきているのだ。
「我が、応対します。しばし、猶予を」
「は!?」
今孝和たちがいる場所は少し小高い丘のような場所だった。
そのせいもあり、現在の立ち位置からはその音の出所が確認できていない。
ザン、ザン、ザン、ドゥンッ!!
「邪魔、だ」
「ガァァッ!!」
大きく振りかぶったエメスの拳が、炸裂音と共にカッ飛んできた緑の"何か"と激突する。
かなりの質量を伴うその"緑色"は、エメスと絡み合うようにして、転がっていく。
「今は、貴様の相手をする、暇がない」
「グルァア……」
むくりと立ち上がる緑のそれ、オーガは首をごきりとならし、同じく立ち上がるエメスに相対する。
それを見て孝和は混乱する。
(え、えええ!?何、敵なわけか!?いや、でもエメス知ってる風じゃないか?え?)
あと、もう一つ気になることがある。
「図鑑と違わないか?こいつ?」
そう、孝和の持っている魔物図鑑は簡単な挿絵に注釈のついたものである。
その中にあるオーガ(たぶん、それでいいはずだと思うが)の挿絵と目の前にいるこれと著しく違うのである。
まず、腹が締まっているのだ。
シックスパックの~、というような贅肉が全くない腹ではなく、プロレスラーなどに見られる筋肉に程よく肉のついた腹である。
歯抜け・よだれ・えびす腹でアホ面の挿絵と違い、獰猛な犬歯が見えてはいるが、それ以外の歯はきれいに噛みしめられており、凶悪な印象を与える。
何処をどう見ても挿絵のアホ面とは程遠い。
身体バランスも、短足・腕長であるが、それが悪い方面に影響するとは限らない。
むしろ太い足に重心がしっかりとしていると考えれば悪くない。
「そこそこの値、したんだけどなあの図鑑。やっぱ実際見てみないとわかんないもんかぁ」
一応それでも構えは崩さない。
突然の闖入者に場が一瞬止まったが、フレッシュゴーレムにとってはそんなこと関係ないのだから。
「後で相手を、してやる」
「グァ!」
オーガから放たれたのは、踏み込んでいきなりの右ストレート。
パリングして回避したエメスが一歩踏み込んだ形になる。
ゴウン!
踏み込んで前かがみになったエメスの頭部目掛け、オーガが頭突きをかました。
直撃した衝撃音が孝和のところまで届いてきた。
「て、やっぱ敵なのか!?」
援護しようとした孝和を手で制し、激突した額同士をこすり合わせたまま、エメスは再度語りかける。
「何度も言わせるな。後に、しろ」
「グルゥ……」
憎々しげに、エメスを睨み付ける。
乱暴にエメスの手を振り払うと、苛立たしげに左手を強く握る。
ごきごきと握りしめた拳の指が鳴る。
その激情の吐き出す先が無くなってしまったのだ。
ここまでしても全く自分をエメスが相手をしてくれない。
「ガァッ!」
ずどんと地面に足を叩きつける。
まるでガキの癇癪のような、いや実際のところは、それであっているのだろう。
その様子を見たエメスがオーガに話しかける。
「……、少し手伝え」
「ァ?」
「無駄に、デカい図体を、している。それなら、盾にはなる」
ドゥン!!
棒立ちのオーガと、臨戦態勢のエメス。
両者の差がその場に出てしまった。
「オブッ!」
フレッシュゴーレムが振るった腕にオーガが巻き込まれた。
瞬時に盾でガードしたエメスは後方へと勢いのまま逃げる。
「ガァアアアア!!?」
吹き飛ばされた先でオーガが立ち上がる。
盛大に鼻血が出ているが、怒り心頭の彼の吹き出すアドレナリンの前には無力である。
勢いよく噴き出た鼻血は額に血管が隆起すると同時に止まる。
ぽたぽた鼻と口元から血を流しながら周りを見ると、ちょうどその癇癪を存分にぶつける相手がいた。
「ガルゥアァッ!!?」
立ち上がると同時に駆け出すオーガ。
視線の先のフレッシュゴーレム目掛け、全力で殴りかかる。
フレッシュゴーレムが振りぬいた側の腕が戻る前に懐に飛び込み、ただただ殴る。
「ォおぉオォォぉんンンン…」
気味の悪い声が響く。
呪詛の込められた肉体は生者であれば、近づくだけでダメージを受けるというのに、オーガ自身にそのような兆候が見られない。
いや、ダメージが無いわけではないがそれを上回る生命力と回復力がオーガにはあったのである。
傷がつく先から治していくプラスマイナスゼロの状況が発生しているのだ。
「追撃の機。逃す理は無し」
じゃらりとアンカーに繋がる鎖を腕に巻くと、ドアシールドを掲げたエメスも吶喊していく。
オーガに掴みかかろうとしていたフレッシュゴーレムがその様に一瞬、どちらの対応を優先するべきか惑うことになる。
「イケる、な。こりゃあ!」
その様子を確認するや否や、孝和も駆け出す。
腰のジ・エボニーの鞘を引き抜き代わりに棍棒を捨てる。
手斧一丁とリーチを優先して棍棒から鞘に変更した二刀流。
防御面はこの際捨てる。
「ぬうぅぅんんっ!!」
真正面から先程と同じく、ゴーレムの一撃をエメスが耐える。
しかし、先程までと違いその最中もオーガの連打は止まらない。
ぶちぶちと音を立てながら腐肉が千切れ飛んでいく。
「おぉぉ……」
オーガに掴みかかる腕から、それを構成する死骸の腕やら足やらが更に生える。
それらが一斉にオーガの動きを止めようと纏わりついていく。
「グァア!」
煩わしげにそれを振り払おうとするが、何しろ手数が多い。
いくつかを捩じ切る様にして振り払うも、いくつかがオーガを拘束する。
「残念!もういっちょ、居るんだよ!!」
渾身の力と気功を込めた二刀流。
技術を必要としない脳筋一択の攻撃。
孝和の持ちうるこれ以上ないくらいの対不死特化の一撃だ。
ばちぃぃぃんん!!
身の詰まった肉に思い切り平手打ちをしたような音が響く。
その結果は見事なくらいである。
オーガをとらえていた腕目掛け、死角から接近してきた孝和が放った鞘での一撃は、白銀の光を波紋のように広げた。
腕を構成する死骸の群れが痙攣するようにして、動きを止める。
それに合わせ、オーガが拘束を力任せに引きちぎる。
「もう一個、持ってけ!」
鞘を捨てる。
空気に混じる薄墨のような呪詛は、気功と簡易マスクで孝和が吸い込んだ瞬間に浄化されている。
両手でしっかりと手斧を握り、肺の奥深くまで呼気を溜める。
気息を整え、真一文字に手斧を振りぬく。
斬ッッッッ!!!!
太く、ぬめりがあり、様々な肉や骨の塊であったそれが、断たれる。
今回はオーガやらエメスやらの攻撃で傷物になった箇所を狙う。
しかも、孝和の初撃で腐肉の蠕動は止まっている。
動かない分、先程までとは難易度を下げることができていた。
(くそっ!ヤバいッ!)
振りぬいた瞬間、断ち切った瞬間に限界を超えた手斧の柄が砕け、手から抜ける。
孝和はゆっくりと自身の上に落ちてくる。
体勢が大きく揺れている。
振りぬくことに全神経を集中させたせいで、上半身が持って行かれているのだ。
つまり、このタイミングでは頭上に振ってくる両断された腕を避けられない。
回避が間に合わないと思い、固まってしまったところで、ぐぃっと体が宙に浮いた。
「な、にぃ?」
腰のベルト部分を掴まれ、そのまま引っこ抜かれるような形で後方に向かって空を舞う。
孝和が目線を必死に追うと、今まで拘束されていたオーガが、片腕で孝和を放り投げてくれたようである。
ただし、放り投げた後のことは全く考慮していない。
「おぶっ、ごっ、ぐががっ!」
辛うじて受け身が間に合ってはいるが、それでも正着とは言えず、盛大に地面を転がる。
肩から落ちて、地面を転がり、泥水にまみれてしまう。
「いっ、痛ったぁ」
骨にダメージがいかなかったのが不幸中の幸いだが、それでも打ち身や、細かな擦り傷を感じる。
確実に鎧は付けているとはいえ、全身のあちこちに皮下出血の青タンができていることだろう。
だが、基礎的なフレーム自体には深刻な痛みはなさそうである。
「や、野郎。助かったけど、やり方、無茶苦茶じゃんかよ……」
視線を元に戻すと、孝和がぶった切った腕が、どす黒い色の汁をだくだく地面に染みこませている。
そして、片腕だけになったフレッシュゴーレムの本体はその場から動けなくなっている。
ぶんぶんと振り回す腕が1本になったことで、回避が容易なのだろう。
オーガに関しては先程と同じように、両の腕でボカスカ、ドゴドゴとすごい音をさせて殴打を続けている。
エメスは腕に巻いたチェーンで繋がっている錨をぶんぶん振り回し的確に当てに行っている。
更には、時折ドア・シールドで殴打も行う念の入れようであった。
エメス、オーガの真正面からのド突きあいに加え、隙を見てミコン・フレッドもちくちくと細かくその動きを阻害している。
チャンスを逃さずに攻めに転ずるのはさすがと言えるが、孝和一人が転がっているのだ。
(……薄情と取るべきか、信頼と取るべきか?)
まあ、いい。
結果として特攻した孝和の一手でこの場での勝負はほぼ決したといえる。
「さあて、そろそろじゃないか?」
構えは崩さない。
ほうり捨てた鞘を急いで回収する。
エメスが横にいたオーガを小突くと、孝和に向かって走り出す。
ミコンは盾を構えながら後ろにフレッドを庇いながら後退していく。
フレッドが大きく遠くから見えるようにハンドサインをしていた。
「よし、逃げよう」
脇目も振らず全力で逃げる。
後方からずしずしとエメスの近づいてくる音が聞こえる。
それとは別にもう一つ足音が聞こえることからして、遅れてオーガもこちらに向かっているのだろう。
それを尻目にフレッシュゴーレムは移動を始める。
ただし、その速度は以前と比べ格段に落ちる。
片腕でずりずりと這うしか移動手段がない以上、両腕の時とは雲泥の差だ。
「主、我が後ろに!」
「おう、頼むぞ!!」
孝和を追い抜き、地面目掛けアンカーを突き立てる。
同様に盾を地面に突き立て、防御陣形を取った。
その後ろに駆け込む孝和。
「お前も、来いっ!」
「グルゥ」
孝和の呼びかけにオーガが答える。
些か乱暴だったとはいえ、助けてもらったのだ。
借りは返さねばならない。
「来ます。ご覚悟を」
「うおおっ!」
頭を守りながら、地面に屈む。
オーガも解らないなりに、なんとなくそうすべきと思ったようで、姿勢を低く構える。
ご、ご、ご、ご、轟ッッ!!!
上空を何かが飛んでいくのを感じる。
"着弾"まで、あとわずか。
先程、第1陣として放たれた魔術の乱舞。
その2射目が放たれている。
どぉぉぉぉんん!!!
「――――――――――ッ!!」
爆音で音が掻き消える。
パラパラと空から土が落ちてくる。
細かなものから、塊になったものまで。
孝和は立ち上がるとそっとエメスの盾から着弾地点を眺める。
「直撃!ってな!」
いまだ、そこにフレッシュゴーレムはいる。
ただ、最後に残った腕はひじから先を大きく失い、ダメージは外から見ても明らかだ。
「昔っから、人の考えることは変わらない。相手がデカくて強くて、それでも挑まなきゃならない時は、こうするんだ」
ゆっくりと立ち上がり、正面からフレッシュゴーレムを見据える。
「罠を仕掛け、取り囲み、知恵を絞って、数で押し込む。まあ、最後は運だけどな」
古来、人はマンモスを狩った。
罠に、数に、策。
現代でも熊を撃つならば、狩人は猟犬を友とする。
自然界でも、そうだ。
ミツバチは敵対者には個でなく集で当たる。
敵1体を蒸し殺すのに、蜂球となり自身と仲間の骸で包み込む。
「弱いなら弱いなりに、俺らは必死に生きてるんだ。頼むから、死んでしまった後くらいはゆっくり寝ててくれ」
エメスはそう言った孝和の視線が、どこかあたたかかったようにも見えた。