表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
価値を知るもの  作者: 勇寛
異世界
7/111

第6話 キールの底力

誤字脱字は申し訳ありません。楽しんでいただけると幸いです。

 キールが、

『うしろのばしゃのひとたちの、けがをなおせばいいんだよね。ますたー』

 と簡単に言ってくれたので、孝和の乗った馬車は大騒ぎになった。孝和はギリズとタンの二人が何でこんなに大騒ぎしているのか理由がわからなかった。

 実は怪我や病気を治すことができる能力を持つのは、神官職についている者か、一部の上級術者のどちらかの回復術しかないのであった。それが何か特殊な能力を持っているとはいえ、スライムに可能であることではないはずだ。大声を出した二人はそんな常識があった。

 一方の孝和はそんなこと知りもしなかった。ただ、キールはやらせてほしいといっているし、もし駄目でもこのキールが他人に危害を加えるようには見えなかった。ならば、やらせてみてはどうかと二人に提案した。

 二人は最初はどうするか悩んだ。しかし、キールが

『ぼくをしんじてくれないの?』

 と、悲しげな念を送ったことで、ものすごい罪悪感に襲われてしまった。

「わかった。キール、お前を信じる。だから、その悲しさ全開の念を送らないでくれ」

 念話というのはこういうとき不便だと思う。どうやらすねてしまったキールが、無意識に感情をダイレクトに周りに放っているようだ。が、その感情がダイレクトに感じられて馬車の中がなんかどんよりしてしまっていた。



 結局、町に入る前の最後の休憩時に怪我をキールが診てみることに決まった。

『ぼく、がんばる。みててね、ますたー!!』

 と、機嫌を直したキールがやる気満々でいるのでがんばれよ、とちょうど核の上の辺りをなでなでしてやる。

『へへへへぇ』

 と、とても気持ちよさそうに、キールが喜んだ。うむ。かわいいぞ。キール。

「いや、お前までへらへらしてんなよ、タカカズ」

 どうやら、にやけ顔を見られてしまったらしい。後ろからタンが声をかけてきた。

「あ、ああ。すまない。ババンさん達の様子はどうだ。OK出たかい?」

 さすがに、重症のババンにいきなりキールの治療法(?)を施すわけにもいかない。まずはマニッシュの怪我の治療をしてみて、次にババンにしてみようということになった。

 だけど、本人の了承なしはさすがにマズイだろうという事で今、タンとギリズが説明に行っていた。

「ああ、別に問題なしだ。二人とも怪我が治ればもうけものと思ってる。むしろ好奇心で正常な判断できなくなってないか少し不安なんだが」

 がしがし頭をかきながら、そう言った。

「じゃあ、行くぞ。キール。自分でできるって言ったんだ。バッチリ決めて見せろよ」

『うん!まかせといて!!』

 元気よく答えたキールは孝和とタンを引き連れて、ババンたちの馬車に向かって勢いよくぴょんぴょん飛び跳ねていった。



「おお、君がキールかい?はじめまして」

 怪我をして馬車で寝ていたせいで、直接キールの姿を見ていなかったババンはそう最初の挨拶をした。

『おじさんがババンさん?はじめまして。まかせておいて。ぼくがなおしてあげるからね』

 とりあえず、両者の顔合わせが終わり、治療に移ることになった。

 どうやってキールが怪我を治すのか、全員がその様子を見守っていた。

 まずマニッシュの怪我から治すということなので、キールの正面にマニッシュが座った。右手首と左足の捻挫があることをキールに伝え、どうするのだろうと皆が注目する中、

『じゃあ、なおしまーす』

 緊張感などまるでない口調でキールが言うとマニッシュの全身を球状の魔法陣が包んだ。それと同時にババンの全身にも同様の魔法陣が現れ、全身を包み込んだ。

「おい、キール!!なにやってる!!」

 あわてたのは、それを見た孝和だった。孝和がキールにやってみれば、と言ったのだ。二人いっぺんに治療するのは決め事と違うし、もし何かあっては大変だ。

『ひとりひとりなおすより、いっぺんのほうがじかんかからないんだよ。ますたーたち、はやくまちにつきたいんでしょ?』

 どうやら、キールが気を利かせてくれたようだ。いや、でもこれはまずい。本当に治るのかもわからないものなのだ。

「タカカズ……」

 ギリズが小さく体を震わせながら話しかけてきた。

「すいません。ギリズさん。すぐに止めさせます」

 その様子から、ギリズが怒っていると思ったのだ。だが、

「いや、そのままでいい。キールのこれは回復術に間違いない」

「え、そうなんですか?」

 孝和は瞬時に真龍の知識の中からこれと同じ術式を探った。しかし、どうやら該当する術式の情報はないようだった。かろうじて、この魔法陣の構成組織に光と土の属性が利用されているということしかわからなかった。

「ああ、この術式は私の想像でしかないが、再生リペア体力回復ヒールの光術に大地の恵み《アースグローリー》の土術の複合術式だ……。しかも本来すべて一人にしか効果がない術を複数同時発動したものだろう」

 ひざからギリズが崩れ落ちる。タンはそれを見てあわてて駆けつける。

「だ、大丈夫ですか?ギリズさん」

「大丈夫か……か。ああ、まあな。自分が正気なのどうかは、あやしいが」

 そういうと肩を腕で押さえるようにしてゆっくりと立ち上がった。

「この今キールの使っている魔法陣だが、化け物のようなもんだ。複合魔術を使えるだけで天才と言われるんだぞ。そのうえ、属性の違う術式を2種類どころか3種類も使い、それぞれが反発しないように纏め上げ、有効範囲も複数に使えるように拡大・増幅しているんだ。こんなことができるのは、魔術大国リーンブルグの宮廷魔術師たちぐらいじゃないか!!なんだこれは!!」

 どうやら、先ほど小刻みに体が震えていたのは戦慄であったのだろう。そんなギリズの葛藤の一方、ババンとマニッシュを包んでいた魔法陣が光を失い消えていった。




「完璧ですね。痛みもないし、どこか動きにくいところもない。あれだけ血が出たはずなのに、貧血のような症状もないようですし。キール、ありがとう」

 ババンは寝ていた馬車から外に出て、体の状態を確認しながらキールにお礼を言った。

『えへへへ。すごいでしょ。ますたー、ほめてほめて!!』

 キールは孝和に飛び掛りその腕の中でなでなでをねだった。

「おう。よくやった。キールはすごい魔術を使えるんだな。びっくりしたぞ」

 要望どおり、キールをなでてやった。疲れているような様子も見せない。ギリズの話によると、あんな超高等回復術を使えば術者は立ち上がれないほどの状態になるはずだ、と言っていたので少し心配していたのだ。

 だが、キールの様子は先ほどまでとまったく変わらず元気いっぱいであった。どのくらいの魔力を持っているのだろうか?やっぱり特殊なスライムだからだろうか?本来、世界の澱みから生まれるスライム類に、光の属性の術が使えるのは絶対におかしいのだそうだ。そうは言ってもできている以上どうしようもないじゃないか。

 ギリズは自分のキャパを超える現状に頭を抱えているし、タンはそのギリズを一人にできずそばについていた。




「考えてても仕方ない。とりあえずマドックに向かおう。あと1時間くらいだ」

 何とか自分の中で整理をつけたのだろう。ギリズが出発を皆に告げた。全員が馬車に乗り込み、マドックに向け出発した。

 最後の休憩地から移動してすぐに道は小高い丘に向かって伸びていた。がらがら音を立てて馬車は進む。ちなみに馬たちもキールの回復術、神の祝福ゴッドブレス(キールに頼まれて孝和が命名した)により完全回復して休憩前よりも力強く道を進んでいた。

「あの丘を越えればマドックが見えてくるぞ。タカカズ、御者席に来ないか?どんなところか見てみたいだろう」

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて…」

 ギリズの提案に孝和は乗った。どんなところなのか興味はつきないし、ただ馬車の中に缶詰というのにも飽きたのだ。

 ギリズから御者を変わってもらい、丘の上に向かって馬を進める。キールも『ぼくも、ぼくもまちがみたい!』と興味津々で、いまは孝和の横で小さく体を揺らしている。

 ちょうど丘の上についたところで一気に周りが開けていった。そして孝和とキールの視界にマドックの町が見えた。

「おおお!すげえ!あんなに大きいんですか?マドックの町って」

 そこには、かなりの大きさの町があった。この丘からかなり離れていると言うのにその大きさは町の端がかすかにかすむくらいの大きさで、町の西側には麦畑と、おそらく果樹園であろう広大な農地が広がっていた。中心部から東側にかけてはかなりの長さの石壁が広がっていた。かなりの年月が経過した威風堂々とした建築物がどんと真ん中にあり、見張り台があることから、何らかの治安目的で建設されたものであることがわかる。

 そのことをギリズに聞いてみると、

「ああ、元々はこの地域一体を支配してたパーン王国の城砦があったんだ。そこの跡地に今のマドックが築かれた。ここが発展したのは城砦の一部がそのまま治安維持に役立つことから自然とひとが集まったからだ」

「でも、城壁なんて、東側の一部だけですけど」

 孝和は自身の気づいた点を質問した。

「昔は真ん中の城砦を囲むように在ったらしいんだがな。それが70年くらい前のことだが、王家の直系が絶えた。それで王位継承権をめぐって先王の王弟の公爵家と、王妃の実家の伯爵家の間で荒れに荒れて、結局10年の内乱で両者はぼろぼろ。結果、そんな惨状を見た現在のリグリア王国がパーン内の混乱を収める名目で侵攻。今じゃリグリアがここの王様なんだわ。これが」

「じゃあ、そのときの内乱の影響で?」

「そういうことだ。リグリア王国の当時の王妃がパーンの王族と言うこともあったんで、内乱に参加しなかった日和見の貴族連中の支持を得て一気に全土を制圧。ま、そうは言ってもほとんど戦いになることはなかったようだ。国民もいい加減王族の都合で国ががたがたになってるのに耐えられなかったってことさ。他国から批判は受けたが、おおむね国内も好意的だったし、今じゃ不満を持ってるのは旧王族の貴族連中と隣国のグラノイア公国だけだ」

 なるほど、なかなかに複雑な状況なんだな。現在はリグリア王国が統治しているが、旧王族はそのまま貴族としてリグリアに属したと言うことだ。その連中は自分たちの国を取り戻したいが、国内の信頼は地に落ちた。現状で復権の兆しはまるでないが、王族としてのプライドがそれを許さない。グラノイア公国はリグリアの領土拡大には反対。

「いま、現時点でここらの国は平和、ということでいいんですかね」

「まあ、そんな火種は今のところない。“平和”というよりかは“平穏”だな」




 そんな話をしていたら、マドックの門の前まであと少しのところまで来ていた。

 なんとなく感慨深い。命のやり取りをした仲間たち。彼らとはこの町で別れる。

 ここからは、自分ひとりの生活が始まる。



 さあ、ここからが俺の冒険だ。やってやろうじゃないか。


『ますたー。おっきなもんだね。すごいなー』

……すまん。キール、お前がいたな。


 ごめん。


やっと町に着きました。本来4話まででここに辿り着いてた筈なんですけど。テンポが悪いうえ、文章構成も悪いんです。私。よりいっそうの努力を心がけようと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] スライムが治療するからと言って、そこまで信じて貰ってまで治療してあげる必要ないんじゃないの、と思ってしまいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ