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価値を知るもの  作者: 勇寛
祭りが、はじまる
70/111

第65話 彼等語らず、我等語らず、只、暴力の限り【STAY STONE】

誤字・脱字ご容赦ください。



グワァァラァァァン!!!!!


 突如として響き渡る銅鑼の音。

 本来は孝和も出るはずだった祭りの料理イベント用に準備してあったというそれが大気を震わせた。

夕方の時間帯であるが雲が厚く、すでに松明などの光源がなければ周囲を見渡すことも難しい。

音に驚いた鳥たちが一斉に、今日の宿と決めていた木々から飛び立つ音が後に続いた。

敵接近を知らせる合図がなされた。


「くっそ、こっから夜ってタイミングか。最悪に近いわな、こりゃ」


 いつもの黒狼の皮鎧にブーツ、ポート・デイにて入手した小手をはめ込んで軽く握り締めたりステップを踏んだりして具合を確認する。

 体の問題はなさそうだと、孝和は周りを見渡す。

 エメスは悠然と仁王立ちしており、その視線の先にはおそらくアンデッドの群れがひしめいているはずである。

士気を高める出陣式の時より若干ひらひらした布地が少なくなった神殿謹製の戦装束のアリア。

 あとはその二人のパーティーメンバーとして最前列にいる羽目になっている孝和。 

冒険者の一団に加え、狩人やなぜかゴロツキのようなものたちもこちらに加わっている。

3班にわかれて、ということで希望をとったところ希望者が最も多かったのがこの班なのである。

希望者の彼らに言わせると、勇者サマの下でというのはむず痒い感じがする、マルクメットの下でということになるとプライドがうずく、ということらしい。


(ここが一番何も考えずに暴れりゃいいんだろ、って言うんだもんなぁ)


 元も子もないこの言葉は先ほど何人かの口から聞こえているのであった。

 単純な策の為、脳筋が勢ぞろいになった班というわけだ。

 さすがに希望通りにしていては運用がうまくいかないこともあり、最終的にに振り分けが行われてはいるのだが、その振り分けに残ったメンツがこの状態なのである。

 フレッドの班は神殿関係者、マルクメットは警備隊を主としており、その運用に問題ない数の人員が引き抜かれた。

 ちなみにキールはマルクメットの第3班で負傷者の救護に専念することとなっている。

 いかんせんこういった乱戦時の突破力という点でキールには分が悪いということが理由である。

 イゼルナは軍所属の経験を買われ、第1班での活躍を期待されている。

 フレッドとは冒険者ギルドの合否一件でその実力も見ているというところもあったのだろう。

 シメジに関してはキールたちによると『いっかいおうちにかえりました!』とのこと。

 孝和はそれを聞いて、“ああ、宿の辺りで手伝うのか”と納得した。

 正直、避難者たちへのフォローも手薄になっている状況であった。

 話がそれたが、解り易く言おう。

 それらに選ばれなかったはぐれ者たちの集まりなのだ、ここは。

 遊撃隊と後付に部隊名称がついたことがまさに名が実を現していた。

 各々が各々の立場で全力でぶつかり、ヤバくなれば後退しろ、その後は最終の防衛部隊へ合流だ、という有難くも単純な命令が発令されている。


「では、行こうか」


 地面にめり込んだ“それ”を引き抜きながらエメスがゆっくりと歩き出す。

 ドア・シールド改といえる重量級のブツを片腕に掲げ、それと極太のチェーンでつながれた錨を肩に担ぐ。

 鍛冶屋親子に預けた旧ドア・シールドは一昼夜の突貫工事の末、主に盾本体ではなく付属の品に手が加えられていた。

 本体部の持ち手部分をしっかりとした造りに変更し、頭側にチェーン付の錨を備え付けたのだ。

 鍛冶屋親子の亡くなった先代の作というそれは、大型船の錨として納められていたそうである。

しかし、めでたく役目を終え、廃船となることになり記念として受け取ったあとに死蔵されていた。

そういうピーキーな改造をされたドア・シールド改ではあるが、なんとエメスと相性が良かった。


ぼぅ……。


 薄らと青の燐光がチェーンから錨までを覆う。

 エメスの体内魔力が錨の先までを巡っていた。

 どうやら海の神様系?の彫像であったエメスにとって海を渡る船の錨は、鬼に金棒状態の一品であったようである。

 本人も非常に気に入っており、鍛冶屋親子の危険な満面の笑みが非常に今後を心配させた。


(独特、ほんと独特なモンだなぁ)


 孝和は実は鉄鎖術も納めている。

 教えられないわけではないが、孝和のそれとエメスのこれはまた違うもののような気がしている。


「見えた、見えたぞ!!」


 暗闇の中、必死に目を凝らして敵の状況を見ていた者が叫ぶ。

 簡易的な櫓の上で狩人を職としている男が弓を構えながら空に向け火矢を放つ。

 2方向に敵部隊が分かれた為、各々の距離がかなりある。

 孝和の部隊の声は残り2部隊には届かない。

 これは残り2部隊に“行くぞ”という合図として準備したものである。


「行くぞ!吶喊!!!」

「わう!」


 先陣を切り、エメスが駆け出す。

 その肩に乗りポポがこん棒を指揮棒のように前に向けて振り下ろした。


「時間だ!わら玉を灯せ!!」


 アリアの声が凛とした声が響く。

 いくさ場での声の出し方というものを熟知している。

 こういったものはやはり経験に基づくものがどうしても必要である。


「おうさぁ!!!」


 声に応え、3本の櫓に乗った弓手がそれぞれ火矢を放つ。

自身を燃やさぬよう、聖水で濡れた櫓から、ポイントポイントにおかれたわら玉に火矢が飛んでいく。


豪ッ!!!


 わら玉からは少し離れたところに落ちた火矢は、地面にぶちまけられた聖油に引火し、同じく聖油まみれにしたわら玉に燃え移る。

 一気にその場を聖火が照らし出す。


「っ!多いっ!」


 すでに駆け出した孝和は最前列にいる。

 視線の先一杯に首を傾げたり、足を引きずったりした人影が映し出される。

 撤退時よりもこちらの数は多いが、逆もまたそうなのである。

 しかも、“予想どおり”悪いことが起きる。


(想像以上に燃えない!地面の湿り気が強すぎる!)


 予定ではマドックに向かって絞り込むようにした三角形の炎の結界を造りたかったのだ。

 頂点がマドック、真ん中が孝和たち、底辺部をアンデッドという形の三角形である。

 真ん中をぶち抜けば、底から横に押し込む形でアンデッドを燃やしていくという形を期待していた。


「エメス!どの程度までいける!?」

「このあたりが限度かと!全軍、その場に留まり、奮戦せよ!!」

「チィ!仕方ないか!」


 完全ではないが、場を有利にすることはできた。

 不完全ながらも炎はアンデッドを寄せ付けない。

聖火の属性を持つそれがある限りこの場で不運にも死せるものが出たとしても、その魂は闇にとらわれることもない。


「オロのジーさんに感謝だ!こういうのは年の甲ってやつだからな」


 なにせ、街を飲み込むクラスのアンデッドなどほとんどのものが経験したことがない。

 知識として知ってはいても抜けができてしまう。

 神殿関係者には運悪く経験者がおらず文献を参考に、というところで撤退戦で逃げてきたオロが出てきたのだ。

彼もかなり昔に一度きりと言ってはいたが、もし彼がいなければこの炎の結界はもっと千地に千切れてしまっていただろう。


「エメス、正面に見える中に“居る”様子は!!?」

「未確認!」

「出てきたら教えろ!俺とお前で抑えに行くぞ!!」

「応ッ!!」


 そう、このアンデッドの群れには少なくとも1体は“居る”はずなのだ。

 何せ、“2方向に別れた”のだから。


(高位アンデッドってどんな奴だよ!俺、いっつもこんなのばっかりじゃないか!?あの黄金の奴みたいなのだったら自信ないんだけどな!?)


 生きとし生ける者へ群がるだけのアンデッドが、意志を持って群れを分けることはない。

 もし、そんなことが起こるのならばその原因があるはずだ。

 恐らく、死の渦の中で生まれ落ちた高位体。

 素体は誰かは解らないが、とにかく候補となる数は居た。

 熟練の戦士かもしれないし、若き魔術師、ベテランの弓手、花開くことなく散った才覚。

 死の渦で偶然選ばれてしまったそれが、濃度を増した渦の中で作り上げられていった結果。

 最低でも騎士ナイトクラスが2。

 単身での討伐は国内トップクラスの実力者でやっとというレベルの敵。

 別れた2集団がばらけることなく、かつ再度終結することなく動いていることから2集団のそれぞれに意志のある敵性の高位アンデッドがいることが推察された。

 無論、それぞれに対する為に勇者フレッドと銀の乙女アリアをそれぞれにぶつけると事前に連絡してあるわけであるが、実際の所では……。


「俺、期待はされてるんだろうなぁ……。嬉しく思うべきなんだろうけどっ!!」


 愚痴りながらも、正面のゾンビを蹴りつけ距離をとると、振り向きざまにジ・エボニーの鞘で大口を開ける死にたての死体の頭を殴り飛ばす。

 真実は孝和・エメスで迎撃することになるだろうことはパーティーメンバーの中では確認済みだ。

 だからこそ、アリアやエメスのお披露目をしなくてはならなかったのだから。

 あとで聞けばアリアもあの見世物扱いはかなりごねてはみたらしい。

 孝和を含め、第2班の各々が各個に敵と交戦を始めている。

 剣や槍、斧をふるう男たちに、遠距離からの援護に徹する弓手。

 中には両手にゴツイ小手を嵌めて豪快にアンデッドを殴りつける者もいたりする。


「くそ!それにしても数が多いっ!!弱ぇくせに、タフなのが腹立つんだよ!」


 頭を砕かれたものは元の死体に戻ったのだが、蹴り飛ばしたゾンビはゆっくりと起き上がり始めている。

 それに向かい駆け出すと、地面に転がっていた聖油まみれのこん棒を拾い上げる。

 駆け抜けざまにそれで今度は頭をフルスイング。

 ゴキリという音と衝撃が腕に伝わり、ゆっくりとゾンビが倒れていく。

 その一方で、こん棒の持ち主については考えないことにする。

 この場に武器を落としてしまった経緯を考えてしまうと“心が”もたない。


「なっろぉっ!」


 右足を軸にしてぐるりとその場で回転しながら、武器に気功術を纏わせ、周囲の敵を一気に薙ぎ払う。

 肩口、腹、顎、こん棒と鞘で打ち据えたアンデッドたちが気功の力により一気にその呪わしい力を減じさせる。

 腹・顎の2体は死体に戻るも、肩口にあたる死体はよろめきながらも立ち上がってきた。


(当たりドコの問題か?正中線に近い辺りなら効果あり、って考えてもいいか)


 全開で振り回せば、呼吸が切れる。

 狙えるなら狙えばいいが、全部が全部気功術を使う形は避けた方がいいと判断した。


「ならばっ!!」


 こん棒を捨てる。

 正面に現れたゾンビに向かい、顔面にジャブ。

 ぱあん、と腐りはじめていた肉にはじけるようにして拳が当たる。

 速度重視で、当たる最後の瞬間だけ気功を添える。

 人が食らったとしても、健康ならば十分耐えることができるレベル。

 間違ったとしても昏倒するまでの力はこもっていない。


(どうだっ!?)


 防御行動をしない彼等には避けようもない一打。

 一拍置いて、ゾンビは崩れる。

 人であれば再度立ち上がることはできる。

 その程度のダメージのはずであった。

 だが、崩れ落ちたそれは死体になり、同胞を造る作業にはカムバックしなかった。


(よし!よし!よし!!これならイケるぞっ!!)


 戦法を丸ごと切り替えることにして腰にジ・エボニーを差す。

 とにかく、当てる。

 当てて、最後にそっと気功を添える。

 今までのフルスイングや砕く攻撃をキャンセル。

 正中線を狙い、当てる打撃をメインに変更してエメスが目標を探し出すまで体力をセーブしながら、敵を減らす。


(エメスは!アリアは!?)


 自身に若干の余裕ができた途端、仲間の様子が気にかかる。

 視線を走らせるとエメスは恐ろしいほど豪快な戦法をとっていた。


豪ッ!!


 錨の先を掴み、一回りチェーンを腕に巻きつけているのだが、逆のサイドにあるはずのドア・シールドは今、空を舞っていた。


メシャァァァ!!


湿った何かに激しくぶつかる音が周囲を染め上げる。

 エメスはチェーンを振り回し、盾部分を分銅の代わりとして使っていた。

 先ほど孝和のやった回転攻撃とは違い、両足は地面に接地している砲丸投げに近いスタイルで、盾と自身の間にある物を一切合財なぎ倒していく。

 孝和が捨てた強打をぶち込む戦術を積極的に選択しているわけである。


(……あれは、大丈夫だな。うん)


 正直茫然とした。

 エメスともう一度やれと言われれば全力で拒否する自信がある。


(アリアの方は、っと)


 視線をアリアに向けながら、近づいてきたアンデッドのボディに拳をつきこむ。

 崩れ落ちる腐肉を盾としながら、敵から距離をとった。


「簡単で構いません!複数で組んで1体にあたりなさい!!負傷者は円の内側に!」


 アリアがいくさ場に通る声で指示を出す。

 簡単ながらも複数で固まりを造り、敵にあたる。

負傷者が出ればそれをすぐに回復できるように連携する。

小規模ながらも隊としての連携が出来る頭をもった連中で敵に対している。

円陣を組み、敵に当たりながら相対的に味方の密度が低い所に自分が援護に回る。

個で対応するエメスとは違う集の力で動いていた。


「ハッ!」


 エンチャントされた炎の輝きを纏い剣閃が狼のアンデッドを切り伏せる。

 ここにきて、人型のアンデッドだけでなく、動物型のアンデッドが混じり始めてきた。


(あっちも下手を打たなきゃいける感じだなぁ。でも、ちょいと変な意思を持ってきた感じがするな?)


 実際問題動物系のアンデッドの方が足は早い。

 それなのに人型が先行している。

 ここにきて動物系が来たということは、何らかの意思を持っての投入ということだろう。


「エメス!!まだ見つからないか?」

「未だ!……いえ!!敵進行方向より、接近!!!速い!!?」


 エメスの声が聞こえた瞬間、敵の群れが割れる。

 瞬間、見える姿。

 群れを割り道を造った“それ”が、動物系のアンデッドを伴い一気に駆け抜ける。


「くっそ!抜かれる!!?」


 群れを割った分、今までそれに対応していた者たちの配分が崩れた。

 特に目立って敵を撃破していたエメスと、アリアの小隊にぶつけられている。

 恐らく“見て”いたのだろう。

 この班で中核となっている部分を。

 そこめがけて、雑魚を一気にけしかけるプランだった。

 逆に一本道となったところで奮闘していた者たちについては。


「ガッ!?」

「ちいっ!」


 まっすぐになったそこは一本道。

 あくまでこの班の主力は歩兵だった。


「フハハハハハァァ!!!?ヒャヒャヒャ!?」


 肝の冷えるような不気味な笑い声をあげながら、その道を敵が駆け抜けていく。

 ボロボロの鉄鎧と朽ちた兜、大槍を持った騎兵がその先陣を往く。

 馬も首元や腹が崩れ骨が見えているにもかかわらず、動いている死霊馬だ。

 進路上の冒険者たちをなぎ倒しながら、一気に突進していく。

 動物系のアンデッドを伴う突進は加速がついた今、騎兵の集団による突撃と変わりなかった。

 わざわざ背の低い狼などのアンデッドや足の遅いロバ・山羊は冒険者たちを押さえ込む側に回っている。

 突撃に加わっているのは熊・馬・鹿などの足が速く、重量があるものを選んでいる。

 あの死霊騎士が正気を保っているとは思えないが、敵を殲滅すると言う点においてまったく不具合はない。


「駄目だ!抜かれる!」

「後は、お任せを!」

「悪い!」


 全身にアンデッドを纏わりつかせたエメスが、それらを引きちぎりながら孝和に応えた。

 それを聞き、孝和は後方に向かい全力で駆け出す。

 孝和のあたりはまだエメスやアリアのあたりほど敵の密度は高くなかった。


「どけぇええええ!!!!」


 駆け抜けながら前に立ちふさがろうとするゾンビの顎を蹴り砕く。

 そのままそれを踏み台に、ジャンプ。

 着地と同時に加速、加速。

 だが、それでも、


(そっりゃあ、追いつかん!……だが!)


 分けられた道に出る。

 すでに死霊騎士は目線の先にうっすらと照らし出されるほどとなっていた。


「ポポ!!」

「わうっ!」


 駆け出しながら声を上げると、孝和の飛び出してきた反対側から幼獣形態でポポが乱戦をくぐりぬけてきた。

 ポポと併走しながら、孝和は叫ぶ。


「追うぞ!追うぞ!!」

「ガァァァ!!!」


 瞬時にポポが成獣に変化する。

 大きく飛び上がる孝和の下に加速しながらポポが入り込む。


「走れ!ポポ!!」

「ガァァァッ!!!」


 気合の咆哮と共に、ポポがさらに速度を上げる。

 孝和は騎乗しながら、地面に転がる蛮刀を掴み上げ肩に担いだ。


「さあ、死ぬ気で追いかけるぞ!!」



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