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価値を知るもの  作者: 勇寛
祭りが、はじまる
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第62話 今日と昨日と、境目と 【24?48?+α?】

誤字・脱字ご容赦ください。


「や、やっと、帰ってきたぁ……」


朝日が昇るか昇らないかの時間から神殿トップに拉致られ、雨の降る中アンデッドの大群相手に大立ち回りを演じ、水桶をぶちまける様な勢いの豪雨の中を馬車に揺られてUターン。


「眠たい……、ってのを通り越すと逆に眠気がすっ飛ぶんだよな……。久方ぶりだなぁ。ここまでの追い込まれ方、最悪だぜ」


 孝和がぼやきながら馬車から出していた頭を引っ込める。

 多少勢いを弱めているとはいえ、雨はやむ気配を見せず未だに降り続いている。

 馬車の幌に括りつけたランタンが無ければ完全な暗闇の中を進むことになっていただろう。


「行きと比べて帰りは大分時間がかかってしまったから、もう日は変わった頃だと思うわ。マドックの街の明かりは見えたんでしょう?」


 頭からスッポリと毛布を被り、顔だけを出したカナエにそう聞かれる。

 濡れた髪の毛はまだ乾いては居らず、額には幾筋か毛先が張り付いていた。

 唇も幾分か青くなってしまっており掲げたコップの中には少し強めの酒が半分ほど残っている。

 先程まで馬車の御者をしていたのだがユノと交代したのだ。

 体が冷えてきていたので今は少しでも暖めようと酒のほかに、聖油の残りを入れた予備のランタンの火種で干し肉を炙っていた。


「遠くにうっすらと、だけどな。今は総出で穴と溝を掘ってるだろうから、その作業の明かりじゃないかと思う。普段だったらそんな明かりはないだろうからわかんなかっただろうけど」

「多少雨も弱くなったからもあるんでしょうけど……。道も悪くなってるしね」

「本当に無理させて悪いな。俺、夜に馬車動かしたことなくって……。雨道もなんだけど」


 本当に申し訳なく思い、頭を下げる。

 孝和が馬車を動かすと言うのは土台無理な話なのだ。

 何せ正味こちらに飛ばされてまだ日が浅い。

 

「まあ、仕方ないわよ。それにあなた結構無茶してるし、役割分担って話だったらトントンじゃあない?」

「トントン、ねぇ?」

「そーよ。この非常時にそういうこと気にしたら駄目よ」


 ぐい、と自分の飲んでいたコップを差し出す。

 それを孝和は苦笑と共に押し戻す。

 代わりに床に転がる干し肉の残りを薄くナイフで削り口に運ぶ。


「飲まないんだ?」

「ありがたいんだけど、今は無理。眠気はないって言ったけど、酒が入るとさすがに寝るかもしれない。食欲も正直あんまりないんだけど、少し入れておかないとこの後がまずい」

「やっぱりこのまま、報告に?」

「だろうね。全員連れてくって訳には行かないけど、俺は行かないって選択肢は、ない」


 ちらと横を見ると、数人の男が体を横にしている。

 眠りこけてはいないだろうが、少しでも体を休めようとしているようだ。

 なにせ、彼らは孝和たちよりも強行軍で死地を脱してきている。

 疲労の度合いは桁が違う。


「俺の今日っていつ終わるんだろ?休みたいのは確かなんだけど、休めるとこに帰りたくないんだよな、マジでさ」







「お帰りなさい」

「わう……」


 朝と変わらずニコニコと笑みを浮かべたディアローゼと、ふわわと欠伸を噛み締めながらポポが孝和たちを出迎えてくれた。


『ただいまー。ふぁぁ……』

「おまえもかい、キール」


 よろよろと地べたを這いずる様にしてキールがポポに向かって進んで行く。

 そのキールをひょいと抱えると、てくてくとポポが回れ右をしてドアの向こうに消えて行った。

 瞬間見えたドアの先には、高そうなソファがあった。

 丸まった毛布も見えるところからすると、いままであそこで寝ていたのだろう。

 そして、今まさにこのまま寝に戻って行くわけだ。


「いや、まあ、頑張ったのは頑張ったんだけど、さぁ」


 完璧に“お寝む”モードに突入していたキールの状態はわかっていたわけだが、彼らは振り返りもせずぱたんと扉が閉められてしまった。


「もう、遅い時間帯だもの。ポポちゃんも神殿の薪割りと炊き出しのお手伝いをお願いしてて、ついさっき戻ってきたくらいだし。今日は寝かせてあげましょう?」

「俺もそれに付いていきたい感じなんですけどね」

「寝床は用意してあるわぁ。来客用ってワケには行かないけれど。報告が終われば案内させてもらいます」

「そうですか。ご配慮ありがとうございます。で、ですね」


コンコンコン


 軽くポポたちの消えていったドアとは別の、廊下側のドアがノックされる。


「失礼します。お連れしました」

「どうぞお入りくださいな」


 従者に続いてフレッドの部下のひょろりとした体型の男が入室してくる。

 記憶が確かならば、槍使いの男のはずだが今は非武装で、その手にはかなりの枚数の紙が載せられた盆がある。


「戻ってきたものへの聞き取り結果が終わりましたので現時点の状況報告になります。時間がないもので書きなぐりに近いものですが」

「ありがとう」

「代表者には湯を沸かしました。汗を流したらこちらに来るように、従者に言いつけてあります。直接の顔合わせまでに一度目をとおしていただければ、と」

「わかりました」


 手渡された紙をざっと目を通しながら、ディアローゼの口元が細かく動く。

 要点だけを口ずさみ、目線はすべるようにして文章を追う。

 見終わった物を机の上を滑らせるようにして孝和に放ってくる。


(読めって、ことだよなぁ……。どーして、こう逃げるのがヘタクソなんだろ、俺)


 

 汗と雨でじっとりとした服が気持ち悪い。

 できるならば自分も汗を流したいのに、そのままの格好でここに通されてしまった。

 あと、軽く腹に入れた干し肉が消化しきったのか空腹も感じ始めた。

 しかたなくディアローゼの読み終わった物から順に目を通す。

 速読自体は元々読書が好きだったこともあり、苦にはならないレベルで十分にこなせる。

 ただ、情報を羅列したものの中から、的確に要点をつまみ上げるにはセンスが必要となってくる。

 訓練で培える部分もあるのだが、どうしても補えない部分があるのは否定できない事実である。


(こりゃあ、ひどい。認識の最大と最少が違いすぎる。最初に逃げ延びてきた人のレポートと殿のレポートが特に、だ。どっちを採用するかで動きも変わるぞ、これ)


 顰め面になりながら、書面を読み進める。

 敵勢力の数から種類、速度。敵対行動を行う際の優先順位の有や無や。

 アンデッド類の有効打となるだろう聖水・聖油関連の調達状況。

 それに加え、なぜかマドックの食糧残数、炊き出し・医療所のポイントが書き込まれた地図、衛兵・冒険者・その他戦力化できる総数に現状調達可能な武具数。

 街外で行われている野戦築城の進捗状況と、各作業のリーダーの人物評、問題行動を起こす可能性がある個人・団体のリストに、外部への救援状況の報告メモを糊で張り付けたタイムスケジュールなどなど……


「……っ!?て!おぉぉうっ!!?」


 明らかに自分の判断できるラインを大きく飛び越えた辺りの情報がぶち込まれている。

 どう考えても、これは“踏み込みすぎ”だ。


「えーと、ディアさん?どう考えても俺が見ていいものじゃないのが結構入ってません?」

「大丈夫よぉ。アリアちゃんももうすぐ来るから、皆でこれからを考えましょう?」

「いや、ですから!」

「だって、あなたエメス君の主なんですもの。彼は今はここには来る時間がないみたいだから、後でもう少し精査したものを伝えるつもりよぉ。だから、あなたには状況を分かっていてもらわないと」

「エメスは来ないんですか?」

「なんでも、夜通し穴を掘るそうよ?人員も結構集まってるみたいだしぃ」


 言われるとすぐに壁の前で絶賛奮闘中の土建チームの用紙を探し出す。

 引っ掴んだページを読むと、エメスと祭りの実行部を主体とした資材を馬鹿みたいに注ぎ込んだ防衛陣地の設営が進んでいる旨が書かれている。

 この雨の中、ローテーションを組んで不眠不休で掘り続けるつもりのようだ。

 無論エメスはその先頭で休むことなく、わっしわっしと穴を掘っていると合わせて記載されていた。


「それにあなた、もうどっぷりこの防衛線の司令部周辺で浸かりきってるわぁ。今更雑用になんて回れるわけないじゃない」

「う、ぉおぉぅ……、マジか」

「大丈夫よ、これが終われば少しだけ息をつけるでしょうし。……一応うちの優秀な部下が出してくれたわ」

「何です?」


 最後の一枚。

 それだけが別の紙とは違い、汚れてもおらず少し紙質も良いように見えた。

 差し出されたそれを受け取ると、孝和は納得する。


「そういうことですか……」


 そこにはこう書かれている


 敵、アンデッド移動速度および防衛地マドックまでの距離、並びに天候、路面状態を加味。

 敵・交戦開始日時について推察。

 

 予測結果、本日より二日後日没より、翌早朝の可能性、大と。



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