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価値を知るもの  作者: 勇寛
祭りが、はじまる
62/111

第58話 夜は更けて 【NIGHT】

誤字・脱字ご容赦ください。



「おーい!!注文よろしくー!!」

「こっち、酒まだきてないよー!?」

「肉、追加―!」


 がやがやとした喧騒をBGMに『陽だまりの草原亭』のホールの様子を目にしながらも、厨房の中では全員がフル稼働で働いていた。

 食べ終わった食器を回収しながら客の注文を取るのにウェイターはいつもの倍の勢いで動き回っている。

 その一方で、臨時雇いのコックのはずの孝和はゆったりとテーブルについて、料理と酒の出るのを待っていた。


「いやー、さすがに疲れた。今日はもう無理だね」

「午後からは休みにしたんだって言ってたけど、本当にいいの?」


 孝和は運ばれてきた酒盃とぶどう酒の瓶を受け取り、トクトクと飲める人間全員に注いで行く。


「……正直、俺ここ数日真っ当に休んでないし。ちょっと休まないと、倒れるかも」

「あなたも、大変ね……」


 酒杯に注がれたぶどう酒を、ぐびぐびと一気に空にする。

 酒精が弱く甘い類のぶどう酒に合う、干した果物、塩気の強い干し肉をちびちびとかじる。

 席に着いた人間たちがそれを一通り行い、とりあえず一心地つくことができた。


「ああ、落ち着いた落ち着いた。なんか濃いぃスケジュールだった気がする」

『ぼくもつかれたー。おなかすいたー』

「くぅぅ……」


 少し遅めの昼食を摂っていることもあり、大人全員がそれなりにおなかがくちくなっている一方で、ちっこいグループの面々は十分に飢えている様子である。

 大人がちびちびと飲っている傍らで、もしゃもしゃ干しブドウやらパンやらをかなりの勢いで平らげていく。


「ご苦労さん。まあ、今日の試験に関してはとりあえず問題ないんだろうし、上々の出来だろ?」

「まあ、ね。私としては少し不満なんだけど……」


 そういうのはイゼルナだった。

 各々がどことなくへらへらと今日の終わりを感じている中で、彼女だけが不満げに酒杯を呷っている。

 あまり酒精の強くないぶどう酒ではあるが、そう何度も杯を重ねれば蓄積されていくものもあるわけだ。


「え、と……具体的には?」

「私、どっちかといえば試験官側に抑え込まれていた形になるでしょ?そういう戦術っていえばそこまでなんだけど」

「ああ、イゼルナ姉の所、二人がかりで攻めてきてたものね」

「なんていうか、実力を発揮しきれなかった感があるの。その均衡を破るだけの突破力も、維持し続けられるだけの守勢も見せれなかったなぁ、って。早々に切り上げられてしまったから、これからっ、と思ってたとこもあったのに」


 ずん、とイゼルナは落ち込んでいる。

 もしかすると、酒が入るとイゼルナは内向きに沈んでいく性質なのかもしれない。


「うーん、というか、さぁ」


 ぽりぽりと頭をかきながら孝和はイゼルナの方を向く。

 ちょうど鶏肉の蒸し物が卓に届いたので、それをイゼルナの皿にとりわけながらになる。


「俺としてはあのタイミングで切り上げざるを得なかった、ってのが本当の所だと思ってるんですけど」

「え?」


 自身とアリアの皿に鶏肉を取り分けながら孝和は続ける。


「いや、後ろにいた女の人がポポにぶっ飛ばされるかも、ってとこで待ったがかかったんだよ。あのタイミングならたぶんあの人はリタイヤだろうけど、他の3人はまだ大丈夫だったわけだし。純粋に技術で拮抗してたとしても、あの場面でひっくり返すことのできる手札の1、2枚はもってるだろ。真っ当かそうでないかは別にして、さ」


 別の器に注がれた蒸し鶏用のタレを、自分の皿に回しかけながら孝和は分析する。

 それをひとかけら口に放り込み、もぐもぐと噛みしめた。

 ふっくらと蒸し上げられた鳥の脂の甘みと、ほんのりとした酸味を感じさせるタレがベストマッチである。

 ちなみにタレの監修は孝和で、もともとは荒々しく岩塩を振りかけただけのメニューだったのだが、タレバージョンもオリジナルと同じように美味いと祭りの前に追加になった。

もともと鳥の蒸し加減が絶妙で、店でも人気のメニューであったのだが、バリエーションが増えた分新規だけでなく、旧来の客にも押していくことができる。


「むぐむぐ……。あの人たちって本来護衛が主任務なんだろ?」

「むぐ……。そうね、確かにこういった形で戦い方を披露するのはまずいかもと判断されたのかも」


 アリアに自身の推察を投げかけてみる。

 その推察を補完するアリアの頷き。

 どこか抜けているように見えてもディアローゼはやはり巨大組織の幹部なのだ。

 はっきりとした明確な線引きをしてはいるのだろう。


「でも、私あの状況で合格って言われても、ねえ」


 それでもイゼルナはぶーたれているのだ。酒というものは恐ろしいものである。


「こっちとしてもあそこで切り上げてくれて助かる面もありますよ。いくらなんでも奥の手をあんな舞台で見せろって言われたら、俺個人としては遠慮したいとこですし」


 エメスの技量を測られるのは仕方ないとしても、一番の問題はポポであった。

実はポポがその気になれば今でも瞬時に業魔形態になれるのである。

 夜遅くに一度変わってもらったことがあるが、あれは普通にビビる。

 その圧倒的な威圧感に加え、実際一般的な人間との質量差を考えればそのままで押しつぶすことすらたやすい。

 本人としては別に疲れるわけでもなく、そのままでも問題なく生活できるようであった。

 ただ、木の上で寝たりするのには不都合であり、建物の入り口に閊えるとわかっているらしく平常は幼獣モードか獣人モードのどちらかでいるわけだ。

 その業魔モード。

 さすがにあの場で見せることになれば、それ以降かなりの警戒が多方面から予想されるのは固くない。

 今後の為にも、ポポには業魔にはならないよう言い含めていたが、何せポポの無邪気さは予測がつきにくい。

 出来うる限り早々に試験が終わってくれて正直ほっとしているくらいであった。


「これ以上注目集めると身動き取れなくなりそうな勢いなんですよ。ただでさえエメスが来たときもかなりいろんなとこから人が来てましたし」


 夜になり硬くなりはじめた黒パンをちぎり、付け合せのスープに浸す。

 朝にまとめて焼き上げられ、届けられたそれは時間と共にカチカチになっていた。

 これを食べるには何かに浸してふやかすか、歯が折れるのを覚悟で噛み付くかである。

 汁気を吸い込みすぎないくらいで引き上げ、口の中に放り込む。このあたりもこちらの世界に来てからかなりの日数が経ったこともあり慣れたものであった。

 程ほどにしないとべしゃべしゃになって不味くなってしまう。

 丁度良い塩梅が判ってきたところだった。

 ただ、それを物ともしないツワモノが横に座ってはいるのであるが。


「がううっ!」


 黒パンがメシィッという、食品から発せられたとは思えない音と共に噛み切られる。

 そのカチカチの黒パンをボリボリ音をさせながらポポが腹に収めて行く。

 何のためらいも無く、咀嚼するとゴクリと飲み込み、スープ皿を両手で掴みぐびぐびと啜る。


「くはぁ……」


 幸せそうな顔でスープを完食すると、次にサラダの入ったボウルを掴み、スプーンで掻き込むようにして口の中にそれを放り込んでいく。


「ポポ、もうすこし落ち着いて食べろ?そんな食べ方じゃあお腹壊しちゃうぞ?」

「がうっ!」


 スープをすするときに付いただろう口の周りの汚れをぬぐってやる。

 目を瞑りくすぐったそうにしている様は、とてもあの業魔の正体とは思えなかった。


『ねー!ぼくもー!』


 ちょこんとテーブルから孝和のそばに寄ってきたキールもおねだりを始める。

 苦笑しつつ、キールの口元(どこがそうなのかは判然としなかったが)を同じようにごしごし擦ってやった。


『ありがとー』

「わうわうー」


 そう感謝を伝えると、双方とも自分の皿に向かい猛然と食べ始める。

 見事なくらいにがっついてらっしゃるわけだ。


「いや、お前らゆっくり食えと……」

「まあまあ。いいじゃない、みんな結構今日は忙しかったんだし。打ち上げってこういうものでしょ?」

「そりゃあそうだけどさ」

「それよりエメスはどこに行ったの?あの子、食事はとらないんでしょうけど。私、昼の連携について少し話したかったのに……」


 アリアにたしなめられた孝和にイゼルナが声をかける。

少し気が晴れたのだろうが、まだイゼルナは昼のことを気にしていた。

 後ろ向きな雰囲気はもう感じないので、建設的にエメスと軽くディベートでもしたかったのだろう。


「あー、実はアイツもちょっと今日のことは引っかかってたみたいで……。皆で飯食うよって言ったら、少し一人で考えてみたいことが、ってどっか行っちゃったんですよ。こっち来てから夜になると結構色々と出歩くみたいで」


 主である孝和にも告げずに外を出歩いているわけだが、あまり孝和も気にはしていなかった。


「なあ、お前ら。エメスがどこ行ってるか知ってるか?」

『んー……。どこにいったかはー、よくしらないー』

「くるるぅ……」


 にこにこという擬音が浮かぶような感じで2人はそう答えた。

 どうやら2人とも孝和の知らないことを知ってはいるようだが、詳しいところまでは解らないようだった。


「アイツのことだから、おかしなことはしなさそうだけど……。大丈夫か?」

『だいじょーぶです!エメスくんは、しゅぎょーをするって、いってました!』

「わうわうー」

「修行?」


 何とも中二心をくすぐるフレーズだが、実際のマジな「修行」を体験している孝和は眉をひそめた。

 修行、それは己を追い込み只々何かを研ぎ澄まさせる作業を指す。

 その過程で得られるものは多いが、引き換えに失うものも多い。

 具体的には外で食べるおいしいご飯とか、ゲームをする時間とか、本を読み漁る時間とか。


『ひみつのばしょで、しゅぎょーちゅーです。もぐもぐ』

「わう。むぐむぐ」

『しゅーちゅーしたいときの、いーとこみつけたって、まえいってたー』

「くぅ!はぐはぐ」


 口いっぱいに食べ物を咥え込んで、そう答えると今度は果物の山に取り掛かる。

 ようやくデザートにたどりついたわけである。


「そうかー。まあ、アイツ人に迷惑かけるようなタイプじゃないし、大丈夫だろ、多分」








 “奴”は急にやってきた。

 特に何かの前触れがあったわけではない。

 いつものように彼は日常を生きていたのだ。

 腹が減ればそこらの動物を狩り、貪る。

 水が欲しければ小さな泉が湧き出ておりそこで水を飲む。

 眠くなればその場で寝転がる。

 何か気に入らないことがあれば、周りの何かにその怒りをぶつける。

 そんな、生活を送っていた。


「グルルルルルル……」


 自身の喉が唸る。

 気配を感じる。

 殺気を感じる、とかそんな御大層なものではない。ただ単純に彼のテリトリーに“奴”が入ってきたと野生のカンが働いただけだ。


ガサリ……


 木々の間を掻き分け、“奴”が姿を現した。


「ふむ……」


 “奴”も当然のことながらこちらのことには気づいていたはずだ。

 それでもなお、彼の居るこの場所に何の躊躇いもなく姿を現したのである。

 それを見た瞬間、彼の中に渦巻く感情が噴き出てくる。怒りを込めた目を“奴”にぶつける。だが、その中には怒り以外に何か別の感情が含まれている。

 はっきりとわかるくらいに膨らむ怒り以外の感情。

己の中に生れ出たこの感情が何なのか。

 それを彼は今まで知ることがなかった。


「やはり、居たのか、獣。すこしは、学べ」


 自分とほぼ同じ身長。

 そんな存在を彼は同族以外で今まで見たことがなかったのである。

 同族と比較しても彼は比較的大柄な部類だった。

 よって彼にとっての他者とは常に見下すもので、さらにその力も彼には遠く及ばなかったのだ。

 この森に居ついてから何度か、人間とも接触はしている。

 そのすべてが彼を見た瞬間、大声を上げ逃げ出すか、震えながら向かってこようとするかのどちらかだった。

 だが、こいつは違う。

 最初にであった時から今に至るまで何一つ変わらない。

 ただ彼を見ているだけなのだ。


「グルァアアアツ!!」


 咆哮とともに一気に飛び出す。

 狙うはその顔面。

 大振りになった右腕がそこめがけてこん棒を振り下ろす。


「稚拙」


 振りかぶった腕の軌道のさらに内側。

 そこに大きく歩幅を変え飛び込まれる。

 “奴”と呼称されていたエメスは、踏み込んだそのままに肘をそのがら空きの胴体に叩き込む。


「ゴッ、バハァッ!!?」


 めり込んだ肘の勢いを殺せず、彼は大きく吹き飛ばされる。

 数メートルの距離を吹き飛ばされ着地、いや着水した。


バシャァン!!


 大きな水しぶきを上げ、彼の体が水に沈む。

 一瞬、気が遠くなったところに水を浴びせられ、意識が覚醒する。


「ガァアアアア!!」


 勢いよく起き上がると、月灯りに反射した水面が彼の姿を映し出す。

 憤怒にゆがむ自身の顔。緑色の顔には怒りをあらわにした眉間のしわが深く刻まれている。頭髪や眉といった体毛は見当たらない。つるりとしたスキンヘッドの頭を、太い首が支えており、つながる胴体は肥満体に見える。

 この世界で彼は「オーガ」と呼称される。

 弱肉強食と言う自然の摂理に従うならば生まれついての強者と言えよう。

 その彼が為すすべなくあしらわれていた。


「前と何も変わらず……。つまらん」


 彼とて自身が賢くないことは知っている。だが、相手が自分を侮蔑していることは十二分にわかった。


「我は静謐を求めている。邪魔を……」


 ザバッ!!


 すこしは考えたのだろう。水中から投石し、その隙を突き飛び掛る。

 そういったプランだったのだろうが、あまりにも単純であり、迎え撃つ立場のエメスには容易に推察できる範囲の行動だった。

水中から泉の底に沈む石が飛んでくる。

 整った顔を歪め、投石を回避。

 同時に飛び込んでくるオーガ。

それ目掛け余裕を持ってオーガの顔面を殴りつけた。


「ゴフッ!」


 叩きつけられた巨体が地響きをたてて沈む。

 遠のく意識の中、エメスの表情がオーガの薄く開かれた目に見える。

 恐怖でも、驚愕でも、虚勢からの悪態じみた表情でもない。

 彼にとっては始めて目にする表情であった。

 それは、失望であった。


「そこで、寝ているがいい」


 ゆっくりと泉に向き直り腕を組むエメス。

 目を閉じ物思いにふけるエメスの佇まいを、どこか遠くに感じながらオーガは意識を手放した。




 風を感じた。

 うすぼやけた頭の中でゆっくりと意識が覚醒していく。

 泉周りの草地が風になびき、そこから草の香りが立ち上がってくる。

 ゆっくりと頭を振りながら上体を起こす。

 喉の奥に溜まった血の塊を痰と共に吐き出した。

 曲がった鼻を力任せにもとの位置に戻す。

 その視線の先には先程意識を失う前と変わらず悠然と立ち続けるエメスの姿。

 頭に一気に血が昇るのをオーガは感じた。

 だが、しかし。


「グルゥゥ……」


 体が動かない。

 立ち上がり飛び掛る。

 それでは先程と何も変わらず、叩き伏せられるだけである。

 判ってしまった。判らされてしまった。

 悔しい、という感情が溢れる。

 何もかもが通用しない。

 強さだけで自己の生を歩んできたオーガにとって、全てが覆った瞬間である。

 エメスにとって自分は戦うに値しないと本能的に悟ってしまった。


 ボタ……


 上体を支える手の上に涙が零れる。


 ボタ、ボタ……

「オオォォォォオオッ……」


 あふれ出る涙が止まらない。

 嗚咽がとめどなく続き、止めるという意思すら流し去って行く。


「ふむ、起きたか」


 オーガが起きたことを確認し、その側にゆっくりとエメスが近づく。

 涙でぼろぼろになった顔でエメスを見上げる。

 その真正面に立つと顎をクイと上げて、エメスが構えを取る。


「グォ……?」


 不思議な顔をしてその様子をオーガが見つめる。

 ゆっくりと、ジャブ・ジャブ・ストレートと腕を振る。

 次に速度を上げて同じ内容を繰り返す。

 そして次はさらに速度を上げて、と徐々に加速して行く。

 最終的にはエメスの出来る最速でのコンビネーション。


ビュォッ!


 空を切り裂く音が確かにオーガの耳にも聞こえる。

 オーガは呆然とその所作を見つめた。

 その攻撃が今までに放たれたことは無かったのだ。

 自分が未だエメスの実力を引き出すことが出来ていないのだと思い知らされる。

 惨めであった。


「……さて、朝が近い。我は、帰る。お前は、どうする?」

「グァ?」


 難しい言葉はわからない。だが、今言っていることはわかる。

 どうする、とはどういうことか?


「そこで、伏したまま、か?ならば、それでも構わん」


 踵を返し、その場を立ち去ろうとするエメス。


「ガァアア!」


 立たねば、と思った。

 立てねば、と魂が吼える。

 立ち上がるとそのまま自然とエメスの見せた構えを取る。

 その一連の動きに最も驚いたのはオーガ自身であった。


「それで?どうする?」


 首だけを振り向かせ、エメスが尋ねる。

 答えは解らなかった。

 だが、体は動く。

 不恰好で、てんでなっちゃいないレベルではあるが、エメスのシャドーに似せたコンビネーションをゆっくりとなぞる。

 2度、3度と同じように繰り返す。

 何かは解らない、ただ、しっくりと何かがはまり込んだ気がした。


「そうか」


 エメスは頷くとそのままその場を後にする。


「グァッ!」


 エメスを呼び止めるオーガ。

 それに振り返ることなくエメスは声を掛ける。


「続けよ、挑め。その先に、求める全てが、ある」


 オーガは拳を握る。

 立ち去るエメスが意識の外になった。

 先程までの焦燥感が消えて行く。

 ゆっくり構えを取ると、同じようにシャドーを始める。

 腕を振るたび、構えを取るたびにどんどんと心が澄む。

 彼の中に湧き上がった怒りが消えて行く。


「グルルル……」


 泉をゆっくりとエメスと逆にオーガが離れて行く。

 拳を握り、開く、握り、開く。

 目線は前に、顔を上げる。

 夜明けの光がオーガの顔に差し込む。

 泣きはらしたはずの顔に、笑みが浮かぶ。

 にぃ、と獰猛な満面の笑みが彼の顔には広がっていた。





『あー。エメスくんだー。おかえりー』

「わうー!」

「今、戻った」

『しゅぎょーうまくいったー?』


 宿に帰るとキールとポポが飛びついてくる。

 それを肩にまとめて担ぎ上げると、エメスはこう言うのだった。


「きっかけは、与えた。後は、あるがまま、為すがまま」

『ほえー?』

「くぅ?」

「ふふふ、なんでもない。楽しい、修行であった」









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