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価値を知るもの  作者: 勇寛
祭りが、はじまる
73/111

第68話 飯食う人々【BULLPEN】

誤字・脱字ご容赦下さい。

本日1本目です。




 暗闇の中にぼうと浮かび上がる光の中に、人の生きる光景が広がっていた。

がやがやと誰が何を言っているのかもわからないほどの喧騒と、せわしなく動き回る人の流れ。

そのまっただ中で、孝和は戦っていた。


「はーい!!こっちできたよー!!」

「わっかりましたー!追加、来てますんでよろしくでーす!!」


 臨時のカウンターの向こうには湯気が上がる大きな鍋、鍋、鍋。


カン!カン!カン!


リズミカルな音を立てて、粗末な木の椀になみなみと盛られた料理が盆に載せられる。

直後、それが消えると同時に空になった盆が再度出現する。


「こっちの鍋、そろそろカラだから!次の鍋持ってきてー!!」

「はーい!!」


 シャツ一枚になった孝和は、しとしと降りしきる雨を避ける天幕の中から、奥で次の鍋を準備している料理番たちに声をかける。

 噴き出る汗を首に巻いた布で拭い取り、鍋に突っ込んだお玉から洗い終えた椀へ機械的に料理をよそっていく。


「またおかわり希望来てますけどー!?」

「悪い!まだ食ってないやついるんだよ。数はあんまりないんだけど、パンとか干し肉とかじゃまずい?」


 カウンターに給仕をかってでてくれた少年が、食べ終わった椀と共におかわり希望を伝えてくる。

 暖かい汁物なので、できるなら2杯目の希望は全員に行き渡らせてからにしたい。


「……親方が肉炙るくらいならやるって言ってました!何とかそれでつないでおきます!」

「頼む!みんな一回クールダウンしちまってるから、体温めとかないとまずいしな!」


 叫ぶとともに少年は駆け出していく。

 ちなみに彼は瓦解した商隊の丁稚で、マドックまで闇夜の中馬で駆け抜けたというガッツの持ち主である。

 それを見ながらも手はてきぱきと椀に汁をよそっていく。

 ちらと横を見ると雨を避ける様にして先ほどまで全力のド突きあいを繰り広げた2班の面々が勢いよく飯を貪っている。


「次のスイトン、あがりましたー」

「その次も準備中でーす」

「あいよー」


 よそった椀の中に浮かぶ小麦の塊。

 ごった煮に近い中で、ぷかぷかと浮かぶその様がなかなかに面白い。

 しかも、この異世界の混乱の真っただ中でである。


(わはは。なんか、良くわからんが、ウケる)


 この異世界での絶賛トラブル巻き込まれ中の最中、自分の手元にはスイトンがある。

 疲れも手伝い、良くわからない精神状態の時に出るわけのわからない笑いが顔に張り付く。


「スイトンかぁ……。っても、なんちゃってはなんちゃってなんだけどな」


 とりあえず、でつくることになった食事配給に、一時後退したままの体で参加しているのだ。

 孝和が骸骨騎士を撃破した直後、統一した意思の元で動いていたアンデッドの群れはそのまま周囲の生き物目掛けてんでバラバラに動き始めた。

 これにより混戦状態となった2班はエメス・アリアを中心としてマドックに向け一点突破を仕掛ける。

 殿としてエメスが残り、アリアが先行してマドックへと後退したのだ。

 一度とはいえ抜かれたことにより若干の士気の低下、本格的な雨による体温変化による不調、部隊の再編に必要な時間稼ぎ、エトセトラエトセトラ……。

 幸いにもエメス・アリア共に回復術が使えたこともあり、後退の被害も最小限で済んでいる。

 2班を下げ、一部を3班と共に防衛に残す。

 もっとも戦っている連中を最優先で休ませる。

 2班の炎の結界はすでに雨で流れている。

 ここからは持久戦に変わってくることになるはずだ。

 相手側もしばらくは手当たり次第に生者を襲っていたが、何故か後退をアリアが指示したのとほぼ同時に2班を襲うのを止め、もう一つの集団へと移動を始めたのである。

 考えたくはなかったが、骸骨騎士が討たれたことに気づき、軍としてアンデッドの残りを“どいつか”が吸収したのだろうと思われる。

 ……と、いったことを先陣を切ってきたアリアから聞いた孝和は、すぐにマドックへと死霊馬の脚を向けた。

 街の寸前まで一気に駆け抜け、死霊馬はポポに任せるとすぐに避難区域から希望者を募り炊き出しの準備を始めた。

 物資の采配をしているのを見ていた者たちも多く、飲食店の中で手を挙げてもらえたところから鍋やら包丁やらを総動員してこの臨時の炊き出し場を造ったわけだ。


(やっぱ、こういうとこが俺って抜けてるわー。戻ってくるかもしれないんだから、食い物準備しといたほうがいいよなー。あ、でも夜間の炊き出しって、あんまし良くないって聞いたしなー。でもなー)


 ほけー、と半分意識を飛ばしながらも椀にスイトンをよそっていく。

 野菜に肉、麺の切れ端、集められるだけ集めた材料に最終的な味付けを行い、スイトンを浮かべて煮込む。

 正しいレシピかどうかは知らないが、最初のごった煮だけだと少し味気ないし、腹にも溜まらないこともあり、小麦の袋を引っ張り出して、汁に浮かべることにしたのだ。

 体も暖まり、腹もちもする。

 評判として“不味い”だの“食えねぇ”だのの文句は出ていない以上、成功の範囲だ。

 最初の祭りの勝負飯としてこれを上品に仕上げたものを計画していたのだから、まあ祭りの準備もまるきり無駄ではなかった(その過程で小麦を使ったウドンがまかないで出てたりもした)。

 酒場での煮込み系のスープ料理の一品としてのデビューはならなかったが、これを基に次は水ギョーザでもいいかもしれない。

 スープに浮かべる小麦系の美味さは寒いときと、酒の席では抜群だ。


「なんか、いいアイデア出てるといいんだけどなー」


 遠くに見える神殿の前には、かなりの距離があってもわかるどデカい門扉と、エメス。

 恐らくその周りにはアリアやディアローゼがいるであろう。

 1班は外で待機中ではあるが、敵がそこに真っ直ぐ突っ込んでくるか、2・3班の防御陣地にぶつかるか。

 又は、無いとは思うが別の場所に向かい動いていくか。

 これらを超える別のプランで来るか。


 その対応策を必死に考えているその場所を見ながら、孝和は自分のできることに全力を注ぐことにした。


「ほい、次のスイトンあがりっ!」

「うっす。次も詰まってますんで、大急ぎで!」

「おおよ!」


 タオルでまたも汗を拭う。

 鍋の前の熱気に負けないように、孝和は気合いを入れなおした。


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